白髪の少し老いた男がミナトの持っている本を見て、嬉しそうな表情になり、照れを隠しながらミナトの背中を叩いた。
「おお!ワシの『ド根性忍伝』を読んでくれておるのか?!いやしかし、処女作だし、まだ文章も稚拙で、出来もよくないんだがのぉ」
「いや、そんなことはないです!この物語は素晴らしいです」
そう言って、持っている本を眺めた。
「今度産まれてくる子供も、こんな主人公みたいな忍になってくれたらいいなって!」
持っている本をゆっくりとテーブルに置いた。
「だから、この小説の主人公の名前、頂いてもいいですか?」
その言葉に、白髪の男性、伝説の三忍である自来也は目で驚きの感情を表した。そしてすぐに我にかえったのか、慌てて身振り手振りを交えながら話始めた。
「お、おい。そんなんでいいのか?!ラーメン食いながら適当に考えた名前だぞ」
そう言っても、ミナトの決心は固く揺らがなかった。そしてミナトの後ろから、お腹の大きくなったクシナが現れた。
「クシナ・・・」
現れたクシナに対し、自来也はボソッと呟いた。
「『ナルト』」
優しく微笑みながらクシナはそう言った。そしてまた告げる。
「素敵な名前です・・・」
クシナはそう述べ、優しくお腹を撫でる。自来也は気恥ずかしそうに、わちゃわちゃと手を動かしながら口を開いた。
「じゃ、じゃあワシが名付け親かのぉ!ガハ、ガハハハハ!」
最後には大声で笑い、ミナトとクシナも一緒になって笑っていた。
「二人目、か。ウシオも兄貴になるんじゃのぉ・・・。感慨深いものがあるわい」
自来也はこの家にいるもう一人の子供のことを思い浮かべた。クシナのように赤い髪、ミナトのように青い瞳。本当に二人の間で産まれたような子だ。砂との国境付近で発見された彼は、二人の本当の子供のではない。幼いながらも忍の才に溢れ、将来を有望視されていた。
「ええ。だから俺も父親として、もっと大きくならないといけないな、と思いまして」
「そうか、あれからまだ立ち直っとらんのか。まぁ仕方がないと言えば、仕方がないことなんじゃがのぉ」
尊敬する人を失い、失意の念に苛まれているという。久しぶりに木の葉に帰ってきてからまだ、一度も会っていないが、これは早く会ってやった方がいいのかもしれん。いや。ここはミナトに任せた方がいいか。こいつも二人の父親になるのだから。
「しかしあれじゃぞ?二人ってのは、案外疲れるもんじゃぞ?弟の世話ばかりしていたら、兄貴が嫉妬するかもしれんからのぉ」
「大丈夫ですよ、先生。ウシオは、分かってますから。必ずこの子のいいお兄さんになります」
「必ず、か?」
「必ず、です」
真剣な表情でそう述べた。
ミナトもいい男になった。自来也はしみじみとそう思った。
「『親父』がそう言うんだから、そうなるんじゃろうのぉ。じゃが案外、クシナの方が根を上げるかもしれんのぉ?」
「え?なんでですか?」
クシナは不思議そうに首をかしげながらそう言った。自来也はニヤニヤしながら続ける。
「赤ん坊っちゅーのは、一筋縄じゃいかん。気が短いクシナのことじゃ。ギャアギャア泣く赤ん坊を・・・」
何が言いたいか分かったクシナは、徐々に髪の毛を逆立たせながら、拳をグーッと握り、口を開いた。
「そ、そんなことしないってばね!」
「ガハハハハ!冗談だ!」
また豪快に笑い飛ばす自来也。それを見るミナトは、困ったように笑っていた。
「ところで、ウシオはどこにおるんじゃ?今日のアカデミーは休みだったはずじゃが」
「買い物に行ってもらってます。前まで、少し距離が開いていたんですけど、お腹の子の話をしたら少しはましになってくれたみたいで・・・。前のようにまた、笑ってくれるようになりました」
そう言うクシナだったが、表情は暗い。
