ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
ーーおかしなことになった………
やあ、みんな!俺、カロン。若干現実逃避気味。
………これどうするんだ?
俺はどうしていいのかわからない。リューも隣で右往左往。リリルカとイリヤは鼻歌交じり。
………これは一体どういうふうに収拾がつくんだ?
◇◇◇
俺は今日の仕事がお休み。イリヤも学校がお休み。リリルカさえも珍しくお休みだ。リューは俺が頼み込んで万年休んでもらっている。じゃないと、他人の仕事が増える一方なのだ。
俺は今日は、普段忙しくしているリリルカの為にお休みを使いたいと考えていた。リューとイリヤにも話して、四人で家族みんなでお出かけすることに決めていた。
「リリルカ、せっかくのお休みだしみんなで一緒にお出かけしないか?」
「ええ、リリはもちろん構いませんよ。」
「普段お前は忙しいだろうし、お前が行きたいところとかないのか?」
「そうですね。リリはグラン・カジノというところへと行ってみたいです。」
「カジノ?子供が行く場所じゃあないぞ?」
「カロン様、お忘れですか?リリは小人だし、イリヤ様もリリも幼く見えてももうそれなりの歳です。普段忙しいリリの為に、たまには羽目を外させてくれてもいいではないですか?」
「うーん、そうか。まあそうだな。リリルカはしっかりした人間だし、そういうのならたまにはいいか。じゃあみんなでカジノに遊びに行ってみることにするか。」
◇◇◇
「その程度のブラフの
鼻歌交じりにポーカーを嗜むリリルカの横には、山のように積まれたチップ。しかも増える一方。始めは少量のチップがやがて丘になり、さらには高原となり、気付いたら山になっていた。
そうか。こうやって世界は成り立っているのか。まるで大自然の雄大さに触れているようだ………て、そんなわけないだろ!どうすんだよ?カジノの人間大慌てだぞ?
俺達はオラリオの要人で、ここはカジノのVIPルーム。
周りの金持ちの客達もあまりのチップ量に唖然としたまま成り行きを見守っている。
リリルカはテキサスホールデムというゲームをやっていた。
テキサスホールデムとは、簡単に説明するとプレーヤーに二枚の札が配られ、場に五枚の札が出されてポーカーの役を作り競い合うゲームである。敵プレーヤーからは自分の手札は見えないため、心理的な駆け引きがものを言うゲームである。
リリルカがあまりにも強すぎるために、とうの昔にカジノ側の雇われプロが出張してきてしまっている。その雇われの人間も、先程から例外なく顔色を土気色にして交代しては去っていっている。強すぎるのだ。ただただ運で勝負するのではなく、時にはブラフでおろし、時には降りて最小限に被害を抑えて、時には煽って大勝負に乗せて、自在に戦いチップを荒稼ぎしているのだ。というか荒稼ぎという言葉では足りないな。根こそぎにしているのだ。恐ろしい。人の感情を自在に操ることが可能ならば、相手を自在に操り勝負の場に立たせたり、降ろしたい時に降ろさせたりも出来るのだろう。挙げ句の果てに、『まさか賭けとして成立しない嘘が見抜ける神を持ちだしたりはしませんよね?リリはグラン・カジノ様をそんなカジノだとオラリオに知らしめたくはありません。』だ。リリルカの発言力を考えれば、カジノ側の対応は詰んでいると言えるだろう。
カジノ側も、負け額が既にあまりの額に上っているために収拾が着かなくなっているのだろう。いつまでもリリルカに居座られたら客足も遠退いてしまう。
そして、言うまでもなくリリルカはオラリオの超重要人物だ。さらにここは公衆の面前、挙げ句にすぐ近くにはオラリオ最強クラスのリューが控えている。そうでなくともリリルカにはとても手を出すなどと考えられないだろう。なにせリリルカのバックにはオラリオレベル7の四人のうち猛者を除くアイズ、リュー、ベルががちがちの親派としてついている。アイズはリリルカの親友で、リューはリリルカの姉的な存在で、ベルはリリルカを他の誰よりも尊敬していると公言して憚らない。彼らはリリルカのためだったら平気で命懸けで戦う。残りの猛者も同盟仲間だ。
