ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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リリルカと彼女の天敵

 こんにちは。いえ、こんばんはですね、皆様。リリはリリです。

 ここは連合の物作り部門です。

 

 リリは今日はここで、魔石を動力原にした魔動自転車と名付けたものの開発に携わっていました。以前から開発を行い、今日完成したところです。

 

 「これが新しく作り出したものか。」

 「面白いですね。」

 

 カロン様ご夫妻です。

 彼らは今日はお休みで、連合で働くリリの下へとお遊びにやってらっしゃいました。

 イリヤ様は今の時間、カロン様が異世界から持ち帰った学校という新たなる制度に通ってらっしゃいます。子供に教育を施していこうという試みです。

 お付きのセラ様とリズ様も、学校で教職を生業となさりました。

 

 「これを漕ぐのか?」

 「ええ、それはペダルというものです。それを漕げば前へと進みます。魔石の補助で脚力の弱いお年寄りにも使いやすい仕様となっています。」

 「ふむ。」

 

 カロン様は興味深そうに自転車を眺めてらっしゃいます。リュー様は何かうずうずしてらっしゃいます。

 なんだかんだでこの二人似てるんですよね。しかしリュー様はお加減をお知りになりません。レベル7が加減を考えずに漕いだらおそらく自転車がバラバラになってしまいます。

 

 「リュー様、ダメですよ?」

 「少しだけ………。」

 「ダメです!まだ誰も試していないために安全確認ができておりません。」

 「そうですか………。」

 

 リュー様はごまかすのが一番です。

 

 「じゃあリリルカが試すのか?」

 「ええ。リリが試した後はカロン様もお乗りになって構いませんよ。」

 「じゃあ私も………。」

 「ダメです。」

 「なぜですか!」

 「これは自転車というものなのですが、実はこの自転車は一般人専用なんです。ステータスを持つ人間が乗ると木っ端みじんに爆発してしまうのです。」

 

 リュー様は適当にごまかすのが一番です。

 

 「そんな!?リリルカさんもステータスを持っているはずじゃあ?」

 「リリはステータス封印薬でステータスを封印しています。」

 「じゃあ私も!」

 「リュー様、今ここにはリリ達三人がいますね?もし今ここに敵が来たら誰が戦うのですか?」

 「それは………。」

 「お分かりいただけましたね?」

 

 リュー様は適当にごまかすのが一番です。

 

 ◇◇◇

 

 リリ達三人はあのあと、自転車を格納庫からオラリオの市街地に持ち出してきました。

 道行く周りの方々が興味深そうに見てらっしゃいます。

 

 「リリルカ様だぜ。」

 「また何かすごいものを開発なされたらしい。」

 

 見てらっしゃいます。恥ずかしいですね。

 リリは自転車を試します。自転車に跨がります。

 

 「………………。」

 「リリルカ………。」

 「リリルカさん………。」

 

 これは………想定外ですね。

 カロン様とリュー様がいたたまれないものを見る目でこちらを見てらっしゃいます。

 周りにはたくさんの興味深そうにこちらを見る人々がいらっしゃいます。

 

 「………………。」

 「リリルカ………下りようぜ。」

 「リリルカさん………。」

 

 想定外です。自転車の規格は連合の一般人男性を想定して造られたものです。

 

 ………サドルに跨がったリリにはペダルまで足が届きません。足の長さが足りません。先ほどからリリの足は虚しく空を蹴りつづけています。

 ………まさかこんな単純な落とし穴に引っ掛かってしまうとは………。

 

 「………リリルカ、ドンマイ。」

 「リリルカさん………。」

 

 いっそ笑ってくださればまだリリには救われる道があるというのに………。

 しかし自転車は連合の新しい開発物です。このままというわけにはいきません。

 

 「………カロン様、リリの代わりに使用感レポートをお願いします。」

 「………ああ。」

 

 ◇◇◇

 

 「それでは漕ぐぞ。」

 

 今から自転車の使用を行います。緊張しますね。

 カロン様が漕がれます。リュー様が後ろの荷台に乗ってらっしゃいます。

 ………リリは、前方に付いているカゴにすっぽり納まっています。カロン様のカゴに乗ればいいという提案にリリはついつい乗ってしまいました。三角座りです。三角座りですっぽり納まってしまいました。何かいやにすっぽりなフィット感です。これは、もしかしなくても情けない格好なのではないのでしょうか?………何か犬や猫とかがこんな扱いを受けている気がします。

 ………リリは開発責任者です。責任者であるからには可能な限り自転車に関わるべきです。しかしこれは………。

 

 「うぐっ!」

 「どうしたのですか?カロン様?」

 

 カロン様がいきなり悲痛な声を上げます。どうしたというのでしょうか?

