ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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プロローグ

 「ダメだっ、リュー、逃げろ!命懸けで逃げるんだ!」

 

 アストレアファミリアの怒号が響き渡る。団長はすでに死亡していた。控えめに言って今この場所は地獄の様相を呈していた。彼らは混乱し逃げ惑い、自分たちが今何階にいるかも理解していなかった。

 彼らアストレアファミリアはオラリオの治安維持を長年担ってきた。彼ら自身、自分たちが恨まれていることは重々承知の上だった、、、はずだった。

 

 ー馬鹿げている、これは余りにも、、、無慈悲だー

 

 彼らは悪意を軽視していた。危機意識が足りないといえるかもしれない。敵がここまでやるとは思わなかった。結果が今彼らの目の前にある。

 団員は次々と倒れており、余力もない。仲間の死体は積み重なり鮮やかな朱がいやがおうでも神経を刺激する。すでにこの場で最も力のあるものは彼女、リュー・リオンになっていた。

 

 しかしここから本来と少しだけちがう様相を呈していく。

 

 「リュー、頼む。俺をしんがりで使い潰してくれ。」

 

 「いけません、カロン。あなたを失うわけにはいかない。」

 

 「もうそんな余裕はない。どうせ逃げても捕まるのは時間の問題だ。」

 

 リューは少しだけ考える。時間はない。彼らの血は流れつづけており決断を遅らせるほど全滅は近づく。すでに最悪だ。

 

 ここでほんの少しの違いが起きた。

 

 「わかりましたカロン。あなたは最後尾で敵を押し止めてください。傷付いてる味方を見かけても捨て置きなさい。死んでも魔物を通さないでください。」

 

 カロンは今立っている冒険者唯一の2レベル。リューに次ぐレベルだった。そのため、リューはカロンが敵を押し止めて自身が逃走を助ける策をとることにした。

 命懸けで逃げ出す彼らは、誰もカロンのステイタスが白く輝いているのに気付かなかった。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 《なあ、お前は何だってそんなになって戦うんだ?あいつらにそこまでする価値があるのか?》

 

 《あんたは何でそんなことを聞くんだ?明日の飯を食うには必要だろう。当たり前のことさ。》

 

 《しかし………別にあいつらが生きることにたいした意味は無いだろう?》

 

 《命に意味だなんてあんた神様みたいなことを言うんだな。まあ確かに助けたいと思えない奴も中にゃたくさんいるけどさ、大切に思える奴らだって少しはいるんだ。》

 

 《そうか…………。私の国でも闘いは起こっているよ。私も彼らに何かができるのかもしれないな………。君のために祈らせてくれないか?》

 

 《俺は神様がいるなんて信じちゃいないぜ?少なくとも今まで助けてもらったことが無い。しょっちゅう敵がせめて来るってのに。》

 

 《それでもだよ。私がこの遠い地にいる友人の君のために祈りたいんだ。》

 

 《遠い地とはどういう意味だ?あんたどっから来たんだ?》

 

 《ずっと遠くだよ。私は君が幸せであることを願っているよ。》

 

 《そいつは無理を言ってくれるぜ。今はこんな世情だろ?あんたもさっさと他の国へ行った方がいいぜ。》

 

 《そうだな、私はもう行くよ。さよならだな。》

 

 《ああ。》

 

 神が地上に下りる前の話である。

 

 ◇◇◇

 

 私たちはたどり着いた。リヴィラの街に。仲間の屍を踏み越えて、助かる仲間を見捨てて。私は<正しい>判断をしたのだろうか?不安が私を襲う。

 今や仲間は片方の手で数えられる程だった。団長は死んだ。親友も死んだ。今よりひどいことは存在するんだろうか?

 それは街で休んだ次の日のことだった。

 

 「おい、あんた。街の入口で血まみれでぶっ倒れているでくの坊はあんたの仲間だろ?ひどい目にあったのかもしれんがさっさと回収してくれや。」

 

 まだ生きている仲間がいるのか?私は急いで確認へと向かった。

 はっきりと私は目を疑った。彼がいた。私は彼を人柱にしたはずだ。私は確かに彼に死ぬように命令を出したはずだった。

 

 ー手当てしなくてはー

 

 彼はその後一命を取り留めた。

 

 「あなたは何故生きているのですか?」

 

 私は瀕死の状態から脱出したばかりの彼に問い掛けた。

 

 「良く覚えていない。わずかな記憶が正しければ猛者に助けられた気がする。」

 

 「それにしてもあのあたりは状態異常を誘発する魔物がたくさんいるはずです。」

 

 「………とりあえず生きてる奴は何人いるんだ?帰って傷を癒さないと。」

 

 「私達を含めて五人です。うっ。」

 

 リューは口元を押さえる。仲間の死体がフラッシュバックしていた。

 

 「そうか、たった五人か。んでどうする?俺は動けるようになるまでもう少しかかるぜ?先に帰るか?」

 

 「あなたがレベル2では高いステータス誇ってるとしても置いてはいけません。」

 

 「長く滞在すりゃ金がかかるぜ?」

 

 「今の我々のファミリアはたったの五人です。これ以上人数を減らす気は無いし、あなたは貴重なレベル2です。置いていくのはありえません。」

 

 「そうか。すまねぇな。」

 

 「………私はあなたに死ぬように命令をしました。怒らないんですか?」

 

 「俺がそうしろって言ったろ?」

 

 「決断したのは私です。あなたは死に目にあったはずだ。」

 

 「他の皆は死んだだろ。生きてるだけついてるさ。」

 

 「そうですか。」


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