うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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哀号

「やめろ!!」

 

 金髪で碧眼の少年、うずまきナルトは里の路地裏で5人の男に囲まれていた。

 

 男たちは額当てをしておらず、素性は定かではなかったが、身のこなしを見ると、恐らく忍なのであろう。

 

 しかし、まだ半人前にも満たないナルトにはそのようなことを観察する余裕などなかった。

 

「コイツで間違いないんだろうな?」

 

「ええ。特徴からしてそうでしょうね」

 

 ジリジリとにじり寄る男たち。

 

 里の路地裏とは言っても、人目が付かないわけではない。路地裏側から覗ける通りでは、普通に人が歩いていた。

 

 数人は助けようとしていた。しかし、その対象がうずまきナルトだと分かると、顔をしかめ、即座に身を翻していた。

 

「やはり誰も干渉してこない。中忍試験で忍が試験場に集中しているというのは、間違っていなかったようです。しかし・・・」

 

 メガネをかけた男が、汚らしい表情で言う。

 

「数年前、里に多くの被害をもたらした九尾を身に宿した少年など、誰も助けたいとは思わないでしょうしね」

 

 ナルトは歯を食いしばり、男たちを睨んだ。そして、懐から兄のクナイを取り出す。これは、ナルトが兄から盗んだものだった。

 

「おお、おお。まさか、俺たちとやり合おうってのか??」

 

 その姿を見た男たちはゲラゲラと大笑いした。

 

「くそー!!!」

 

 ナルトはクナイを大きく振りかぶり、男たちに特攻した。

 

「おらよっと」

 

「あがっ」

 

 しかしその攻撃が通ることなどなく、代わりにナルトが蹴りを腹部にくらい、後ろまで吹き飛んでしまった。

 

「く、くそぉ」

 

 ナルトの目には恐怖と悔しさと、いろいろな感情を孕んだ涙が浮かんでいた。

 

 その時である。

 

「きゃー!!」

 

 通りの方で女性の悲鳴が響いた。男たちはすぐに振り向く。

 

「なんだ?」

 

 男たちの中のひとりが呟いた。

 

「俺たちのことじゃ、ないみた・・・」

 

 別のひとりが安堵し、そう呟いたが、その呟きは話し終えることはなかった。

 

 ドスン。

 

 何か大きいものが地面に落ちてぶつかった音がした。

 

「?」

 

 男たちは不思議そうにその方向を向く。

 

 そこには、先ほど安堵した男の顔が目を見開いたまま、落ちていたのである。

 

 そして、その男の顔があったであろう体は、上部から間欠泉のように血を吹き出してその場に生なましい音をたてながら、たおれたのである。

 

「て、てきしゅ」

 

 ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。

 

 3回。

 

 同じような音がした。

 

 どすん。どすん。どすん。

 

 そして、それと同じテンポで重い音がした。

 

「ひ、ひぃぃい!!」

 

 ひとりがあまりの状況に、腰を抜かして座り込んだ。そしてザリザリと後退りする。

 

「お、おお、俺は砂の忍だ!このガキがイタズラするもんだから、説教してやろうとおもっ」

 

 しゃっ。

 

 均整のとれた耳障りのいい音が響く。

 

 そして、男の体は、右と左に分かれ、両方へと倒れた。

 

 ナルトは霞む景色の中、赤いものの中で丁寧に刀を拭く女を見た。

 

「鉄の国で作られた刀は格別だな。やはり切れ味が違う。チャクラを流していないのにこれだ」

 

 自身がいる場所の異質さにはあまり気にせず、刀を見ながら言った。

 

「アンタ、誰、だっ、てばよ・・」

 

 ナルトは力なく呟く。それに気付いた女は、ぴちゃぴちゃと音を立てながらナルトに近づいていった。

 

 そしてナルトの直ぐ側まで来ると、ナルトの顔を確認するためその場で屈んだ。

 

 霞む景色と薄暗い場所のせいか、ナルトには誰か分かっていなかった。

 

「---------ーー」

 

 女は何かを言うと、ナルトの頬を撫でる。

 

 優しい手付きに安心したナルトは、意識を虚空へと委ねた。

 

--------------------

 

「ここが、社」

 

 ウシオたちは、三代目が言った通りの道を進み、最奥の社へと辿り着いた。かなり開けており、端から端へ全力で走っても長いと感じるくらいだった。

 

 深く暗いイメージの死の森とは違い、荘厳な感じがそこにはあった。

 

「誰も、いないみたいですね」

 

 イタチが呟く。それから、アスナが一歩前へ出て地面を調べた。

 

「今まで誰も来てないってわけじゃなさそうね。雑草が手入れされてるし」

 

 アスナの言う通り、社どころか、その周りの草花でさえも手入れされていた。

 

「なんか、墓みたいだな」

 

「これは」

 

 イタチが社へと近づいた。そこで一本の柱をみつけ、凝視する。

 

「""挑みし者ここに眠る""」

 

「挑みし者?」

 

 イタチが読み上げた文言に、アスナは怪訝そうな表情で呟いた。

 

「やっぱり、誰かの墓なのか。でも、こんな場所に一体誰が」

 

「ここは、この森で死んだ人間を祀る場所だ」

 

 背後から声がした。

 

 突然のことに驚きつつも、すぐに後ろを振り向く。そこには、見知った顔があった。

 

「サクヤ、隊長」

 

 ウシオは絞り出すように、そう言った。

 

「中忍試験はもちろんだが、その前に行われていた選抜式で死んだ人間を祀っている」

 