「そうか。久しぶりに会いたいんじゃがのぉ」
それを聞いたからかどうかは分からないが、ミナトは自来也がそう言うと、座っていた席からかばっと立ち上がった。
「俺、迎えに行ってきます」
「そうか?急ぐ必要はないんじゃが・・・」
「先生はお忙しい人ですから。それに、二人だけで話したいこともありますし」
ミナトはそう言うと窓の外を見やった。雲ひとつない快晴だ。それと同じように、ミナトの顔も晴れやかだった。
********************
「人参、玉ねぎ、ジャガイモ・・・。一通り買うものは買ったな」
ウシオは買い物袋を下げ、持っている紙を見た。どうやらお使いも終わり、あとは帰るだけのようだった。
「早く帰るか。でもなぁ。自来也先生が来てるらしいから・・・」
ウシオは自来也が苦手だった。自分の師匠が大蛇丸であることも理由だが、そもそも性格が合わない。
「思えば、ナルトみたいな人だよなぁ。というか、もっと原作読んどけばよかった」
ウシオが前の世界で読んだNARUTOは、恐らく木の葉崩しあたりまで。三代目火影が戦死したあたりだ。それを防げれば、と思い、大蛇丸に弟子入りしたって言ってもいい。だが、もう大蛇丸はいない。四代目の座を取れないと、すぐに里抜けしてしまった。
里抜けは犯罪だ。木ノ葉はどうか分からないけれど、確か霧隠れには抜け忍暗殺専用の忍、追い忍がいると聞く。それもそのはずだろう。里に不利益を生む情報を流しかねないのだ。里としてはそれは避けたいはずだ。
「・・・ん?」
いろいろ考えてるうちに、ひとつの疑問に行き着いた。
そう言えば、なんで三代目火影なんだ?父さんが四代目になったはずだ。だったらそれを対処するのは父さんでいい。
「本当に、もっとマンガを読んでおけばよかった。あの頃は無駄なものとしか見てなかったからな」
確か原作では三代目が大蛇丸の対処をしていた。でも、そうか。あっちはフィクション。俺からしたらこっちがノンフィクション。少しくらい、歴史が変わることもあるだろう。
「帰ったらすぐに出て、シスイに修行をつけてもらおう。今日は確か、オフだって言ってたからな」
せっかくの休みに修行の手伝いをさせるような非情な考えはさておき、ウシオは急いで帰ろうと思った。早く帰らないと、二人が心配する。
シスイとの一件があってから、ウシオは考えを改めた。まだ完全には許しちゃいないが、俺も譲歩することにしたのだ。
譲歩といっている時点で、何かが違う気がするけど。
「ウシオくん」
不意に背後から声をかけられたので一瞬身構えてしまった。だが、声の主が誰かすぐ分かったのでそれを解く。そのまま、ゆっくりと振り向いた。
「アヤメさん」
そこには長い黒髪をひとつに縛って、ポニーテールにした少女な立っていた。
霧切アヤメ。アカデミーの先輩で、カズラの同級生だ。
アヤメはゆっくりと近寄って、ウシオの前で静止した。
「何してるの?こんなところで」
「こんなところって・・・ここ結構大通りだと思うんですけど」
「あ、そっか」
軽率に言ったことに対して少し恥ずかしがるアヤメ。ウシオが手に持っているものを見てハッとした。どうやら何をしているか分かったようだった。
「お使い?」
「えっと・・・はい」
「えらいねぇ。みんな休みを満喫してるのに」
お使いって言葉と、ガキみたいに誉められたことに少しだけムカッとしたが、実際ガキだったし、アヤメには一切悪気がないことは分かってるのでスルーした。
「ウシオくんって、修行の虫だって聞いたことがあるんだけど、ちゃんと親孝行もするんだね!エライ!」
「それは、母さんが・・・」
「お母さん?」
瞬間、ウシオは自分が言おうとしていることが、いけないことだと気がついた。母さんが妊娠してることは、基本的に口外できないのだった。