 

 「リュー!痛い!もっと優しく掴んでくれ!」

 「え、あ、ああ!すみません。」

 

 ああなるほど。

 後ろに乗ってカロン様の腰に手を回しているリュー様が力加減を間違えたのですね。

 ………しかし、これはまずい気がしますね。リュー様が本気でカロン様のお腹を抱きしめでもしたら中身が間違いなく出てしまいます。間違いなく規制がかかる事態になります。汚い噴水です。そしてそれは実際に高確率で起こりそうな気がします。

 

 「リュー様、申し訳ありませんが下りてください。」

 「ええ!?何でですか?」

 「今自転車から爆発しそうな気配を感じました。ステータスを持つ人間は、どうやら荷台に座るのもまずいようです。」

 「そんな………。」

 

 リュー様は適当にごまかすのが一番です。

 

 ◇◇◇

 

 今、リリ達三人はオラリオの郊外を走っています。あのあと話し合った結果、人が多いところで運用するのは危険だという結論に落ち着きました。

 過ぎ行く景色、リリはカゴに納まり、カロン様が漕いで、リュー様は隣を走ってらっしゃいます。

 なかなか悪くありませんね。しかし。

 

 「いくぞーーーっっ!!リリルカ様をお助けするのだーーっっ!!」

 

 「リュー様ーーっっ!!」

 

 これどうしましょうか?

 リリ達の背後には、今たくさんの人間が追っかけて来ています。

 彼らはおそらく二つのグループに別れるのでしょう。

 

 一つは、カロン様が連合をやめた後に入団したため、カロン様達を知らない方々。

 連合内にはカロン様の銅像もあるのですが、いきなり本人を見せてもなかなか気付かないものなのかも知れません。

 どうやら彼らはリリが得体の知れない乗り物で誘拐されていると勘違いしていて、助けだそうとしているようです。

 

 もう一つは、アポロン配下のリュー様ファンクラブですね。

 リュー様を見かけて追っかけてらっしゃるのでしょう。

 

 「なあ、リリルカ。これどうするんだ?」

 

 カロン様です。気付いたときには後ろの人数はすでにそれなりでした。

 

 「そうですね。とりあえずリュー様と別れてついて来る人数を減らすのが得策でしょうね。」

 「そんな!?私だけ仲間外れですか!?」

 

 時々忘れそうになりますが、リュー様は基本寂しがりなんですよね。

 それにしてもレベル7はさすがですね。もう一時間くらいはそれなりの速度で走りつづけているはずなのですが、息を全く切らしてらっしゃいません。

 まあ、それはともかくとして………。止まった方が良さそうな気がしますね。このままだとまた増えそうな予感があります。

 

 「蹴散らしてきます。」

 「ストップ、リュー、ストップ!あいつらは味方だろう?」

 「しかし鬱陶しいので………。」

 「確かに鬱陶しいが、Not暴力!そんなことよりとりあえずアポロンの部下達を引き離してくれよ。」

 「………嫌です。」

 

 そうこうしているうちにも追いかけている軍勢の人間は増えつつあります。

 ………どうしましょうか?

 

 「あなたたち、ストップです!」

 「「「「「「アスフィ副団長!」」」」」」

 

 アスフィ様がおいでなさりました。アスフィ様は軍勢の前に立ちはだかります。彼らはいきなり現れたアスフィ様に戸惑ってらっしゃいます。

 

 「し、しかしアスフィ様、リリルカ様が誘拐を………。」

 「すぐそこにリュー様が………。」

 「彼らは前大団長ご夫妻です。誘拐犯ではありません。今は家族の団欒をなさっているのです。それとアポロン連中は自重なさい。今日の仕事のノルマは終わったのですか!?」

 「「「「ごめんなさい。」」」」

 

 さすがアスフィ様です。下の人間をしっかりと引き締めてらっしゃいます。

 

 ◇◇◇

 

 「万能者、助かったよ。あいつら、どうすればいいか困っていたんだ。それよりお前はどうしてここにいるんだ?」

 「至急、統括役に確認していただきたいことがありまして探していたんです。それより………。」

 

 アスフィ様はリリの方をチラリと見ます。少し頬が引き攣ってらっしゃいます。

 ………笑って下さっても構いませんよ?リリも何だかおもしろくなってきました。

 