 選抜式。里が形成されてすぐに行われた、忍のランクを格付けする試験。内容はほとんど中忍試験と同義だが、もっと過激であったことは確かである。ただこれは、忍という職業につくための試験であるため、これに合格しなければ忍として働くことは出来なかった。

 

 死者が出るのは当たり前。むしろ挑戦者全員が死ぬことすらあった。その頃から、忍でない者が増えていったのは、恐らくほとんどこの試験が原因だろう。

 

 今でこそ簡単にはなったが、当時の試験の危険度は測れるものではない。

 

「あの時はこの試験で多くの人間が死んだ。それもそのはずさ。戦争は終わった。だからこそ柱間は試験のハードルを上げ、少しずつ忍を減らそうとしてな。それで死ぬなんて、本末転倒だが」

 

 サクヤ隊長、もといシデノはどこかで拾ったであろう小石を手の上で弄びながら、ゆっくりと近づきそう言った。そして、話し終わると同時にこの空間の中心で静止した。

 

「祀られている対象は、ほとんど千手かうちはだ。あのころはまだそれ以外の忍は少なかった。この里が形成されてから、少しずつ他の一族が集まってきたが、その頃にはここの存在は忘れられていた。死の森を常設の演習場にすることはなくなっていたからな」

 

 イタチがゆっくりと腰元にさしてある刀に手を掛ける。シデノはそれを見てか、イタチの顔を凝視した。

 

「なるほど。よく見れば、似ているな。カガミ・・・いや、アイツの弟か?」

 

 一瞬、懐かしさを思わせる表情をしたシデノだったが、すぐに眉をひそめた。そして、シデノは持っていた小石を目にも留まらぬ早さで投げつけた。

 

 カキンッッッ!!

 

 それと同時にイタチの抜いた刀の柄に直撃し、刀は後方へと弾き飛ばされる。

 

「・・・・・・」

 

 飛ばされた刀を見ることはせず、その衝撃で痺れている手を握ったり閉じたりしながら、イタチはシデノを睨んだ。

 

「アタシをやる気だったんなら、ここに来る前から抜いておけ。お前は一つ得物を失った。さて、どうする?」

 

「・・・!!」

 

 シデノがそう言い切った次の瞬間、イタチはシデノまで跳躍した。

 

「よせ!イタチ!!」

 

 ウシオの制止も聞かずに特攻するイタチ。その最中、素早く印を組んだ。

 

「火遁・鳳仙火の術!」

 

 サイズの小さい炎がシデノへと襲いかかる。術を発動し終わり、クナイを懐から取り出そうとした瞬間だった。

 

 ガァァアンッッ!!

 

「カハッッ!?!?」

 

 いつの間にかイタチのすぐ上へと移動していたシデノが、イタチを蹴り下ろして地面へと叩きつけていたのである。

 

 臓器の一部が傷ついたのか、血を吐いてしまっている。

 

 その衝撃で大きな音とともに、叩きつけられたイタチの周りの地面がヒビ割れていた。

 

「だから言ったろう。ここに来る前に、得物を用意しておけと」

 

 シデノは叩きつけられたイタチを片手で持ち上げ、ウシオがいる方向へと投げつけた。

 

 ウシオは大地を踏みしめ、飛んでくるイタチを支える。

 

「大丈夫か!?イタチ」

 

「ええ、すみません」

 

 イタチは口の周りに付着した血を、腕で拭った。

 

 ウシオはシデノを睨む。

 

「止めてくれ、サクヤ隊長」

 

「あ?」

 

 シデノは顔を歪めて、その直後ニヤリと笑った。

 

「アイツはもう居ないよ。この世界のどこにもな」

 

 シデノがそう言うと、ウシオの血管が千切れる音がした。そして間もなく、ウシオはシデノの目の前へと跳躍していた。

 

「ハァッッ!!」

 

 右腕にチャクラを込め、そのままシデノへと振り抜く。

 

「ほぉ」

 

 しかしシデノへの攻撃は届かない。シデノが躱したわけでも、防いだわけでもない。ウシオが拳を、シデノの眼前で止めていたからだ。

 

「・・・お前、やる気あるのか?」

 

「?!」

 

 呆れたような顔をしたシデノは、止まっている腕を掴み大きく振り回した。そして、イタチたちがいる方へと投げ飛ばす。

 

「ウグッ・・・」

 

 受け止めようとしたイタチだったが、直前に受けたダメージからか、間に合わなかった。ウシオは、地面に叩きつけられ、後方へと転がる。

 

「まさかお前、このアタシに手加減しようとでも思ってるのか?」

 

 そんなことはない。手加減など出来る相手ではないことは、重々承知だった。

 

 しかし拳を振り抜く直前に、笑ったサクヤの顔が過り、止まってしまったのだ。

 

「クソッ!!」

 

 ウシオはミナトの作ったクナイを、シデノに投擲する。極力素早く取り出したため、シデノがそれを妨害することはなかった。

 

 シデノはクナイを軽々と躱す。クナイはシデノの背後の地面に突き刺さった。

 

 それを確認したウシオは、イタチ、アスナと目配せをし、すぐに行動に移した。

 

 ウシオは背中のチャクラ刀を抜き、雷遁のチャクラを込めた。今度は見逃さなかったシデノは、自身のクナイを刀の柄の部分へと投げつける。

 

 しかしそのクナイは空を切り、ウシオの後方にある大木へと突き刺さった。

 

 ウシオがその場から消えたのである。

 

「瞬身?いや、これは」

 

 シデノはこれを理解したようで、背後に意識を集中した。

 

 それと同時に、イタチとアスナも動き出す。互いにクナイを構え、イタチに至っては写輪眼を発動していた。

 

