ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
この間は、まったく大変な目にあった。
マスターである凛のウッカリのおかげで、俺は変な戦争に巻き込まれた。
結果、リューが機嫌を損ね、新婚旅行は台無しになった。まあリューは俺が生還したことを心から喜んでくれたが。しかしおかげで機嫌とりが必要になった。俺が楽しみにしていた日曜日は無くなった。
ステータスのない俺が、レベル7とか怖くて怒らせられないだろ?夫婦げんかとかになったら土下座一択だぞ?
………ベートのことを笑えんな。
尻に敷かれているというレベルでは無い。ヤバくなったら地に頭をこすりつけるレベルだ。
今日は、ダメになった旅行の代わりだ。誰かには感謝しなくてはならないだろう。誰かはダメになった旅行の代わりに非常によいところを紹介してくれた。おかげでリューの機嫌も直りつつある。
「長閑ですね。」
「そうだな。」
リューは俺の近くに来る。彼女は今日は白い鍔のある帽子を被り、白いワンピースを着ている。その様はとてもよく似合い、まるでどこかの令嬢のようだ。ふむ、しかしあの服の下は鋼のような筋肉なのだが、これも一種の詐欺なのだろうか?
「私は誰かをまったく信用していませんでしたが、このようなよいところを紹介してくれるとは案外いいところもあるのかもしれませんね。」
「ああ、そうだな。」
今は初夏、見渡す限りの緑。この地では近くに地元特有のお祭りが行われるらしい。
俺達はその後までの滞在を予定している。
俺はノンビリと風景を見やる。
このような人が少ないところでも、子供達がそれなりにいるものなのだな。彼等はとても楽しそうに仲良く遊んでいる。
涼やかなる、蝉の声。
蝉の声は大体うるさいのだが、例外もある。
「捕まえに行かないでくださいよ?あなたは子供なんですから。」
「別にいいだろ?珍しいし。」
見渡す限りのたんぼに流れる川のせせらぎ、空は青く、高い。
建物の多くは木造で、風情がある。
ーーーーーーカナ、カナ、カナ、カナ、カナ
ヒグラシは珍しいんたがな?
今日ここに来るに当たり、誰かは俺達にオススメの二つの選択肢を用意してくれていた。
昭和58年の田舎か、1986年の金持ち所有の島だ。
それぞれ、ヒグラシの泣き声とウミネコの泣き声がとても風情があってよいものらしい。
俺達は58年の田舎を選ぶことにした。まあひとつ気になることもあったが。
なぜ年号が指定されているのだろう?何の意味があるのだろうか?
気にはなったが、こんな田舎で何かおかしなことが起こるとも思い辛い。気にするだけきっと損だろう。
地名?確か雛何とかとか言ってたな。
誰かによると、村人達も仲が良くて、よそ者にも寛容な何の問題も無い土地だと言って………
「嘘だっっ!!」
「何だ、どうしたんだ、リュー?いきなりおかしなことを言い出して?」
「わかりません。何か言っとかなければいけないような気がして。」
「うーん、初夏とはいえ日差しが強いしなぁ。大丈夫か?旅行はやめて一緒に帰るか?」
「オラリオに帰れ!!」
「おい!?リュー、何言ってんだ!?どうしたってんだ!?俺だけ帰れって言うのか!?」
「わかりません。何か変な電波を受けとったとしか………。」
どうしたってんだ?体調不良か?
もう明後日にはお祭りが行われて、リューはそれを楽しみにしていたのだが?確か綿何とかって名称の。
体調不良ではお祭りどころではない。帰るべきだろうか?
「リュー、やっぱり帰るか?」
「いえ、大丈夫です。二人で楽しみましょう。」
何だろうな?何か嫌な予感がするんだよな。年号指定も何か変に気になるし………。
また変なことに巻き込まれたりせんだろうな?………まさか誰かは俺達を騙したりしてないだろうな?俺は疑心暗鬼になりそうだぞ?
「みー、互いを信じ合うのです。」
「みー!?何言ってるんだリュー!?いよいよ大丈夫か?ちょっとかわいかったけど。」
「あれ?本当に私は何を言ってるんでしょうか?自然と口から出て来たとしか………。」
………いよいよもってきな臭い。さっきからリューが怪電波を受信しっぱなしだ。これは警戒したほうがいいかもしれない。
それはそうとして、リューもう一回みーって言ってくれないかな?
向こうを見ると、白衣を着た女性がカメラを手に持つ男を連れ回している。
ふむ、尻に敷かれているのかな?親近感を覚えるが、カメラは仕事用だよな?まさかアポロンの同類だったりせんよな?
………俺の杞憂だと思いたいが………あの男もあんなに元気に年甲斐もなくはしゃいでいる。何か変なことが起こったりは………せんよな?
「どうだ?リュー?もう変なことを言い出したりしないよな?」
「ええ、大丈夫のはずです。………富○フラーッシュ!!!」
「富○フラッシュ!?何だそれ!?」
………完全にアウトだ。
いくらなんでもこれはないだろう?リューが富○フラッシュだぞ?富○って、誰だ!?
これは完全に誰かに騙されている。
「リュー、帰るぞ。俺達は絶対に騙されている。俺達は間違いなく、おかしなことに巻き込まれつつある。」
「えっ!?せっかくの旅行ですのに………。」
「それでもだよ。身の安全には変えられないだろう?もっと別の場所にしよう。差し当たっては帰ってから、誰かを締め上げよう。」
「ですが迎えのクラネルさんは帰る日まで、来ませんよ?こちらから連絡をとる手段もありませんし。」
「何だと!?」
俺はミスをしたのだろうか?
もしかしたら誰かは愉快犯なのだろうか?
俺は身内に怖じ憚る邪悪を取り込んでしまったのか?
あのショボい見た目は擬態で、中身はもしかして真っ黒だったのだろうか?
「リュー、完全にアウトだ。さっさとこの場所から逃げよう。俺の第六感がここは完全にアウトだとけたたましく叫んでいる。」
「えっ!?ですが、私は今から鉈を探さないと………。」
「鉈!?そんなもの探してどうするつもりだ!?」
「?何ででしょう?何か手に持つとしっくり来るような予感がしたので………。」
………ヤバい。ヤバすぎる。鉈とか完全にアウトを通り越してデッドだろう。何をするつもりだ?惨劇の予感しかせんぞ?
「リュー、逃げるぞ!俺達は今危機に巻き込まれている!」
「どうやってですか?ここはバスもほとんどありませんよ?」
「走ってだよ!ここにいたら危険だ!」
陽は傾き、すでに夕暮れ時。
いつまでもいつまでも、ヒグラシの声だけが不気味に響いていた。 完
実はハッピーエンドのルートで、この後は特に何事も起こりませんでしたとさ。
今度こそきっと完結のはずです。なんだかんだで半年も連載してたみたいですね(人事)
皆様、お付き合いありがとうございました!