ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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ありのまま

 ーー面倒なことになった。非常に面倒だ………

 

 俺はカロン、例によって例のごとくただのカロンだ。

 俺は今オラリオの町並みを思い悩んで歩いている。どうしたものか………

 

 今日、俺は仕事はお休みなのだが、俺はリューに今日は仕事があると嘘をついて家を出てきてしまった。どうしよう………。

 

 それというのも、今日の朝俺が家で起きたら俺のベッドの側でリューがニコニコした笑顔で『私のどこが好きで結婚したんですか?』と聞いてきたのだ。

 ………俺は俺の意思を無視して勝手に結婚式を挙げられてしまったのだが………リューを怒らせるのが怖くて何も言えなかった。それに良く考えたら、ベルの結婚式を勝手に挙げた俺がどの口で言えようか?そしてその代わりにつっかえつっかえようやく口から出てきたのが『そういえば今日俺仕事があるんだった。』だ。まあいわゆる逃避だな。

 

 今日は一日休みだと期待していたリューはひどく落ち込んでいた。なんか悪いことしたな。

 それはともかく、真に困ったのはリューのどこが好きで結婚したのかという質問だ。

 リューには良いところがたくさんある。あるのだが、言葉にしようとするとなると………。なんか困った事態になりそうな感じなのだ。

 例えば真面目なところとか一生懸命なところとか言ってしまうと、さらに真面目で一生懸命になろうとして明後日の努力を行いそうな気がする。リューが一生懸命役に立とうとするほど、マイナスの事態を引き起こすのはもはや周知の事実だ。そして真面目な分余計にタチが悪い。被害が俺だけならまだ何とでも出来るんだが、連合にまでまた迷惑をかけてしまうかも知れないと考えると………。

 

 他に良いところ………。たくさんある。リューにはよいところがたくさんあるのだ!決して思い付かないわけではない。俺はリューの良いところをわかっている!そう!たくさんある………はずなんだ。

 

 ………とりあえず誰かに相談してみるか。

 

 ◇◇◇

 

 「と、いうわけなんだよ。九魔姫(リヴェリア)はどうなんだ?」

 

 とりあえず俺はガネーシャのところに相談に来ていた。ガネーシャは例によって例のごとく、俺の質問に『俺は、ネオガネーシャだっっ!!』としか答えなかった。もしかしてガネーシャ、照れていたのだろうか?ネオガネーシャって何なんだろう?

 代わりに妻の九魔姫に試しにネオガネーシャの好きなところを聞いてみた。参考にさせてもらおう。

 

 「ふむ、フッフッフッフ。」

 

 なんか九魔姫ニヤニヤしてるな。キャラ違うくないか?

 

 「よくぞ聞いてくれた!フッフッフッフ、この時を待っていた!私はずっとこの時を待っていたんだ!」

 

 なんか九魔姫すごい嬉しそうなのだが、大丈夫なのかな?

 

 「フッフッフッフ。最近は誰も聞いてくれなくてな。私も話す相手を探していた!ガネーシャにはよいところがたくさんある!たくさんあるのだ!ガネーシャのよいところ、1243!その一!まずは器が大きい。包容力があり、たくさんの人々に慕われている!」

 

 1243!?パッと思い付くだけでそんなにあるのか!?人間の煩悩の数ですら108個しかないというのにか!?こいつどんだけネオガネーシャが好きなんだ!?

 

 「その二、あのうっとおしさや暑苦しさが慣れて来ると癖になる!もはや今の私は一日十回はあの『俺がガネーシャだっっ!!』という発言を聞かないと禁断症状が出てしまう。まるで陽気な太陽のように明るい男神だっっ!!」

 

 さっそくおかしくなってきたな………。禁断症状?あいつ今は自分ではネオガネーシャだと言ってたぞ?

 

 「その三、さらに照れ屋でもあり、私を大切にしてくれる!人々のことを大切に考える実は真面目なところもギャップ萌えだ!さらに………

 

 そのあとも延々と九魔姫の独演会は続いていく。ネオガネーシャは早い段階で顔を赤くして逃げて行った。聞きはじめてからもう二時間は経過してるぞ?

