うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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 少年が森の中を駆ける。

 

 辺りはまだ薄暗く、ちゃんと日も上っていなかった。狭い視界の中、背後に気を配りながら走り続ける。

 

「ハァッ・・ハァッ・・・クソ・・・」

 

 ジャンプして木の上に飛び乗る。そこから辺りを見回す。

 

 見回しても、何も見えない。見えているのは大きな木、木、木。

 

 少年は勝ちを確信する。

 

「よし、勝っ・・・」

 

「残念、君の敗けだよ!」

 

「うわっ!」

 

 背後にいきなり現れた人影に驚き、そのまま木の上から落ちそうになってしまう。それを、現れた人影受け止める。

 

「おっと!」

 

「わっ・・・ありがとう、父さん」

 

「最高記録だね、でもまた俺の勝ちだ」

 

 少年が父さんと呼んだ人物が、勝ちを宣言した瞬間、少年はニヤリと笑った。

 

「そうだな、俺の(・・)勝ちだ」

 

「え?!」

 

 父さんと呼ばれた男は驚きの表情を浮かべる。次の瞬間、少年の姿はポンッと言いながら消え去った。

 

「これは、影分身?!ウシオ、いつの間に」

 

「もらった!」

 

 少年はクナイを構え、男の上に飛びかかった。

 

「でも、甘いよ!」

 

「な!?」

 

 今度は男の方の姿が消え去った。次の瞬間、少年の背中に手を起き、そのまま押さえつける。

 

「ぐえっ・・・!」

 

「残念だったね」

 

********************

 

「また負けたよ」

 

「そうだけど、ウシオ、とてもいい動きだったよ。それに影分身なんていつの間に覚えたんだい?」

 

「秘密だよ。それに瞬身の術は卑怯だろー?」

 

「忍の世界にそんなことは通じないぞ?」

 

「だったら今度は瞬身の術を教えてよ!」

 

「また今度ね、俺はこれから任務だ」

 

 木の葉の演習場で、二人の人影が談笑していた。

 

 一人は木の葉の黄色い閃光こと、波風ミナト。俺の父さんだ。6年前、当時の父さんと母さんに拾われてから、なんやかんやあって俺はこの人たちの子どもになった。

 

 さっきまで、ここ毎日の日課である隠れ鬼をやっていた。ルールは簡単。鬼から隠れながら逃げること。捕まったら負け。制限時間内に見つからない、または鬼を倒すことが出来れば勝ち。

  

 今まで一度も勝ったことがないけど。

 

「ケチ!父さんは俺が父さんより強くなるのが怖いんだろ!」

 

 ウシオは頬を膨らませながら反論した。

 

「そうだね、でも少し嬉しい、かな?」

 

 ミナトはウシオを見つめながら笑顔でそう言った。そしてそのまま手をウシオの頭の上へ置き、優しく撫でた。

 

「え?なんで嬉しいの?」

 

 ウシオは不思議そうにミナトを見上げる。

 

「秘密だよ!じゃあ帰ろうか!」  

 

「えー!?」

 

 ウシオは残念そうな表情を浮かべ、ミナトの顔を見つめた。

 

 

 もう、あれから6年か。 

 

 

 俺がこの世界に転生してからおよそ6年。それでも、俺が自分のことを思い出してからまだ2年たらずなので、実際にはそんなに時間がたっている感じはしなかった。寧ろ転生したっていうことが夢か何かなんじゃないかって思うくらいだった。

 

 だけど、転生したということは完全に事実だった。それはこの世界の、この場所が物語っている。

 

 木の葉隠れの里。俺の世界ではマンガの中だけにしか存在しない、空想の場所。前の俺は、マンガとか読む方じゃなかったから、うろ覚えだけど。三代目火影とか、カカシ先生とか、エロ仙人とか、そういう人物名は覚えてる。でもマンガの中の年齢じゃないってところをみると、それよりも以前の時代なんだろう。

 

 だからまだナルトは生まれてない。いつ生まれるかも分からない。だからなんだって話なんだけど。

 

 六道のじいさんは、あのとき俺にこう言った。

 

