ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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誰かの気分

 「起きたか。」

 「なんでさ!?」

 

 目を覚ました衛宮 士郎、原作様主人公。

 士郎視点でいけば、目の前には青い目の大男、あからさまに外国人が流暢な日本語を喋っている。視界の隅には学年のアイドル、遠坂 凛。寝てる場所は知らない家のベッド。

 士郎でなくともなんでさ!?といいたくなるのは当然の展開である。

 ちなみにリリルカは魔力節約のために既にいない。

 

 士郎は思考を働かせる。

 何故ここにいる?ここはどこだ?目の前の大男は何者?何故遠坂が?俺は何してたっけ?

 

 「衛宮君、起きたわね。」

 

 声をかけるは遠坂 凛。士郎は慌てる。

 なぜ学年のアイドルが?

 

 「遠坂、ここどこだ?俺はなんでここにいるんだ?」

 

 そこで士郎には先程の情景が蘇って来る。

 

 「そうだ!確か俺は槍を持った男に………。」

 

 刺された心臓部を見る士郎。しかしそこに既に傷はない。着ている服に見覚えはない。それは帰宅途中で凛がコンビニで買った紳士用インナーである。

 

 「アレ、確かに俺………。」

 「ああ、お前は確かに刺されたよ。」

 

 既にどうするかの話し合いはもたれている。

 その結果、クー・フー・リンに再び狙われる可能性の高い士郎に嘘を付くのは得策ではないとカロン達は考えていた。刺されたことをごまかせば何故ここにいるのかも説明が面倒だ。

 いざとなったら凛の魔術で暗示をかけてしまえばいい。

 

 そしてカロンのさらなる思惑、カロンの思考は蜘蛛の巣の如く放射状に伸びている。

 あらゆる可能性を模索している。

 

 それは盤面をひっくり返す一手、魔術とは秘匿するもの。すなわち魔術とは公になれば困るもの。

 つまり聖杯戦争が表沙汰になることによる中止の可能性、その模索。当然凛には決して話さない胸の内。しかし魔術師が秘匿のためにどの程度までやるのか不明なため、あまり積極的には進められない方向性。少なくとも魔術師による聖杯戦争は命のやり取りである。ゆえに魔術師は秘匿のために平然と一般人の命を奪いかねない。

 

 しかし、戦局とは状況が変わることがザラである。

 判別が付かなくとも、とりあえず布石を打っておけば後々に使える駒となる可能性が存在する。カロンの知らない情報が後々入ってくる可能性も存在する。

 

 凛はカロンに説得された形である。

 凛の思惑は魔術は秘匿するもの。しかし士郎には情があり、命の危険に晒したくない。何も伝えないままではまたいつ襲われるかわからない。凛は迷っていた。

 

 ゆえに情報を伝えて、いざとなったら魔術で暗示をかけるというカロンの案に同意した。

 

 士郎の命の危険を下げる為に情報を伝え、魔術を秘匿するためにいざとなったら記憶を消す。それはつまり完璧に凛の都合次第ということである。まさに魔女以外の何者でもない。

 

 そして実は、ここに凛が気付いていない要素が一つ介在している。凛はカロンにいろいろな情報を話している。それはカロンにとって全て意味のある情報だ。

 

 凛は迷っていた。

 凛だってわかってはいる。客観的に見れば、確かに間桐の人間である桜がマスターである可能性はそこそこ存在する。それをカロンに話す必要性があるかもしれない。しかし、血を分けた桜が敵だと考えたくない。ゆえにあまりしゃべりたくなかった。しゃべりたくないしかししゃべる必要があるのでは、と同時に考えて迷っていたのだ。

 

 今回も同じだ。

 士郎に巻き込まれたことの詳細を話すか、黙すか。

 凛は気が強く、本来は使い魔に主導権を握らせたがる人間ではない。いくら命の危険があろうとも、一般人に魔術の詳細を軽々しく語るのは本来なら憚られる。

 

 人間は迷う生き物だ。

 戦うか、逃げるか。話すか、黙すか。

 そして、その二択が今まで都合よくカロンの思惑通りに来ている。

 

 それはなぜか?

 それは発言に力を与えるスキル、言霊の恐ろしさ。言霊の恐ろしさの本質、それは悪魔の甘言と同質のもの。凛は今までの言動を全て自分の決定だと思い込んでいる。それは真実なのか?

