ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
ここは遠坂邸。
当主は遠坂 凛。彼女は前回説明した通り魔術師であり、聖杯戦争での優勝を目指していた。しかし彼女はうっかりした人間である。そして、彼女のうっかりと拙作のギャグが謎の化学反応を起こし、彼女は盛大に呪文を間違えるといううっかりを飛び越えた事件を引き起こした。その結果、彼女には謎の英霊(?)が割り振られた。
「だから俺は英霊じゃないぞ?死んでないし。」
「うーん、いいのかしら?」
そう、英霊でないのである。サーヴァント扱いされているが英霊ではない!
ここで遠坂の目的を振り返ろう。遠坂の目的は聖杯戦争を勝ち抜いて根源に到達することである。そして根源とは英霊
そして、カロンは英霊の座に登録されていない普通の生者である。
遠坂 凛は戦争の情報と目的を達成する方法の詳細を知らないために今は特に慌てていない。他の六騎を倒せば目的は達成されると考えているからだ。しかし同時に、自身のサーヴァントが正規ではないことを理解しているため、他の六騎は全ての敵を倒しても目的が達成されないのではないかとうっすら理解している。
しかしそう、皆も知っているとおりギル様がこっそりいらっしゃるのだ!
まとめてみよう。
現実、英霊は自分を除く六騎+ギル様。全部倒さないと根源に到達できない。世界の内側の望みに関しては、凛のみ他の六騎で他の人間は
凛の考えは………英霊は自分を除く六騎。六騎を倒せばいいと考えている。自分は六騎倒せば目的を達成できて、他の人間は六騎倒しても目的を達成できないと内心理解している。しかし根源は実際は六騎では到達できず、自分のサーヴァントが英霊でないためにギル様がいらっしゃらないと根源到達は不可能。
これらが通常の魔術師が情報を得た場合の考察だ。
実際には、ヘラクレスとギルガメッシュの魂があまりに強大であるためにまた変わって来る。
幸運にも、凛は戦争の仕組みを理解しておらず、さらに遠坂家の悲願たる根源到達よりもむしろ戦いでの勝利に主眼をおいている。
もしもこれが仮に凛ではなく、先代の優雅だったならあまりのことに顎ヒゲを毟って卒倒していたかもしれない。なにしろ正規で七騎揃ってない上に、仮にギル様の存在を知っていたとしてもギル様というあまりにも凶悪な相手を打倒しなければいけないからである。
ーーどうすればいいのかしら?
彼女は聖杯戦争を始めた御三家という家系の人間である。
御三家の人間の手落ちで聖杯戦争ができませんでは話にならない。彼女は心底困っていた。
「ねえ、あんたどうすればいいと思う?」
思わず
「どうすればとはどういうことだ?」
「だから戦争のことよ。あんた英霊じゃないんでしょ?」
「逃げれば良くないか?」
「遠坂の家訓は余裕を持って優雅たれ!よ。戦いが起こるからには勝ちに行くわ!」
カロンはその言葉に呆れる。優雅な戦いなど聞いたことも無い。聖杯による知識によると、この戦いは殺し合いだ。
そして凛はやっぱりウッカリする。彼女の質問は英霊が七騎揃ってないことに対してであり、戦いをどうするかではない。
「そもそも戦い自体が優雅とは言えないぞ?他の人間が戦っている間にどこかに逃げてコーヒーでも飲んでいた方が優雅じゃないか?」
「ええい、うるさいわね!いいから勝ちに行くわよ!」
「でも俺には家族がいるから死ぬわけにはいかないぞ?」
その言葉が凛の胸を穿つ。
彼女は幼い頃に両親を亡くし、妹も養子に出されていた。彼女は天涯孤独の身であった。
「そう………そうだったわね。そういえばあんた生者だと言っていたわね。忘れていたわ。あんたには家族がいるのね。それなら無理させられないわ。」
凛の寂しそうな目と他に人気のない洋館にカロンは事情を悟る。
「俺が戦わないと言ったらどうするんだ?」
「もちろん一人でも戦うわ。」
「なあ、戦いはやめて逃げたがよくないか?俺にも戦争の知識が流れ込んできたけど、今まで勝者がいない上に勝っても魔術師という狭いコミュニティーでしか認められないんだろ?だったら勉強に精を出したが良くないか?」
カロンにも聖杯のバックアップにより現代の知識が流れ込んでいた。
七人に一人が願いを叶える、カロンの認識ではこんなものただの命を対価にしたギャンブルであり、挙げ句実際は願いを叶えた人間は七人の四回分で二十八分の零。話にならない。
普通に努力して願いを叶えた方が良くないか?