「このままでは、魂がこの世界に合わず消滅してしまう。故に一度この世界の命として転生し、生涯を終える必要がある。さすれば、この世界の魂として、次こそは浄土へと行けるだろう」

 

 つまり、もう一度生きるチャンスを貰ったっていうことだ。

 

 俺を転生させる際に、じいさんのチャクラを少しだけ分けてもらった。ほんの少しだけ。なんだか、じいさんはものすごい人らしく、これ以上渡されると体がついていかないらしい。

 

「儂のチャクラを扱うにはそれ相応の修練を積まなければならぬ。しかし、お主には必要ないじゃろう。そう願いたい」

 

 じいさんの世界にはチャクラってのがあってそれがあるかないかで、その世界の人間か、そうでないかが分かるという。俺は後者で、だからこそこの世界には転生出来ない。だからこそじいさんのチャクラを分けてもらったわけだ。

 

「幼少期からチャクラを練る修練を続けていけば、相応なチャクラ量になっていくじゃろう。さぁ少年、新たな世界で生きるのじゃ」

 

 とかなんとか言ってた。そしてその記憶をおよそ2年前に思い出したわけだ。その六道のじいさんのチャクラがどんなもんかは分からないけどすげぇ人なら、相応の修練ってのを積んで、扱えるようになりたい。だからこそ日夜隠れ鬼、もとい修練にいそしんでいる。

 

「どうしたんだい?ウシオ。帰るよ?」

 

「え、あ、うん!」

 

 俺は父さんとともに今の実家に帰ることになった。

 

********************

 

「そう、ウシオが影分身を」

 

「そうなんだ。最近はめきめき力をつけているよ」

 

 家に帰ると、母さんは朝食の準備をしていた。父さんは任務道具の手入れをしていて、俺は母さんに言われて食器を出している最中だった。

 

「どこで覚えてくるのかしらね」

 

「それが、教えてくれないんだ」

 

「そうなの?・・・ウーシーオー?」

 

 母さんが俺を睨んでくる。

 

「べ、別に悪いことはしてないよ」

 

「悪いことをしてるとは思ってるわけじゃないのよ?アカデミーに通い始めたんだからアカデミーで教えられてることをやりなさいってことよ」

 

「俺がしたいんだからいいでしょ!」

 

 変に反論するとあとが怖いのでこの辺にしておくことにした。母さんは怖い。記憶が戻ってから両親というものがどういうものなのか体感したことなかった自分を思い出したので、距離感というものが掴めずにいたけど、母さんが怖いのは今までの生活で身に染みていた。

 

「まあまあクシナ、ウシオもこう言ってるし、彼がしたいことをさせてあげようよ」

 

「まったく、ミナトは甘いんだから」

 

 確かに父さんは凄く優しい。反対に母さんは凄く怖い。でも修行中の父さんはいつも本気で来るので、それはそれで怖かった。怖いというよりも厳しかったって言った方が適切かな。

 

 それに、母さんは怖いけど、優しい。正反対のものだけどこれ以上に言い表すことができない。母親ってそういうもんなんだろうか?

 

 うずまきクシナ。6年前に父さんと一緒にいた女性だ。俺と同じ赤い髪の毛をした人。赤い血潮のハバネロっていう異名があるのは、彼女がどんな人間かを物語っている。

 

 先ほどから二人を父さん母さんと言っているが、実際彼らは子供を持つような年齢ではなかった。多分20歳くらいだろう。赤ん坊なら分かるだろうけど、俺みたいな6歳児の親でいる年齢ではない。

 

 あのとき、一度三代目火影夫婦に預けられ、俺はそこで育てられた。当時の彼らの年齢は16歳かそこら。今の俺と変わらないくらいの子供だ。三代目火影夫婦の家によく様子を見に来ていたらしい。赤ん坊だった俺はとても喜んだそうな。

 

 確か、俺が4才になる頃に、正式に二人の子供になった。あのときは、記憶が戻って混乱してたからよく覚えてないけど、二人に抱き締められたことは覚えてる。その一件があって二人の仲が急激に進展したのは、また別のお話だ。

