うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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愛憎

 私はまだ知らなかった。

 

 いや、知ることが出来なかったのかもしれない。そもそもアタシは人の上に立つような人間などではなかった。あくまでも補助。常にそう生きていた。

 

 それが、あのとき、全て変わった。永遠を生きるというのはそういう事だ。

 

 しかし、この十字架は、背負わなければならない。この身が滅びるその時までだ。

 

 それでも、分かってなどいなかったのである。悪意というのは確かに存在していて、そんなもの、どうしようもなかったということを。

 

 そして、私は消え去った。

 

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「珠喰サクヤは、里の忍、一般人と問わず攻撃。その後死の森の奥へと消えました。負傷者多数。既に数十人を病院送りにしています」

 

 猿の面を被った忍が言った。場所は試験会場から移し、火影室。試験はこのまま中断というわけにもいかず、準決勝1試合と決勝戦を残したまま中止となった。

 

 火影室には火影はもちろん、数人の上忍、そして、サクヤが隊長をつとめる下忍の班員が集められた。

 

「なぜ隊長はそんなことを・・・」

 

 イタチがぼそりと呟いた。三代目火影は、顔を伏せ、申し訳なさそうな顔をした。そして、意を決したかのように口を開く。

 

「これより、木ノ葉は、珠喰サクヤを、ビンゴブックSランクの犯罪者として認定。即座に対処をする。動ける上忍を総動員して、死の森へと向かうのじゃ。彼女がいる場所は恐らく、死の森の最奥地、死の社」

 

「はっ!」

 

 ウシオたち以外の忍は、三代目の号を皮切りに、火影室から散り散りに去っていった。残された3人は、三代目が何を言うのかを、ただ待っているだけであった。

 

「まず、お前たちに謝らなければならない。中忍試験の中止。本当にすまない」

 

 三代目は頭を下げた。3人は驚く素振りも見せず、ただその姿を見ていた。そんなことよりも、何故このようなことが起きたのかを知りたかったのである。

 

「ここは、何も聞かず、各々の家へと帰ってはくれんか?」

 

「そういうわけにはいかないだろ、じーちゃん」

 

 三代目の言葉に、ウシオは即座に反応した。その返答が来ることを予測していた三代目火影は、苦虫を噛むような顔で、口元を歪めた。

 

「・・・じゃな。お前たちには知る権利がある。少し長くなるがよいか」

 

 誰一人として、その言葉に反応しなかった。そして、三代目は、話始めた。

 

「あれは、まだ二代目様がご健在であったころ。ワシやダンゾウなど現在里の重役を担う者たちが、まだ、若かった頃じゃ・・・・・・」

 

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「遅いぞ!サク!」

 

 木ノ葉の額当てをした少年が、森を駆ける。それと並びながら、もう一人、クールを体現したような少年もまた駆けていた。遅れながらもその背後から、少女も追いかけていた。

 

 少年はそのサクという少女に激を飛ばしていた。

 

「ごめんヒルゼンくん!この森、起伏が激しくて・・・」

 

 二人は、森を抜けた見晴らしのよいところで停止した。二人が停止したところで、サクはやっと追い付けた。追い付いてすぐに、謝罪の言葉を口にした。

 

「謝るくらいなら実力をつけろ」

 

 激を飛ばしていた少年とは別の少年が、冷静に言った。サクは見るからに落ち込み、それを見たヒルゼンと呼ばれた少年は、ため息をつきながら口を開いた。

 

「そこまでにしとけダンゾウ。でもまぁ、ダンゾウの言う通りだ、サク。そんなんじゃ、いつか死んじまうぞ」

 

「ごめん・・・」

 

「二人とも、そのへんにしときな。サクだって、一生懸命やってんだ」

 

「シデノ隊長・・・」

 

 三人の後方から女性が現れた。シデノ隊長と呼ばれた女性は、厳しい口調で、二人を叱った。

 

「それで、どうなんだい?」

 

「扉間様と続いてカガミ、トリフ、コハル、ホムラが先行しています。・・・恐らく、今砂煙が舞ったところにいるのでしょう」

 

「そうか。やはり、この和平をよく思っていない者もいるということだな」

 

 シデノは肩を落としているサクの肩を一度ポンと叩き、先を見ている二人の少年に並んだ。

 