 スキル言霊は人間の迷いに乗じて、そっと対象の心の天秤にカロンの望む方へと重りを付け足すのだ。重りを付け足された本人は、当然気付かない。さらに呑気な喋り方に気づきにくいが、カロンは最低ランクとはいえカリスマ持ちである。

 カロンのスキルは気付かれないうちに凛の口を軽くして、凛の行動の主導権を握る。

 

 「士郎と呼ばせてもらうぞ。俺はカロンだ。お前は魔術師同士の争いに巻き込まれた。」

 「魔術師!?」

 

 凛もカロンも実は士郎が魔術師であることを知らない。二人は士郎の反応を見つつ情報を伝える。

 

 「ああ。お前には信じられないかもしれないが、この世には魔術師と呼ばれる人種が存在する。」

 

 士郎は反応を示さない。怪訝に思う二人、話はなお続く。

 

 「魔術師が強力な使い魔を召還して戦う争いだ。お前を刺した青い男はその使い魔だ。」

 「じゃあアンタは魔術師なのか?遠坂も?」

 「遠坂は魔術師だが俺は使い魔のほうだ。」

 

 カロンは士郎に合わせて凛を遠坂と呼ぶ。

 

 「そうか、遠坂も魔術師だったのか。」

 「遠坂も?衛宮君は魔術を知ってるの?」

 

 会話に凛が割り込む。

 

 「ああ。親父が魔術師だった。俺も少し魔術が使える。」

 「そう………。」

 

 凛にとってはそれが事実であれば、今まで上納金を踏み倒されていたことになる。

 

 おのれ、衛宮!ゆるすまじ!末代まで祟ってやる!

 

 横道に逸れた凛の思考をカロンが引っ張り戻す。

 カロンは必要だと思うことを凛の耳元で囁く。

 

 「士郎が魔術師ということは士郎がマスターの可能性はないのか?」

 

 士郎がマスターだとしたら現在サーヴァントを連れていない。絶好機である。

 

 「まさか。衛宮君がマスターのわけ………。」

 

 凛の言葉はそこで止まる。

 士郎の手には巻かれた包帯、そこからなんか変な模様が覗いている気がする。いや、覗いている。

 

 ーーアレ?令呪?まさか?でもどう見ても?アレ?どういうこと?え?

 

 「………衛宮君、その包帯はどうしたの?」

 「ああ、なんか変な痣が出来たから巻いてるんだ。」

 「ちょっと外して見せてもらえるかしら?」

 

 スルスル外す士郎。当然、そこにあるのは令呪。

 二度見する、やはり令呪。三度見する、どう考えても令呪。

 

 ーーえぇ!?これどうするのよ?間違いなく令呪じゃない。でもサーヴァントを連れていないしパスが通っている気配もない。………どうするべきかしら?

 

 凛の思惑。

 士郎がマスターになれば命の危険はやはり跳ね上がる。

 しかし士郎が参加しなければそもそも聖杯戦争として成立していない。

 私どうすればいいの!?

 

 放っておけば、他人に令呪が宿るのかもしれないが、凛はそこまで知らない。

 

 ーーこれはうまくやれば同盟下におけるのか?そうすれば正統な筋道が少し進む。しかしそれでも本線はやはり盤面返し。あまり確定していない存在に期待を抱きすぎるべきではない。

 

 カロンの思惑。

 凛は士郎に負い目があるが、しかし必ずしも士郎が凛に高圧的に出るとは限らない。

 逆に士郎が凛に恩を感じている可能性もあり、自分たちが巻き込まれているのは命の懸かった戦い。

 立っているものは親でも使う所存。当然に士郎を利用できる可能性も模索する。

 そしてそもそも利用でなくとも互いの目的が一致する可能性もある。生存を何より望む可能性だ。そこそこ以上に高い。

 カロンはしかし仲間に巻き込んだら見捨てるつもりはない。

 

 当然カロンには優先順位が存在する。

 

 今でいえば士郎より凛の方が優先順位が高い。

 凛を死なせるくらいなら士郎を見捨てる。

 

 それは以前からそうだった。

 当然人間は何もかもを救えるわけではない。

 

 カロンは家族が一番、仲間が二番、そしてここまではなんとしてでも護ろうとする。そこから先は可能であれば。

 つまりは比較的普通の感覚である。

 

 (ねぇ、どうするの?あれ令呪よ!どうするべき!?)

 (まあ伝えるか否かだよな。うーん。)

 

 こそこそ相談するカロンと凛。不審な二人の様子に特に気づかない士郎。

 ここで可能性を模索するカロンの脳裏に一つのアイデアが浮かぶ。

 

 (なあ、マスター。確か士郎はマスターの妹の思い人だと言っていたよな?)

 (えぇ………!?うん、まあ。)

 (マスターの妹は呼び出したりできるのか?)

 (えぇ!?確か桜は衛宮君の家に通っていたはずだけど………)

 

 カロンは桜がマスターである可能性はそこそこ以上に高いと推測している。

 そう、カロンの目的は三者で互いを護り合う三者同盟。

 桜を士郎で釣り、士郎を凛が上手に扱う。

 

 しかし当然桜の心臓にはお爺様が居座っていらっしゃる。

 

 カロンはお爺様をどうやって倒すのか?あるいはどうやってごまかすのか?気付かずにそのままスルーする可能性も高いと言える。

 ひょっとしたらまさかのヘヴンズフィールルートなのか?

 凛がヒロインなのにエミヤはなぜ存在しないのか?

 イリヤスフィールの生命や如何に?

 次はどのようなわけのわからない超理論を駆使してしまうのか!?

 誰かの気分の赴くままに………続く。


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