 

 まだ若いけど、二人はちゃんと両親をやれている。子供の俺が言うんだから嘘じゃあない。でもまだ、三代目のじーちゃんやビワコのばーちゃんが様子を見に来てるけど。

 

「さ、出来たわよ!ウシオはアカデミー!ミナトは任務でしょ?忍は体が資本!腹が減っては戦はできぬってね」

 

「へーい」

 

「うん。ありがとう、クシナ」

 

「ウシオ・・・ちゃんと返事しなさい」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

 一家団欒。前の世界では味わうことのできなかったことだ。内心ほくそ笑みながら朝食をかきこんだ。

 

「もっとゆっくり食べなさいウシオ」

 

「んくっ・・・、母さんは怒ってばっかだよな・・・」

 

「誰のせいでそうしてると思ってるのかしら??」

 

「まあまあ」

 

 こういうやり取りさえ気恥ずかしさを覚える。前の俺がどれほど寂しい人間だったか、痛いほど感じさせらるな。

 

 俺が食べる手を止めていると、父さんが俺の顔を覗きこんできた。

 

「どうしたんだい?」

 

「え?!いや、なんでも。そ、そういえばさ、今日行く任務地は確か、神無毘橋ってとこなんだよね?」

 

「うんそうだね。それがどうしたの?」

 

 神無毘橋。原作では見たことがない。俺が読んだことないだけかもしれないけど。

 

「オビト兄ちゃんたち、大丈夫かなぁ」

 

 うちはオビト。父さんの小隊に所属しているうちは一族の忍だ。この小隊にあのカカシ先生がいる。

 

「大丈夫だよ。彼らはちゃんとした忍だ。それに、俺もいるからね」

 

「そう、だね」

 

 一抹の不安を覚えつつも、父さんがいるなら大丈夫だろうとそれを振り払った。

 

 そうして、お茶碗を持ち、ご飯をかきこむ。

 

「コラ!ウシオ!」

 

 また怒られた。

 

********************

 

 俺と母さんは、父さんたちを見送るために正門までやって来ていた。辺りはまだ少し暗い。アカデミーはこのあとちゃんと行く。

 

「お、ウシオ。お前も来たのか?」

 

 オビトは俺に気づき、声をかけてくれた。俺もそれに応じた。

 

「よ!オビト兄ちゃん」

 

 しかし、オビト兄ちゃんは母さんを見や否や、不機嫌そうな表情を浮かべ始めた。その後ろにはカカシさんとリンさんがいる。

 

「久しぶりウシオくん」

 

 リンさんは優しいお姉さんって感じだ。カカシさんは原作のキャラが嘘みたいに無愛想だった。

 

「準備はいいね?皆」

 

 父さんが3人の忍に確認する。それに対し、3人は、はい、と返事をした。

 

「それじゃ、クシナ、ウシオ」

 

「うん。皆、しっかりね。頑張ってくるのよ」

 

 俺は母さんの隣で小さく頷いた。

 

 母さんの激励に、カカシさんは微かに頷き、リンさんは、うん、と言いながら答える。しかし、オビト兄ちゃんは、そっぽを向いて不貞腐れている。

 

「あとオビト」

 

「あ?」

 

 母さんに呼ばれたオビト兄ちゃんは不機嫌そうに応えた。

 

「あんたはおっちょこちょいで、慌てん坊で、ドジで、バカで、マヌケなんだから人一倍注意すること!もし怪我でもして帰ってきたら、拳骨じゃすまないからね。いいわね?」

 

 これが母さんの優しさ。色々ひどいことを言ってたけど、それも愛情の裏返しなんだろうな。

 

 オビト兄ちゃんの表情が変わる。

 

「へっ・・・」

 

 ニヤリと笑って、口を開いた。

 

「俺を誰だと思っていやがる?!俺は火影になる男、うちはオビト様だぞ!なんの心配も要らねぇよ!絶対に任務を成功させて、そんで・・・」

 

 一呼吸おいて、また口を開く。

 

「怪我なく皆一緒に、帰ってくる!約束だ!」

 

