うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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うずまきウシオ!!

「はっ・・・!!」

 

 ここは木ノ葉の演習場。そこに組手をし合う2人の少年がいた。赤い髪の少年はうずまきウシオ。対して栗色のウェーブがかった髪をしている少年は薄葉カズラ。ウシオは、カズラに戦闘の終わりを告げる一撃をお見舞いしていた。

 

「ぐわっ・・・?!」

 

 もろに受けてしまい、後方にぶっ飛ぶカズラ。ウシオは心配そうに声をかけた。

 

「オーイ、大丈夫かー?」

 

「・・・」

 

 少しの間沈黙があり、心配になったウシオはカズラに近づこうとした。しかし、ウシオの心配には及ばず、カズラは右肩を庇いながらムクッと起き上がった。

 

「無事なら返事しろよ」

 

「つッ・・・。るせぇ。だが記録更新だ」

 

「へ?」

 

 時計を見れば、ゆうに10分を越えていた。

 

 10分耐久組手。延長戦あり。俺たちがやっていたのはそれだ。確かに、時間オーバー。俺はそれに、まったく気がつかなかった。それにしても、カズラは本当に強くなった。

 

「だけどお前の敗けだ。約束通り、三色団子奢りだな」

 

「わーってるよ!」

 

 気恥ずかしそうに言うカズラ。ウシオはしめしめと悪い顔をしていた。

 

 この組手を始めてからおよそ54戦。その全てをウシオが勝利していた。だがその中でカズラは着実に強くなっていた。時間を忘れるくらい戦闘に没頭していたのがその証拠だ。

 

「お前、かーちゃんいいのかよ」

 

「は?なんで」  

 

「だって、お腹に子供がいんだろ?」

 

「は?!なんで知ってる!」

  

 本来この事は他言無用であり、外に漏れるはずがなかった。三代目の指示で情報規制がなされており、かつ暗部の監視があるゆえ漏洩はありえなかった。

 

「は?お前が言ってたんじゃねーか。今度産まれてくる弟にも、とかなんとか。あんまり興味なかったから追及しなかったけど・・・」

 

 しまった。俺が漏洩させてた。

 

 ウシオは自身の失態に頭を抱えた。

 

「誰にも言ってないな?それ」

 

「ん?あぁ・・・。さっきも言ったけど、別に興味なかったし」

 

「そうか。これ、本当は言っちゃいけないんだ。完全に俺の失態。忍ともあろうものが・・・」

 

「まーだ忍じゃねぇだろ」

 

 二人ともまだアカデミーの生徒だ。額当てすらもらってない。

 

「誰にも言わねぇから安心しな。興味ねぇ」  

 

「そうか」

 

 隠匿している身としては、少しぐらい興味をもってほしいところでもある。バレたのならなおさらだった。

  

「そろそろ行こうぜ、腹減ったよ」  

 

「む?奢るのはお前だからな」

 

「分かってるっつの!言いたかねぇが、いつものことだ」

 

「だっせぇ」

 

「るせぇぞ!」

 

 ウシオはカズラをバカにした。怒りながらカズラは歩いていった。ウシオはニヤニヤした顔でカズラを追った。こんなことを言っているウシオだが、思っていることは逆だった。

 

 ダサくなんかないんだよなぁ。コイツ、本当にあのときのヤツなのか?人が変わったみたいに、堅実で努力家だ。まぁ、口は悪いが・・・。おそらく、現在アカデミーで一、二を争うほどの実力だ。忍術はまだまだだが、体術は目を見張るものがある。しかしまだ、アカデミーでの実力だからな。

 

 いざ忍者になれば、上はたくさんいる。いや、上の方が多い。ウシオもミナトと修行したりして実力をつけているが、実際はまだまだだった。そもそも、保持しているチャクラ量が違う。短期戦なら分からないことはないが、長期戦になれば必ず負ける。実戦なら確実に死ぬ。だからこそ、二人には修行が必要だった。

 

「着いたぞ・・・て、あれは・・・」

 

「見たことあるヤツがいるな」  

 

 甘味処へ到着すると、見たことのある顔が先に席で団子を頬張っていた。黒い髪の毛、おとなしそうだが人を寄せ付けない雰囲気。そこで団子を頬張っている少年は、背中にうちはの家紋を背負っていた。

 

「よう、イタチ」

 

 名前を呼ばれた少年はゆっくりとこちらを向いて、じっと呼んだ人間を見た。

 

「・・・・ウシオさんでしたか」

 

「なんだよ、やけに暗いご挨拶だな」

 

 好きなものを食べているのを邪魔されたゆえ、少し機嫌が悪い。

 

「俺もいるぞ、うちはの」

 

 そう言うカズラだったが、イタチは何のことか分からないような顔をした。

 

「あな・・たは?どこかでお会いしましたか?」

 

「カズラだよ!薄葉カズラ!てめぇ何回忘れんだよしばくぞこら!」

 

 冗談やからかって言うのならまだ仕方ない。しかしイタチの場合、本当に忘れているのだった。

 

 何でもそつなくこなすのに、こういうところは天然というか。何でなのかはわからないけれども。

 

「まぁまぁ・・・。イタチ、団子とか食べるんだな」

 

「え?・・・まぁ、はい」

 

 いきなり何を言われたのかとイタチ聞き直したが、その真意を把握し、恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 

「俺だって、団子くらいたべますよ。生きているんですから」

 

 ウシオが言いたいことを言葉に表すと、お前みたいに完璧な人間にも、そういうかわいいところがあるんだな、ということだ。

 

「お前、買い食いとかしていいのか?母さんとかに怒られないの?」

 

 ウシオは興味本意でそれを聞いた。

 

「別に、そんなことはないですかね。やることをやっていれば」 

 

 これは正直羨ましかった。もちろんうちの母さんも綺麗で強いけど、イタチの母さんはなんというかこう、別の綺麗がある人だった。強さじゃなくて、美しさというか。それに、優しそうだし。ま、これが大を占めるかな。

 

「やること、ね。お前とは違うな、カズラ」

 

「なんでそこで俺の名前がでんだよ!」

 

 理不尽にバカにされたカズラは、簡単に怒りを露にした。ウシオはそれを見たケラケラと笑った。イタチは表情を変えず、黙々と団子を食べ続けていた。見ればかなりの数を食べている。

