ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「なるほどね………事情は分かったわ。」
優しく微笑む一人の女性、その様子はあたかも女神のようである。
果たしてその本性は………やはり正義を司る女神なのである。
「そうね………すべてはあなたがいけないわ。気分で書き出すからいけないのよ。あなたの脳内はひど過ぎるわ。あまりにも混沌としている。人間としてもう少し真っ当になさい。一話当たりの平均文字数も少ないし。」
「ぐはっっ………。」
ここはアストレア毒舌相談室。吐血するは誰か。
脳天気な誰かの悩み事。
それはフェイトにも関わらず八話、二万五千文字くらい書いても未だに
ちょっと展開遅過ぎないか?
「展開遅くても頑張りなさい。あなたが始めたものなのだから。もしも完結させることが出来たら………。」
「出来たら………?」
「うーん、拙作は自己満足だし特に何かしてあげる必要性も感じないわね。こんなつまらないSSだし。」
「ぐはぁっっ………。」
◇◇◇
あらすじ
凛、桜、士郎の三者同盟を結ぼう!
「なるほど。つまりそういうわけか。」
「ええ。そういうわけなのよ。」
ここは未だに遠坂邸。今は凛による士郎に対する聖杯戦争の説明が終わったばかり。
あのあと結局凛は、迷った末に士郎に戦いの詳細を説明していた。
やはりカロンの入れ知恵である。
カロンの視点で見れば、桜もこの戦いのマスターの可能性は高い。
内々で凛にそのように説得を行い、桜のマスターか否かの確認も行う必要があると説得していた。そのためには桜と親交があり、桜が家に度々訪れる士郎も引き込んでしまった方がよい。
さらに、既に士郎は関係者でもあり、令呪が存在する。
ことここに至っては、無理に知らせないよりも知らせて士郎と桜を固めて戦った方がよいということである。さらに士郎には力が無く、潜在的に青タイツという強敵も存在する。
彼らは今もクー・フー・リンが士郎を密かに狙っていることを知らない。しかし士郎と青タイツが出会ってしまったら士郎が青タイツに襲われることは理解している。青タイツに襲われる………なんか意味深だな。
ならばいっそ戦う力を与えて自衛させてしまおうということである。
カロンにとって嬉しい誤算、それは凛にさほど同盟に対する抵抗がないことだった。
カロンは凛の戦いへのこだわりがどのようなものか判別しきれないでいた。
いざとなったら勝手に同盟締結を視野に入れるつもりだったが、キッパリと凛に同盟を否定された後にそれをやってしまったら凛との間に決定的な亀裂が入ることは明白、ゆえにスタンスを聞き出すことは後回しにしていた。
凛を護るための同盟相手は、相手が裏切らないという確信さえあるのなら相手を選ぶつもりはなかったためだ。ゆえに凛が受け入れられない公算を常に念頭に置いていた。
しかし士郎と桜という、凛にとっても心情的に受け入れやすい同盟候補者が現れたことが、カロンを先へと進ませるきっかけとなった。
凛の目的は戦いでの勝利であり、士郎も、そして敵であるのなら桜もいずれは倒す必要がある相手だが、それが今である必要はない。そして他の陣営が同盟を結んで来る可能性も視野に入れている。同盟に単体で抵抗するのは難しい。
戦いにこだわるわりに一人で勝ちきることにはこだわらず、柔軟なアイデアも出すことが可能。
そしてそれはつまりどういうことなのか?
そう、なんと拙作の凛はリューのように分かりやすい脳筋とは違い、脳筋のような脳筋でないような………すなわち拙作と同様にあやふやな存在だったのである!