 ウシオは飛雷神の術で、先程投擲したクナイへと飛んだ。シデノの事だから、仕組みも理解できるだろうと踏んだのだ。

 

 3方向からの攻撃。3人のシデノへの距離は、ほぼ同じだった。

 

「「「ハァッッ!!」」」

 

 そしてほぼ同時に攻撃当てようとするが、当たることは、なかった。

 

 シデノはまずアスナの攻撃を躱し、その流れで蹴りを食らわせた。アスナは後方へと吹き飛ばされる。その時、アスナの手から離れたクナイを空中で掴み、ウシオに相対しながらイタチのクナイを弾き落とした。

 

 挙動が見えなかったからか、イタチの写輪眼を持ってしてもそれを防ぐことはできず、シデノはイタチの方向へは向かず、クナイを持っている手で裏拳をイタチに繰り出した。そのままイタチは後方へと吹き飛び、シデノはそこに向かって持っているクナイを投げつける。

 

 その最中、ウシオはシデノと瞳を合わせていた。その顔は最早、ウシオの知っているサクヤの顔ではない。

 

 しかし、それでも。

 

 ウシオはチャクラ刀を振り抜く。それと同時に、シデノは自らの掌にチャクラを込め、刀の刃の側面に掌底を繰り出した。

 

 その瞬間、ウシオのチャクラ刀の刃が、粉々に砕け散った。

 

 ウシオは驚きの表情を浮かべようとするが、そんな暇もなく、掌底を繰り出した方とは別の掌で、ウシオ本人に掌底を繰り出した。

 

 そのままウシオも、後方へと吹き飛ばされてしまった。その最中、持っていたチャクラ刀も吹き飛ぶ。

 

 時間にして0.5秒。文字通り一瞬の間もなく、3人は地に伏せてしまうことになった。

 

「扉間の時空間忍術を使えるヤツが出てくるとはな。しかし、そんな殺気のない斬撃じゃあ、そうなるに決まっているだろ」

 

 3人ともゆっくりと立ち上がる。

 

「見たところ、赤い髪の小僧。お前がこの小隊のリーダーのようだが、そんなことではどうにもならんぞ?」

 

「いつの間に吹き飛ばされたの?」

 

 アスナが肩をかばいながらそう呟いた。

 

「お前は猿の娘だな?なるほど。サスケの妻によく似ている。戦い方も」

 

 恐らく猿飛サスケの妻のことを言っているのだろう。

 

「サクヤ隊長の声で・・・!!」

 

 アスナは顔を歪ませながら、懐から巻物を取り出す。そして瞬時に風魔手裏剣を口寄せした。

 

「風魔手裏剣、烈!!」

 

 火遁のチャクラを手裏剣に纏わせ、それを投擲した。

 

「だが、まだまだだ」

 

 ボソリと呟くシデノ。次の瞬間、投擲された手裏剣の持ち手を、投擲されている最中に器用に掴み、アスナに投げ返した。

 

 明らかにその投擲スピードが違う。

 

 アスナは回避しようとするが、そんな時間はなかった。

 

「アスナ!」

 

 ウシオは雷遁を体に纏った。そしてそのまま、最大速力でその手裏剣へと向かった。

 

 アスナに届く直前で、ウシオはアスナを抱き抱えることに成功した。手裏剣はその後ろにある木に突き刺さる。

 

 ウシオはその速すぎるスピードのせいか、地面で止まることはできず、なんとか空中で一回転して直線上にある木に、足の方からぶつかった。木は大きな音を立てて2つに割れそうになっていた。

 

 アスナは突然のことに理解が追いついていないようで、すぐに言葉を発せなかった。

 

「この状態は、誰かを助けるのには向かないな」

 

 バチバチと雷遁を纏わせているウシオがそう言うと、ハッとしたようにアスナが口を開いた。

 

「ウ、ウシオ!」

 

「大丈夫か?」

 

 ウシオはシデノを一点に見据え、アスナに向けて言った。

 

「大丈夫だけど、雷遁が少しだけ痛い」

 

「そ、そうか」

 

 アスナが言うと、ウシオはアスナを、地面におろした。

 

「アスナ、あの人はあり得ないほど強い」

 

「ええ、分かってる」

 

「殺す気で挑まなきゃ、確実に殺される」

 

「分かってるわよ」

 

「それでも、殺したくない」

 

「それも、分かってる」

 

「甘いと思うか?」

 

「ええ。とっても」

 

「・・・・・・」

 

 ウシオは頷いて、雷遁の状態を解いた。

 

 向こうでは、イタチが押されながらもシデノと戦っている。

 

「もう、誰も失いたくない」

 

 浮かぶオチバ先生の顔。あの人は憎しみに支配され、復讐することでしか生きる意味を見出だせなかった。

 

 そんな人生、まっぴらだ。このままあの人を失ったら、俺は今度こそそっち側に行ってしまう気がする。

 

「母さんから教えてもらった術を使う」

 

「そのつもりだったわね。てことは、ワタシたちは足止めか」

 

 アスナは握りこぶしをつくり、決意を新たにした。

 

「ああ。だから、殺すな」

 

 例え、二度と、会えなくなるとしても。

 

「行くぞ!!」

 

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「・・・ここは?」

 

 うずまきナルトは白い部屋で目を覚ました。いつの間にか病院着に着替えさせられており、その服を捲り上げると腹部には包帯が巻かれていた。

 

「いて、いてて」

 

 それを確認すると、徐々に腹部が痛みだしてきた。

 

 兄ちゃん、大丈夫とか言ってたけど全然大丈夫じゃないってばよ。

 