 

「ってか、お前どれだけ食べるんだよ」

 

 カズラがそれを指摘すると、イタチはさも興味なさそうに言った。

 

「あなたには関係のないことです」

 

「て、てめぇ・・・。どこまでも俺をコケにするんだなぁ!表出やがれ!しばいてやる」

 

「ここはすでに表ですが?」  

 

 今のはカズラが悪い。感情に身を任せてカッコつけるからだ。

 

「てめぇ・・・」

 

「まぁまぁやめろよいじめっ子。イタチが可哀想だろ」

 

「いじめっ子って言うな!それに可哀想なのは俺だろどう見ても!!」

 

 カズラが肩で息をしながら反論した。そろそろカズラの頭の血管が切れてしまいそうなので、からかうのはここまでにしておく。

 

「俺たちも頼むか・・・。おばちゃーん」

 

 ウシオが店員のおばさんを呼んだ。三色団子を2つ頼むことにした。

 

 団子を待つ間、どんな話をイタチとしようか悩んでいたところ、その終わりは唐突に訪れた。  

 

「イタチ」

 

 ウシオとカズラが来た方向から声がした。ウシオとイタチは声の主が分かったが、面識のないカズラはビックリしてすぐに振り返った。

 

 そこにいたのは思った通り、知っている顔だった。  

 

「ここにいたのね。帰るわよイタチ」

 

 赤ん坊を抱いた黒髪の女性が、慈愛に満ちた表情でイタチにそう言った。

 

 うちはミコト。イタチの母さんで、木ノ葉警務部隊隊長、うちはフガクさんの奥さんだ。

 

「ミコトさん」

 

「あら!ウシオくんじゃない!似てるなぁと思ったからもしかしてと思ったけど、やっぱり正解だったわね。・・・それに」

 

 ミコトはカズラの方を見た、今回はイタチの時のように忘れているわけではないため、カズラは自己紹介をした。

 

「薄葉カズラ、です。イタチ、くんのお母さん、ですか?」

 

「ええ。薄葉って言うと、カゲロウさんのお子さんかな?ちゃんとしてるわね、エライエライ」

 

 しどろもどろになりながら敬語を使うカズラを純粋に誉めたミコトだった。カズラはというと、誉められて頬が緩んでいた。

 

「アホみたいな顔になってるぞ、カズラ」

 

「へ?ば、バカ言うんじゃねえ!」

 

 言われたカズラは自身の顔をパンパンとはたき、きつけを行った。

 

「それはそうと、ウシオくん。お母さんは元気?」

 

「ええ、元気ですよ。元気すぎてうるさいくらいです」

 

「そう。クシナらしいわね」

 

 そう言ってフフっと笑うミコト。ウシオはミコトの抱いている赤ん坊について尋ねた。

 

「その子、名前はなんて言うんですか?」

 

「ん?サスケ、サスケよ。三代目様のお父上から頂いたの。立派な忍になってほしいっていう願いをこめてね」

 

「そう、サスケ・・・。サスケ。サスケ!?」

 

 サスケ!?今そう言ったのか?

 

「ど、どうしたのウシオくん」  

 

「・・・いや。なんでもないです」

 

 急に声を荒げたウシオにイタチ以外の2人は驚きの表情を浮かべていた。

 

 いやしかし、サスケか。物語の主要人物にようやく会えたぞ。いや、待てよ?原作でのサスケって、兄貴を殺すために強くなってるんじゃなかったっけ?・・・あー、だめだ。全く思い出せない。

 

「えっと、サスケ、よろしくな」

 

 ウシオ無邪気に笑っているサスケに人差し指を差し出した。サスケはその指を反射的に握る。

 

「・・・」

 

 なんつーか、こう、かわいいなぁ!

 

 にやけを隠しきれなくなっているウシオ。カズラはそんな彼を、あからさまに変なものを見る目で見ていた。

 

「母さん、帰ろう。あまり外にいるとサスケが風邪を引くかもしれない」

 

「そうね。じゃあウシオくん、カズラくん、またね。ウシオくんはお母さんによろしく言っておいて」

 

「はい」

 

「さ、さよなら!」

 

 ミコトはイタチとサスケを連れて、うちはの敷地の方へと帰っていった。イタチがいたところには、かなりの量の皿が残っている。

 

「なぁ、ウシオ」

 

「ん?何」

 

「いいなぁ、ああいうお袋がいると。なんかこう、お母さんって感じがする」

 

 変なことを言い出すカズラ。だがウシオはそれに同意で、感慨深く頷いていた。

 

「こんなこと言ったら母さんに・・・。拳骨じゃすまないだろうな」

 

「そうだな。俺らも用心しねぇと」

 

 渇いた笑いをしながら遠くを見つめる2人。そうしていると、ちょうどよく団子が運ばれてきた。2人は無言でそれを口に運んでいた。

 

********************

 

「・・・先代のミト様がそうじゃった」

 

 テーブルを挟んで、3人と2人が話し合っていた。前者はミナト、クシナ、ウシオ。後者はヒルゼン、ビワコである。

 

「じーちゃん、母さんは今まで辛い思いをしてきたんだ。なんでこんなときまで隔離されるみたいに、ならなきゃいけないんだよ」

 

「仕方がないのよウシオ。私は木ノ葉の忍で、四代目火影の妻なんだから」

 

 ウシオは不機嫌そうにヒルゼンに言うが、クシナがそれを嗜めた。

 

「すまぬ、ウシオ。しかし里の皆の安全を考えるなら、こうするしかないのじゃ。安心せい、出産にはビワコが立ち会う。護衛もワシ直属の暗部たちじゃ」

 

 ヒルゼンがそう言うと、ビワコは深く頷いた。しかし、ウシオの表情は変わらずだった。

 

「では、ワシらはおいとまするとしようかの。クシナよ、予定日までもうすぐじゃ。無理に動こうとするでないぞ」

 

「わかっています、三代目様」

 

 席から立ち上がりながらヒルゼンは言った。ニコリと笑ってそう言うヒルゼンに対し、クシナも笑顔で答える。

 

「それではミナト、ワシらは帰るぞ。支えてやるのじゃぞ」

 

