ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「リリルカ、やはり厳しいか。」
「ええ。ここにいるリリはあくまで意識を飛ばした分体です。こちら側から情報を持ち帰ることは不可能です。」
ここは遠坂邸、凛は士郎の様子を見るために部屋に残っている。
カロンは凛に頼み魔力を回してもらっていた。そして顕現させたのが参謀足るリリルカ。
カロンはリリルカと戦局の話を二人でしていた。
カロンはもし仮にリリルカが情報を持ち帰ることが可能であるなら戦いが著しく有利になり、しかしカロンは宝具の彼女らは情報を持ち帰ることはほぼ不可能だろうと予想していた。
もし仮に情報を持ち帰ることが可能であるなら、頭脳チートであるリリルカが謎の計算式を駆使してこちらの座標を特定できるのではないか?
そう、リリルカは
そして誰かが何となく生み出した謎の次元移動魔法があれば、向こう側から戦力を送ることも凛を戦局の盤外に逃がすことすらも可能である。
しかしそれはあまりにもずるい上に、収拾が付かなくなりそうなので現状、不可能だった。
「座標の特定は行ってますがまだ時間はかかります。カロン様はどうお考えですか?」
「難しいな。ランサーを見る限り相手はかなりの手練だ。残りの奴らも厄介な可能性が高い。」
カロンとリリルカは見合い知恵を絞る。
カロンは既にリリルカに状況の説明を行っていた。
「逃走は?」
「マスターが納得しない。強制的な逃走も考えたがその場合はおそらく令呪を使用される。俺が令呪にどれだけ逆らえるかが不透明だ。」
拙作最大の特徴、それはあやふやの一言に尽きる。
カロンの耐異常スキルは死の槍の呪いを退けた。しかし令呪にはどれだけ逆らえるか不明瞭。原作様の令呪を退けたステータスはセイバーの耐魔力。カロンがEXで持つのは耐異常。
令呪は文字通り呪い。しかしそれが必ず
令呪に逆らえるのか謎。カロンは魔力には疎い。
そして一度独断で勝手なことをすればおそらく二度とマスターに信用されない。信用されなくなればマスターが一人で戦いに赴きかねなく、そうなれば当然高確率で彼女は死亡する。
やるのであれば令呪が効かない確証を得てからだ!
「なるほど。確かに不透明ですね。他に考えている点は?これからの戦略は?」
「正統に生き残る手段を模索するなら同盟だ。しかしこの戦いは何らかのシステムに則ったものだ。システムにはしばしば裏技が存在する。聖杯戦争という名称が鍵になっている可能性も高い。まあつまりその合わせ技が本線だな。」
「なるほど。時間を稼いでシステムの根本を見つけだし破壊を含めた何らかの手を加えるですか。景品のはずの聖杯を無くすのも手ですね。」
リリルカはカロンと長い付き合いがあるため、当然カロンの手口を理解している。
凛は戦いでの勝利を目指しており、カロンは生還を目指している。
カロンにとってこの戦いは馬鹿げたものであるが、凛にとっても馬鹿げたものであると決め付ける権利はカロンには存在しない。
しかしそもシステムが破綻してしまえば?景品が無くなってしまえば?
カロンの目的は盤面をひっくり返すこと!
将棋やチェスでも盤面を裏返してしまえば戦いもへったくれも無い。
ばれなきゃ問題ないだろ?
悲願?宿命?
笑わせてくれる!悲願が遂げたきゃ自分で遂げろ!子孫に押し付けんなよ。
それが真に正しくて後ろ暗いところのない目的だったら、わざわざ魔術師内だけで隠れ潜んで目的をこっそり共有する必要はないだろ?
人生が無意味か、いいものだったか?
目的を達成できたかそうでなかったか?
そんなん最終的に決めるのは、結局死ぬ直前だ。
なればこそ生きていればだろう!
