ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「それにしても何回見てもやはり変なステータスね。どうなっているのかしら?」
凛はごちる。
戦力分析でわかったこと………まず、戦闘の際に魔力で鎧と盾が生成可能。
「これ面白いな。」
「魔力を食うから無駄な出し入れはやめて頂戴。」
「ああ、済まなかった。」
次にカロンのステータス、先も述べた通り耐久を除いて幸運も含めてE。保有スキルは最低ランクのカリスマと神性、そこそこの指揮、魔力放出による耐久上昇、EXの耐異常、そして………
ーーこれか。
【言霊】B…発言に力を持たせる。
カロンはついにアストレアが隠し続けていた謎のスキルの詳細を悟る。
「これでどうにかなるのかしら?まあでもあんた英霊の座にいないと言ってたけど間違いなく英雄よ。ただの一般人に神性とかカリスマがあるわけないわ。」
凛は知らない。
カロンが来た世界にはたくさんの神々がいて、カロンは大きな組織の長だったということを。
というよりも生者で盾とか鎧とか持っていることにツッコミを入れない辺りが凛のウッカリクオリティー。
「それじゃあ札もわかったことだしどうするか話し合いをしましょうか。」
「………少し待ってくれないか?聖杯がくれた知識をまとめてみる。」
「わかったわ。」
凛は口をつぐむ。相手はそこそこの指揮能力を持っている。戦術に明るい可能性が高い。
カロンの考え、聖杯がくれた知識、それはこの戦争に七つのクラスが存在するということだった。
ーーセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーか。エクストラクラスの俺がいるということはこのうちどれか一つは存在しない。それは判別が着かないから置いておこう。最も危険なのはアサシンとアーチャーの暗殺か?マスターを暗殺されてしまったらどうにもならない。他にも速度に優れるランサーや機動力に優れるライダーにマスターを狙われるのも非常に危険だ。キャスターによる無差別絨毯爆撃に警戒の余地は?難しいな。どれ一つとして明確に優位に立てる算段が着かない。
カロンは過去に二度も無惨に家族を殺されている。故に常に起こりうる最悪の状況を常に想定する。
そしてカロンも凛も知らないが、過去に衛宮切継という手段を選ばない男が実際に存在した。
ーーリリルカに相談するのも一つの手か?どうする?どうすればこの娘を護れる?
カロンと凛の目的は密かにズレている。
凛の目的は戦いでの勝利で、カロンの目的は互いに無事に生還すること。しかしカロンは黙して語らない。
単純にカロンが若い人間が死ぬのを考えたくない。相手の夢を潰してでも自身のエゴを通す。あるいはこれも密かに凛とカロンの間で勃発している一つの聖杯戦争と言えるのだろうか?
マスターだって、己のエゴのために他人のエゴを潰すんだから、俺だって俺のエゴのためにマスターのエゴを潰しても問題ないだろ?
