ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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カロンは必死

 「何だってあんたなのよ………」

 「マスター、知り合いなのか。」

 「………桜の思い人よ。」

 「桜?」

 「………後で説明するわ。」

 

 ここは学校で彼らは同級生。知り合いなのは当然なのだが、カロンは異世界人でそのことを知らなかった。

 誰かのSSには、オラリオにはバイクやテレビや段ボールはあっても都合よく学校は存在しない。

 

 「蘇生を行うわ。」

 「心臓が潰されているみたいだが助かるのか?」

 「まだ何とかなる可能性が高いわ。」

 

 そういって外傷の上に赤い大きな宝石を置き手を当てる凛。

 

 「んっ………くっ………」

 

 しばらくカロンは見守る。

 凛は苦しそうな表情をして蘇生を行う。

 

 「はぁ………はぁ………なんとか成功したわ。」

 「そうか。それでこれからどうする?」

 「拠点へ帰るわ。戦闘で魔力を消費して疲れたし。」

 「こいつはどうするんだ?」

 

 床に倒れ伏す衛宮 士郎をカロンは指差す。

 

 「放っておくわ。」

 「こいつの安全は大丈夫なのか?」

 「む………。」

 

 原作様では凛は士郎の安全をウッカリ忘れ、エミヤはおそらく敢えてスルーしていたのだがこの世界はカロン。普通に気になることを突っ込む。

 

 「どうしようかしら?いいアイデアある?」

 「うーん、どこか安全な場所があればなぁ………。」

 「保護場所は教会だけど………教会は………きな臭いのよねぇ………。」

 

 凛とカロンは困り果てる。

 本当なら放っておきたいが、彼にも命の危険がないとは限らない。戦争の中立のはずの教会はなんか胡散臭い。しかも教会に仮に本当に敵がいるとしたら彼を襲った青タイツ。さすがに自分達のせいで死人を出したは後味悪すぎる。助けた意味がない。

 

 「うーん、本当にどうしようかしら。とりあえず気がつくまで私の家に置こうかしら。そうね。運んでくれる?」

 「ああ、構わんぞ。」

 「うーん、でも人に見つかったらなんて言い訳すればいいのかしら?」

 

 彼らは話し合い、結局極力人の通らない道を使い遠坂邸へと帰参することが決まった。

 幸運にも誰かに見つかって職質などされることもなく彼らは帰宅する。

 

 「ハァ、疲れたわ。」

 

 ここは遠坂邸のリビング。衛宮 士郎はソファーへと寝かされる。

 

 「ああ。ところで晩飯はどうする?」

 「あっ!!」

 

 遠坂 凛はどこまでもウッカリ。彼らは今日は何も食べてない。

 カロンも生者でふつうに腹が減る。

 冷蔵庫に食材はなく、買い出しに行くにはどちらか片方だけでは凛のいる方が危険。二人で出かけては士郎が危険。こんなしょうもない理由でまさか宝具のリューとリリルカを使う気はない。

 

 「ウッカリしてたわ。食事は衛宮君が目覚めるまでどうしようもないわ。それまで今日の戦いを振り返りましょう。」

 「まあ仕方ないか。」

 「敵の正体が判明したわ。敵はクランの猛犬、クー・フー・リン。特徴は因果逆転の呪いの槍ゲイ・ボルク。ゲイ・ボルクって叫んでいたからね。」

 「そうか。そいつに何か弱点はあるのか?」

 「たしか誓約(ゲッシュ)が弱点だったはずよ。目下のものの食事の誘いを断れないのと、犬の肉を食べてはいけない。」 

 「なるほど。破ればどうなるんだ?」

 「能力に大きな誓約が課せられるはずよ。」

 

 カロンは生還するために手段を選ぶつもりはない。殺し合いに卑怯という言葉が存在すると思っていない。

 相手はこちらを殺すつもりで向かって来ており、相手の正体は幽霊だ。むしろ手心を加える方がぬるすぎる。

 

 「その情報は価値がある。奴を撃退できる算段がついたのはでかい。」

 「そうね。あいつ超有名な英霊よ。」

 「奴は俺達の食事の誘いを断れない、か。食事に誘って犬の肉を食わせればいいのか。マスター、一応犬の肉を出す店を調べておいてくれるか?他の情報も整理してみるか。」

 「………まあ死ぬよりマシか。機械を扱うのは苦手だけど何とかして調べておくわ。それと情報でわかっているのは奴はクー・フー・リンでほぼランサー。」

 「となると残りはセイバー、アーチャー、ライダー、アサシン、バーサーカー、キャスター。俺はそのどれかの代わり。奴はリューをアサシンと勘違いしてたが、奴がどれだけの情報を持っているのか不明なために断定は危険。」