 ………なるほど。人の惚気を延々と聞かされるとこんなにやるせない気持ちになるのか。気をつけよう。俺はさっさと帰りたかったが、急に遊びに来た俺を持て成してくれる神友夫妻の気分は害したくない。

 俺は興味のないお経を延々と聞かされる気分だったが、ひたすら我慢した。

 

 あまりに参考にならない内容だったため、俺は途中から何しに来たのか忘れ果てていた。

 ………よくよく後で考えてみれば、ネオガネーシャとリューに共通点があるとも考えづらい。

 とりあえず俺は何しに来たのかを忘れたまま、無駄な二時間以上が過ぎていった。そろそろ限界だ。眠たくなってきた。

 

 「………九魔姫、わかったよ。俺もそろそろ時間がないから、さ?」

 「ふう、まだ語りたいことの三分の一も話していないのだがな?まあ良い。また聞きたくなったらいつでも来い!」

 

 三分の一!?こいつつまり6時間以上語りつづけるつもりだったのか!?

 九魔姫は気分的になんかツヤツヤしてる気がする。さぞや楽しかったのだろう。俺には苦行の二時間だった。これはまあ誰も聞きたがらないだろうな。

 

 うん、もう二度と聞かない。

 

 ◇◇◇

 

 「と、言うわけで次はお前に聞きに来たのだ。」

 「なるほど。わかりました。」

 

 俺は次はベルに聞きに来ていた。ベルの妻はご存知ヘスティアだ。

 

 「そうですね。彼女は包容力があります。」

 

 包容力?あいつ俺の前では一切包容力を発揮してないぞ?ダメなところしか見たことないぞ?

 

 「………胸の話か?」

 「い、いえいえ!違いますよ!性格的な話です!」

 「嘘つけ!俺はあいつが包容力があるところを見たことないぞ?さてはお前、巨乳自慢か?」

 「いえ、決して!」

 「絶対か?俺は一般的な話をしてるんだぞ?ヘスティアはお前にだけ包容力があるんじゃないか?試しに他の人間にも聞いてみるか?」

 「………多分、おそらく包容力がある気がするようなしないような。」

 「ふむ、なるほど。そもそもヘスティアには良いところが存在しなかったか。これは宛てにならんな。次は誰に聞いてみようか?」

 「そんな………。」

 

 ベルはがっくりうなだれている。ふむ、少し言い過ぎたかな?

 

 「ベル、落ち込むことはない。良く考えれば確かにお前の言う通り、巨乳はヘスティアの良いところだ。」

 「巨乳だけ………。」

 

 余計に落ち込んでしまった。まあ俺は俺の危機を乗り越えねばならんからな。いつまでもベルと話す時間はない。

 

 ◇◇◇

 

 「というわけで、ペスはどう思う?」

 【私に聞かれましても………第一私はあの人に絞められて唐揚げにされかけたのですよ?】

 

 私はペス。私は連合の公認マスコット。私のお仕事は他人の愚痴を聞くことです。

 

 「そうか。お前は生命を見守り続けたといっていたから頼りになるかと思ったんだがな。リリルカは仕事で忙しいし。」

 【まあそうは言ってもホラ、私結局、鳥のような見た目ですし、人間の機微を聞かれても困ります。】

 「まあそうか。聞いてもらって済まないな。」

 【ふむ、しかしその考えは有りなのかも知れませんね。】

 「どういうことだ?」 

 【一番近くにいるはずの人間であるあなたが答えに窮すると言うのならば、いっそのこと人外にアドバイスを乞うという考え方です。】

 「ふむ、なるほど。確かに連合内には人外もいるしな。」

 【私はそろそろアスフィさんが帰ってくる時間ですので副団長室に帰らねばなりません。私がいないとなったら、アスフィさんの胃が持たないかも知れませんから。私はアスフィさんのご心痛を癒さねばなりません!】

 

 確かこいつ自称超越存在だったはずなのだが、何だかペットとしての自覚が出てきてしまってるな。

 

 ◇◇◇

 

 「というわけで、次はお前に聞きに来たんだ。」

 「なぜに俺ッチ!?」

 「いや、人間のアドバイザーが頼りにならないからさ。」

 

 よう、みんな。俺ッチはリドだ。連合の魔物達の取り纏め役だ。カロンさんとはそこそこ親交がある。俺ッチ達はカロンさんには恩があるため、助けになれるものならなりたいが………。

 

 「と、いうわけでリューの良いところは何だと思う?」

 

 ………そんなこと俺ッチに聞かれても………一番近くにいるカロンさんにわからないことが俺ッチにわかるわけないだろ?