カジノは出て行けとも、武力を行使することも出来ずにただただうろたえ負けつづけている。支配人が顔色を伺いにきても、『楽しく家族と一緒に息抜きをしているお客のリリの邪魔をしに来たのですか?』とけんもほろろだ。
ちなみにイリヤはさっきから順調にブラックジャックでチップを減らしている。頻繁にリリルカにチップを貰っては負け続けているのだ。しかしその量は、カジノ側からすればリリルカの勝つペースに比べれば雀の涙程度でしかない。
リリルカは笑いながら、『しょうがありませんね。ブラックジャックはカウンティングすれば長いスパンで見れば、確実に勝てるようになりますよ?カジノ様側にばれないようにカウンティングする方法を教えて差し上げましょうか?』といっていた。カジノ側はさらに真っ青になっていた。………まあリリルカがその気になれば連合の人間をカウンティング出来るように育てることが出来るんだろうな。大量のガチ集団とかカジノとしてはあまりにも恐ろしいのだろう。いずれ連合お断りの紙が貼られることになるだろう。………いずれが存在すればだが。
「で、どうするんですか?勝負するのですか?降りるのですか?」
「
「残念でしたね。」
リリルカは舌を出す。
リリルカのカードは10ハイのブタ。対する相手のカードはツーペア。リリルカはカードで負けているにも関わらず、
「くそっ!今度こそ!レイズ5000!」
「リレイズ10000。」
「チェック!」
手札は開かれる。敵のカードは勝利を確信したフラッシュ、されどリリルカのカードはそれを凌駕するストレートフラッシュ。
………また一人、顔を土気色にして売られて行く牛のようにドナドナされていってしまった。
「さて、と。まあお遊びはこのくらいでいいでしょうかね。」
リリルカはそういうと支配人を呼び付ける。
「さて、そろそろお話をしましょうか。」
◇◇◇
チップが山と積まれたいくつもの台車と共に、俺達はカジノの支配人室に招かれた。
支配人を前にしたリリルカは、思惑ありげに黒く嗤う。
「さて、ここに大量のチップがありますけど、これは換金していただけるのでしょうかね?」
「そ、それは、あの、その………。」
「ふむ、ところで支配人様のお名前はなんとおっしゃるのでしたっけ?テ………なんとかでしたよね?」
「テ、テリー・セルバンティスと申します………。」
「ああ、そうそう。テッド様だ。思い出しました。確かテッド様でしたよね。」
ただでさえしどろもどろな支配人は、偽名を使っていたらしく面白いほどにうろたえている。
リリルカは嗤いながら言葉を続ける。
「話は変わりますが、連合ではオラリオの経済の流れもつぶさに把握しています。ということはカジノ様の懐に資金がどの程度あるかも当然把握しているわけです。………仮に借金できて急場を凌げたとしても、リリがまた羽を伸ばしに遊びに来れば同じことが起こるのかも知れませんね。」
「そ、それは………。」
「ところで、リリの元にはグラン・カジノ様のおかしな噂が入ってきていますね。何やらグラン・カジノ様が後ろめたいことをしているのではないかという変な噂が。まさかグラン・カジノ様ほどの組織がそんなつまらないことをするわけございませんよね?」
「ま、まさか!!」
支配人は目に見えてうろたえている。うんまあこれは多分クロだろうな。俺だってわかる。
「ふむ、ところでリリのチップは換金していただけるのでしょうか?」
「ウッ!!」
「うーん、換金していただけないのでしたら、グラン・カジノ様は
「ウウッ!!」
「さて、御遊びはここまでにしてここからは互いに歩み寄る大人同士のお話をしましょうか。グラン・カジノ様は、世の中に必要とされたから、今存在なさっています。日々を真っ当に働くたくさんの方々に、たまの贅沢な息抜きを提供するために存在なさっているとリリは考えています。節度を持って遊びを楽しむ方々を、リリはガッカリさせたくはありません。」