 「ええ。そして円蔵山にキャスターがいる可能性が高い。」

 

 クー・フー・リンはカロンを含めて七騎の情報を持っていると言っていたが、そもそもリューをサーヴァントと勘違いしていたため実際は六騎の情報であることは明白であり、さらにハッタリや勘違いの可能性もある。

 ゆえに断定は危険だとカロンは考える。敵の情報を鵜呑みにするほど危険なことはない。

 

 「他に確定していることはあるかしら?」

 「学校になんかいるくらいだな。」

 「そうだったわね。」

 

 情報を纏めるカロンと凛。

 確定している限りで円蔵山に一騎、学校に一騎、青タイツ、自分。

 青タイツとの戦いは学校。つまり青タイツと学校の一騎がイコールの可能性は?

 ないわけではないが、青タイツの初遭遇が冬木教会近く、ゆえに可能性は低い。

 そして可能性が高いのが所在のわからないアインツベルン拠点に一騎、ただしあくまで高い確率で確定させる気はない。

 逆算すると所在不明はアインツベルン含めて三騎。

 

 そして実際は?

 

 実際にカロン達が確認できていないのはセイバーが未召還でアインツベルンは森の中。円蔵山には実は二騎。そしてこっそりギル様。

 

 カロン達は同地点に二騎いる可能性は除外していない。しかし推測もしていない。

 

 「柳洞寺の方はどうなんだ?俺には魔術はわからん。結界が張られていると聞いたがどうにもならんのか?」

 「難しいわね。あそこはおそらく超高度な魔術師の工房になっているわ。罠だらけだと考えて間違いないはずよ。」

 「そうか………。」

 

 落胆には値しない。当然の帰結。カロンの戦術眼は高い。

 円蔵山は遠坂 凛が真っ先に拠点に思い付いた地点である。

 ゆえにここに陣取る勢力が存在するのであれば狙われるのを警戒して、当然ガチガチに固めて来るのは当たり前である。むしろ温かった方が逆になんらかの必殺を疑うべきである。さらに高地は戦術的な優位を取りやすい。

 

 「なかなか難しいな。」

 

 カロンは思案する。

 籠城で潰し合うのを待つ手は?しかし籠城していては戦局が理解できない。

 

 「籠城はどうだ?」

 「どうかしらね?私は御三家だから拠点がばれてるわよ?」

 「ああそうか、そういってたな。ならば不可能か。」

 

 いくら魔術師の工房が堅固でも、敵は人知を超えた英雄。戦局が進まないことに業を煮やして結託して襲われたらひとたまりもない。

 カロンはここで先程のことを思い出す。

 

 「ところでさっき言ってた桜というのは?」

 「間桐 桜、旧姓は遠坂 桜。うちから間桐へ養子に行ったかつての妹よ。」

 

 ーーマスター、マジかよ?ふざけんなよ?サラっと言ってるけどそれ多分超重要情報じゃねぇか!温いにも程があるだろう?俺も命懸けなんだぞ?アンタの妹だったら魔術師の可能性多分高いだろ?それで間桐?あんた確か間桐も御三家だとか言ってなかったか?俺の覚え違いじゃないよな?零落した間桐にもらわれたってそれはつまり高確率で()()()()ことだろ?そんな重要情報を今まで黙ってるのはダメだろ?

 

 カロンは内心で憤慨する。

 

 カロンはいつも有意義な策を思案する。

 馬鹿の考え休むに似たり。しかしよらば文殊の知恵。人知をつくして天命を待つ。

 

 諺とはしばしば相反するものが存在する。

 そしてそのどれかが正解というわけではなく、どれもが正解なのである。たとえ矛盾していたとしても。

 

 カロンは必死に思案する。

 何かいい手は?有利に立てる手段は?勝利への道筋は?ギャグはどれだけ挟めるのか?

 

 しかし馬鹿の考え休むに似たり?考えるだけ無意味なのか?

 

 否、必死に生きる生命とは案外強いものである。必死に生きる生命は、しばしば過酷な環境下でも生き延びる。清らかさや高潔さにこだわる生命は、環境の変化に対応しきれずあっさり絶滅する。

 必死にアホな頭を振り絞るカロンは稀に凶悪な一手を思いつくのである。


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