ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
私はリリが好き。私は彼女と長い付き合いがある。
◇◇◇
私はアイズ・ヴァレンシュタイン。ロキファミリアの団長です。
私は私に大切だと思えるものを与えてくれたリリがとても好きです。
私は私の目的を達成するためにずっと必死で強くなる必要があると思っていた。だから私にとってリリの言葉は衝撃だった。
私はリリとの出会いに想いを馳せる。
◆◆◆
『よろしく。私はアイズ・ヴァレンシュタイン。あなたがカロンが紹介してくれた人?』
『よろしくお願いします。リリはリリルカ・アーデと申します。リリとお呼び下さい。これからよろしくお願いします。』
『私は目的を達成するために一刻も早く強くならないといけない。だから私にはあまりあなたと話すための時間はない。』
『うーん、それは、本当にそうなのですか?』
『どういうこと?』
『リリは物事を達成するためには、アイズ様にとって回り道や無駄だと思えることが必要だと思いますよ?』
『なんで?』
『アイズ様がお一人で強くなられても、アイズ様が死んだらアイズ様の人生は無意味なものになってしまいますよ?』
『私は死なないために、強くなる。』
『ダンジョンはいつだって危険ですよ?人間は誰だって死ぬときは死にます。特に最悪なのが、どれだけ強い人間でも背中を刺されてしまったら死にますよ?どれだけステータスを鍛えたとしても、人間の肉体より武器の方が強いのですから。その証拠に、どんなお強い冒険者様でも、何かの武器を使って戦います。カロン様は特例です。攻撃力がなさ過ぎて攻撃する意味があまりないだけです。アイズ様程の方がそれをお知りにならないわけがありませんよね。』
『それじゃあ私はどうすればいいというの?』
『アイズ様が必死に歩いて道を進んでも、あなた様が亡くなられては道が途絶えてしまいます。多少速度を落としたとしても、周りの人間が歩けるように道を整備すれば、あなた様の目的が真に意味のあるものであれば必ず後に続く者達が出てきます。そして人の営みとはそうやって続いていきます。』
『先のこととかわからない。リリの言ってることもよくわからない。』
『アイズ様がその若さで目的とおっしゃるということは、その目的はどこかから受け継いだ物ではありませんか?目的に向かって邁進しながらも同時にさらに次の代に受け継ぐ下地を作るということです。』
『でも、子供には過酷な使命を背負わせたくない。』
『それはアイズ様の先代も同じことを考えたはずです。ですがアイズ様は今こうしています。大丈夫ですよ。そもそも後を継ぐ人間が必ずしもあなた様の子孫だとは限りません。』
『他の人にも背負わせたくない。』
『それは年寄りの無用な心配です。厳しい戦いを残してしまったとしても、人は環境に適応して強くあれます。それよりも誰も彼もが生き急いで、そもそもの後を継ぐ子孫が絶滅してしまっては元も子もないでしょう?』
『じゃあどうすればいいの?』
『広く人と関わるのです。そうすればあなた様の目的が真に意味があるのであれば、いずれ賛同者が出てくるはずです。賛同者が複数いれば、あなた様の背中を任せるに足る人物が出てくるかもしれませんし、万一あなた様が亡くなった後も決して道が途絶えることはなくなるでしょう。』
『人と関わるのはどうすればいいかわからない。』
『リリには夢があります。カロン様の夢のお手伝いをすることです。リリはカロン様の賛同者で、カロン様のお役に立つことを願っています。』
『………うん。』
『カロン様の夢の達成には、大勢の人間の上に立つ必要があります。そのためには、人々の願いや欲求、気持ちなどといった曖昧なものを深く理解する必要があります。まあとは言いましても、現時点ではどれだけ時間がかかるのか、そもそも達成可能なのかもわからない夢なんですが。』
『………うん。』
『ですからアイズ様、リリと一緒に話し合ってお勉強をしていきませんか?一人よりも二人、たくさんの人間が集まればよりよい案が出てくるはずです。』