母さんには、九尾の狐という獣が封印されている。尾獣と呼ばれるそれは、戦争の道具にされかねないため、多くの忍から目をつけられていた。ヒルゼンじーちゃんとビワコばーちゃん曰く、出産時にその封印が弱まるのだという。初代の奥さん、ミト様がそうだったらしい。このことが他里の忍にばれでもしたら、起こってはならないことが起こるかもしれない。
ウシオは二度と、バケモノに大切な人を失わされたくなかった。父さんが四代目になる少し前、その尾獣絡みの件でリンが死んだ。霧に誘拐され、尾獣を封印され、死んだとされている。まだ子供の俺にはあまり言ってくれなかったが、こっそり聞いていた。
しかし心の穴はそれほど広がらなかった。オビトの一件が大きすぎて、リンのことが追い付かなかったからだ。悲しくない訳じゃない。寧ろもっと悲しんだ。より深く、力に傾倒するようになった。
「ウシオくーん?」
「・・・・・・え、はい?なんです?」
「大丈夫?ボーッとして」
「はい。大丈夫ですよ」
「そう?」
アヤメは本気で心配してくれていた。ウシオの顔を覗きこみ、無事であることを確認すると晴れやかに笑った。生命力の溢れた笑顔に、少しだけ眩しさを覚えた。
俺の周りに集まる人はこういう人ばかりだ。母さん然り、リンさん然り、アヤメさん然りだ。ホントに、目が痛くなる。
「そういえば、カズラくん見なかった?」
「カズラ?」
「ええ」
アヤメはカズラを探しているようだった。目的はなんなのか分からないけれど。
「見てないな」
「そう。今度こそウシオに勝つ!って意気込んでどっか行っちゃったのよ」
「アヤメさんは、カズラと一緒にいたんですか?」
「そうなのよ」
そう言って、アヤメは近くにあったベンチに座った。そしてウシオを手招きして促した。ウシオは渋々だがそれに従った。
アヤメはその状態のまま、少しの間ボーッとしていた。ウシオがそれに戸惑いながらチラチラとアヤメの顔を見ていた。
少したって、アヤメはゆっくりと口を開いた。
「・・・カズラくんね、君と出会って変わったのよ」
「アイツが?」
「ええ。私、彼とは幼なじみなんだけど、昔から乱暴で理不尽で、いじめッ子の象徴みたいな存在だったの」
「今でも変わんないと思いますけどね」
「うふふ・・・。そうね。でも、私だから分かるのかな」
アヤメは、優しそうな表情で微笑みながらそう言った。
「プライドだけは一人前で、昔から誰かに因縁つけては喧嘩。苦戦することはあっても、負けることはなかったの」
「アヤメさんの世代は、期待できないですね」
直球で悪態をつく。それでもアヤメは嫌な顔ひとつしなかった。
「だけどあなたと出会って、ボロボロに負けて、初めて膝をつかされてた。影から見てたけど、少しだけ嬉しかったのよ?・・・それから、君に勝つためにいろんな修行をして」
確かに、カズラは強くなっていた。初めて喧嘩したときは、ただの喧嘩だったが、今は決闘になっている。ちゃんとした戦闘ができていたのである。
「だからありがとうって、ウシオくん」
「感謝を言われる筋合いはないです。俺は適当にあしらってるだけだから」
「それでも、ありがとう。カズラの目標になってくれて」
アヤメは心の底からそう思っているようだった。ウシオに向けている目がそれを証明する。
目標、か。そんなつもりは全くなかったんだけどな。ただ、途中から楽しくなっていたことは事実だった。そう思いたくないけどな。
「・・・・あ!」
アヤメが俺越しに何かを見つけた。ウシオは一度アヤメの顔を見ると、次はアヤメの目線を追った。
「四代目火影様!」
そこにいたのは、父さんだった。
「やぁ。君はウシオの友達かな?」
「は、はい!霧切アヤメです!アカデミーの先輩で、友達です!」