 そう宣言し、拳を母さんの方へと向けた。母さんは少しだけ驚きの表情を浮かべ、小さく笑った。

 

「うん!約束だってばね!」

 

 母さんがそう言うと、次は二人で笑い合っていた。この二人は本当に仲がいい。魂が似通ってるのか。波長が合うのか。父さんとの仲のよさとは少し違うように見えた。

 

「兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「絶対に帰って来いよ。帰って来ないと俺が火影になってやるからな」

 

「当たり前だ。そういうことを言うのは、俺に勝ってからにしろって!」

 

 どや顔を浮かべるオビト兄ちゃん。実際のところ、実力はほぼ互角というか、なんというか。

 

「オビトが火影になれるんなら、ウシオもすぐになれるから安心しなよ。寧ろウシオの方が早いかもね」

 

「なんだとこらバカカシ、てめぇ今なんつった?あぁ?」

 

「フン」

 

 カカシが横槍をいれる。この二人も仲がいいよな。喧嘩するほどというか。

 

「まあまあ二人とも」

 

 リンさんが二人を制する。

 

「まったく、それ以上やるって言うんなら・・・」

 

 母さんが髪の毛を逆立てながら、拳を鳴らしていた。

 

「い、行こうぜミナト先生」

 

 オビト兄ちゃんは顔を青くしながら父さんに提案した。

 

「ハハハ、そうだね。じゃあ・・・」

 

 今度こそ歩き始めたミナト小隊。オビト兄ちゃんとリンさんは最後まで手を降ってくれていた。

 

 母さんは彼らが見えなくなっても、そこから離れなかった。

 

「母さん?」

 

「ん?」

 

 母さんはこっちを見ずに応じた。

 

「大丈夫だよね」

 

「・・・うん。きっと大丈夫よ。約束だってしたんだから。・・・さ!あなたはアカデミーでしょ!遅刻しないで向かいなさい!」

 

「オッス!」

 

 俺はその場で敬礼し、そのままアカデミーへと向かうことした。

 

 だけど、母さんのあの不安そうな顔は忘れられない。アカデミーへ向かっている今でも脳裏に焼き付いていた。でもオビト兄ちゃんなら、きっと・・・。

 

********************

 

「ウシオー、今日甘味処寄ってかねー?」

 

 アカデミーの授業も終わり、帰り支度をして帰路につこうとしていたところ、クラスメイトに声をかけられた。

 

「今日か?うーん今日は・・・」  

 

 凄く行きたいけど、寄り道は母さんが許さないし、今日は自主練をする予定だったので断らざるを得なかった。

 

「悪いなー、今日は母さんに早く帰ってこいって言われてるんだ」

 

「なんだよつれねぇなー」

 

 不機嫌そうな顔を浮かべるクラスメイトを背に、教室を後にした。教室の外に出ると、まだ生徒たちが立ち話をしている光景がちらほら見えた。

 

 ああいうところはどんな世界でも変わらないんだな。あっちで言うゲーセンやコンビニが、こっちでは甘味処か。時代劇の世界に入ったみたいだ。まぁ、それよりも特殊な世界なんだけど。でも、前の世界では友達なんて一人もできなかったから、誘われるのは少し嬉しいかな。

 

 ウシオは歩きながら一人ほくそ笑んでいた。

 

 ドスン!

 

 急な衝撃にウシオはよろけて、こけてしまった。よそ見をしながら歩いていたため、誰かとぶつかってしまったようだった。

 

「いてて・・・。ごめん、大丈夫だった?」

 

 倒れた方が言うことじゃないかもしれないけれど、よそ見をしていたのは自分の方なので、形式的な謝罪を述べた。

 

「あ?てめぇ大丈夫だった?じゃねぇよ。いてぇじゃねえか!」

 

 不運にもどうやら上級生とぶつかってしまったらしい。太った男子生徒が、倒れていふウシオを睨み付けながら見下ろしていた。

 

「・・・だからごめん、って言ってるじゃないか」

 

「そこはごめんなさいだろ?お前一年だよな?口の聞き方がなってねぇ!」

 