「わかりました、三代目。ご足労痛み入ります」

 

 ミナトはヒルゼンに深々と礼をし、これから帰るヒルゼンを見送るため、ヒルゼンたちと共に玄関へと向かった。リビングには、クシナとウシオの二人が残される。

 

「納得いかないよ、俺は」

 

「分かってちょうだい、ウシオ。火影は、家族だけを守っていればいいというものじゃないの。むしろ、里のみんなが家族みたいなものかな?」

 

 優しい表情でウシオの頭を撫でながらそう言った。

 

「それでも、俺の父さんと母さんは一人だけだ」

 

「そうね・・・。あなたも火影になるんでしょ?だったらいつか必ず分かるわよ。あなたが火影になった、そのときに」

 

 ウシオはクシナの顔を見ながら、それを聞いていた。そしてクシナの大きくなったお腹に目線を移した。

 

「お腹、触ってもいい?」

 

「え?フフッ・・・。いいわよ?でも優しくね。ナルトがビックリしちゃうから」

 

 ウシオの提案に微笑みながら了承したクシナ。ウシオは、恐る恐る手を伸ばす。お腹に手を当てると、僅かな温かさが、ウシオの手に伝わってきた。

 

「温かい」

 

「そりゃそうよ。私も、ナルトも、生きてるんだから」

 

「うん。生きてるって感じする」

 

 そこには、微笑ましい空間が広がっていた。クシナは恐る恐る触っている我が子が可愛いようで、終始笑顔である。かたやウシオは、これから産まれてくる自分の弟の事を考え、いろいろな未来を想像していた。 

 

 ウシオとナルトは7才差だ。ナルトがアカデミーを卒業する年齢なら、ウシオは20才。今のミナトやクシナと変わらない。ナルトに忍術や体術を教えているところを想像していた、ウシオはワクワクと、少しの気恥ずかしさを感じていた。

 

 

 

 ドクン。

 

 

 

「?!」

 

 クシナのお腹を触っていると、妙な感覚が襲ってきた。懐かしいチャクラを感じた、とでも言うべきだろうか。しかし心地のよいものではなく、限りない悪意。嫉妬、苦しみ、恐怖。禍々しい、というのが最も合う表現だろう。

 

 掌が熱い。これは確実に体温の温かさではない。

 

 ウシオはクシナの顔を見るが、特に変わったところはなかった。顔を眺めてくるウシオを不思議そうに見ていた。

 

『貴様、誰だ』

 

「うわっ?!」

 

 急に誰かに声をかけられたウシオは、驚いたのか触っていた手を離した。それを見たクシナも同様に驚いて、ウシオを心配そうに眺めていた。

 

「どうしたの?!」

 

 クシナがウシオを気遣う。

 

「え。いや、なんでも。なんでもないよ。ただ、その・・・」

 

「その?」

 

 心配そうな顔が痛い。

 

「ナルトが蹴ってきて、ビックリしたんだ」

 

「そうなの。私は感じなかったけど、慣れちゃったのかな?」

 

 簡単に納得するクシナ。実際はそんなことはないのだが、クシナを心配させまいとウシオは嘘を吐いた。

 

 今のは、もしかして、九尾か?でも母さんにおかしなところはなかった。九尾が話しかけてきたなら、人柱力である母さんにも聞こえるはず。でも俺にしか聞こえていなかった。じゃあ、ナルト?・・・そんなわけないか。

 

 考えているウシオを見て、クシナは不思議そうにしていた。ウシオはそれに気付き、笑顔でその場を取り繕った。

 

「父さんが帰ってくるまでに夕飯の準備をしておくよ」

 

「母さんがやるわよ、そのくらい」

 

「そんなことしてもしものことがあったら大変だよ。それに、俺も覚えておきたいから」

 

「あなたもミナトも、心配しすぎよ。・・・わかった!母さん隣で見てるから、言うようにやってみて」

 

「オッス!」

 

 快活に返事をするウシオだったが、先程のことが頭から離れなかった。

 

 変な考えを振り払い、ウシオは急いで台所に向かった。

 

********************

 

「うぁあぁぁぁ!痛いってばねー!!!」

 

 里から離れた場所にある洞窟内から、クシナの大声が響いていた。

 

「あの、こんなに大声で痛がるクシナを、初めて見たのですが、これは、大丈夫なのでしょうか?」

 

 しどろもどろになりながら、ビワコに問うのは四代目火影ミナトだ。対してビワコはやれやれ、といったような表情で口を開いた。

 

「大丈夫じゃえ!それより、お前は九尾の封印をちゃんと見とれ」

 

「そうだよ、父さん。母さんは負けないよ」

 

 ミナトは不安そうな表情になりながらも、痛がるクシナの腹部に手を当てて封印式を安定させている。

 

 父さんは、やるときはやるけど、こういうことには弱いんだよなぁ。

 

 ミナトとは反対側でクシナの手を握っているウシオはそう思っていた。

 

 本来、ウシオはここにいるはずなかった。同行を提案したがヒルゼンとクシナに怒るように断られたからだ。しかし、ミナトが後押ししてくれたため、特例として出産現場に立ち会うことができた。

 

 断られるのも当たり前だ。もし封印が弱まり、九尾が出てきたら。もし他里の忍が潜んでおり、強襲されたら。どちらもミナトがいればなんとかなるだろうが、もしものことがある。ゆえにヒルゼンもクシナも、その提案を断らざるをえなかった。

 

「大丈夫だよ、ウシオは。守る必要がないくらいに立派になってるから。それに、俺たちは家族だからね。こういうときぐらい一緒にいた方がいいだろう?」

 

 ミナトのこの一言でヒルゼンは折れた。しかしクシナは違った。

 

「ダメだってばね!普通の出産じゃないんだから、もしものことがあるかもしれない」

 

 このとき、ミナトは残念そうにウシオを見ていた。ミナトは、クシナが1度言ったことを曲げない頑固な性格であることは昔から知っていたので、謝罪の意味も込めてウシオを見ていたのだ。

 

 ミナトはクシナに、夫婦喧嘩で1度も勝ったことがない。これはただの意見の食い違いだが、こういうときもそうだ。ウシオはその姿を昔から見てきた。

 