ミナトはゆっくりと近付いて、アヤメに微笑んだ。
「アヤメちゃんか。ありがとう、これからもよろしくね」
「は、はぃ・・・・」
語尾が消え入りそうになるアヤメ。顔を見ればミナトにメロメロになっていた。
「ウシオを借りてもいいかな?」
「え?いやその、私が決めることじゃないというか」
そう言って、アヤメはウシオの顔をちらりと見た。
「どうしたの、父さん」
ウシオはボソッと呟いた。
「いや、少し話そうかと思ってね。大丈夫かな、ウシオは」
「あぁ、うん。・・・大丈夫だよ」
すぐに承諾したが、顔はそう言っているわけではなかった。少しだけ不貞腐れているようにも見える。ミナトはそれを見て微笑んだだけだった。
「じゃあアヤメちゃん。またね」
「またアカデミーで」
「は、はい!お仕事頑張ってください!」
ウシオとミナトは、アヤメに別れを告げると、よく修行を積んだあの練習場へと向かった。
***************
練習場に到着した。火影の顔岩が木の陰から少しだけ顔を出している。ミナトは、ウシオを背にしてそれを眺めていた。
「話ってなに?父さん」
ウシオはたまらず口を開いた。ミナトはそれに振り向かず話始めた。
「クシナと初めて会ったとき、すごい人がやって来たぞと思ったんだ」
ミナトは答えになってないことを述べ始めた。ウシオは不思議そうな顔をして、何も言わずに聞いていた。
「木ノ葉で初めての女性の火影になってやる!ってね。自分の名前を言ったあと、急にそう宣言したんだ。彼女の目は、冗談なんかじゃなかった。だから俺も堪らず言ったよ。僕は皆に認められる立派な火影になりたい、と」
母さんらしい。それに父さんらしい。性格は対照的だけど、根は同じ二人だからこそそう言えたのだろう。
「そして、俺は火影になった。今までたくさんのことがあったけど、みんなのお陰でここまで来れたんだ。それに、あの時クシナに出会ってなければ俺は・・・。ははっ・・・。やっぱり彼女がいなかったら俺はどこかで死んでいたろう」
笑いながらこちらを振り向くミナト。そのあと、ウシオの目をしっかりと見据えた。ウシオは耐えきれず、視線を反らす。
「そして、君と出会ってなかったら、俺は火影にはなれなかったろう」
ウシオは反らしていた視線を戻し、驚きの表情を向けた。
「覚えているかい?君がまだアカデミーに入学する前、初めて三人一緒に誕生パーティーを開いたろう。それまで三代目様ご夫婦に任せていたから、クシナ張り切っちゃってね・・・。そこでケーキの火を吹き消した後、俺に向かってこう言ったんだ」
『父さんは絶対火影になってよね・・・』
『ウシオも火影になりたいんだったね。でもどうしてだい?』
『どうしてって・・・そりゃあ、目標の壁が大きければ大きいほど、男は燃えるもんだろ!俺は、父さんが火影になった上で、父さんよりも凄い火影になるんだ。だから父さんは、絶対火影にならなきゃならないの!』
『んー!さすが私の子!おいで!チューしてあげるってばね!』
『や、やめろよ母さん!!』
しみじみとミナトは思い出していた。
そう言えば、そんなこともあったな。あの頃はこの世界に慣れるのに必死だった。そのときこの世界の凄惨さ、俺のいた世界がどれほど恵まれていたか思い知らされたっけな。だから余計に、忍の凄さとか、火影の偉大さとかを感じてたっけ。
「こんなに小さな命が、俺を目標に、越えるべき壁として見てくれてるなんてね。感動したんだ。俺は父親になったんだって」
ウシオは悲しそうな顔になりながらも、ミナトの話を聞き続けていた。
「それに思ったんだ。息子に越えられるのも悪くないってね・・・。だから」
そう、ミナトが口にすると彼は彼の使用している特製のクナイを構えた。
「勝負だよ!ウシオ」