「アタシたちは周りから攻める。アタシとサク、猿とダンゾウのツーマンセルで行く。お前たちはすでに立派な忍だ。アタシの手を借りなくとも、行動できるだろう。しかし、いいかお前たち。命を、無駄にするなよ」

 

 シデノの赤い瞳が、三人の顔をとらえた。三人はその言葉に頷く。

 

「行くぞ、散!」

 

 四人は、瞬時にその向かうべき方向へと散った。

 

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「あの、シデノ様」

 

「ん?なんだい?」

 

 サクのスピードに合わせながら走っているシデノが、サクの隣でサクを見ずに、聞いた。

 

「先程は、ありがとうございます。その、私が不甲斐ないばかりに」

 

「ダンゾウにも言われただろう。謝るな、と。謝らなくていい。お前は強い。だからこそ、扉間率いる隊に選出されたんだ。それに、心配も必要ない。お前たちを守るのが、アタシたちの仕事でもあるんだからな」

 

 そこまで言って、シデノは足を止めた。そして、口に人差し指を立てるのをサクに見せて、聞き耳を立てた。

 

「アタシたちの方が当たりだったようだな。サク、行くぞ」

 

「・・・はい!」

 

 先程まで落ち込んだ表情だったサクも、険しい表情になりながら、シデノに続いた。

 

 忍が二人で、警戒しながら歩いている。額当てをしていないが、忍であるのは確かだ。額当てをしないのは、雲隠れであることを悟らせないためだろう。いつの世も和平を結ぶということは、至難であるということだ。

 

「火遁・蒼炎赦波!」

 

 シデノの青い炎の鳥が、その忍へと向かう。すんでのところで忍たちはそれを避けた。

 

「青い炎!木ノ葉の蒼炎か!?」

 

「アタシも有名になったもんだなぁ?なぁ!サク」

 

「シデノ様!話している場合ではないです!風遁・大突破!」

 

 サクも、その火遁をサポートする形で忍術を放った。青い炎が、風遁により大きくなる。

 

「サクのチャクラコントロールは、やはり眼を見張るものがあるな」

 

 このように互いの術が作用されるのは、どちらかがその術に使用されるチャクラを片方に合わせているからだ。この場合、後に放ったサクがそれに値する。

 

「そ、そんなことは」

 

「きさ、まら、無駄、話を・・・」

 

 あの炎の中、生き残った敵の忍がいた。もう一人は黒こげだ。どうやら、咄嗟に体を引き、直撃を免れたようだった。

 

 シデノは、冷徹な瞳をその忍に向ける。そして、そのままその忍にゆっくりと近づいて行った。

 

「まだ生きていたか」

 

 シデノは、長い足を振り上げ、そのままその足をその忍の腹部へと振り下ろした。シデノの忍靴は特注だ。鍛錬のために重りを仕込んでいる。故に、重い一撃を繰り出せる。

 

「ぐちゃ」

 

 短い悲鳴でもない。それは、肉塊が潰されたような音だった。すでに息絶えている。しかし、シデノはぐちゃぐちゃと、その死体を弄んだ。

 

 シデノ隊長は、仲間には慈母のような存在だが、敵には悪魔のような存在だった。

 

「隊長、もう、死んでいます」

 

「まだ死んでないよ。ほら、動いてるじゃないか」

 

 サクは言えなかった。死体が動いているのは、シデノが脳を踏み、弄んでいるからだと。

 

「しかしさすがに飽きたな。そろそろ行こう、朔」

 

 シデノは酷く残酷な一面を持っていることは、里に知れ渡っている。故に友人と言えるものは数えるほどしかいない。初代火影とその妻、うずまきミト、さらには二代目火影くらいだろう。

 

「はい」

 

 サクは思った。こんな人にはならない。いや、なれない、と。なった時は、自分というものの終わりであると、感じていた。

 

 しかしそれでも、この人は、私の師匠であることは確かだった。

 

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「扉間様・・・」

 

 扉間が教えているうちはの青年、カガミが呟いた。

 

「どうした」

 

「この協定、上手くいくでしょうか?」

 

 いつになく不安そうな表情だ。

 

「貴様が心配することではない」

 

「・・・はい」

 

 しかし、カガミの不安は的中していた。

 