 それでもウシオは引き下がらなかった。ウシオはなにも言わず、クシナの目を一点に見ていた。その表情にクシナも折れたらしく、なくなく了承した、という経緯がある。

 

「うぅうううあああぁ!!」

 

 それでも、確かにウシオはクシナのこんな姿を見たことがなかった。常に毅然とした態度で生活している姿を、毎日見てきたウシオも、これには素直に驚いていた。

 

「がんばれクシナ!がんばれナルト!!」

 

 ミナトはクシナの封印を安定させながら、そうクシナを励ましていた。

 

「ん・・・?」

 

 みんながクシナに付きっきりになっている最中、妙な気配を感じたウシオは、洞窟の入り口の方を見た。そんな動きをしたウシオだったが、他の人々が気付く素振りはない。

 

「頭は出た!!もうすこしじゃえ!クシナ!」

 

「がんばってクシナさん!」

 

 ビワコと付き添いのタジがクシナを励ました。しかしクシナは傷みで聞こえていないようだ。そろそろなのか、ウシオの手を掴んでいるクシナの手の力が強くなる。

 

「ナルトォー!早く出てこーい!九尾は出てくるなァー!!」

 

「母さん!」

 

「うぅぅうううう!!」

 

 ウシオは外へ向いていた意識をクシナに戻した。そして。

 

「おぎゃあ!!おぎゃあ!!」

 

「お湯じゃ!」

 

「ハイ!」

 

 痛がる声が収まってすぐ、新しい声が聞こえてきた。そのこの主を、ビワコはお湯に浸けていた。

 

「産ま、れた・・・」

 

 ミナトは力が抜けたかのように呆然としながらそう呟いていた。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!」

 

 クシナは役目を終え、ハァハァと荒い息継ぎをしていた。

 

「おぎゃあ、おぎゃあ!!」

 

 新たな命は、産まれたことを伝えるかのように泣きわめいていた。そして、ビワコは告げた。

 

「元気な、男の子じゃえ!!」

 

「ハハ・・・!」

 

 ミナトは涙を流しながら、喜びを表していた。

 

「ナルト・・・、やっと、会えた」

 

 クシナの顔の横に置かれたナルト。それを眺めながらクシナも疲れを押し隠し、涙を流しながら出会えた喜びを表していた。 

 

「ナルト・・・」

 

「ウシオ、こっち、おいで」

 

 ウシオは、感慨深く呟いていた。それを見たクシナは、優しい表情でウシオをナルトの隣まで呼んだ。逆らうことなく、ウシオはそこまで行った。

 

「どう?ウシオ」

 

 ウシオを見上げながらクシナはそう言った。言われたウシオは不思議そうに聞いた。

 

「どうしたの?」

 

「どう感じてる?」

 

「・・・分かんないよ。まだ」

 

「フフ・・・、そうよね」 

 

 二人は笑いながらナルトを見ていた。そこにミナトが口をはさんだ。

 

「よし、クシナ!出産したばかりで大変だけど、九尾を完全に押さえ込むよ!」

 

「うん・・・!」

 

 ウシオはナルトを抱き上げ、ビワコに渡した。

 

 これから封印を完全にする。家族が増える。天涯孤独だった俺からしたら、初めてのことばかりだ。自分に兄弟が、兄貴になるなんて。

 

 その時。

 

「ぎゃああ!!」

 

「キャ!」

 

 ビワコの悲痛な悲鳴と、タジの短い悲鳴が響く。ミナトとウシオはすぐにその声の方向を向いた。

 

「ビワコ様!タジ!」

 

 ミナトがそう叫んだとき、二人は倒れ込んでいる最中だった。

 

「アンタ、誰だ・・・」

 

 ウシオは怪訝そうな目を向けながらそう言う。奇妙な仮面を被った男はウシオを一瞥し、ミナトの方へと向き直った。

 

「四代目火影、ミナト・・・。人柱力から離れろ。でなければ、この子の寿命は1分で終わる」

 

 仮面の男が、ナルトを抱き抱え、そう脅すように囁いた。

 

********************

 

「うっ・・・痛っ・・・」

 

 ウシオは傷みを押さえながら、目を覚ました。

 

「ここは・・・」

 

「起き、た?ウシオ・・・」

 

 ウシオは声の方向に目を向けると、クシナが横たわっていることに気がついた。そのすぐ隣、ウシオとクシナの間に、ナルトがいる。ナルトはスヤスヤと眠っていた。

 

「母さん、俺は・・・」

 

「アンタは、もう。あんな無茶なことして」

 

 クシナは苦しそうにそう呟いた。怒っているが、声に力はない。

 

 思い出した。あの時、仮面の男が現れたとき、俺は誰よりも先に、攻撃をしかけていたのだ。

  

***

 

 こいつはまずい。さっきの妙な気配はこいつだったんだ。こんな、禍々しい、復讐の念に満ちたチャクラは感じたことがない。

 

 反射的に、ウシオはその仮面の男に攻撃をしていた。

 

「ハッ!!」

 

 ナルトに当たらないように、ウシオは仮面の男の頭部に向けて蹴りを繰り出した。しかし、その攻撃は当たらなかった。脚が頭を通り抜けたからである。

 

「何?!」

 

「・・・」

 

 通り抜けてしまったため、空振りしてしまったウシオの脚を、男は掴んでそのまま宙に吊し上げた。

 

「ウシオ!」

 

 ウシオはかろうじて、男の顔を見た。仮面の下の目から感じられる絶望と復讐の念が、ウシオを震え上がらせた。それに気付いた男は、ウシオを眺めた。

 

「くそ・・・離せ!」

 

「フン・・・」

 

*** 

 

 その時、男はウシオを壁に叩きつけた。その衝撃で、気を失ってしまったのだ。

 

「父さんは・・・?」

 

「九尾を、止めに行ったわ」

 

「九尾?!あの後、何があったんだ!どうして九尾が」

 

 ウシオは声を荒げてクシナに問う。

 

「あの、仮面の男が、私から九尾を解き放ったのよ・・・」

 

 そう呟くクシナの顔は暗く、辛そうだ。

 

「母さんは、大丈夫なのか?」

 

「・・・うずまき一族は、長寿の一族でね。こんなことじゃ、逝ってやらないってばね・・・!!うくッ・・・!?」

 