 今度は後ろにいる痩せた男子生徒が言う。回りは何事かと静かに騒ぎ始めていた。無駄な騒ぎにはしたくないので、ここは冷静に従っておく。

 

「・・・ごめんなさい」

 

「それでいいんだよ、てめぇら下級生は、俺らに逆らうんじゃねえ」

 

「・・・・」

 

 手のひらに力が入る。

 

「お前あの黄色い閃光の息子なんだろ?息子がこれじゃあ閃光の武勇も、信用できるもんじゃあねえなぁ!」

 

 ゲラゲラと笑う上級生。そしてそのまま、俺の横を通りすぎていった。

 

 カチンときた。体格も、年齢も現状では下だが、精神年齢は16歳くらいだ。こんなクソガキに、ここまで言われる筋合いはない。

 

「・・・本当にすまなかったな。あんたの体がでかすぎて、避けられなかったよ、・・・デブ!」

 

 すでに俺を通りすぎていた二人の足が止まる。そしてゆっくりとこちらに振り向いた。

 

「・・・あぁ?てめぇ今なんつった」

 

「聞こえなかったのか?デブって言ったんだよ。まさか耳にまで肉が詰まってんじゃないだろうな?」

  

 俺は出来る限りの嘲笑を浴びせた。太った男子生徒は顔を真っ赤にしながら、足を踏み鳴らしこちらに向かってきていた。

 

「てめぇ、ぶっ潰してやる!!」

 

********************

 

「大変申し訳ありませんでした!」

 

 隣で母さんが担任の先生に平謝りしていた。

 

「相手の子は、プライドがどうとかでご両親には言うつもりないらしいですが、出来る限りこういうことは避けてほしいですね」

 

 あのあと想像通り喧嘩になった。結果は俺の圧勝。普段父さんと修行している分、圧倒的に力量では俺が勝っていたのだった。

 

「はい・・・ほら!ウシオも謝りなさい!」

 

 俺はそっぽを向いてそれには応じなかった。

 

「謝りなさいってばね!!」

 

 癪だが、ここは渋々従っておいた。

 

「・・・すみませんでした。もうこんなことがないようにします」

 

「・・・でも流石あなたのお子さんですね」  

 

 先生はクツクツと笑いながらそう言った。母さんは不思議そうにハテナを浮かべている。

 

「赤い血潮のハバネロの噂は、あの頃の僕たちにも知れ渡ってましたよ」

 

「え?あ、あはは」

 

 それを聞いた母さんは、申し訳なさそうに笑った。

 

「それにミナトさんのお子さんでもある。・・・こんなことを言ったら怒られるかもしれませんが、実はすぐには止めに入らなかったんですよ」

 

「やっぱり・・・。先生見てたでしょ」

 

 上級生と喧嘩している最中、誰かに見られていた。やっぱり先生だったのか。

 

 母さんはまたもハテナを浮かべている。

 

「身のこなしが一年生のとは比較できないほどでした。的確に相手の急所を狙い、完璧な一撃を繰り出していた。流石はミナトさんの、いえ、閃光とハバネロの子供だ。これなら、飛び級もあり得ますね」

 

「飛び級、ですか」  

 

 母さんはそれを聞くと、少し表情が暗くなった。

 

 そのあと母さんはもう一度謝り、俺に拳骨を食らわせ、職員室を後にした。そして今度こそ帰路についていた。

 

「・・・ごめん、母さん」

 

「もういいのよ。穏和なあなたが喧嘩するくらいだから、きっと理由があったんでしょ。でも、喧嘩していいって言ってるわけじゃないからね」

 

 八百屋で買った食材を手に、母さんは言った。

 

「・・・たんだ」

 

「え?」

 

「父さんをバカにしたんだ。アイツら、父さんは弱いって・・・。そんなこと言われて、黙ってられるかって・・・」

 

 それを聞いた母さんは、少し目を見開き、すぐに優しい表情になった。

 

「それでも、だめ。確かにムカつくことや、嫌なことだってあるかもしれない。それを晴らすために拳を振るうのは、手っ取り早いかもしれない。でもね・・・」

 