そんな行動を取ったミナトに、ウシオは動揺の色を隠せなかった。
「はぁ?!いきなり何言ってんのさ!」
「だから勝負だって!君も本気で来なさい。俺も、本気で行くから」
そう言うと、ミナトは構えたクナイをウシオに向かって投げた。ウシオはそのクナイを易々とかわした。かわされたクナイは、ウシオの後方にある大きな木に突き刺さる。ウシオはすぐにその突き刺さった方向を見やった。
だって、このクナイは・・・。
「飛雷神の術・・・」
「ん!そうだね」
ミナトの持つ特注のクナイには、ミナトが時空間忍術を使用する際に使われるマーキングが施してある。瞬身の術と似ているが、少し違うらしい。
よく分からないけど、瞬身の術は単なる高速移動。二代目火影が開発した飛雷神の術は、場所から場所へワープする高等忍術だ。
「どれだけ早くても、一ヶ所だけなら対策は出来る!」
「そうだね。でも本気でいくと言ったろう?」
そう言うと、ミナトは残り全てのクナイをこの場所のいたるところに投げていった。
「これで俺の速さにはついてこれないよ。さあ、どうするウシオ」
どうやら、本当に本気らしい。というより、やっぱり今までは本気じゃなかったのか。
「関係、ないね!影分身の術!」
ウシオは5人に分身した。ただの分身ではなく、実体がある。5人は全てミナトの方へと向かった。
重い攻撃がミナトにヒットしていく。ミナトは1発1発を的確にいなしていく。その中でミナトも攻撃を当て、影分身を消滅させていく。影分身がいなくなり、本体がミナトの掌底を受けてしまった。後ろに飛ばされたウシオは、空中で一回転し衝撃を軽減させた。
着地したウシオは影分身を1人作り出し、2人で印を組み出した。そして2人は別々の忍術を放つ。
「風遁・大旋風!」
「火遁・流火の術!」
2人のうちの1人が練習場の中心に大きな竜巻を発生させた。残りの1人はそこに火遁の術を叩き込んだ。風遁で威力を増した火遁が、大きな火の竜巻となった。さらにそこに、残った影分身が持っている忍具を片っ端から投げ入れた。
「「灼遁・爆風武具乱舞!!」」
五遁の性質をよく理解した、よくできた術だ。さらにこれは、両方の術の威力を同じ比率にしなければならない。正確なチャクラコントロールがなければなし得ないだろう。
ミナトは素直に感心していた。そして、強くなる息子に対し、興奮が止まらなかった。
炎の竜巻は回転しながら忍具を吐き出していった。ミナトは飛雷神の術で炎を避け、さらにクナイで飛んでくる忍具を弾いていた。
「・・・!?」
弾いていた最中のミナトの背後に気配が忍び寄っていた。ミナトはすぐにそれに気付くが、敢えて避けようとはしなかった。
「決まりだ、父さん!」
「ウシオ、勝利を確信したいときは心の中だけでしなさい。自惚れは禁物だよ!」
ウシオの影分身たちの攻撃がミナトにヒットしたかと思うと、ミナトは同時に消えてしまった。
「影分身だと。いつの間に?!」
ウシオが驚愕の声をあげていると、今度はミナトが上から攻撃を仕掛けた。影分身1体1体に攻撃を繰り出す。ミナトはこの中に本体がいるだろうと思っていたが、そこにいたウシオはすべて消えていった。
「水遁・水浸の術」
竜巻が収まったころミナトとは、ちょうど竜巻があった場所を挟んで向かい側にウシオはいた。ウシオは水遁の術を吐き出していた最中だった。辺り一面が水浸しになる。
「痺れろ!雷遁・電電六刺!」
水遁を放ったウシオの上からもう1人ウシオが。ウシオは、また影分身を作っていたのだ。上のウシオは、6つの槍状の赤い電撃を放つ。水面に着水すると、電撃は先程より速いスピードでミナトの方へ迫った。すでに下にいたウシオは、影分身だったらしく電気に感電し、すぐに消えていた。