 クシナは起き上がりながら、かつ口から血を吐きながらそう呟いた。ウシオはクシナを気遣い、背中を支えた。

 

「ダメだ母さん。横になってないと!」

 

「・・・そう、ね」

 

 クシナはそう言って、ゆっくりと横になった。

 

 ウシオは傷みを押さえながら、ベッドから降りた。

 

「俺も、行って、父さんを手伝ってくる・・・」

 

「だめよ!ここにいなさい!」

 

「でも・・・!!」

 

 クシナがウシオを止めようと、出せる限りの声をあげたと同時に、地面が振動した。いきなりの地震に、ウシオはよろけ、ベッドの縁へともたれ掛かった。

 

「なっ・・・!!」

 

 そして次の瞬間、辺りが光に包まれた。ウシオは瞬間的に目を瞑ってしまう。恐らく、爆発。何らかの忍術だろう。ウシオはそう感じ、命の終わりを悟っていた。1度命を終える瞬間を経験したウシオだからこそ、それを感じられていたのだ。

 

 しかし、傷みはいつまでたってもやってこなかった。

 

「無事、かい?ウシオ」

 

「父、さん?」

 

 目を開けると、目の前にはミナトがいた。どうやら、あの爆発の中、3人を抱き抱えそのまま飛んだらしい。

 

「すぐに結界を張らないと・・・!」

 

 そういうミナトの顔は今にも倒れそうな感じだった。すぐ後ろに九尾がいる。さきほどまで九尾かいるような感じはしていなかったから、遠くから九尾を飛ばしてきたのだろう。そしてウシオたち3人を飛ばしたので、チャクラがもう僅かしかないはずだ。

 

 それはミナトの表情が物語っていた。

 

「私はまだ、やれるわ。ミナト・・・」

 

 クシナが絞るようにそう呟く。そして、クシナは体内からチャクラの鎖を出し、九尾に巻き付けた。

 

「ゲホッ、ゲホッ!!」

 

「おぎゃああ!おぎゃああ!」

 

 クシナは血を吐きながらも、九尾の動きを止める。ナルトは辺りの喧騒に、目を覚ましたようで泣き出してしまった。

 

「起こしちゃったわね・・・。ごめんね、ナルト」

 

 クシナは息を切らしながら、ナルトに優しい表情を向けて言った。そして、さらに言う。

 

「このまま九尾を引きずり込んで死ぬわ・・・。そうすればこの先、九尾の復活時期を延ばすことが、できる。今の、残り少ない私の、チャクラでアナタ達を、助けるにはそれしか、ない・・・」

 

 しどろもどろになりながらも言った。

 

「今まで、色々ありがとう・・・」

 

 そう言って、最大限の笑顔をミナトとウシオに向ける。ミナトは悲しいとも驚きとも取れる表情で、つげる。

 

「クシナ・・・。君が、俺を・・・。四代目火影にしてくれた・・・!君の男にしてくれた!そして、この子達の父親にしてくれた!それなのに・・・!!」

 

 絶望に満ちた表情で、ミナトは言った。続いて、ウシオも口を開く。

 

「なんで、母さんが死ななきゃならないんだ!俺は諦めないぞ!あんなヤツ、俺が倒してやる!ウッ・・・」

 

 ウシオは傷が癒えていないようで、体を動かそうとしてよろけてしまった。それをミナトがなにも言わずに抱き止めた。とても強い力で。

 

「父さん・・・!」

  

 悔しさが溢れるミナトの表情を見て、ウシオはミナトを払いのけることができなかった。そして、ウシオもミナトと同様の表情になる。

 

「ミナトもウシオも、そんな顔しないで。私は嬉しいの。アナタ達に愛されている。それに・・・」

 

 クシナはそう言いながら、ウシオとナルトを交互に眺めた。

 

「それに、今日は、この子達の誕生日なんだから・・・」

 

「母さん・・・」

 

 ウシオはなにも言えなかった。自分よりも目の前にいるクシナ自身が一番悔しいのだ。

 

「なにより、もし、私が生きてて、家族みんなで暮らしてる未来を想像したら、幸せだってこと以外、想像できないんだもん・・・」

 

 クシナは傷みに堪えながら言う。ミナトは、クシナのこの言葉に、ゆっくりと涙を流した。

 

「ただ、心残りがあると、すれば、大きくなった二人を、見てみたかったなぁ・・・」

 

「クシナ。君が九尾と一緒に心中する必要はないよ」

 

 ミナトは俯きながらそう言った。クシナも、支えられているウシオも、不思議そうにミナトを見た。

 

「その残り少ないチャクラは、ナルトとの再会のために使うんだ・・・!」

 

「え・・・?」

 

「何を、言ってるんだよ。父さん」

 

 ウシオに言葉を挟まれても、ミナトは続けた。

 

「君の残りのチャクラを全てナルトへ封印する。八卦封印に組み込んでね・・・」

 

 流れている涙を拭きながら、まだ続ける。

 

「そして、九尾は俺が道連れにする。人柱力でない俺ができる封印術は、屍鬼封尽!」

 

「何言ってるんだよ父さんまで!あの術は、術者の命を糧に発動される禁術だ!それを、分かってて・・・」

 

「・・・それにもうひとつ。俺に封印する九尾は半分。これだけの力は物理的に封印しきれない。そして、戦略的にもできない。もし君が道連れにすれば、復活までの人柱力が不在となり、里間の尾獣バランスが崩れてしまう。屍鬼封尽なら、俺と一緒に九尾を半分だけ永久に封印できる。だから九尾の半分は・・・」

  

 そこまでいって言葉を呑むミナト。そして、ナルトを眺め、また口を開いた。

 

「ナルトに封印する!八卦封印でね!」  

 

「!?」

 

 ミナトはこう言っているのだ。クシナだけではなく、ミナト自身をも犠牲にして、ナルトへ封印する、と。

 

 ウシオは何も言えなかった。ミナトの表情が、ウシオが一番よく知っているものだったからだ。これは、あの時。前の世界で、命を救うために命をはった、ウシオと同じ、決意と信託の表情。ミナトは本気だったのだ。

 