 普段兄の姿を見ているナルトにとっては、見慣れた光景ではあったが、予想以上の痛みに俯いて、少しだけ涙した。

 

「無事か?ナルト」

 

「三代目のじーちゃん!」

 

 ナルトがふと目を上げるとそこには、本来火影室にいるはずの三代目火影、ヒルゼンがいた。

 

 何かと自分のことを気にかけてくれる存在であるヒルゼンは、ナルトにとって肉親のような存在でもあった。

 

 ヒルゼンはゆっくりとナルトに近付き、側にあった丸椅子に座った。そして、ゆっくりと口を開く。

 

「なにがあったのじゃ、ナルト」

 

 何があった。そうだ。俺ってば、へんな奴らに襲われて。

 

「分かんないってばよ。変な奴らに襲われて、その後急に女の人の叫び声が聞こえて、そしたら周りが真っ赤になったんだ」

 

 ヒルゼンは眉を顰め、何かを考え込んでいる様子だった。

 

「何故真っ赤になったんだ?」

 

 ヒルゼンはナルトに問う。

 

「多分、誰かが助けてくれたんだと思う。でも、女の人だったから兄ちゃんじゃなかった。いつも居るお面の人でもなかった」

 

 お面の人とは、恐らく火影直属の暗部のことを言っているのだろう。ヒルゼンはそう考えていた。

 

「でもなんだろうな。怖くなかったよ。その人、優しかった」

 

「優しかった、か。ううむ・・・」

 

 ヒルゼンは再度考え込む。

 

「どうしたんだ?じいちゃん」

 

 ナルトにそう言われ、ヒルゼンはハッとした。

 

「いや、なんでもない。ともかく、お前が無事で良かった」

 

 ヒルゼンはそう言うと、ナルトの頭を優しく撫でた。

 

「今は養生しなさい。恐らく。大丈夫じゃ」

 

 ヒルゼンは窓の外を眺める。少しだけ、日が傾いていた。 

 

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「イタチ!合わせるぞ!」

 

 シデノの攻撃を受け、後ろに跳躍したイタチ。そのイタチに向かってウシオは叫んだ。イタチは小さく頷く。

 

 イタチは素早く印を結ぶ。ウシオはその初めの2つの印を確認し、その性質を理解する。そしてウシオも印を結んだ。

 

「火遁・扇花火!」

 

 イタチが扇状の炎を放つ。それと同時に、ウシオも術を放った。

 

「風遁・烈風刃!」

 

 ウシオは右手を素早く振り抜き、風遁の刃を繰り出した。そしてイタチの放った術を通過し、炎を纏った刃が完成する。

 

「二人のチャクラ比を合わせたか。なるほど、器用なことを」

 

 刃は、炎の推進力を得てとても素早くなっていた。しかし、シデノに躱せない攻撃ではなかった。

 

「この程度・・・?!」

 

 左足を軸にしてその場から跳躍しようとしたが、左足が地面へと沈み込んだ。

 

「土遁・泥泥。この術、口に出しづらいのよね」

 

 アスナがシデノまでの距離の地面を泥へと変性させていたのだ。かなりの距離があったため、気付くことができなかった。

 

「チャクラで土を掻き乱したか。ここまでの距離を、飛んでくる刃を隠れ蓑にしながら」

 

 ニヤリと笑ったシデノは腰元からチャクラ刀を抜く。そして、そこに自身のチャクラを流し込んだ。

 

 刀身には鳥の文様が刻まれており、チャクラがそこを流れる。そして刀は深い青色に光り輝いた。さらに、その光は炎となり、刀身全体を包み込んだ。

 

「はっ!!」

 

 そしてそのまま、飛んでくる炎の刃を切りつけた。

 

「なに!?」

 

 ウシオが驚愕の声を上げた。声はあげないが、イタチも同意見だろう。それもそのはずだ。炎の刃は跡形もなく消え去ったからである。

 

「性質なんて無視かよ」

 

「チャクラの質と量が優っていれば、容易いことだ。なるほど、所詮は下忍ということか」

 

 青い刀を片手に、ゆっくりとにじり寄るシデノ。3人はそれに身構える。

 

「どうするの。動きの制限なんてできるはずないわよ」

 

「どちらかといえば、動きを止めることの方が難しいですからね」

 

 ウシオは考える。

 

 一人ならなんとか一時的に動きを止められるだろう。先程の方法は恐らく難しいが、それに似た方法なら可能だ。

 

 しかし、止められたところで封印術を打ち消されるなら、意味がない。

 

 両足と両腕。2箇所を制限しなければ。陰陽遁でない限り、印を組まなければ忍術の発動は出来ない。

 

「腕の筋を斬る。使えないようにするんだ」

 

 そう言うと、ウシオは砕けたチャクラ刀を構える。そもそもが長物の刀であったため、砕けた今は脇差し程度の長さしかない。

 

「いいか。それだけを考えろ。他はどうでもいい。兎に角、あの腕を使い物にならないようにするんだ」

 

「なるほどね」

 

「分かりました」

 

 ウシオがそう言うと、アスナとイタチもクナイを構えた。

 

「イタチ、あとどれくらいあの目でいられる?」

 

「常時の発動なら数分。単発での連続使用なら、数十回でしょう」

 

「ならずっと使ってろ。単発で使い分けていられるほど、あの攻撃は躱せない」

 

 イタチの目は、恐らくこの戦いにおいて貴重な代物だ。俺とアスナ二人には出来なくとも、イタチにならあの攻撃を躱せられる。

 

「分かりました。無茶なことを言いますね」

 

「でもお前ならできるだろ」

 

