ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
カロン様がまたいらん事を思いついてしまいました。曰く、毒があり空を飛べる魔物に化ければ空を飛ぶ敵が出ない階層では無敵なのではとのこと。一体何を考えているのでしょうか?この人は馬鹿なんでしょうか?馬鹿なのですね?馬鹿なのでした。
「というわけで実験するぞ、リリルカ!」
目をキラキラさせています。どんだけ楽しみなのでしょうか。
「カロン、リリルカさんがまた引いてますよ。あなたは彼女の扱いが最近雑なのではありませんか?」
この方はリュー様、リリの唯一の癒しです。稀におかしくなりますが基本的に良識人です。
「しかし、リュー、リリルカの可能性を試すべきだろう。リリルカは得難い人材だ。リリルカがいろいろな可能性を試せばリリルカの生存率は上がるだろう。」
これがカロン様のたちの悪いところです。反論の難しい正論を真っ向からぶつけてきます。しかしリリは騙されません。カロン様は自分の楽しみの為に実験を行っています。その証拠に当初のサポーターの生存率云々の話はどこ行った、って話です。このやり方ではリリ個人の生存率と戦闘の幅しか上がりません。もっと汎用的な技術を生み出さないといけないはずです。
「ふむ。一理ありますね。」
リュー様はもうダメです。完璧に洗脳されてしまっています。ここはリリがはっきり言うべきです。
「カロン様、リリだけではなく他の方々のサポート能力の向上にも努めるべきではありませんか?」
「俺がリリルカの能力の向上を手伝う、他の人間の生存率向上を専門のリリルカが教育する。リリルカ自身にできることの幅が増えればいろいろな事を思いつくだろ?俺はそうするべきだと思うが?」
この変人は嫌に弁が立つのがたちの悪いところです。さらに悪いことになかなか団長権限を切りません。それは話し合いで事を納めたということです。話し合いで事を納めたならばリュー様やリリ等の下の人間も表だって反抗しづらいです。
「それに俺達にはいつ闇派閥が襲い掛かって来るかわからんからな。リリルカには取れる限りの能力を取っておいて欲しい。」
「なるほど、確かにその通りですね。リリルカさんには私も絶対に死んでほしくない。」
汚い、汚すぎる。自分の興味の実験をさぞリリの心配をしてるかのように正論で包んでくる。挙げ句の果てにたちの悪いのは彼の心配が本心だということです。事実上話し合いではなく命令です。ついにはリリは蜂にされてしまいます。この間はドラゴンでした。ドラゴンは爬虫類で蜂は昆虫です。リリはどこまでおかしな生物にされてしまうのでしょうか。思えば哺乳類だったミノタウロス時代は幸せだったのかもしれません。
◇◇◇
「なあ、リリルカ。スライムはどう思う?」
「エヘヘヘヘカロン様、リリは次はスライムですか?今度はどんなおかしな名称をつけていただけるんですかエヘヘヘヘ。」
「カロン、リリルカさんの様子がおかしくなっています。今日はもう中止にするべきです。」
「ふむ、確かに調子が悪そうだな。今日はもう休ませて続きは明日にするか。」
そうですよね知ってました。リリは知ってました。カロン様はそういう方です。真の悪魔は悪意なく人を食い物にするんですよね知ってました。
「カロン、リリルカさんの様子が戻りません。長期休暇を与えて静養させるべきでは。」
「ふむ、残念だが致し方なしか。それにしてもリリルカに何があったんだ?」
いやなにがあったんだじゃないですよ!あなたです!!!あなたは普段悪知恵が回るのに何で気付かないんですか!!!わざとですよね!?
「ミアハかディアンケヒトの所でも行ってみるか?リリルカに効く薬が売ってるかも知れん。」
リリにお薬は必要ありません。お薬が必要なのはあなたです!馬鹿に付ける薬を調合してもらって来て下さい!
「カロン、リリルカさんは大切な仲間です。私はダンジョンに潜って効きそうな薬の材料を取ってきます。」
あああ待ってください。リリをカロン様と二人きりで置き去りにしないで下さい!二人きりにされたらお得意の超理論で何をされるかわかったものではありません!
「リュー、頼む。済まない、お前は俺より素早いし戦闘力も高い。俺は………、自分が情けない。」
「任せて下さい!リリルカさんは必ず助け出します!私の正義にかけて!」
あああちょっと待って何いい雰囲気出してるんですか?しかもそれリリの死亡フラグじゃないですか!神様リリが一体何をしたって………………
◇◇◇
「精神的な疲労です。少し頭が混乱しただけですね。しばらく休養して十分な睡眠をとれば治るでしょう。」
ここはディアンケヒトファミリアの経営する病院のようです。リリはベッドに寝かされています。ベッドの脇にはカロン様がいます。リリは助かったのでしょうか?
「リリルカ、大丈夫か?心配したぞ。」
心配するなら非人道的実験を行うことを心配してください。
「リリルカさん、見つけました。私達がいた場所にいなかったので心配しました。」
頼むから置いていかないで下さい。
「それにしてもリリルカさんは何故倒れたのですか?」
「精神的な疲労だそうだ。………寝不足か?」
この人はリリの精神を殺しにかかっているのでしょうか?
「リリルカさん、寝不足はいけない。いざ襲われたときに遅れを取る原因となりかねません。」
何故この人もここ一番でポンコツなのか?あなた以前リリの相談に乗ってくれたはずですよね?
「リリルカ、俺達は閉館時間だから帰ることにする。自愛するんだぞ。帰ってきたらまた実験しないといけない。また新しいアイデアを思いついたんだ!」
◇◇◇
ここは最近リュー様に教えていただいた初めて来るお店です。豊穣の女主人という名前です。リリはこのお店でミルクをがぶ飲みしながらやさぐれていました。
「ヒック、神様、リリが一体何をしたっていうんですか?神様はリリの事がそんなにおきらいなのですか?リリは、リリは………………幸せになりたいぃぃぃぃぃぃ!」
「お客さん、どうしたんですか?あまり泣くとかわいらしいお顔が台なしです。それに少しミルクの飲み過ぎですよ?」
「店員さん、聞いて下さい。団長が外道なんです。止めるべき副団長もポンコツだし………。リリは最近はヌメヌメになりました。スライムですよスライム!ついにまさかの単細胞生物です。尊厳も人権もあったものじゃありません。苦労を聞かせられる相手もいませんし。あんなの新人には聞かせられません。リリは、リリは、うわあぁぁぁぁ!」
「涙を拭いて下さいお客さん。私はシルといいます。私はあなたの相談を受けることができます。私があなたの心労を聞ける友達になりますので前を向いて下さい。」
リリルカが倒れたのは精神疲労とマインドダウンの合わせ技です。