「君の言いたいこともわかる。でも、自来也先生が言っていた世界の変革の事。そして、それに伴って起きる災いの事。今日確信したことが二つある。君を襲った面の男。ヤツは必ず災いをもたらす。そして、それを止めるのはこの子達だ。人柱力として未来を切り開いてくれる。なぜかそう確信したんだ。そして・・・」

 

 そこまででミナトは1度言葉を区切り、ウシオを眺めた。

 

「ウシオ、君がこの子の先を歩いて、道を指し示すんだ。俺たちの代わりに、ね!」

 

 ミナトはそこまで言うと、抱き抱えているナルトをウシオへ渡し、素早く印を結んだ。

 

「屍鬼封尽!」

 

 ミナトの背後に、鬼が現れた。

 

********************

 

「分かったよ・・・父さん」

 

 ウシオが、ナルトを見ながらそう呟いた。

 

「だけど、その封印は、俺に施してくれないか?こんな小さな命に、それをさせるわけにはいかないから」

 

 ウシオが俺を真っ直ぐに見ながらそう言った。・・・今だからこそ、言わなければならないか。

 

「それは、できない・・・」

 

「?」

 

 ウシオが不思議そうな表情をこちらへ向けている。それもそのはず、だ。人柱力になるための条件は、あってないようなものである。ほとんどの人間がなることができる。封印される側の事を考えなければ、だが。それは、ウシオも重々承知のようだ。

 

「どうして・・・。別に誰だっていいはずだろ。だったら・・・」

 

「この方法の方が、成功する確立が大きいんだ。だって・・・」

 

「ミナト!」

 

 クシナが叫んでいる。彼女は、この話題を避けていたから。もちろん俺だってそうだ。だけど、ウシオを納得させるには、こうするしかない。

 

 ウシオの真剣な表情が、自分達が隠していることを言わなければならない、という空気を作り出していた。自分達がこれからやることを考えれば、直接口で伝えなければならない。

 

「君は、俺とクシナの・・・」

 

 ミナトは隠していた真実を口にしようとした。しかし、それはウシオに止められてしまった。クシナでも、ミナト自身でもなく、伝えるべき相手であるウシオに。

 

「待って!!わかった。・・・そうか。そういうこと」

 

「ウシオ?もしかして・・・」

 

 勘のいい子だから、もしかして気付いているのかと思ったけれど、その考えは当たっているようだ。

 

 ウシオは言われようとしていることが、どんなことなのか分かったような顔をしていた。彼はその事実を、二人よりも先に口に出したのである。

 

「俺が、二人の子供じゃないってことでしょ?そうか・・・母さんの血統、うずまき一族の血は、封印術を扱っていた一族。だから何かしらが起きても、咄嗟のことに対処できる・・・」

 

「それだけじゃないよ。そもそも、封印術は教えることが可能だ。だけど、クシナ自身の血筋は、長年九尾を封印し続けてきた。恐らく、体への相性もいいだろう。・・・・・・ごめん、ウシオ」

 

 ミナトはウシオの考えに補足をした。そして最後に小さく謝罪の念を述べた。クシナも、口には出さないが表情は同じである。

 

「どうして謝るんだよ・・・。俺は、ずっと前に気付いてたからな・・・」

 

 ウシオは二人と小さな命を、順番に眺めていきながらそう述べた。そして最後にはニカッと笑ったのである。

 

「俺は、それでもいいんだ。父さんと母さんは、俺を本当の子供のように育ててくれた。幸せだった。それだけで、十分だよ。それに・・・」

 

 ウシオは、拳をミナトへと向けて、口を開いた。

 

「俺は、木ノ葉隠れの二人の英雄の息子だから!本当の子供じゃないとか、そんなことでクヨクヨしてらんねぇよ!」

 

 そう言って、快活に笑い飛ばすウシオ。しかし、無理をしているのは、もちろんわかっていた。片方の拳を握りしめ、ワナワナと震わせていたからだ。

 

「父さんと母さんがいなくなっても、俺が二人の代わりにこの世界を見てる。いつか、こんな思いをしないような世界にするために、俺が世界を変える。俺はまだ7才だから、強い忍術だとか、体術は知らないけど、これからちゃんと勉強して、誰かの目標になれるようにする!」  

 

「ウシオ・・・」

 

 ミナトは悲しくとも、そう感じてはいけない、ということが読み取れるような表情をしながら呟いた。クシナも、同じような表情で見ている。

 

「それに、母さんがナルトの中に居てくれるなら、安心だ。俺も、ナルトに伝えられないことがあるだろうから。でも!二人から教えられた、忍としての心はしっかりと伝えていくつもりだ。忍の三禁だとか、忍がなんたるかだとか、人としてのあり方だとか・・・」

 

 ウシオは自分では気づいていない涙を自然に堪えながら、そう宣言していく。

 

「まぁでも、俺がそれを理解できてるかっていう問題があるんだけどね・・・」

 

 ウシオの表情がだんだん暗くなっていき、声もそれに合わせて小さくなっていく。

 

「そうなんだよ。俺は、まだまだなんだよ。少しは忍術を知ってる。戦術だって知ってる。だけど、それだけだ。それ以上を知るのは、これからなんだ」

 

 ウシオはその場に、崩れ落ちる。

 

「やっぱり、嫌だ。二人までいなくなるなんて、そんなのってないよ!俺が、やっと手にいれた幸せなのに。こんなに早く失うなんて・・・」

 

「大丈夫、ウシオ」

 

 泣き崩れているウシオの背後から、クシナが抱き締めていた。そして、ゆっくりと囁く。

 

「アナタなら絶対に、いいお兄さんになる。ナルトのいい目標になってくれる」

 

「母さん・・・」

 

 ウシオは溜めに溜めた大粒の涙を一気に流しながら、すがるようにそう呟いた。クシナはそんなウシオを優しく撫でる。

 

「・・・ごめんね。母さん、一瞬思っちゃった。なんで、この子たちがこんな目に遭わなきゃならないの?こんな辛い目にって」

 

 クシナも泣くまいとしているが、明らかに涙目だ。

 

「でもアナタを見て思ったわ。私達は忍なのよ。私達家族は、忍。だから、アナタに任せるわ。この子の未来を・・・」

 

「クシナ・・・」

 

 ミナトは優しくクシナと呟いた。それに気付いたクシナは、痛みの残る体を動かし、立ち上がって見せた。そして、ミナトの方へ向かって口を開く。

 

