焼肉店から少し離れた所まで逃げてきた。
本気で走ったせいか、息が苦しく足もその場から動かなかった。
「はぁ・・・っはぁ」
水分補給がしたい。
丁度そんな事を思った時だった。
頬に冷たい物が当たった。
「つめ・・・たい」
感動とかではなく気持ちよくなり、つい声に出してしまう。と言うか誰!
「ふふっ、ごめんね時雨」
俺の後ろにいたのは彼方だった。
彼方は優しい顔作り俺にその笑顔を見せた。
キョトンとしていた俺を見て悟ったのか。
「あぁ、だ、大丈夫だよ月地先輩は止めておいたから」
それを聞き少し俺はホットする。
「ありがとう」
「お礼はいいってことだよ!」
俺達は近くのベンチに座り少し休憩をした。
特に話すこともなく気まずくなってしまう。
「何か気まずいね」
それを言うな。結構思ってた事だから。
いや? なんてま気まずいんだ?
「そうだな」
・・・・・・・・・
ベンチの後ろにあった木は風にゆられガサガサと音を立てる。俺達は何も喋らず時間は刻一刻と過ぎていった。
そんな中彼方が口を開く。
「時雨はさ」
いきなり自分の名前が出てきて頭の上に?とでも出ていそうだ。
「なに?」
「好きな人とか居るの?」
! ?何を言い出すかと思ったら、この子はいつの間に成長したの? ・・・じゃなくて、好き人か、居ないな思ってみれば好意を持った人すら居ないんではないか?
「居ないし、これかもそういう事はないと思う」
「ふーん」
曖昧な返事を返した。
彼方が話を振ってくれたのだから、このチャンスを逃すわけには行かないと思い、これをきっかけに戻ることにした。
「じゃあ、そろそろ戻ろうか月地さんも落ち着いてる頃だと思うしね」
「そうだね」
2人で歩く夜の空の色は月と星で照らされ俺達の影は地面に薄くあった。星や月が明るいと薄らと分かるものなんだな。
◇
「あーっと時雨その乗りとは言え悪かった」
俺と彼方が帰るなり月地さんは体を下げて申し訳なさそうに謝ってきた。
「いや、大丈夫ですよ俺も突然逃げちゃってすみません、冗談と言うのは知っていたんですけど」
「いやいや、悪いな」
王様ゲームはこうして終了した。このパーティーもそろそろ終わりかな?
「じゃあ、そろそろおわりましょうか!」
彼方は手のひらを合わせながらそう言うと碧斗がカメラを取り出す。
「じゃあ最後に写真撮りましょう」
「いいですね」
「俺時雨君の隣ぃー」
「あっ! ずるいですよ! 私が時雨の隣です」
「おい、押すなよ」
宗さんの体と彼方の体が俺の方にあたり左右に揺れる。
前には月地さんとセルフタイマーに設定してこっちに来た碧斗が居た。
【パシャ】
「あっ・・・」
「皆さん、変な動きしてますふふ・・・」
「彼方お前人のこと言えないぞ」
結局ぐだくだで取ってしまった1枚の写真。
俺はまだ築いていなかった。少しずつこの日常を壊していくあの人がこの写真に写っていることを・・・