狸の本懐、カロンは内心で己のマスターにも舌を出す。
カロンは決して誰かに
それは彼の目の前の問題が、今まで彼だけのものだったという経験によるところにある。長く付き合いのあるリューやリリルカならともかく、始めて出会った
そしてそもそも聖杯戦争とは、参加者が景品に魅力を感じているから喜んで殺し合うのである。景品に魅力を感じない人間が参加したら必然、生還を最優先する。儀式がどうなろうと、後のことは知ったことではない。単純に殺し合いを推奨する儀式が、仲間を護る組織を立ち上げたカロンにとっては不愉快だったという理由でもある。
せっかくの縁だし、まだ若くて先のあるマスターも何とかして生還させようか。
それがカロンの戦略であり、この話し合いに凛を除いた理由である。
「マスターの説得はいかがですか?」
「逃走と近しい理由で不可能だ。若い人間ゆえに若干視野狭窄に陥っている可能性がある。あまり踏み込みすぎて話すと、意見の食い違いでマスターと決定的な決裂を迎える可能性がある。そうなればやはりマスター一人で戦地に赴くことになるだろう。」
「システムに関する情報は?何らかの防衛機構が存在する可能性は?」
「俺の覚えている限りではどうやら御三家というのが存在するらしい。俺のマスターの遠坂と間桐とアインツベルンというそうだ。遠坂には情報が存在するかわからない。少なくともマスターはあまり知らないみたいだ。家捜ししようにもここは魔術師の工房で、俺には専門的な知識はない。もちろん防衛機構についても謎だ。」
「間桐とやらはいかがですか?」
「当主が若いと聞いている。期待薄だろうな。」
「アインツベルンは?」
「全くの謎だ。ここが一番それらしい。」
「なるほど………。」
リリルカは現状で提案できることを考える。魔力を切ってしまえばリリルカは霧消し、本体に一切の記憶は残らない。
「やはりキーとなるのは間桐でしょうね。学校にサーヴァントが存在し、間桐は御三家の一角。当主が若いなら付け入る隙もある。しかし実際にサーヴァントを所持しているとしたらどの程度の強さか見当がつきませんし………。」
「間桐にはマスターの妹が養子に行っているらしい。マスターに掘り下げて聞いてみよう。」
「ええ。後は教会に存在する人員ですね。」
「ああ、それも聞くべきか。」
◇◇◇
方針を決めたカロンとリリルカは凛に話を聞きに来る。
凛の側には眠りこける士郎。
「どうだ?そいつは起きそうか?」
「わからないわね。」
凛と話すはカロン、リリルカは後ろで思案する。
「マスター、冬木教会にいるかも知れない敵について教えてくれるか?」
「ああ、そうね。私の予想が当たっているなら敵の名前は言峰 綺礼。中国拳法の使い手よ。」
「どういう奴だ?」
「うーん、そうね。あまり信用できない人間よ。愉快犯に近い気がするわ。」
「そうか………。他に情報は?」
「他には特に………。」
カロンは愉快犯と自身のことを言われた気になり気後れする。
「じゃあ御三家の間桐についても教えてくれ。」
「どうして?」
凛は自身の妹がいる家が敵だとあまり考えたくはない。
「御三家なんだろ?アインツベルンの情報はないしなるべく情報は多いがいいさ。」
「………そうね。当主の慎二には魔術回路がないわ。だからマスターとは考えづらいわ。」
「マスターの妹は?」
「桜がマスターだっていうの!?」
カロンは片目をつむり少し考える。
ーーうーん、有り得る可能性は全て潰すべきなのだが………そもそも学校に一騎いるわけだし。しかし戦いを決意した人間にしてはマスターは温い。しかし意固地にするのは得策ではない。何かいい方法は?
そこへリリルカが声をかける。
「凛様の妹ということはさぞかしお綺麗で優れてらっしゃるんでしょうね。」
ーーそうか!
「マスターの妹ということはさぞや魔術師として優れてるんだろうな。ならばやはりマスターの可能性が高いんだろうな。」
「確かに魔術師として優れているかもしれないけれど………まさかそんな………」
凛は黙り込み考える。
カロンは情報を得る。
ーーなるほど、客観で見るとやはりマスターの可能性が高いのか。魔術師が他にいないとは限らんが………仮にマスターの妹がやはりマスターだったとしたらマスターとしての素質が高く俺と違った正規の英霊。やはり厄介だな。
「うう………ん。」