「私は!赤い血潮のハバネロで!四代目火影の妻で!この子達の母親!こんなところで、弱気になってちゃダメだってばね!行くわよ、ミナト!」

 

 心なしか、九尾の鎖が強くなっているように見える。母は強しというけれど、確かにその通りだな。それより、クシナが強いだけなのかも。俺も、強くならないと。父親として。

 

 ミナトは心の中でそう思っていた。強く、そして硬く。クシナの決して折れないその心を見て、自分も強くなったかのように感じていた。そして、クシナの声に応じて口を開く。

 

「ああ!封印!」

 

 ミナトは鬼を使って、九尾の半身を封印してみせた。大きさが小さくなっている。

 

 体がしびれる。これほど重いチャクラだとは。

 

 ミナトはそう感じていた。片膝をつき、息遣いも荒くなっている。それでも残りのチャクラを使って、八卦封印の準備を始めた。儀式用の台座を口寄せする。

 

 それを見ていた九尾の動きが強くなった。自分がまた封印されそうになっていることに気付いたのだろう。しかし、クシナの強力な封印術によりまったく身動きが取れていなかった。

 

「私はこんなもんじゃないってばね!・・・大丈夫?ミナト」

 

 クシナはそう言いながらも辛そうだった。

 

「当たり前だよ。俺も、二人に負けてられないからね!」

 

 そう言うと、ミナトは蝦蟇を口寄せした。

 

「お、四代目!いったいどうし・・・なんじゃあこりゃあ!?九尾?!」

 

「ガマ寅、お前に封印式の鍵を渡す。その後すぐに、自来也先生に蔵入りしてくれ」

 

 ガマ寅と呼ばれた蝦蟇は、了承するが少し不思議そうな顔をしていた。その疑問を解消すべく、口を開く。

 

「四代目。この鍵なんだが、半分しかないぞ?」

 

「分かってる。大丈夫だ」

 

 ガマ寅の疑問は解消されなかったが、四代目が言うなら、と自分でそれを打ち消した。

 

「確かに鍵は、預かった!なら・・・行くけんの!」

 

 ガマ寅はそう言うと、煙とともに消えていった。ミナトは真剣な表情でそれを見送る。そのあと、すぐにウシオの方へと向き直った。

 

「ウシオ。もうひとつ、君に託したいものがある」

 

 腫れた目を擦りながら、ウシオは頷いた。

 

「今ガマ寅に渡さなかったこの半分の封印式の鍵を、君に託す。こっちへ・・・」

 

 ミナトは手招きをしながらウシオを呼んだ。ウシオはゆっくりとミナトに近づいていく。

 

「服を上げて、お腹を出して」

 

 ウシオはミナトの言う通りに、服をたくしあげた。ミナトはそれを見届けると、ウシオのお腹に手をかざす。すると、ウシオの腹部に幾何学的な印がされていった。

 

「あつ・・・」

 

 ウシオは熱を感じているようで、顔をしかめていた。それが終わると、ミナトはウシオの頭に手を置いて、優しく撫でた。

 

「せっかくの誕生日なのに、プレゼントがこんなものでごめんね」

 

「そんなことないよ。俺は、それだけ信じられてるってことだから」

 

 ウシオは撫で終わったあとのミナトを見上げた。そして、そう言って笑った。

 

「クシナの出産や、四代目の就任で、プレゼントを選んでいる暇がなかったんだ。クシナもお腹が大きくなって、外へ出られることが少なかったからね・・・」

 

「俺、欲しいものがあるんだ」

 

「ん、なんだい?」

 

 ウシオは少し黙ったあと、口を開いた。

 

「父さんの、額当てが欲しい」

 

 ミナトはウシオのその願いに驚いたような顔をした。

 

「これは父さんが下忍になったときに、アカデミーから貰ったものだ。だから、ボロボロで汚いよ?」

 

「それでもいい。いや、だからこそそれが欲しいんだ」

 

 それを聞いたミナトは少し考えたあと、手を自分の額当てに伸ばし、後頭部の結びを解いた。ミナトは外されたものを持ち、ウシオの目線と同じ位置まで目線を持ってきた。そして額当てをウシオの額へとあて、着ける。

 

「これで、いいかい?」

 

「うん」

 

「ウシオ、こっちを向いて?」

 

 クシナがウシオにそう言った。ウシオはそれに従い、クシナの方へと振り向いた。

 

「うん・・・かっこいい!ミナトの子供の頃みたいだってばね」

 

 そう言ってクシナは辛そうな顔を隠しながら、ニカっと笑った。ウシオも同じように笑う。

 

「・・・クシナ、そろそろ・・・。俺の命が持ちそうにない。俺のチャクラも少し組み込みたいんだ」

 

「そう、ね」

 

 そう言って、クシナはウシオを通りすぎてミナトの方へと近付いていった。ウシオはナルトの側へと行き、膝をついた。

 

「当分は二人に会えない。今言いたいことを言っておこう」

 

「そうね。いざ言いたいことってなると、いっぱいありすぎて迷っちゃうってばね・・・」

 

「・・・」

 

 クシナはそう言って恥ずかしそうに笑った。ミナトも同じように笑顔でいる。

 

「そうね。そう、ケーキ!今年こそ成功したのよ?冷蔵庫に入ってるから、早いうちに食べてね」

 

「うん」

 

 ウシオはクシナの言葉をしっかりと聞く。

 

「あ、ゴミを出すの忘れてたわ!可燃ゴミだから、明後日の朝に出してくれる?」

 

「分かったよ」

 

 普段する他愛のない会話をする。

 

「アカデミーから帰ってきたら、ちゃんと手を洗うのよ?忍は体が資本だからね。病気になったら大変だから。もし病気になったら、すぐに病院へ行きなさい。それがダメだったら、誰かを頼りなさい。あなたはなんでも自分でやってしまおうとするから」

 

「そういうことは、毎日聞いてるから分かってるよ」

 

 ウシオはクシナにそう言った。クシナは、あぁそうか、とでも言いたげな顔で苦笑いをした。

 

「ナルト・・・」

 

 そう言って、クシナはナルトを見る。

 