話はなおも続く。
「というわけで今から私とこの男で衛宮君ちを訪問したいと思っているのよ。」
「うーん、でも藤ねぇがなぁ………。」
そしてここで今まで影も形も見当たらなかった虎が出て来て邪魔をする。ガオー。
誰かも虎のことをすっかり忘れるところでした。危なかった。ふぅ。
「藤村先生は大丈夫よ。私が言いくるめるわ。」
「どうするのさ?」
「カロン、何かいいアイデアあるでしょ?」
「俺に丸投げかよ!?」
いきなり飛び火したカロンは頭を捻る。
「うーん、そうだな。………別にこっそり上がり込んでも良くないか?」
「使えないわね。こっそり上がり込んだら見つかったときの言い訳に困るじゃない。」
「じゃあ嘘の用事で藤村先生とやらを退かすとか?」
「嘘の用事って?」
「………思い付かない。」
「役に立たないわね。」
「ひどいな。」
いつまでもしゃべってばかりでも仕方ない。三人は衛宮邸に向かいながら話をすることに決める。
三人は玄関へと向かう。
道を歩く三人、士郎がはたと思い出す。
「あっ、いや藤ねぇも桜もこの時間だったらもう自分の家に帰ってるぞ!」
原作様を急に思い出し急転換する誰か。
「なんだ、だったら問題ないわね。」
「飯食ってないしついでに材料を買っていこう。」
カロンが空腹を思い出す。
「そうね。スーパー寄って行きましょ。」
◇◇◇
「うーん、これからどうするべきかしら。」
そう、既に九話目にも関わらず未だにセイバーちゃんすら存在しない段階なのだ。
セイバールートの多分初日とかである。
誰かの中ではもう既に、学校の結界をどうにかしないとヤバいような気配を感じるほどに頑張って書いたかのような印象を受けているが、そもそも結界を見つけたのが今日の夕方なのである。
凛と士郎とカロンはちゃぶ台を囲む。料理は凛と士郎が協力して作っていた。和食と中華。
カロンは考える。
ーー状況は進んでいる。不足していた戦力を補う可能性も出て来た。しかしまだ何一つとして安心できない状況。まだ戦端はろくに開かれておらず誰一人として敵味方合わせて脱落が確認できない。桜にしてもマスターかどうかは確定していない。………だがそれでも早い段階で同盟の可能性が見えてきたことは僥倖。そして暗躍する青タイツ、確定している陣営と朧げに見えてきた陣営、
カロンは目まぐるしく思案する。
ーーシステムのありか、景品の正体、俺に令呪はどの程度きくのか?俺は令呪で戦力ブーストは可能なのか?一枚切らせて確認しておくべきか………そしてこの卵焼きも………チンジャオロースも非常に美味!士郎も凛も連合の食堂で働いてくれないかな?ふむ、昨日から長時間食事をしていなかったし特にうまく感じるな。
食事をする三人、穏やかな時間。
人の気配を感じない屋敷を確認してカロンは士郎の境遇も推測する。
ーー前回の戦いは十年前で凛の父はその時亡くなった。魔術師はそこまで数多いわけで無く、士郎いわく士郎の父も魔術師。凛も士郎も親がいなくて共に親が魔術師だったというこの共通点は偶然か?
カロンはうっすらと、聖杯の危険性を推測する。
凛と士郎の父親が共に聖杯に殺された可能性、七分の一のはずが二十八人挑戦して未だに叶えられない願い。
そもそも、どう考えてもおかしいのである。カロンは過去の戦いの詳細を知らない。実際に何が起こったのかを知らない。必然的にこう考える。
二十八人全員願いが叶わないのは、二十八人全員死んでいるからではないのか?四回の戦いのそのすべてが最終戦が相打ちとか、普通に考えてありえない。勝者が聖杯にとり殺されてないか?
やはりこの聖杯は、求める者を死へと導く邪悪な物なのではなかろうか?