『それで目的が達成できるのかな?』
『嘘はつけません。それはリリにはわかりません。アイズ様の目的がどのようなものかわからなければリリには何とも言えません。』
『………そう。』
『しかしリリが考えてどうすればいいかの案をアイズ様に提案することはできます。そうすればアイズ様の採れる選択が増えます。よければリリとお話を続けていただけませんか?』
『うん。』
◆◆◆
あの日、文字通り私の世界は変わった。
今だからこそわかる。私一人で目的だけを追い求めて生きていたら、私の世界は私一人で閉じてしまう。そうすれば私はどれだけ強くなっても、仮に目的を達成したとしても、皆からはいずれ何を考えているかわからない人間として忘れ去られてしまうだろう。
私はあのあと、ファミリアの人達と話をたくさんした。
ロキは『成長したんやなぁ』といっていつもの不愉快なにやけ顔からは想像着かないほど優しい顔で抱きしめてくれた。
フィンとリヴェリアはそれぞれの目的があるから全面的な協力は出来ないけど、応援してると言ってくれた。
ベートさんは私に全面的に協力したいと言ってくれた。すごく嬉しかった。まあ、そのあとカロンに騙されて忙しくなってたみたいだけど。
他にも後輩達や新しく入った人達に協力者がたくさん出来てくれた。
私を慕う人達がたくさん出来て、たくさんの選択肢が見えるようになった。
そして気付いたら、ロキファミリアの団長を任されていた。
リリはその間にあっという間に連合を立ち上げて、組織の最重要人物になっていた。
強大な力を得て、偉大な人物と呼ばれるようになっていた。
今の私は昔の私とは明らかに違う道を進んでいる。
物事はわからない。
もしかしたら、必死で努力していたら私は今頃当初の目標を達成していたかも知れない。あるいは誰も見ていないダンジョンで一人寂しく死んでいたかも知れない。それはわからない。
でも、それでもこんな私にだってわかる絶対の事実も存在する。
私はリリのことを考えると勇気が湧いて来る。
本当に困ったときに、あの小さいはずなのに大きく見える背中が私の背後に控えてくれていると思うとどこまでも強くなれるのを感じる。
私は私のことを絶対的に信じられる。
私の友人の最高のサポーターは、たとえ今ここにいなくても、いつでも私の心のサポートをしてくれているんだ!
ならば信じ続けるほかに道はない。
私が闇雲に突っ走っていた時に、彼女が叡智の光で照らしてくれた私の新しい道を。
人々に偉人と言わしめたその知見の力を。
じゃないと私が廃るでしょう?
「ほら、ラウル。今日はリリがロキファミリアに遊びに来るんだから早く地上に戻るよ!」
「待ってくださいっス!」
今日は私たちロキファミリアの地上への帰還日。大勢で地上へと進んでいる。
ラウルは有事の際の私の後釜。私に賛同してくれた大勢の私の部下の一人。
リリに比べたら耳垢程度の頼りがいしかないけれど、それでも私は信頼している。
最近は、何だろう。不思議だな。前よりも地上が恋しくなった気がする。
それが私には弱さだと思えない。以前はあんなにダンジョンに潜ることに執着していたのに。
リリにも会いたいけど、ついでのベートさんにも早く会いたいな。
「ま、待ってくださいっス、アイズ団長!アイズ団長が風の魔法を纏って天井を打ち破って出口に向かって直進したら団員の誰もついて行けるわけないじゃないっスか!どんだけ早く帰りたいんスか!?!」
原作様のアストレアファミリアは、物事を次代に繋げる視点が持てなかったために壊滅したと考えられます。戦いに重きを置き過ぎて、他者に自分達の正義が意味が在ることだということを理解してもらうことや、後塵の育成を怠ったのがきっと原因です。そしてアストレアファミリアは背中を刺されました。
リリルカの言葉は、アストレアの壊滅の原因をそういうふうに理解するが故です。
そして、ここで以前のガネーシャ様の話にも繋がってきます。デウス・デアであり長期的な視点を持っているはずのアストレア様は、眷属に同調するだけで正せる存在ではなかったのでしょう。