 

 「………俺ッチは結婚してないからわからないですぜ。結婚してるタケミカヅチッチとかに聞いてみたらどうですかい?」

 「タケミカヅチッチは語呂が悪いな。まあともかく、あいつらは二人でいるとバカップルだから聞きに行きたくないんだよ。ただでさえ、九魔姫の惚気を聞かされてSAN値が下がってるって言うのに………。」

 「そんなこと言われましても………。」

 「グオオオオオ!!」

 「「バーサーカー(ッチ)!」」

 

 バーサーカーッチが突然俺ッチ達の話に割り込んできた。何か言いたいことがあるのか?

 

 「そうね。バーサーカーはこう言っているわ。ありのままの感情を伝えれば良いんだ、って。」

 「イリヤ!」

 「私もそう思うわ。飾らずにありのままのパパの感情をママに伝えれば良いんじゃないかしら?」

 

 義理の娘と理性のない人間に諭されてしまった。

 ふむ、しかし確かにありのままを伝えるのが一番誠意があるのかも知れない。

 目から鱗の金言を得た俺は家路へと着く。

 

 ◇◇◇

 

 「ただいま。」

 「お帰りなさい、あなた。」

 

 俺は正直な話をすることに決めた。

 

 「………リュー、済まない。俺は今日仕事だとつい嘘をついてしまった。」

 「知ってますよ。あなたの靴の裏には発信器が付いてるのを忘れたのですか?私はあなたが今日どこに行ったのかも知ってます。」

 「………そういえばそのことをすっかり忘れていた。発信器、外してくれないか?」

 「絶対に嫌です。」

 

 ふふふ。私はいい女、リュー・リオンです。

 彼にはいつも結構私のために時間を使ってもらってますからね。たまには自由にさせてあげないと鬱憤が溜まるでしょう。そう、私は男を追い詰めないいい女なのです!

 ふふふ、さあこれで皆も私の良いところがわかったでしょう!

 そうです、私は多分オラリオ一のいい女なのです!

 発信器は絶対に外しませんけど。

 

 「ところであなた、私のどこが好きで結婚したんですか。」

 「ああ、その話の続きか。」

 

 ふっふっふ。さあ、私をいい女だと言うのです!ベタ惚れるのです!のろけるのです!私しかいないとそう理解するのです!

 ………何だったら私のことを心の底から愛していると気付いてしまってもいいんですよ?うふふ。

 さあ、私たちの心が深く繋がっているということを読者様方に示して見せるのです!

 

 「ああ。今日一日考えてみてわかったよ。俺はリューにはいつも力わざが必要な局面で助けられている。脳筋は案外、イロイロな役に立つんだな。」

 「………は?」

 

 

 俺はカロン。どうやら俺は久しぶりにやらかしてしまったらしい。

 リューは久々の般若顔と共に奥からいつも俺を簀巻きにしていた荒縄を持ち出してきた。ステータスが無くなってからは簀巻きにされることはなかったんだが………よくわからんが今回はそれだけ腹が立ったのだろう。仕方ない。ならば甘んじて受けようか?

 

 俺は今日一つ世の中の真理を学んだ。大人の階段を上った。俺から皆に一つだけ言えることは、誠意を持ってありのままの感情を伝えても物事がうまくいくとは限らないことだな。少なくとも俺はありのままの感情を伝えたら簀巻きにされてしまうみたいだ。道理で世の中から嘘が無くならないわけだ。

 神々の嘘がわかるという能力も良し悪しで、もしかしてあいつらも苦労してるのかも知れないな。俺は少しだけあいつらと気持ちが通じた気がした。

 

 さて、ステータスがあった時より手加減してくれると助かるけどな?でもリューのお仕置きはいつも悪い方に期待を裏切るんだよな。俺も我慢せずに悲鳴とかをあげたが良いのかな?でもリュー、そしたら逆に喜びそうな気もするんだよな。

 

 もちろん呑気に考えているように思えるだろうけど、これはただの現実逃避だ。………これから起こることを考えたくないんだ。

 頼む!………誰か助けてくれ。


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