 この協定、雲隠れとの協定は、クーデターを策していた金閣、銀閣兄弟によって、邪魔されることになる。そして、窮地に陥った扉間班は、扉間が囮になることによって、逃げ仰せることになるのだが、もうひとつの悲劇が、人知れず起こっていた。

 

「何故、だ。扉間・・・」

 

 シデノの瞳に写るのは、扉間が所持する刀の刀身の煌めきであった。

 

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「もうどうだっていい。もうすでに終わりだ。終わりなんだよ」

 

 シデノは数十人の忍と相対していた。この中には扉間班として任務に出ていた猿飛ヒルゼン、志村タンゾウ、そして奥村サクがいる。

 

「止めてください!シデノ様!」

 

 扉間からの遺言により、三代目火影となったヒルゼンが叫んだ。

 

「火遁・蒼舞乱撃」

 

 シデノは回転しながら炎を吐き出す。

 

「くそっ近づけない。ダンゾウ!」

 

「分かっている!風遁・真空玉!」

 

 ダンゾウは素早く印組をし、口から風の弾を吐き出した。しかし、それは蒼い炎にかき消される。それどころか、炎は勢いを増していた。

 

「チャクラを合わされた?!まさか」

 

「クソッ、退けダンゾウ!火遁・火龍弾」

 

 今度は最大のチャクラでその炎を押し返そうとした。しかし。

 

「押し負けてる?!」

 

 サクが驚嘆の表情を浮かべる。ヒルゼンは二代目に認められるほどの忍だ。サクの表情も、もっともであった。

 

 それもそのはずだ。ヒルゼンたち後輩は、シデノの本気を見たことがなかった。シデノは修行の一貫で、装束に重しを仕込んでいる。それがない場合は、そういうことだった。

 

「巫山戯るな!扉間を出せ!」

 

 聞く耳を持たないシデノは、先程からそれしか言っていなかった。こちらが何を言っても、巫山戯るな、五月蝿い、それしか言わない。

 

「クッ!だから言っているでしょう!二代目は死んだんです!半年も前に!あの戦いで、我々を救うために!」

 

 ヒルゼンが言う。

 

 そうだ。半年。扉間を失って半年である。新たな火影に指名されたヒルゼンは、すでに火の国の大名への御目通りも済ましていたほどだった。

 

 つまり、それほど長い時間が経ったということ。

 

「五月蝿い!ヤツはアタシを殺そうとした!なれば、ヤツは敵だ。そしてヤツの治めていたこの、この里も、敵だ!」

 

「何を言っているんですか!二代目がそんなことをするわけが無いでしょう!ましてや、初代様と親交の深かったアナタを、殺そうとする筈がありません!」

 

 ヒルゼンが叫ぶ。それでも、シデノの殺気は消えない。その時。

 

「はぁッッ!!」

 

 ヒルゼンの背後から、サクが刀を構え跳躍した。

 

「はッ!!」

 

 サクはそのまま斬りつける。シデノも、腰元からクナイを取り出し、それに応戦した。

 

「サクッ!!」

 

「シデノ様!」

 

 剣戟。ものすごい速さの斬撃だ。しかしそんなサクの斬撃を、小さなクナイで的確に往なす。更に言えば、サクが往なされたあとの次の行動を制限する動きで、シデノは往なしていた。

 

 その所為か、サクは息を荒げ始めているが、シデノはその様子を見せなかった。

 

「クッ!!」

 

 ガキンッッ!!

 

 シデノが、隙を見せたサクの刀を弾き飛ばした。それを知覚するよりも先に、シデノはクナイを振り切る。

 

 サクはその攻撃をすんでの所で避け、後方に跳躍した。そして、弾き飛ばされた刀の場所を確認する。

 

 サクはシデノを一瞥し、その刀まで跳躍した。それに合わせ、シデノはクナイを投げる。風のチャクラを込め、速度と威力を増したクナイだ。

 

 恐らくサクがその場まで到着し、刀を構えるよりも先に、クナイがやってくる。それを見越したダンゾウが、そのクナイ目がけ術を放った。

 

「風遁・真空刃!」

 

 風遁の刃が、クナイに直撃し、弾き飛ばされた。その際、当たらなかった風遁が地面に当たり、衝撃で砂煙が舞う。

 

 それと同時に、刀の元へ到着していたサクが、刀を握りしめ、水遁のチャクラをこめた。砂煙が舞う直前に、シデノが火遁の印を結ぶ姿が見えたからだ。

 

