ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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魔王軍四天王

 ここは俺の部屋、俺はただの一般人カロン。

 俺は今ソファーに座って、コーヒーを飲みながら新たに仲間に加わったHACHIMANと話をしていた。

 目の前に座る彼の目のような漆黒が俺の喉を通りその苦みが俺に美味を感じさせる。

 うむ、うまい。しかしそれにしても誰かに食レポは全く向いてないな。何とひどい比喩表現だろう?

 俺は彼に話しかける。

 

 「お前は俺のステータスを復元するために地球の自転を逆回転させると言っていたがそんなことしたらなにか問題は起こらないのか?」

 

 そう、これは大切なことだ。

 いくら俺のステータスを復元出来てもそれで世界に深刻な弊害が出るようでは話にならない。

 

 「そうだな。一つだけ問題があるかもしれない。自転を逆回転させて時間を巻き戻すと太陽が西から昇るようになってしまうな。」

 

 「なんだと!?」

 

 太陽が西から昇る………これはどう考えるべきなのだろうか?

 西から太陽が昇るのは天才バ○ボンの世界観ではないのか?

 

 ………それでいいのだ?

 

 いいや、良くないだろう。

 俺一人の都合で世界観をぶち壊すのはさすがに気が乗らない。………すでに十分崩壊している気もするが。

 しかし住民は間違いなく困惑するだろう。

 

 「で、どうする?」

 

 HACHIMANは俺に問い掛ける。

 さすがに俺一人の都合で世界を改変させるわけにはいかない。他の方法は外道だと言っていたな。

 

 「うーん、俺一人の都合やらでこれ以上世界観をぶち壊すのはさすがになあ。………一応聞いておくが他の方法とはどのようなものだ?」

 

 「あんたの体をすり潰して魂を直接取り出して復元させたり、光速で直接時間を遡って摩擦で消滅したあんたの体を復元させたり、空間に穴を開けて時間を遡ったり、まあそんなんばっかだな。どれも危険性が高くあんたは非常に痛い思いをすると思うぞ?あまりオススメ出来ないが望むのか?」

 

 「いや、遠慮しよう。」

 

 「すると俺があんたの為に出来ることはなくなるが、それでも俺はあんたらの組織に入れるのか?」

 

 「ああ、それは構わん。お前は誰かに非常に有能な人間だと聞いている。この間大団長のベルとは会っていたはずだから今日は責任者のリリルカを紹介するよ。」

 

 ◇◇◇

 

 「HACHIMAN、彼女がリリルカだ。」

 

 「リリがリリルカ・アーデと申します。HACHIMAN様ですね?以後おみしりおきをお願いします。」

 

 「ああ。俺がHACHIMANだ。」

 

 ここは連合会議室。新たな人材の使い道を考えるために彼を大魔王に面通しさせたところだ。

 

 「カロン様からHACHIMAN様のお話は聞いています。あなた様はどういう仕事がしたいとかおのぞみはございますか?」

 

 「いや、特には考えていない。なんなら仕事したくない。」

 

 「それはさすがに通りませんよ?」

 

 「まあそうか。そっちで適当に考えてくれるか?」

 

 「それでしたらいくつか候補を上げさせていただきます。お強いと聞いていますしオススメは冒険者とかですかね?」

 

 「できれば外に出たくない。なんなら家から一歩も出たくないまである。」

 

 「さすがに在宅で可能な仕事はほとんどございません。連合本部内で出来る仕事でよろしいですか?」

 

 「………仕方ないか。それで頼む。」

 

 「連合本部内のみでしたら選択肢は限られてしまいますよ?適性を検査して高いようでしたら道場の師範代とか、あるいは何らかの専門のもの作り部門か。」

 

 リリルカとHACHIMANは話し合う。

 俺はもうここには用がない。俺は外へ出た。

 

 ◇◇◇

 

 今日は先週の来週。当たり前か。

 ここは連合内タケミカヅチ道場。俺は今ここで新たに入団したHACHIMANの様子を見ていた。

 彼はあのあと結局、タケミカヅチ道場の師範代になった。結構指導者としての適性が高かったらしい。

 

 「この程度でへばるようではダンジョンではやっていけないぞ!」

 

 「はい!」

 

 新米冒険者に指導する彼と息を切らせる冒険者。

 俺は彼の指導する姿を眺める。なかなかさまになっている。リリルカのお墨付きだし問題はないのだろう。

 

 「心配いりませんよ?」

 

 「リリルカ。」

 

 リリルカも来た。

 彼女もHACHIMANの指導する姿を見に来たのだろうか?

