ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「お帰りなさい、あなた。」
「ああ、帰ったよ。」
ここは連合本部の近くの最近購入した俺の家。
木造の二階建て。
俺はイリヤを家に連れて帰った。
アポロン?めんどいからベル任せ。
リリルカはミーシェとルームシェアしていて、新婚の俺達を気遣かってイリヤを預かる提案をしたが、子供を護るのは大人の義務だろ?二人とも日中は忙しいし。うちなら普段リューがいる。リューは護衛が必要だと言い張って俺について来たがるが、今のオラリオは治安が悪いとは思えない。俺はちょくちょく一人で外出する。
セラとリズは今現在、住むところと仕事を探している。その間俺達はイリヤを預かることにした。彼女達が落ち着き次第、イリヤの住みかをどうするか話し合いを行う。俺は別にいつまででも預かって構わんが、彼女達には彼女達の意志と展望がある。
………そしてすっかり忘れていたのだが、今現在モンスターファミリアに新たな眷属としてバーサーカーが居座ることになった。本当に………すっかり忘れていた。イリヤが向こうから霊体化してこっそり連れて来てしまったのだ。さいわいにしてバーサーカーは意外にも非常におとなしい。イリヤの命令がないかぎり暴れたりはしないそうだ。主食は魔力らしい。試しに魔石を与えてみたらボリボリ食べていた。
リューは寛大にも新しい知らない子供を家に置くことを喜んだ。
なんだ。リューやっぱりいい女だったんだな。
ずっと脳筋とか思ってたのだが、俺の間違いだったんだな。謝ろうかな?
食事も終わり遅い時間、イリヤはもう寝かしつけてある。今頃二階の個室で寝てるだろ。
リビングで俺とリューの二人。
「リューがイリヤを受け入れてくれたことは助かったよ。ほんとは誘拐なんだが、お前の正義はいいのか?」
「あなたは詐欺師ですからね。詐欺師と連れ添ったからには覚悟の上ですよ。第一、事情はすでにリリルカさんに確認済みです。」
「向こうでもお前には散々に助けられたよ。お前はいい女だった。」
「当たり前でしょう。」
俺は笑い、リューも笑う。
「しかし、まさかあなた一人で新婚旅行を堪能して来るとは………しかも小娘と二人でだったと聞きましたよ?まさかこんなに結婚してすぐに堂々と浮気するとは。」
「浮気!?おいおい、勘弁してくれよ!俺は手違いで呼び出されたんだよ。何でもイリヤが言うには俺のマスターがウッカリ散々に呪文を間違えたせいで、聖杯とやらが誤作動を起こしたらしい。特にひどかったのが、ウッカリ呪文にお経を挟んでしまったせいで、亡者である英霊が呼び出せなかったらしい。生者のアポロンも呼ばれてただろ?」
「………まあ仕方ありませんか。わかってます、冗談ですよ。ハァ、それにしてもまさか新婚旅行に行く前に新しい子供が出来てしまうとは………また旅行に行こうにも彼女一人家に置いていけるわけありませんし………リリルカさんにたまに預かってもらうことを視野に入れるべきか………」
「おいおい?三人で行けばいいだろ?何ならリリルカの休みも待って四人でもいいし。二人きりは別にいいだろ?」
「………あなたはつくづく女心を理解しませんね。私だって一回くらい二人きりでもどこかに行きたいものなんですよ。」
「大体どうすんだ?またベルに頼もうにも、誰かの気分次第でまたなんか変なのに巻き込まれるかも知れないんだぜ?」
「つくづくなぜ私はこんな訳の分からないSSに登場させられてしまったのか?幸せにしようとするならするで少しくらいロマンをくれても良さそうなものなのに。」
「諦めようぜ。誰かはそういう人間なんだよ。きっと。ギャグは好きだしハッピーエンドも望んでいるけれど、きっと恋愛描写が嫌いなんだよ。お前ら勝手に二人でやってろってさ。」
「うーん、そうなのでしょうね。でも少しくらいなら。」
リューは俺に近寄りそっと俺の体によりかかる。
「あれ?パパとママ何やってるの?」
「ああ、イリヤか。」
ふむ、なるほど。これはあれか。誰かは恋愛表現を書きたくないからイリヤを俺の家に置いたんだな?さては。
「あれ?ママどこ行ったの?」
うん。ママは恥ずかしがって窓から逃げたよ。今頃屋根の上辺りで顔を真っ赤にしてるんじゃないかな?