「火遁に風遁、水遁、それに雷遁まで・・・。4つの性質を使いこなしているなんて・・・」
本来自分にあった2つの性質を使えれば戦闘においては問題ない。修行次第ではそれ以上の性質を扱うことができる。三代目火影は全ての性質を扱える。ゆえにプロフェッサーと呼ばれているのだが、ミナトの目の前にいる少年はそれにリーチをかけているのだ。
ミナトは飛雷神の術で後方にあるクナイへと転移した。しかし、ウシオはそれを見逃していなかった。
「悪いけど、それだけじゃないんだ、な!」
ウシオは止まっているミナトに手裏剣を投げた。ミナトはそれを弾こうとするが、その手前で手裏剣は煙と共に姿を変える。ウシオの姿になった手裏剣は、ものすごい速度で印を組んだ。
「影分身を手裏剣に変化させていたのか・・・!?」
「土遁・岩固めの術!」
地面の砂が盛り上がり、ミナトの方へと向かっていく。ゼロ距離に近い距離で砂がミナトの足へと向かい、足を固めてしまった。
「しまっ・・・?!」
ウシオは動きが止まったのを見逃さず、立て続けに術を放った。
「火遁・豪火球の術!」
火遁の術をそのままゼロ距離でミナトに放った。
「くっ・・・!」
ミナトは飛雷神の術ではなく、瞬身の術でその場から逃れた。飛雷神の術式が施されたクナイは、全てウシオの影分身が破壊していたからだ。ミナトはそれに気付いていた。気づいていなければ一瞬行動が遅れ、火遁が命中していた。
しかし、土遁で動きを制限されたミナトは、遠い距離までは瞬身できなかった。
「どうしたんだよ父さん。防戦一方じゃ、俺を倒せないぞ?!」
「そう、だね。一気にいくよ!」
そう言ったミナトは、手を目の前に構え、掌を空に向けた。
「何の、術だ?」
ウシオはこれを見たことがなかった。印を組んでいないため、五遁の術ではないだろうが。
次の瞬間、ミナトの掌にチャクラが形成される。クルクルと乱回転し、チャクラの塊は球体に変化した。
「螺旋丸!」
「螺旋丸?」
あれはまずい。
小さな玉だが、高密度のチャクラがあの中で乱回転していた。
身構え、次の行動へと移そうとしたウシオは目を疑った。ミナトの姿が消えていたのだ。しかし、ミナトのクナイは全て破壊した。瞬身で飛べる範囲は、土遁によって制限されている。
大丈夫。
ウシオは冷静に判断し、次の行動を起こそうとしたが、それは止められた。目の前に現れたミナトが、ウシオの腕を掴んでいたからだ。
「なっ・・・?!」
いつの間に?!
これは明らかに飛雷神の術だった。ウシオは、気配を感じ取れなかったからだ。
「終わりだよ!」
ミナトは片手に持っている螺旋丸をウシオに当てる。
「くそっ・・・!!」
ウシオは咄嗟に目をつむってしまった。しかし、衝撃はいつまでたってもやってこない。恐る恐る目を開くと、螺旋丸はウシオの目の前で止まり、徐々にその威力を落としていた。
「俺の勝ちだね」
ミナトは掴んでいる手を離し、螺旋丸を消滅させた。ウシオは緊張の糸が切れたのか、その場に尻餅をついて座り込んでしまった。
「負けたよ。でもいつの間に・・・。そうか、あのときか」
最初体術で攻撃を仕掛けようとして、逆に返り討ちにあったときだ。本体が攻撃されたとき、ウシオの体に術式をマーキングしていたのだった。
「完敗、か」
「そんなことないよ。君は、本当に強くなった。まだまだ子供だと思っていたのに、ここまでやるとは。やっぱり君は天才なんだね」
ミナトはニコリと笑って、ウシオに手を差し伸べた。差し伸べられたウシオは一瞬躊躇したが、ちゃんと手を掴んだ。ウシオはミナトに立たせてもらう。
ニコニコと笑っているミナトを見て、ウシオは笑みをこぼした。
ウシオは本気だった。今出来ることをすべてやった。だが、目の前の男は息すら上がっていない。
「やっぱり、父さんには勝てないや。さすが俺の父さんだ」