もしくは、若い人間が死ぬのを見たくないという気持ちが真実正義かどうかには議論の余地があるのかもしれない。
ーー相手の人格も正体も判別の着かない現時点で可能なこと………。
カロンは一つのアイデアを思いつく。
「マスター、マスターと呼ばせてもらうぞ。魔力の残量と消費量について話を聞きたい。」
「どういうこと?」
「逃げるのが一番話が早いんだが………やはり逃げる気は無いんだろ?ならば少しでも敵の優位に立っておきたい。余裕があるのであれば、リューを偵察に向かわせたい。」
「さっきの人ね。宝具の割にはそこまで魔力を喰わなかったから構わないわ。でも偵察なら使い魔でよくない?」
「相手も偵察を警戒しているはずだ。現時点では情報は命だ。なるべく信頼性の高いものに任せたい。」
「わかったわ。」
「どの程度魔力を喰うんだ?」
「偵察程度ならおそらく一晩出しておいても問題ない程度よ。気にしないで構わないわ。」
「そうか。それでは前もって偵察を行う箇所を話し合っておきたい。どこか目星がついてある場所は?」
「御三家ね。間桐家とアインツベルン。でもアインツベルンの拠点は不明だし、間桐は零落していて魔術師はいないはずだわ。」
「なるほど。他には拠点になりそうな箇所は?」
「霊地として考えれば円蔵山と………あとはありえないけど冬木教会かしら?」
「ありえないとは?」
「教会は中立地帯よ。」
カロンは老獪である。
戦争とはしばしば手段を選ばない殺し合い、ありえないという話はカロンにとっては油断以外の何物でもない。
カロンは地図で立地を確認する。
ーー間桐家と教会と円蔵山か。立地を考えると籠城戦になりやすいのは円蔵山だな。ここはいるかどうか判別が容易だろう。いるのであれば間違いなく罠がはってある。籠城戦が得意なのは………キャスターが工房設置を持っているのか。
「他には無いか?」
「思いつかないわ。」
「絶対に、間違いなくか?ここでのミスが命取りということもありうるぞ。」
「間違いなくよ。私もこの戦いに前もって十分な準備をしてきたつもりだわ。」
「そうか。それではリューを呼び出すぞ。」
「構わないわ。」
「お呼びですか?」
魔力がリューの姿を形作る。
「偵察を任せたい。不審な存在がいないかの確認を行ってくれ。全体をカバーしながら重点的に行うのは三点、冬木教会と間桐家と円蔵山だ。地図を確認してくれ。円蔵山の方はあまり近づきすぎるな。いるかどうかの判別さえ付けばすぐにでも離れていい。戦闘は可能な限り避け情報を持ち帰ることを最優先しろ。」
「待ってちょうだい!冬木教会と間桐家はありえないわ!」
「マスター、勝ったらなんでも叶うが謳い文句の戦いなのだろう?」
カロンは厳しい目付きで凛を見る。
カロンは何でも望みが叶うなどと眉唾だと考えているが、魔力に疎く判別が出来ない。
わかっているのは、参加者が何でも叶うという謳い文句を信じて殺し合いまでしていることだけ。
「なんでも叶うのであればなんでもする人間が存在しないというのはマスターの油断以外の何物でもない。死んだ後に文句が言いたくても、死人は口をきかないだろう?」
◇◇◇
カロンはリューに偵察を任せて、今現在遠坂家でマスターである凛と二人きりだった。
「マスター、明日からどうするんだ?」
「学校に行くわよ。」
「あまりオススメできない。なにしろ、俺が霊体化できない。」
「あっ………!」
またもや凛、ウッカリである。
凛は当然カロンを霊体化させて校内を連れ回す気でいた。しかし何度も説明している通り、カロンは生者である。当然霊体化できない。
凛は目を細めて考え込む。
ーーどうしようかしら?学校には………いないわよね?校舎の近くに控えさせておけば………うーん。
しかし凛はつい先ほど油断を窘められたばかりである。
「あんたはどう考えているわけ?」
「………二週間くらいなら休んでしまった方がいい。命には代えられんだろう?」
「でもそれは負けた気分でいやなのよね………。」
「この国の格言には負けるが勝ちという諺があるそうだが?」
「あんた大男のくせに案外口が減らないわね。」
「大男なのは関係なくないか?」
その時凛とカロンは共にあることに気づく。
「これは………。」
◇◇◇
ーー円蔵山には………やはりいますね。おかしな気配を感じます。
ーー間桐家には紫の髪の大女。向こうもこちらに気付いています。特にこちらに何かして来る様子はありませんね。戦う気が無いのか?
ーー教会は………わかりません。確認できる限りでは特に何かが起こる様子もありませんが………。今日のところはここまでですね。間桐家と円蔵山は収穫です。あとは報告に徹しましょう。
リューはここまでだと帰参を決意する。
遠坂家に向かい踏み出そうとしたその時ーー
「おいおい、もう帰んのか?多少は戦えそうだしせっかくだからちと相手してくれや。」