やはり俺にはもうステータスはない。戦いでのステータスはあくまでも聖杯のバックアップに過ぎなかった。故にリューの逃げる姿は捕らえられない。
しかしリューの行動パターンくらいはわかるようになってしまった。
………長い間一緒にいるとイロイロなものが見えてくるのだな。
あるいはこれも一つの幸福なのだろうか?
「イリヤ、今日は疲れてるだろ?もう休みなさい。」
「イリヤはもう結構な歳です!パパでも子供扱いしたら許さないんだから!」
「そうか。済まないな。じゃあレディーの美容の為には、早く寝るのも必要だろう?」
「それもそうね。じゃあおやすみなさい。」
「ああ、お休み。」
彼女は明日からリリルカの教育を受けることになっている。
リリルカの方が年下なのだが………まあ細かいことはいいか。
「戻ったようですね。」
「お前は忍者か!」
リューはやはり音もなく戻って来る。全く気づけない。
「それでは先ほどの続きを………」
リューは俺に近寄りそっと寄りかかる。
うん、やっぱりこいつ脳筋だな。こんなことしたら………
「パパ、ママ、言うのを忘れてた今度の日曜の予定だけど………」
やはり忍者。今頃おそらく屋根の上。
つくづく俺の家族はどうなってんだ?妻は脳筋忍者で娘は大魔王と人造人間。
………まあ細かいことはどうでもいいか。
「日曜どうしたんだ?」
「あれ?ママ今いなかったっけ?」
「ママは急用だよ。伝えとくから俺に話してくれるか?」
「うん。日曜はリリが町案内をしてくれるから遅くなりそうだよ。もしかしたら泊まることになるかもしれないからまた伝えるね。」
「ああ。わかったよ。」
日曜、イリヤの帰りは遅いのか。ならばリューにはその日に埋め合わせることにするか。
まあとは言っても俺には落ち度は無いはずだが………シルがうるさいんだよな。リューを大切にしろってさ。ほんとは俺一人の時間も欲しいんだけどさ。まあ仕方ないか。
「それじゃあおやすみなさい。」
「ああ、いい夢を。」
「行ったようですね。」
忍者、イリヤがいなくなると同時に俺の側。
忍者は俺の体にそっと寄り………
「ストップ!」
「どうしたんですか?」
「恋愛表現は禁止だ!こんなことしたらイリヤが起きちまう。いつまでも子供の安眠を妨げるのはいかんだろ?」
「どういうことですか?」
「つまり誰かは恋愛表現嫌いなんだよ。それっぽい空気を感じたらイリヤを起こして邪魔しに来るんだ。その度にイリヤはたたき起こされて可愛そうだろ?」
「何と言うこと!ぐぬぬぬ………誰かめ!トイレ掃除量を一万倍に増やしてやりましょう。」
そんなに掃除するトイレ、たくさんないぞ?第一ヘスティアもいるだろ?
最近はヘスティアちゃんとトイレ掃除してるのか?
「まあ、仕方ありませんか。それなら続きは誰かが知らないところで勝手にやりましょうか。」
「それなら問題なさそうだな。」
夜は更けて外で鳴く虫の声。
俺の妻は料理が下手で、明日の朝飯も俺が作らなきゃならない。
二人で過ごしているならともかく、子供がいるならキチンと俺が朝飯作らないといけない。
俺は朝に弱く、正直しんどいが………まあ幸せの対価だと思って諦めるか。
「リュー、俺はもう寝るよ。お休み。」
「ええ、私も寝ます。よい夢を。」
俺達はベッドに横になる。
明日も何かいいことあるかな?
俺は明日の楽しみを想って、目を閉じた。