「息子が天才だと、父親は大変なんだよ?ちゃんと俺も修行の成果が出たね」
「父さんも、修行を?」
「当たり前だよ。俺はまだまだ弱い。救えた命もあるけど、救えなかった命の方が多いからね」
そう言って表情を暗くさせるミナト。おそらく、オビトとリンの事を言っているのだろう。
「ごめん」
「・・・なんで父さんが謝るんだよ。仕方がないだろうが。戦争だったんだ。人が死ぬのは、当たり前だから」
ウシオは俯きながらそう言った。ミナトはそんなウシオを見て呟く。
「もっと早く君と話せばよかった。・・・怖かったんだ。そんなこと思っている場合じゃないのにね。・・・こんなこと言ってたら、クシナに怒られる」
「俺も怒るよ。父さんは、俺の、目標なんだ。どんなことがあっても。それは、救われたときから変わらない。俺をここまで育ててくれた父さんだから、だからこそ、俺は父さんを越えたい。父さんを越える忍に、火影になりたいんだ」
俯いているウシオの頭を、ミナトは優しく撫でた。
「許してくれとは言わない。どんなに嫌われてもいい。だけど、これだけは覚えておいて」
そう言ったミナトを、ウシオは見上げた。優しさの中に強さが見える表情のミナトの目をはっきりと見据えた。
「俺は、どんなときも、いつまでも、君を、愛している」
ウシオの心臓がドクンと高鳴る。身体中が熱くなり、その熱は目までやって来ていた。大粒の涙を溜め、歯をくいしばる。
「うっ・・・うぅ」
ウシオは恥ずかしげもなく、顔中から水分を垂れ流す。そして絞るように言葉を発した。
「オビト兄ちゃんが、リンさんが、死ん、だんだ。もういないんだ。もう会えないんだ」
「うん・・・うん・・・。でも君は生きている。だから俺は、君やクシナ、お腹の子を絶対に守る。父親だから」
そう言ってミナトはウシオを抱き締めた。ウシオは誰の目も憚らず、わんわん泣いた。
ひとしきり泣いたあと、ミナトは呟いた。
「赤き雷鳴」
突然言ったことに少し驚いて、ウシオはミナトから離れた。
「なに?赤き?」
「さっきの雷遁を見て思ったんだよ。俺は木ノ葉の黄色い閃光で、君は赤き雷鳴。うん、カッコいい!」
「そ、そうかなぁ?」
父さんのセンス、中学二年生のソレと似かよってるんだよなぁ。
ウシオは涙でぐちゃぐちゃになった顔で、心の底から笑った。
そう言えば、こんなに笑ったのは久し振りだなぁ。
日が落ちて赤く染まりだした空の下で、2人の親子が笑い合う。心情を吐露したおかげで、2人はやっと本当の意味で、親子になれたのだ。そんな彼らを、夕日は自分が沈んでいくまで、キラキラと照らしていた。
どうもみなさん、zaregotoです。
主人公とミナトがやっと和解しました。というより、ミナトが主人公を救った感じですかね。親のいない彼初めての親子喧嘩です。だからこそ、こういう描写はちゃんと書きたかったんですよね。本当はここでナルト出産までやりたかったんですけど、主人公の本気を見せたかったのでそれは次に回しました。
前話でシスイには家族がいない、戦争で死んだみたいな話をしましたが、どうやら家族がいたようです。イタチの小説でそういう話が出ていたようで、感想をくれた人が教えてくれました。今さらですので、ここでは死んだことにしていきます。ご指摘をくれた方には申し訳ありませんが・・・。
主人公は五遁全てを扱います。まだアカデミーを卒業してもいないのにです。チートです。そんなキャラにはしたくなかったのですが、なんか、なっちゃいました。そういうのが苦手な方はご容赦下さい。主人公の得意とする性質変化は、雷遁で、今後はそれを主に使っていくと思います。他の性質ももちろん使いますが。
さてみなさん。次はいよいよ九尾襲来です。震えて待て!
では!