 ウシオはシデノを眺めながらそう言った。言われたイタチは、少しだけ頬を緩めていた。

 

「イチャついてないで、早くやるわよ。暗部の連中が来たら、殺す以外することないんだから」

 

 そうだ。最善の方法を取るならそれ以外ない。いかに三代目火影の暗部であったとしても、殺さず助けることなんてしないだろう。

 

「アスナと俺は、イタチのサポートだ。出来るだけ攻撃を分散させる。腕への攻撃は、イタチがタイミングを見計らえ。そして、その攻撃が通った場合のみ、さっきの術で地面を泥濘ませろ」

 

「2度も同じことは効かないと思うけど」

 

 アスナが心配そうにウシオに尋ねる。しかしウシオはニヤつきながら答えた。

 

「もうひと手間加えるのさ。心配するな」

 

 ウシオはそう言うと、影分身の印を作り、もう一人のウシオを作り出した。

 

「お前は待機だ。それ相応の場所にな」

 

「分かった」

 

 そう言うと、もう一人のウシオはその場から瞬身した。

 

「行くぞ!」

 

 まず、イタチを先頭にシデノに特攻する。そのすぐ背後にアスナ。ウシオは右後方へと待機する。

 

「ハッ!」

 

 イタチがクナイでシデノへと斬りかかる。シデノは自身の刀でそれを防ぎ、そのまま押し返そうとするが、イタチはその力の流れを往なす。

 

 少しだけ前のめりになったシデノは恐らく背後へ回ろうとするであろうイタチに警戒しつつ、アスナの攻撃を待った。

 

 ふと目を上げるとアスナが印を組み終えた直後であった。

 

 仲間がいるこんな近距離でか?

 

 シデノは驚きの表情を見せるが、その対応をしなければならない。自身の刀に先程のようにチャクラを纏わせる。

 

「火遁・流火の術!」

 

 アスナが放った火遁を、刀で受ける。刀のお陰で、見事にその火遁を真っ二つにしたシデノであったが、近距離だからか勢いには押されていた。

 

 しかし背後からの気配は分かっていた。斬りかかるイタチの腕を、刀を持っていない手で掴む。そして刀を地面に突き刺し、そのまま振り上げた。するとその衝撃で地面を抉り、岩がアスナの方へと向かっていった。

 

 威力のある火遁と言えど、岩を燃やし尽くすほどの火力はなく、そのままアスナへと着弾する。アスナはその衝撃で一時的に火遁を止めてしまった。

 

 ウシオはシデノの頭上から攻撃を仕掛けていた。自身も刀に雷遁を流していたが、砕けているためか雷遁が分散していた。一点に集中できないが、威力は落ちるが広範囲に雷遁が伝わるため、意味はあったのだ。

 

 しかし、それを読んでいたシデノは振り上げた刀から火遁の刃を繰り出した。空中だったためか受け切るしかなく、ウシオはモロに攻撃を食らう。 

 

「ウシオさん!うグッ!」

 

 イタチは叫んだ。それと同時に、シデノはイタチの腕を掴んでいる手の力を強めた。そのため、クナイを地面へと落としてしまうが、片方の手でそれを受け止め、すぐにそれを振り抜いた。

 

「っ・・・!!」

 

 その一撃がシデノの左手を掠める。その一撃のために写輪眼を発動していたイタチだったため、確実に左手の筋へと攻撃を決める。

 

 シデノの左手から血が吹き出す。左手の力が緩んだため、イタチへの拘束も解かれたが、シデノは脚を大きく振りイタチの腹部へと振り抜いた。

 

 先程とは違い、写輪眼で確実に挙動を捉えていたため間一髪で躱すことができたが、シデノは右手を使い刀でイタチに斬りかかる。

 

 イタチはクナイでそれを受けるが、クナイは無惨にも砕かれ、刃はイタチへと届いた。

 

 肩から脇にかけて斬られるイタチ。そしてシデノはそのままもう一度蹴りを繰り出し、確実にイタチへとヒットさせた。イタチはそのまま後方へと吹き飛び、ものすごい勢いで木に叩きつけられる。

 

 しかしその最中にイタチはクナイを投げていた。流石のシデノでもそれには驚いていたが、躱せないわけではない。難なくそれを躱したが、すぐにそれに意味はないと悟った。

 

「はっ!!」

 

 飛雷神のマーキングが施されたクナイを、イタチは投げていたからである。ちょうどシデノの右手へ攻撃が入れられるタイミングで、そのマーキングへウシオは飛び、そのままクナイを振り抜いた。

 

 もう片方の手からも血が吹き出す。

 

「チッ!」

 

 シデノは舌打ちをしながらも、ウシオを蹴り飛ばす。ウシオは腕でそれを受けるも、あまりの衝撃に後方へと吹き飛んだ。

 

「アスナ!!」

 

 その瞬間、ウシオが叫ぶ。それを聞いたアスナは土遁の印を組み始める。

 

「!!」

 

 それを見逃さなかったシデノは、その術が完成するよりも前に、その場から跳躍しようとしたが、それは叶わなかった。

 

「なに?」

 

 その瞬間、地面から腕が伸びシデノの両足を掴んでいたのである。それは先程ウシオが作り出していた自身の影分身だった。

 

 そして、動きが制限されている一瞬の隙を見計らってウシオは術を放った。

 

「解印術・百華牢解印!!」

 

 ウシオからシデノの死門に向けて、チャクラの鎖が放たれた。シデノはその鎖を防ぐため、術を放とうとするが上手く印組みできない。

 

 そして、確実にそれは、シデノへと着弾したのであった。

 

「・・・・・・」

 