「………。」
「連合側としては、オラリオの環境をよくすることを望んでいます。グラン・カジノ様はルールに則って真っ当な営業をなされば、充分な稼ぎを上げることが出来るはずですね?そして支配人様には今までカジノを取り仕切ってきた経験とノウハウがあります。」
「………。」
「そして今ここに大量のチップがあります。何が得かよくお考えください。あなた様方にはいくつかの選択が残されています。まずはその一、無理して換金してお店を潰す。」
「………。」
「その二、換金せずにオラリオを敵に回す。」
「………。」
「その三、武力行使しようとして、仲間を護る目的の連合を激怒させて、オラリオを敵に回す。」
「………。」
「その四、すべてを捨てて逃走してリリの不興を買い、やはりオラリオを敵に回す。」
「………。」
「その五、今までになさった後ろめたいことを連合側にこっそりとつまびらかにして、正して、償って、二度と同じことをしない。この場合は、リリの機嫌も良くなって、ついついウッカリとチップを換金し忘れて鼻歌交じりで帰ってしまうかも知れません。もしかしたら、リリのグラン・カジノ様に対する覚えも良くなって、連合と互いに利益のある関係が築ける可能性もあるのかもしれませんね。連合と懇ろになれば、イシュタル様の娼館からなんらかの便宜を受けることが出来るかもしれません。まあ、その場合は連合側から多少の口出しがあるでしょうが、それは時勢だと思ってあきらめてください。もしも自身の背後に付いてらっしゃる方々が怖いのであれば、連合の庇護下に逃げて来ることも可能ですよ?さて、カジノの支配人様が損得に疎いわけありませんよね?いかがなさいますか?」
「………五番で。是非とも五番でお願いします。リリルカ様のお慈悲に感謝いたします。」
………一体、これのどこが互いの歩み寄りだというのだろうか?リリルカはどう考えても微動だに歩み寄っていない。実質的に、ただの脅迫でしかない。
………おそろしすぎる。
◇◇◇
俺はつくづく思う。どうしてリリルカはこんなに恐ろしい人間になってしまったのだろうか?
一般論でいえば、殺すのは容易く生かすのは難しい。しかしリリルカはどのような存在でも上手く生かして、片手間で鼻歌交じりに飼い馴らしている。
まさしくリリルカはオラリオの支配者だ。
………実はこの間リリルカがレベル3にランクアップしていたのだが、二つ名が【王の助言者】から【
あのあと、連合はカジノと協力してギャンブルにのめり込みすぎる人間の対策を行ったり、カジノの借金に苦しむ人間に高給な雇用先の斡旋を行ったりしているようだ。まあそれですべての人間が助かるわけではないし、高給な仕事は危険だったり大変だったりするのだが、確実に助かる人間は増えている。
そして、いつの間にかグラン・カジノという名称のカジノはオラリオに存在しなくなり、代わりにグラン・リリルカという名称のカジノが跡地に存在していた。
………マジかよ!?
ちなみに、名称を変更してカジノの売上が大幅に上がったらしい。
………やはりリリルカに名前の使用料とか入ってきているのだろうか?
そしてその姿を見た他のカジノも続々と自分からリリルカに頭を垂れて来ているらしい。リリルカは治外法権地帯まで制覇してしまった。しかも休みの日に片手間で。………カジノ近辺はすでに治外法権じゃなくなってしまったということだ。
カジノも連合もオラリオさえも、まさしくリリルカの手玉としてコロコロ転がされているのが現状だ。
………本当に恐ろしい。どうしてこうなってしまったんだ!?
「いえ?リリは父親の背中を見て育ちました。リリのやり口はすべてカロン様から学んだものですよ?」
………俺は絶対にこんなにえげつなくないぞ?
カウンティング・・・ブラックジャックで使用したカードを覚えておいて、勝率を上げる方法。ぶっちゃけカジノにばれずにカウンティングする方法はおそらく存在しません。拙作はリリルカのブラフだと考えられます。………というか考えたいです。