 

 「HACHIMAN様の能力分析を行いました。彼は理性が強い人間です。きちんと筋道だてて他人に理解させるのは得意分野です。しかし感情を理解するのが苦手な方でもあります。今はアステリオス様と一緒に師範代を務めながらリリの元に交渉を習いに来ています。」

 

 「そうなのか。」

 

 他人の感情を自在に操るリリルカに師事を受けに来ているのか。

 

 そういえば彼が所属するかの名作の大魔王も他人の感情を自在に操っていたな。

 ………もしかして他者の感情を自在に操るのは大魔王の必須技能なのだろうか?

 

 ………いや、そもそもこんなヘボSSとかの名作の共通点を捜すこと自体がおこがましいか。

 

 「リリ先生、お疲れ様っす。」

 

 「リリルカ殿、来てらっしゃったのか。」

 

 「リリルカ様、お久しぶりだ。」

 

 リリルカの姿を見かけた師範代がよって来る。

 上からHACHIMAN、アステリオス、ベートだ。三人とも尋常ではない強者だ。アステリオスは人と数えていいのだろうか?まあいいか。

 三人はリリルカに頭を下げる。

 

 ………すごいな。ウチの娘はこんな強者達が頭が上がらない存在になってしまっているのか。

 やはり大魔王以外に言いようがないだろう。すると彼ら三人が魔王軍大幹部か?あと一人いれば四天王だな。まさか俺か?さらにベルとリューを加えたら六大団長になるな。ミーシェは参謀(ザボエラ)あたりだろうか?

 しかしその理屈では連合が魔王軍になってしまうな。

 

 俺も彼らに話しかける。

 

 「三人ともしっかりやってくれているようだな。」

 

 「リア充発見、やる気がなくなった。もうお家に帰りたい。」

 

 「なんだ貴様か。何の用だ?」

 

 「クソタヌキヤローか。テメエ何しに来たんだ?邪魔しに来たのか?」

 

 やはり上からHACHIMAN、アステリオス、ベートだ。

 ………何なんだこのリリルカとの対応の差は。へこむ。俺ももうお家に帰りたい。

 

 「お三方様ともダメですよ?カロン様は前大団長です。相応の敬意を払ってください。」

 

 「ウッス。」

 

 「うむ。」

 

 「おう。」

 

 いやに素直だ。

 ………そうか。魔王軍大幹部とは大魔王以外には敬意を払わない存在なのか。なんかそう言われてみると妙に説得力があるな。それはそれで一貫していると言えるだろう。

 

 「………リリルカ、俺はもう帰るよ。」

 

 俺、しょんぼり。帰り道俺は考える。

 俺はリリルカの欠片ほども威厳がない。ステータスも無くして戦うことも出来ない。俺は娘に威厳で負けたままでいいのだろうか?

 

 「カロン様にはカロン様のいいところがあります。落ち込むカロン様はらしくありませんよ?」

 

 「リリルカ!ついて来たのか?」

 

 どうやらリリルカは俺の後をついて来たらしい。

 そしてやはり俺の心の中はしっかり読まれてしまっているようだ。

 

 「しかしリリルカ、俺が情けないとお前がガッカリしないか?」

 

 「そんなことありませんよ?」

 

 リリルカは優しく笑う。

 

 「リリが高いモチベーションで仕事をしているのは全てはカロン様が喜ぶと思っているからですよ?カロン様はリリを大魔王だと言っていじりますが、リリが大魔王なのだとしたらカロン様は大魔王が崇拝する魔神です。大魔王の心の拠り所で安寧ですよ?魔神は魔神らしく高みにありていつまでもリリ達を見守っていてください。」

 

 ふむ、どうやら俺は魔王軍四天王を飛び越えていつの間にか魔神になっていたらしい。ステータスがなく何の力も持たない俺が。

 果たして俺が魔神なのだとしたらかつてこんなに弱い魔神が存在しただろうか?


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