 その瞬間、シデノは動きを止め、両膝を地面へとつけた。

 

「やった、か?」

 

「そう、みたいね」

 

 一瞬の出来事であったが、二人にとってはとても長く感じられていた。そのため、ホッと胸を撫で下ろさざるを得なかった。

 

 ウシオは後ろにいるアスナを見るため、顔だけ後方へと向かせた。アスナも傷だらけではあるが、笑顔でいる余裕はあった。

 

「俺はここから動けないから、今のうちにイタチのところへ。結構な速さで叩きつけられたからな。医療忍術を・・・」

 

 その瞬間、ゴオッという音と共に物凄い熱風がウシオへと届いた。

 

「え?」

 

「ウシオ!!」

 

 そして、アスナはウシオを突き飛ばした。突き飛ばされたウシオは、その原因のアスナを見ていた。

 

 青い炎の刃をモロに受けているアスナを。

 

 ウシオが放った鎖は、ウシオ側からボロボロと崩れていく。

 

 アスナは先程の一撃で、すでに気を失ったのか、地に伏している。

 

 ウシオは、ゆっくりとシデノの方へと顔を移した。

 

 そこには、青い炎を纏った、志布志シデノが刀を振り抜いた形で、立っていたのである。

 

「な・・・」

 

 解印術は確実に決まった。シデノの肉体にチャクラの鎖は絡まり、動きはもちろん、その生命活動すら止めてしまうはずだった。

 

 しかしどうだ。目の前の女はピンピンしているし、こちらにいたっては、自分を残して地に伏している。

 

「連携は確かに良かった。なんだか懐かしいものを見ている気分だったよ。だがな、術そのものの効果を、知りもせず使うのは良くない」

 

 シデノは自身に纏わせた火遁をおさめ、体についた砂を払いながら言う。

 

「この術は、基本的に自分本位の術なんだよ。八門を自分の意志で閉じることができる。あの時あの術が決まったのは、魂喰ミの術が作用している最中だったからだ」

 

 シデノは自身の心臓を指さしながら尚言う。

 

「死門を閉じてしまえば、魂喰ミが完成し、アタシは封印される。しかし、もしあのまま解印術が作用したままなら、サクの死門にあるチャクラが漏れ続け、サクはもちろんアタシのチャクラもなくなり、本当の意味での死に繋がる」

 

「意味は、なかったってことか」

 

「この日に繋げるために、アタシはミトに譲ったんだよ。ま、アイツは、サクの身を案じてのことだと思っていたみたいだがな」

 

 ウシオは砕けたチャクラ刀を握る。

 

「さてと、ここから、どうするんだ?」

 

 シデノは自身の刀の汚れを服で拭って、ニヤリと笑った。

 

「くそ!!」

 

 どうしようもない。アスナも、イタチもいない。この人をやるには、あの二人の協力なしには確実に不十分だ。

 

 しかし。しかし、やらなければ、やられる。

 

 戦闘の中で死ぬのは、最早どうでもいい。それは自身の実力不足で、仕方のないことだ。

 

 だが、この人に殺されるのは、絶対にできない。あのサクヤ隊長を、同胞殺しにするわけにはいかない。

 

 俺たちを、殺させるわけにはいかないんだ。

 

 ウシオの瞳には、ウシオ自身も気付かぬうちに、涙が溜まっていた。それでも、握っているチャクラ刀を構える。

 

 ウシオは、最後の力を振り絞り、その場から飛び出した。

 

--------------------

 

 ナルトは窓の外を眺めていた。

 

 兄ちゃん、いつもこんな感じだったのか。こりゃ暇だよな。

 

 そんなことを考えながら、ボンヤリと過ごしていると、部屋のドアがトントンと叩かれた。

 

「?」

 

 突然のことに訝しげに観察していると、ゆっくりとそのドアが開かれる。

 

「ナルトくーん?」

 

 ドアの隙間からヒョコッと顔を見せたのは、ナルトからしたら見知った顔であった。

 

「アヤメねーちゃん!」

 

 兄の昔の同僚であり、今はこの病院に勤めている霧切アヤメだったのである。

 

「よかったここだった」

 

 アヤメはホッと胸を撫で下ろした。そしてそのまま、その部屋に入っていく。

 

「ノックしても返事がないから、違うのかと思ったよ。でもタグはナルトくんの名前だったからさ」

 

「ご、ごめん」

 

「あ、いいよいいよ」

 

 謝られたことから気を使わせたと感じ、腕を大袈裟にふりそれを否定した。

 

「それで、大丈夫?ケガしたって聞いたけど」

 

 アヤメは先程までヒルゼンが座っていた場所に座った。

 

「うん。大丈夫だってばよ」

 

「そ、よかった」

 

 アヤメはそう聞くと、ニヘラと笑った。それにつられてナルトも笑う。

 

「遊んでてケガしたんだって?駄目だよ?あんまり無理しちゃ」

 

「う、うん」

 

 本当は襲われたのだが、それについてはヒルゼンから口止めされていた。ヒルゼン曰く、ヘンナシンパイをさせないためだとか。

 

 よく分からないけど、約束破ったら兄ちゃんからも怒られそうだから、やめておいた。

 

「あ、そうだ」

 

 アヤメは何かを思い出し、持っている紙袋を差し出した。

 

「なにそれ?」

 

 アヤメは、キョトンとした顔でナルトを見つめる。

 

「何って、ナルトくんが持ってたものでしょ?ナルトくんを受けた看護師さんが保管してたんだってさ。渡しておいてって言われたから」

 