「ナルト、これから辛いこと、苦しいこと、たくさんある。・・・自分をちゃんと持って!そして、夢を持って。そして・・・夢を叶えようとする、自信を持って!」

 

 そして、クシナは少しずつ目に涙を溜めていった。

 

「本当に苦しくなったり、寂しくなったら、ウシオを、頼りなさい。私が伝えたいことを、すべて、伝えてきたつもりだから。あなたのお兄ちゃんは、すごいから、安心しなさい。きっとあなたを守ってくれるから!」

 

 ウシオは、真剣な表情で目に涙を溜めていく。それが頬へ流れても、気にすることなく両親の言葉を聞く。

 

「ウシオ、ナルトを、お願いね・・・!!」

 

 クシナは言い終えると、目を閉じてミナトの肩に顔を埋めた。

 

「ごめん、ミナト。私ばっかり」

 

「ううん、いいんだ。ウシオ、ナルト、父さんの言葉は・・・」

 

 ミナトは真剣な表情で、ウシオとナルトの顔を交互に見る。

 

「口うるさい母さんと、一緒かな?」

 

 そして、ミナトは術を発動する。辺りが眩しい光に包まれ、ウシオは目をつぶってしまった。

 

 

 

 

 

 光に包まれて行く中で、ミナトとクシナは少し会話をした。

 

「もう少しで、ボロボロに泣いちゃうところだったわ。子供の前で・・・」 

 

「そうだね。俺も、話していたらきっとそうなってたよ」

 

「大丈夫かしら」

 

「大丈夫だよ。俺達の息子なんだから」

 

「・・・そうね!」

 

 二人は、光の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

********************

 

「じゃあ一人ずつ自己紹介と、目標を語ってもらおうか」

 

 上忍らしき男が、3人の子供達に向かってそういい放った。赤い髪の毛のツンツン頭の男の子と、ウェーブがかった栗色の髪の毛の男の子、それに黒髪のポニーテールの少女がいる。

 

 その中のウェーブがかった男の子が、まずは口を開いた。

 

「俺は薄葉カズラ。薄葉一族の次期族長だ。俺の夢は、四代目火影よりも強い忍になること!以上!」

 

「夢、ときたか。そこまでは聞いてないんだけどな」

 

「夢も目標も同じだろが?」

 

 カズラの言葉を聞いた男は、苦笑いをして次の人へと合図した。

 

「私は、霧切アヤメです。目標は、綱手様のような医療忍者になることです。よろしくお願いします」

 

 アヤメは丁寧に挨拶した。この返答に男はどうやら満足したらしく、先程とはうって変わって、普通の笑顔になった。

 

「じゃあ、次はキミだ」

 

 最後に残った赤髪の男の子は、巻いていなかった額当てを取りだし眺めた。ぼろぼろで、下忍が持っているものとは、少し古びているように見える。

 

 男の子はその額当てを額に強く巻き付け、大きく深呼吸した。それを男は不思議そうに見て、口を開いた。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

 

「緊張じゃないですよ」  

 

 男の子は冷静にそう言い放った。そしてそのまま続ける。

  

「俺は、うずまきウシオ。目標は、三代目や四代目よりも、凄い火影になること。それで・・・」

 

 上忍の男の目を見据えながら、大きく覇気のある声で述べる。

 

「大切な人を守る。その人の笑顔のために、俺は戦い続けたい・・・たいです」

 

 ウシオは自分が上忍に対し、失礼な言い様をしていることに気付き、咄嗟に敬語に直した。取って付けた様な感じになったことは、見ればわかるだろう。

 

「流石は、木ノ葉の赤き雷鳴。言うことが違うねぇ」

 

 カズラがウシオを茶化したように言った。ウシオはそれに対し、照れながら不機嫌そうに言った。

 

「うるさいぞいじめっこ」

 

「な、なんだとぉ!!」

 

 その時、強い風が四人の間を抜けて行った。木の葉を巻き込み、天高くへと昇っていく。ウシオ以外は気にしていないようだが、ウシオだけがその行く末を見ていた。風は大気に混じり、姿を消していく。それに応じて、木の葉もヒラヒラと舞い落ちていく。

 

 ウシオの表情は晴れやかだった。二人の英雄から託された火の意思を胸に、彼はこれから生きていく。恐らく、数々の試練が彼を待ち受けているだろう。しかし、そんなことは関係なかった。託されたのは、火の意思だけではない。守るべき小さな命。前の世界では絶対に持つことが出来なかったものを彼はもっているのである。

 

 父さん、母さん。俺は、大丈夫だ。

 

 ウシオは心の中で、自分に刻み込むように呟いた。空から視線を戻し、談笑している三人に加わった。

 

 雲ひとつない青い空がどこまでも続いている。太陽は燦々と輝き、未来へと歩く四人を照らし続けていた。




みなさん、お久しぶりです!
Zaregotoです。

前回の投稿からかなりの時間が経ってしまいました。
というのも、九尾復活から封印までの描写が、まったく想像できなかったからです。

書いては消し、書いては消しの繰り返しで、やっと固めることができました。いや、固まってるかどうかは、分かりませんが。
あの場所に主人公がいたらどうなっていたのか?
ということを考えながら書いていたわけですが、それがまったく分からなかったのです。
そもそもナルトの出産は、原作でも数話くらいしかありませんからね。

ミナトとクシナが生き残る、という案も出ましたが、ボツになりました。二人が生きてると、結構グダるかなぁと思いまして。結末は原作同様、ナルトを残して死亡。ただ、主人公の前で親という存在でいるために、原作とは少し描写を変えました。九尾に貫かれるとか、そのあとのクシナの長台詞とか。
そこは、ナルトには主人公がいるから大丈夫だ、という安心感を持っているからこそ、原作とは違い、一緒にいたい、だとか、ミナトに、どうしてこの子が~みたいなことを言わなかったことにしました。

というかもう、あとがきでも何を言えば言いかわからないくらいです。

さて、これで幼年篇は終了となります。次は少年篇ということで、下忍になったころからスタートするつもりです。その間に、番外編を挟むかもしれませんが、それも含めて楽しみにお待ちください。

ではみなさん、お待たせして申し訳ありませんでした。みなさんの暇を潰せるような作品になるように、日々努力していきますので、これからもよろしくお願いします!


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