「それでもよ。私の父は前回の戦いで死んだわ。私は逃げたくないの。私は戦って勝つことが目的なの。」
「うーん………」
悩むカロン。彼には家族がいてむやみに危険に飛び込むつもりは無い。しかし目の前の年端の行かない少女を見捨てるのも躊躇われる。そしてどうやったら元の世界に帰れるかもわからない。
「なあ、ちょっといいか?」
「なに、どうしたの?」
「宝具を使うから少し魔力をもらっていいか?」
原作世界とのすこしの違い。原作様では凛は英霊召喚で魔力を消費していたが、拙作では凛には魔力が残されていた。それは凛が英霊を顕現させず、カロンが割り込んだためである。
「宝具を使うって確か………」
「リューに相談するんだよ。」
「ああ………わかったわ。」
そういって凛から魔力をもらうカロン。彼はリューを呼び出した。
「カロン、どこに行ったかと思えばこんな小娘と二人きりで何をしているのですか!」
怒るリュー、小娘呼ばわりされて憮然とする凛。
「待ってくれよ。手違いがあったんだ。お前は本物のリューなのか?」
「いえ、本体ではありません。どうやら魔力で編んだ体に意識だけを飛ばしているようですね。」
「そうか………。」
魔力で編んだ体に意識を飛ばす?それも確か………まあいいか。
リューは辺りを見回す。人気のない洋館に思い悩んだ表情のカロン。リューはカロンの言葉と表情に話があるのだと理解する。
「カロン、話してください。」
「………お前が本体でないならお前に相談してもリューに相談したことにはならないだろ?」
「それでもです。何か思い悩んでいますね?」
「ああ。」
「好きにして構いませんよ?」
「俺にはお前達がいる。」
「危険なことをしようか考えていますね?」
リューは笑う。
「構いませんよ?好きにしてください。あなたが望むままに。私の本体は怒りませんよ?」
「………なぜだ?俺にはお前達がいる。」
「あなたは本質的にそういう人間でしょう。悩んだ顔をしている。あなたは本質的に家族の守護神でこの屋敷には人気が無い。」
「何を………」
「あなたはどこまで行っても本質的に父親なんですよ。家族の守護神とはそれすなわち父親です。」
その言葉に虚を突かれるカロン。
「私はあなたを信じていますよ。あなたは思い悩んだ表情をしていて、そこには一人の少女がいて、他に人気は無い。あなたが望むままになさってください。私はあなたがいつだって笑顔で帰ってくるのを知っています。」
「………なんだ?ずいぶんいい女だな?」
「今更気付いたんですか?」
笑い合うカロンとリュー。
「コホン………」
二人の空気を醸し出そうとしたために凛が割り込む。
慌てるカロン。しれっと消え去るリュー。
「ま、まあそういうわけでしばらく手伝いをさせてもらうよ。どこまで俺の力が通用するのかわからないが。」
「………正直助かるわ。耐久以外は役に立たないサーヴァントでもいないよりは遥かにね。取り合えずどうしようかしら?何か意見はある?」
「戦争の知識によると俺の能力が評価値であらわされるんだろ?まずはそれの分析を行おう。」