 ナルトは、なんのこと?と思いながらもその紙袋を受け取った。そして中身を確認すると、中には有名な甘味処の黒餡蜜が入っていたのである。

 

「なんだってばよ、これ」

 

「え?」

 

 アヤメは少しだけ考え込む。

 

「俺ってば、こんなもん持ってなかったってばよ」

 

「そうなの?でも確かに、サクヤさんと一緒に来たナルトくんが持ってたって聞いたけど」

 

「サクヤねーちゃん?俺ってば知らないってばよ」

 

「そんなことないわよ。その時ナルトくんは一緒に居なかったけど、サクヤさんは居たもの。あの子をお願いしますって言われたし」

 

「んー??」

 

 ナルトは頭がおかしくなりそうだった。確かにそんなことなかったし、仮にそうだったとしても忘れるはずがない。

 

「じゃあ、助けてくれたのは、ねーちゃんだったのか?」

 

「たすけて?」

 

 ボソっと呟いた言葉をアヤメは聞き逃さなかった。ナルトはヒルゼンから口止めされていたこともあってか、慌ててそれを否定した。

 

「あ、いや!なんでもないってばよ!」

 

「そう?」

 

 それから、他愛ない話を少しだけ続け、アヤメは去っていった。何かあったら連絡してね、ということらしい。

 

「サクヤねーちゃん?でも、なんか少しだけ違かったけどなぁ」

 

 ナルトは頭を抱えつつも、謎の黒餡蜜を口に運ぶ。

 

「やっぱうめーなぁ」

 

 それでも甘味の甘さには勝てなかったようで、すぐに興味の対象は黒餡蜜へと移っていった。

 

--------------------

 

「サクヤ・・・隊長!!」

 

 あれからどれだけ時間が経ったのだろう。ウシオは無我夢中でシデノへと切りかかっていた。

 

「何度言ったら分かるんだよ。アタシはシデノだ。お前の知っている隊長とは違うんだ」

 

 ガキンッッ!!

 

 両の手で掴んでいるチャクラ刀の一撃を、シデノは片手のまま刀で受け切る。

 

「それでも!俺はアンタを殺したく、ない」

 

 満身創痍。それでも、この手を止めるわけにはいかない。

 

「甘いな。やはり、この時代の忍か」

 

 シデノはそう言うと、遊ばせている方の手で素早く印組みをし始めた。

 

「片手印!?まさか」

 

「あ?馬鹿かお前は。このくらい、出来て当たり前だろう」

 

 すぐさま躱す動作を起こそうとして、一歩身を引いたウシオだったが、時すでに遅し。

 

「火遁・紫炎燃焼」

 

 紫色の炎の球が、ウシオを襲う。そしてウシオに着弾し、爆発した。

 

 ウシオは衝撃で遠く後方へと吹っ飛ばされる。

 

「そう言えば、扉間が言っていたな。術の精度や威力が極端に落ちる片手印は、今後学び舎では教えないようにするとかなんとか。はっ!こういうことになるから必要なんだろうが」

 

 本来印組みとは、両の手で行い、バランスよく体中にチャクラを行き渡らせるために行う。指の形一つ一つに応じたチャクラの性質があり、それを組み合わせることによって、一つの術になる。

 

 片手印は戦時、片手を失った者や、一時的に使えない者が使っていた。

 

 しかし、片手印では相当なチャクラコントロールを保持していなければ、チャクラのバランスが崩れる。よって術自体が弱くなってしまうのだ。

 

 手練の忍でも失敗することがあるため、大体の場合使用することはない。陰陽遁の場合は少し話が変わってくるが。

 

「こんな・・・」

 

 片手印でこれほどの威力、いや、両手で行うのと変わらない。数世代違うだけで、これほど実力が違うのか。

 

「はは・・・ 」

 

「あ?どうした。もう終わりか?」

 

 距離を配慮してか、シデノは大きな声で叫んだ。恐らく、ウシオの笑みは見えてもないし、溢れた声も聞こえていないだろう。

 

「いや、まだまだ」

 

 ウシオは素早く印を組んだ。

 

「雷遁・死 電電一刺!」

 

 六つの雷の槍を一つに束ねる。そしてそれをシデノに対して投擲する。本来の術の時よりも、スピードも威力も桁違いだ。

 

「へぇ・・・。まだこんなチャクラを。この齢のガキにしては、アホみたいなチャクラ量だな」

 

 シデノはニヤリと笑った。そして印組をする。

 

「火遁・蒼龍炎撃破!」

 

 握り拳を作り、打撃を繰り出す形を取りながら、拳から蒼い龍を繰り出す。

 

「まだだ。まだこれじゃあ、あの術は破れない・・・。なら!」

 

 もう一度印を組み、体に雷遁のチャクラを纏わせる。

 

 雷遁チャクラモード。徐々に体力を奪われるが、身体のスピードもパワーも跳ね上がる。

 

 そしてそのまま、跳躍し、突撃している雷遁の槍へと向かい、そのまま槍を蹴った。雷遁チャクラモードの力で、槍をブーストさせようというのだ。

 

 今のウシオの実力では、併発させることが出来ない為、個別に発動した。

 

 2つの術がぶつかる。一撃必殺でなければならない術が、火遁と拮抗している。

 

「く、そぉぉぉ!!!」

 

「ははははっっ!!」

 

 カッッ!!

