「イタチッッ!!」
大きな月に照らされたうちはの居住区で、ウシオはシデノから預かったチャクラ刀を振るう。
イタチは、ただ無言でその攻撃を自身のクナイで受ける。
「何故だ!!何故!!」
イタチの万華鏡写輪眼を受けたサスケを背に、ウシオはひたすらに刀を振るう。あたりにはウシオの声だけが響き渡った。
一撃、二撃と、イタチはウシオの攻撃を確実に受けていった。そして、互いの顔を確認できるような位置で、ウシオは怒号を発する。
「何をやってんだお前!!」
「・・・」
それでも、イタチは口を開かなかった。
「っ!!」
イタチの動きを見て、ウシオは後ろに跳躍する。
イタチの顔から、血のように赤い瞳が。
「万華鏡写輪眼」
「アナタに邪魔をされるわけにはいかない」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「お前らの返答次第では、どうなるか分からないぞ」
木ノ葉の重役達に、鳥の文様が施されたチャクラ刀を向けながら、ウシオは言った。
「やめるんじゃウシオ!何をしておるのか分かって・・・」
三代目が諌めようとするが、ウシオの耳に届くはずもない。届いてはいるが、今のウシオには逆効果だった。
「ならアンタは分かっているんだよな!猿飛ヒルゼン!」
ヒルゼンの声を遮り、ウシオは叫んだ。
「イタチに何をしたのか!いや、何をさせたのか!!」
ウシオの絶叫に、ホムラが気圧されながらも反論した。
「貴様、自分がどうなるか分かっておるのか!これはれっきとした反逆行為じゃぞ」
「俺は今、この里の長に話かけてるんだ。何もしない老害は黙っていろ」
ホムラの脅しに、ウシオは最大限の侮蔑を込めて返した。ホムラは歯をギリギリと食いしばり、言葉を収めた。
コハルはただ怯えているのか、何も言おうとしない。
ダンゾウだけは、腕を組み瞳を閉じながら鎮座していた。
「さて、すまなかったな、アタシのツレが」
シデノはウシオを抱えながら、重役たちへ言った。
「本当にシデノ様なのですな」
ダンゾウが初めて口を開く。そして瞑っていた目を開き、シデノへと向けた。
「アタシを忘れたのか?小僧」
ダンゾウへと放った言葉で、辺りの空気がズンと重くなった。
ダンゾウたちシデノを知るものからすれば、少しだけ、腹が立っているときのシデノだ。
ダンゾウは反射的に身構えてしまった。それは他の3人も同様だった。
「どうする?このクソガキを」
シデノは抱えているウシオをドスンと床へと落とした。
「シデノ様、責任は全て私にあります。ですので、気を収めて・・・」
ヒルゼンが冷や汗をかきながらも、口を開いた。しかし、それが逆効果だった。
「あたりまえだろう」
空気が、震動した。いや、正確にはしていない。ただ、ダンゾウへと発した言葉よりも酷く重いものなのは確かだ。
これは、激怒しているときのシデノ。自身の敵へと向ける、敵対の言葉の重み。4人が一度だけ向けられた、死の恐怖。
「だが、起きてしまったことは仕方がない。むしろ、このようなことは当たり前だろう。戦争が終結したとはいえ、戦いがなくなったわけではないからな」
シデノは落ちている自身の刀を拾い上げ、ホコリを払う動作をした。そして、そのまま言葉を続ける。
「一族1つを犠牲にしただけで、大きな犠牲を、未然に防ぐことができた。ああ、これでいいのだろうな」
刀を、鞘から、ゆっくりと引き抜く。
刀身が月夜に照らされ、ギラリと光る。
「だが、アタシは、許せないな」
一瞬の間のあと、シデノはその刀身を、ヒルゼンの首筋へと押し当てた。
「うちはは、マダラのいた一族だ。終わりがああだったとはいえ、あの一族は、この里にとってとても重要なモノだった」
ヒルゼンの首筋からツーっと血が滴る。しかしヒルゼンは気にすることなく、シデノの言葉を聞き続けた。
「もし柱間が生きていたなら、恐らくこんなことにはならなかったろうよ。自分一人でうちはへ行き、土下座しながら言うだろうな。お前たちの悲しみや苦しみ、気づいてやれずすまなかった!ってな」
「扉間ならもしかしたらあり得るかもしれない。だがな、半世紀以上も年の離れた子どもに、自身の親や親戚、友人を殺させることは絶対にしない。そうならないように、アイツら兄弟は戦って死んだんだのさ」
「もしお前たちの中に、お前たちと同じように人生を歩き、年を取り、平和を生きた奥村サクがいたなら、こんなことにはなってなかったんだろうな。本気で怒るだろうな」
シデノは頭をポリポリと掻きながら続ける。
「悪いがな、柱間はこの里を、お前たちのような上でふんぞり返る老人を肥やすために、作ったんじゃないぞ。扉間だってそうだ。本当の意味での平和を生むために、忍里という共同体を作ったんだ」
「もし、もしだ。お前たちが、アタシたちが作り上げた里を、そんな堕落したものにしたのなら、アタシは全力で、お前たちを殺す。息づく間もなく、無惨に、残酷に、苦しみを与えて、お前たちを殺す」
「まああの頃アタシは、こういうのには疎かったからな。親兄弟のいないアタシにとっちゃ、そんな苦しみどうでもよかったが、今なら少しだけ分かるさ」
「猿」
「責任を取れとは言わない。このウシオには話してしまったらしいが、うちはの小僧は他言せずに里を抜けて行った。なら、お前たちは結果を残せ。あの小僧が、命を賭けて防いだ平和だ。その命の上に、お前たちは立っている」
「ウシオは連れて行く。アタシが一人前の忍にする。それに今のこいつなら、マダラと同じことをしかねないからな」
「そうだ。最後に」
「ダンゾウ。扉間を真似ても、所詮お前に火影の器はない。だからお前は、あの時選ばれなかったのさ。今でもそうだ。この場にアイツがいたなら、真っ先にお前を討つだろうよ」
ダンゾウは眉を顰める。そして袖の中を弄り、自身のクナイを握った。
「貴女に言われる筋合いはない」
「アタシだからこそ言えるんだろう。傍から見ていてお前たちの考え方は大人のそれだ。アタシは、まだ子どもなのさ。だから」
瞬間、ダンゾウは袖からクナイを抜き、投擲までの動作を行った。いや、行おうとした。
「この場でお前を、殺すこともできる」
シデノの刀の刃がダンゾウの首筋で鈍く光る。
一瞬の間に、シデノは机の上まで移動し、刀を抜き、それをダンゾウへと向けていた。
「・・・・・・」
冷酷に光るシデノの赤い瞳が、ダンゾウの濁った瞳を捉える。
「お前の目は、あの時と何ら変わりない。決意のない、凡人の目だ」
そしてシデノはゆっくりと刀をダンゾウから遠ざける。そのまま腰元の鞘へと納めた。
「安心しろよ。お前だけは殺さない。それは、この小僧に残しておく。・・・この小僧はいずれ、扉間をも超える忍になるだろう。そうなった時、小僧自身に選ばせる」
「私が負けるとでも?」
ダンゾウが表情を変えずに言った。シデノは口を歪めて笑いながら返した。
「ああ。負けるさ」
話しながらシデノはウシオを見やる。
「コイツは扉間に似ているからな」