何でも叶うという甘言でたぶらかして、聖杯いう耳触りのいいエサでエモノを釣り寄せて、地獄へ誘う悪鬼、詐欺師、魑魅魍魎の類。
甘言でたぶらかすのは、まさしく悪魔の常套手段。
まるで臭いで虫を寄せるハエトリグサ。
心の弱みに付け込む霊感商法。
飛んで火に入る夏の虫。
挙げ句の果てに、御三家とやらであるはずのマスターにもそのシステムは全くの謎。マスターは土地を貸してるだけの大家さん。
言い方を少し変えると
『何なのか全くわからない謎のシステムに則った、生死を賭けた戦いに勝ち抜けば、あなたの願いは何でも叶います。それはもう、なぁんでも。ええ、絶対に叶いますよ?絶対です。七人に一人です。
システム?
そんなん教えられるわけないじゃないですか。企業秘密ですよ。
別にシステムがわからなくたって、願いが叶うならそんなものどうでもいいことじゃあありませんか?
え、成功者が少ない?リスクが高い?
そんなわけないじゃないですか。何しろ何でも叶う願いですよ?それが七人に一人も勝てるんですよ?ただ残りの六人を皆殺しにするだけで、何でも手に入りますよ?このチャンスを逃すんですか?魔術師だったら、誰でも喉から手が出るほどこの機会を欲しがるんですよ?
え、願いを叶えた前例?今まで二十八人挑戦して、誰一人として成功者はいないんじゃないのか?実績0?七分の一なんじゃないのかって?
やだなぁ、お客さん。そりゃたまたまですよ。たまたま。まあお客さんがそれがどうしてなのかを知る方法はありませんけど。それでも絶対の自信がございます。え、根拠?そんなの必要ないでしょう。だってほら、魔術師だったらみんなやりたがるんですよ?お客さんはこの機会を逃すんですか?お客さんは選ばれた特別な魔術師なんですよ?選ばれた!特別な!
願いが叶う証拠にほら。超常現象で英霊を呼び寄せて見せましたよ。お客さんの手駒です。お客さんに、英雄をこき使う権利が与えられるんですよ?かつて名を馳せた、偉大な人間を小間使い扱いできるんですよ?
え、何ですか?英霊と願いは関係ない?嫌だなぁ、お客さん。超常現象が起こせるんだから、願いの一つくらい、叶えられるに決まっているじゃあないですか。そんなん常識でしょう。当たり前ですよ。あ・た・り・ま・え。
ええ。正真正銘の英霊です。ええ。え?英霊だっていう証拠がない?英雄なんか、実際に見たことなんてない?普通の幽霊と違うのか?英雄の証拠を見せろ?身分証明書?
やだなぁ、そんなん気配とか雰囲気でわかるでしょう?ほら、あっちの金色の英雄とか
寄越された手駒が裏切ったり、死ぬ可能性があるのも、まあそれはそれで仕方ないことですよね。うん、どう考えても仕方ない。あなたの命が安いのも仕方ない。あなたの命が他人の願望のたった六分の一の重みしかないのも仕方ない。だってほら、たったの六人殺すだけであなたの願いは何だって叶うのだから。』
あなたなら、信じますか?
冷静に考えて、これほど胡散臭いものは、そうそうない。カロンはこれほど嘘臭いものを信じる気は、全くない。考えれば考えるほど、マスターあんた多分騙されてるぞという感想しか出てこない。たとえどんな超常現象を目の前で起こされようと変わらない。もともと聖杯なんか、せいぜいそのへんのコップと同程度の興味しかない。
魔術師でない人間が聖杯戦争のことを聞かされても、大概の人間は似たような思考になると考えられる。
実際には、ロードエルメロイ二世という生還者が存在するのだが、カロンにその情報は入っていない。入っていたとしても、大して対応は変わらなかっただろうが。
衛宮切継という唯一の勝者も黙して死んだ。彼からの情報があったとしても、余計に聖杯に対する不信感が募るだけである。
カロンの本質は家族の守護神。家庭を護り、子供を慈しむ慈愛の体現。
守護神は、その加護で子供達を危険から遠ざける。
彼は二人の年若い少年少女の境遇を想像して、心を痛めるのであった。