「火遁・蒼鳳仙火!」

 

 小さな蒼い炎が砂煙を越え、サクの元へと向かう。サクは刀を携え、砂煙を経由し、シデノの元へと跳躍する。届く蒼い炎を、サクは斬りつけ無力化する。

 

「はぁッッ!!」

 

 砂煙から飛び出したサクが、シデノに斬りかかる。しかし。

 

「はっ?!」

 

 対象を捉え、確実に届いた刃だったが、その感触がない。

 

「判断は悪くない。だが、甘い。殺気が足りない。そんなんじゃ、アタシを斬ることはできないぞ」

 

 サクの背後から声が響く。それに気付き、振り返ろうとするが、それよりも先に、シデノは拳を構えていた。

 

「木ノ葉烈風掌」

 

 風遁のチャクラを込めた掌底が、サクの背中に直撃する。瞬間、掴んでいた刀を離す。それをシデノは掴んだ。サクはそのまま先にある巨木に叩きつけられた。

 

「・・・・・・・」

 

 その時、ヒルゼンがシデノのところまで、クナイを構え特攻した。シデノはそれに気付いていないのか、気を失ったサクを眺めている。

 

「はぁッッ!!・・がっ?!」

 

 気付いていないと思われたシデノだったが、腕だけをヒルゼンが斬りつけるようとしていた場所に伸ばし、攻撃を当てる寸前のヒルゼンの首を掴んだ。

 

「がっ・・・あ!」

 

「お前たち、連携がなってないぞ。お前たち一人一人の力で、このアタシを止められるとでも思っているのか?」

 

 そう話し終えると、顔を少しだけヒルゼンの方へと向けた。

 

「このアタシを止められるのは、柱間とマダラだけだ」

 

「シデ、ノさ、ま」

 

 微かな声を漏らし、ヒルゼンは印を結ぼうとした。しかし。

 

「フン・・・」

 

 シデノは掴んでいるヒルゼンを地面に叩きつけた。

 

「ガハァッッ!!」

 

「ヒルゼン!!」

 

 今度はダンゾウが特攻する。それを見たシデノは、ものすごい速さで印を結んだ。

 

「火遁・蒼龍炎激波」

 

 火龍炎弾のシデノバージョン。それがダンゾウに襲いかかる。しかしそれをダンゾウは避けようとせず、突っ込んでいった。

 

 そして術が届く寸での所で、飛び上がり蒼い火の龍に沿うようにして避けた。さらに刀を構え、そのままシデノに斬りかかった。

 

 シデノはサクの刀で応戦する。ダンゾウは両手で力強く振り切るが、シデノは片手で往なす。

 

 ガキンッ!!

 

 鍔迫り合いの形になった時、シデノが口を開いた。

 

「だから言っているだろうが。お前たちじゃあ、アタシには敵わないと!!」

 

 そこまで言うと、蹴りをダンゾウの腹部に食らわせた。

 

「グァッッ!!」

 

 ダンゾウも後ろへと吹っ飛ばされる。その最中、意識を取り戻したヒルゼンが火遁の印を結んでいた。

 

「火遁・火龍炎弾!」

 

 シデノはそれを見やり、避けようとせず、刀を構えた。

 

 そして、その術を、斬りつけた。

 

 火遁は、なんの力も込めていないシデノの刀の剣圧のみで、真っ二つにされてしまった。

 

「そんな、馬鹿げてる・・・」

 

 後方から肩をかばいながら見ていたダンゾウが呟いた。

 

 その時、意識を取り戻したサクが、先程弾き飛ばされたシデノのクナイを構え、シデノのところまで特攻していた。

 

「シデノ様!!」

 

「攻撃する相手に、声を掛けるやつがあるか!」

 

 サクの声で気付いたシデノが難なくクナイの一撃を刀で受ける。

 

「シデノ様、まだ意見は変えませんか?」

 

「あ?」

 

 サクはシデノの瞳を見やる。

 

「扉間様が居なくなった今、ヒルゼン君が里をまとめあげなければなりません。そこにあなたのような、柱間様の意思を受け継ぐ人がいれば、きっとヒルゼン君の助けになります」

 

「あのなぁ、いつも言っているだろうが。アタシは柱間とマダラに付き合わされただけだ。その二人があんなことになって、もうこの世にいないとなりゃ、アタシがここにいる理由もない」