 歩みを急に止めた母さんは、俺の目の前にかがんだ。そして俺の手を取って、俺の胸のあたりにそれを置いた。

 

「ここが痛くなるの。殴った方も、殴られた方も、どっちも」

 

 母さんは最大限の優しい表情を向けた。

 

「あなたは火影になるんでしょ?戦争を止めるんでしょ?だったら喧嘩なんてしちゃだめよ。ちゃんと相手を見て、それから理解するの」

 

「・・・・・・」

 

 そこまで言うと、母さんは立ち上がり自分の頭を掻いた。

 

「アタシが言っても説得力ないかもしれないけどね」

 

 そしてケラケラと笑う。夕日に照らされた母さんの髪の毛がキラキラ光っていた。それはとてもとても綺麗で、父さんが母さんを好きになった理由が、なんとなくわかった気もした。

 

「あら、クシナじゃない!」

 

 ふと、背後から声をかけられる。俺はすぐに振り向くと、そこには黒髪の女性が立っていた。

 

「ミコト!」

 

 母さんのママ友だ。これは長くなるぞ。

 

「どうしたの?今日は」

 

「それがうちの子がちょっとね・・・」

 

「やんちゃしたの?クシナにそっくりじゃない」

 

「よ、余計なお世話だってばね!」

 

「うちのイタチも見習ってほしいわ。あの子あの年齢にしては大人っぽすぎるのよ」 

 

 やっぱり長くなりそうなので、俺はそこらへんのベンチに座り込んだ。カラスがカアカア鳴いている。

 

 そう言えば、自主練出来なかったな。

 

********************

 

 母さんが、拭いていた皿を落とした。リビング中に割れた時の音が響く。

 

 任務から帰った父さんは悲壮さを窺わせるような表情を浮かべて、話す。

 

 母さんの目には大粒の涙が溜まり、今にも流れ落ちてしまいそうだった。必死にそれをこらえ、父さんの話を聞く。

 

 俺は、何がなんだかわからなかった。俺はただ、アカデミーから与えられた宿題を片付けてただけなのに。まったくそれが手につかない。

 

 父さんの話が終わると、母さんはどこかへ走って行ってしまった。父さんはそれを止めることはせず、次は俺の方へとやって来た。

  

 父さんは先程と同じ内容を俺にも話した。

 

 父さん、それはさっき聞こえてたよ。だから、いいよ。もう話さなくて。

 

 そう言いたかったけど、俺の口は言葉を忘れたみたいに何も話すことをしなかった。

 

 胸の奥が熱い。いつもより重力を感じていた。ひどく体が重い。頭ん中がぐちゃぐちゃになり、これ以上何も考えられなくなる。

 

 そうなる前に、何があったのかを簡潔に述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────オビト兄ちゃんが戦死した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもみなさんおはこんばんにちは。
zaregotoです。

彼がミナトとクシナに拾われてから、すでに6年が経過しました。彼らの子供にする、っていう設定を考えたんですけど、あの夫婦わりと若かったんですね。

ナルトを産んだとき、ミナトとクシナは20歳。動画とか資料を見てたんですけど、そんな風には見えなかったです。結構大人びてるんですよね。

でも無理やり彼らの子供にしてしまいました。主人公を拾ったときの年齢は、逆算すると12歳。アカデミーを卒業する年齢ですね。そんな二人が密書の奪取なんて任務をこなしていました。でもそれは戦時中ということで、設定としてはなくはないかと。ミナトに関しては10歳でアカデミーを飛び級したらしいですから。

これからも、出来るだけ投稿していこうと思います。ただ、物語が本格的に動き出すのはナルトがアカデミーを卒業する、原作第一巻の時代まで進んだらです。それまではわりと早めに時間が進んでいくと思います。

それではみなさん。これからもよろしくお願いします!感想をくれると今後の励みになりますので、よろしくお願いします!

➡感想を下さった方からのご指摘により、クシナがナルトを産んだ年齢は24歳くらい、であると判明しました。誤情報を記載してしまい申し訳ありませんでした。

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