 「………統括役、あなたがそんな格好をしてしまっては威厳を損ねてしまうのでは?」

 「………そうですね。リリが浅慮でした。レポートも終了しましたし、本部に戻るとしましょうか。」

 

 指摘されてしまいましたし、いつまでもこのままというわけにはいきません。

 リリはカゴから下りて、下りて、下りて………………………抜けません。ええ。

 ………すっぽりです。完璧なまでにすっぽり納まってしまっています。

 

 「………抜けません。」

 「ブフゥッ!!」

 

 ………ついに真面目なアスフィ様を噴き出させてしまいました。

 まあですよね。これが他人事でしたらリリも噴き出さずにいられる自信がありませんし………。

 

 「俺が引っ張ってみるよ。」

 

 カロン様が引っ張ります。しかしリリの体はびくとも動きません。

 

 「失礼、それでは私が。」

 

 アスフィ様が引っ張ります。やっぱり抜けません。

 ………アスフィ様はレベル4でいらっしゃるはずなのですが………?

 

 「リリルカさん、それでは私が引き抜きましょう!」

 「いえ、結構です。」

 

 加減を知らないリュー様にお任せしたら、リリの上半身だけが………なんてグロいことになりかねません。とりあえずこのまま本部に戻りましょう。

 

 帰りの道をカロン様が再び漕ぎます。

 リリは人の多い帰りの道を、情けない姿を晒したまま進んでいきます。

 ………鬱です。

 

 ◇◇◇

 

 「それじゃリリルカ、俺達は帰るぞ。体に気をつけるんだぞ。」

 「はい。」

 

 あのあとリリ達は本部に戻りました。

 超絶フィットしていたリリの体は、困ったときのHACHIMAN様にお願いして取り出してもらいました。

 ………なんか自転車のカゴの部分に次元の狭間を発生させて体を移動させたのですが、そこまでする必要があったのでしょうか?

 よく考えたら、カゴの中で変身すれば抜けたのではないのでしょうか?

 

 リリは自転車を睨み付けます!

 

 リリはペダルに足が届かず、カゴに体を拘束されてしまいました。

 こいつはリリに恥を掻かせたにっくい相手です!リリはこいつのせいで散々な赤っ恥です!

 しかし………憎い相手のはずなのですが………開発するのにかかった苦労を思えば不思議とそこまで腹が立ちません。よく見ると愛らしいフォルムをしているようにも感じます。

 それに、生産が正式に決定すればこの憎い自転車はオラリオの人々の役に大いに立つ可能性が高いです。

 それを思えば………。

 

 仕方ありませんね。きっとこの自転車は開発責任者のリリに対して反抗期を迎えているのでしょう。

 ならばこそリリの腕の見せ所です!リリがこの自転車を責任をもって最後まで立派に育て上げて、人々の役に立つ存在になるようにして見せましょう!

 

 今日は生意気盛りの自転車に反抗されてしまいましたが、明日は何かいいことがありますかね?

 

 リリは明日の楽しみを想って、家路に着きます。

 今日の夕食当番はミーシェ様です。連合の食堂もいいですが、ミーシェ様のお料理も非常に美味しいです。

 ………強引にミーシェ様がルームシェアをすると言い張って住み着いてしまいましたが………まあ確かにお互いに助けられている点も多いですしね。気にしないでおきましょう。

 そういえば明日からはフレイヤ様のところへ出張ですね。

 ミーシェ様もガネーシャ様の所へと出張ですし、ヘスティア様が調子に乗らないといいですけど………。

 

 リリは街の明かりを見て、昔を想います。

 何も持たずに痩せたチビのリリは、運よく守護神に出会い、加護を授かり力を与えられました。

 

 しかし、今もどこかで守護神と行き交わなかったリリは心の中で泣いているのでしょうか?

 ………自転車を作り上げれば彼らはそれに乗って過酷な運命から逃げ出すことができるのでしょうか?

 ………自転車がソーマにいた頃にあれば、それに乗ってリリはどこか幸せな所に逃げ出すことが可能だったのでしょうか?

 ………いえ、どちらにしろリリはペダルまで足が届きませんでしたね。

 それに今があるならそれはそれでいい気もします。

 

 「リリお姉様、お帰りなさい。」

 「ただいま、帰りました。」

 

 さて、明日からは出張です。

 明日も朝から早いことですし、お食事をいただいて、今日は早めに休むとしましょうか。

 

 

 

 リリルカはその日、皆で自転車に乗って楽しく遠くへとお出かけする夢を見た。


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