 

 爆発。煙。そして辺りが光りに包まれる。

 

 その煙が晴れる頃には、勝負は決していた。

 

「ガキにしてはよくやったよ」

 

「くぁ・・・」

 

 片手で首を捕まれ、宙づりにされているウシオの姿が、そこにはあった。

 

「お前の大好きなサクヤ隊長に殺されるんだ。よかったじゃあないか」

 

 ウシオはシデノを睨みつける。そして、絞り出すように言った。

 

「アンタは、本当に、里を恨んでいるのか」

 

 そう言われたシデノは、ニヤリと頬を吊り上げ、続けた。

 

「里の長が直々に殺しに来たんだ。誰がどう言おうと、里の意志だろうが」

 

「それでも、アンタはサクヤさんと一緒にいたんだろ!」

 

 ウシオの絶叫に、シデノは目を細めた。そしてそのまま口を開く。

 

「・・・・お前、甘いよ」

 

 シデノは腰からクナイを取り出し、ウシオの胸へと突き立てた。

 

「甘いままだと、いずれどこかで泣きを見ることになる。アタシみたいにな」

 

 そしてそのクナイをそのまま胸へと突き刺した。

 

「かは」

 

 ポフン!

 

 その瞬間、ウシオが煙とともに掻き消えた。

 

「影分・・・」

 

「土遁・岩盤障壁!」

 

 シデノの背後からウシオが現れる。そして土遁で岩の壁を作った。

 

「土遁で壁を作ったところで!!」

 

 ガンッ!!

 

 シデノは自らの拳にチャクラを集中し、その壁を破壊しようとした。しかし、それは叶わなかった。

 

「硬いな」

 

 この術は、地中にある硬度の高い物質をチャクラによって繋ぎ合わせ、壁を作る術。高度技術を必要とし、長時間の維持は不可能に近い。

 

「見たことない術だ。お前が作ったのか。だが!」

 

 1発、2発そして3発。その3回目にその壁は壊れた。

 

「ハッ!この程度・・・?!」

 

「着!!」

 

 ウシオはシデノの3発目に合わせ、一時的にチャクラの繋ぎを解いた。そして、シデノがその瓦礫を振り払う瞬間、再度チャクラを繋ぎ直したのである。

 

 するとどうだ。シデノはその岩に体を取り込まれてしまったではないか。

 

「これは、身動きが取れないな」

 

「そういう術だからな。さっきの術より硬いだろ」

 

 身動きが取れないシデノを眺めながら、ウシオは右手を構える。そして、そこにチャクラを集中した。

 

 チャクラの玉。その中で、チャクラが乱回転している。

 

「それも、見たことがない」

 

「螺旋丸。四代目火影、俺の父さんが考案した忍術だ」

 

 その螺旋丸は、どこか電撃を帯びているように見えた。

 

 ウシオの気迫とともに、螺旋丸自体が、バチバチと呼応する。

 

「純粋な、チャクラの玉か。どこか尾獣玉に似ている」

 

「本当は、サクヤ隊長に見せたかったんだがな」

 

 ウシオは満身創痍ながらも、その場から跳躍する。

 

「火遁・業火滅炎」

 

 シデノは火遁を纏う。そのせいか、ウシオの土遁の繋ぎがなくなってしまった。

 

 ボロボロと崩れ落ちる土遁。シデノはそのまま、纏った火遁をウシオに向けて放出した。

 

 しかしウシオはものともせず、その炎へと特攻する。

 

「死ぬ気か?」

 

 ウシオの螺旋丸は、渦を巻き、シデノの炎を巻き込みながら大きくなっていく。

 

「アタシの術が、飲み込まれて」

 

 突撃スピードは増し、螺旋丸の形がもはや丸ではなくなる。まるで、ドリルのように尖り、炎を巻き込み進んでいく。

 

「性質変化、それに形態変化か。なるほど」

 

 全てがかき消え、雷遁の光が辺りを照らす。そして。

 

「面白い」

 

 

 

「雷遁・螺旋雷槍!!」

 

 

 

 術がシデノに直撃する。雷を纏った回転が、シデノの腹部を穿つ。術で応戦しようとするが、それも間に合わない。

 

 シデノは受けきれずそのまま、吹き飛ばされてしまった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

 呆然自失。ウシオはやり切ったことから気を抜き、目の焦点は定まらなくなっていた。

 

 遠くの方に、雷遁の余波が残る体を横たわらせているシデノ。

 

 終わった。

 

 そのことだけを考えていたウシオは、腰を落ち着かせる事すら忘れていた。

 

 しかし。

 

 雷遁に混じり、青い光が見え隠れするようになった。

 

「・・・」

 

 光ではない。あれは、火。いや、炎だ。炎が少しずつ燃え上がり始めている。

 

 その炎はまたたく間にシデノの体を包み込み、雷遁はすでになくなってしまった。

 

 そして、シデノはゆっくりと起き上がった。

 

「青い、炎」

 

 再生の炎。腕の傷を治したのと同じ。

 

 致命傷ですら、その炎を纏うことによって傷を癒やす。

 

「流石に痛いな。だが、終わりだ」

 

 シデノは炎を纏いながら、呆然と立ち尽くしているウシオへと特攻する。そしてそのまま、右手にチャクラを込め、ウシオの腹部へと振り抜いた。

 

「ガハッッ!!」

 

 そのまま、後方の巨木に叩きつけられる。

 

「く、そぉ・・・」

 

 霞んでいく意識の中で、漏らすウシオの声は明確な敗北を意味していた。

 

 重たくなる瞼。見えるのはゆっくりと近づくシデノ。青い炎と、耳についている水色の石のピアス。

 

「ゆっくりと、眠りな。ーーーーー・・・」

 

 何かを呟いたように聞こえたが、もはや言葉を認識していられる状態ではなかった。聴覚すら機能を失おうとしているその時、ウシオは完全に、真っ黒な空間へと落ちた。

 


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