 

「それでも、だめですか?」

 

「だから・・・」

 

「私は!私は、母のようなあなたを、斬ることは、出来ません。私を、愛しているのなら、もうやめてください。仮に扉間様が、そんなことをしていたとしても、この里に罪はありません!」

 

「罪?はっ!マダラがあんなことになったのは、扉間の所為だろうが。信じてきたさ。だがな、もう、無理だよ。結局、アタシは、光にはなれないんだよ」

 

「そう、ですか。分かりました」

 

 シデノは、そう言うサクに対して怪訝な表情を浮かべた。

 

「なら、アナタを止めます」

 

 サクは、シデノの持つ刀を掴んだ。血が滲み、その血は刀の刃を垂れ、シデノの腕へと辿り着いた。

 

「サク、お前、まさか!?」

 

 シデノはサクのやろうとしていることに気がついたが、時既に遅し。既に、機は完成していた。

 

「忍法・魂喰ミ」

 

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「どこだ!サク!ヒルゼン!ダンゾウ!」

 

 満身創痍で森の中を駆けるシデノ。雲隠れから命からがら逃げ延び、やっとのことで、ここまでやってきた。しかし、側に守るはずの仲間がいないことに気付いたのだ。ゆえに、やって来た道を戻りながら探しているのである。

 

「このシデノが遅れを取るとは。あの金閣、銀閣という兄弟、まるで人柱力のような力だった。尾獣の肉を食らったというのは本当だったとでもいうのか?」

 

 ふと。

 

 シデノの目の前に急に何かが現れた。

 

「何者だ!!」

 

 シデノは叫んだ。

 

 目の前にいるのは、紛れもなく千手扉間、その人だった。

 

「シデノ」

 

 扉間だと思われるそれは、声を発した。

 

「扉間・・・か?」

 

 確認のため、シデノは扉間に呼び掛けた。返答はないがチャクラの質は扉間そのものだ。

 

 ゆっくりと近付く扉間。確実に見知りであると理解したシデノは、警戒を解く。

 

「あの尾獣モドキに襲われた。ヒルゼンたちともはぐれ、行方がわからない・・・」

 

「そうか。それは・・・」

 

 刹那、扉間の姿が消えた。

 

「なッ?!」

 

 飛雷神の術。その術を使ったのだろう。瞬身の軌跡が見えなかった。恐らく、少し前に渡された印の施されたチャクラ刀。それを目指して飛んだ。

 

 意味がわからなかった。消える寸前、殺気を感じたからだ。

 

 そして、振り向くよりも先に、その行為の意味を理解した。

 

「扉、間・・・何故だ」

 

 刀が自分の腹部から飛び出していた。口から、温かいものが漏れる。鉄の味がする。

 

 シデノは、その刀を振り解いた。振り解いた衝撃で、刀は腹部から外れた。落ちた衝撃で、金属の音が響く。

 

「シデノ!!」

 

 叫ぶ扉間。

 

 恐らく扉間は、心の臓を目がけ突き刺したのだろう。しかし少し逸れたために、致命傷は避けられた。故に、シデノはこのような行動が取れた。

 

 本来のシデノであれば、そのまま振り返り戦闘態勢を取る。しかしそれはしない。いやさ、出来なかった。

 

 この状況を理解出来なかったからだ。

 

 シデノは走る。森の中を走る。途中、足を縺れさせ、転んでしまった。その際、重し出会った靴を脱ぎ捨て、更に走った。

 

 振り返ることができない。今この状況では、誰が追いかけてきていたとしても、戦うことが出来なかったからだ。心も、体も、動きを止めようとしていた。

 

 ポツポツ・・・。

 

 雨が降り出した。目の前が霞む。雨なのか、それとも涙なのか、分からないがそれは、顔を伝い、顎から水滴となって落ちる。

 

「クソ・・・」

 

 最も愛したであろう男に、腹を突き刺され、ズタズタだった。

 

 復讐だ。

 

 その感情が頭の中に広がるが、それよりも先に、今は眠りたかった。

 

 先の方に、うろが出来ている木が、微かに見えた。

 

 シデノはそこまで急ぎ、到着するや否や、瞳を、閉じた。

 

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「忍法・魂食ミ」

 

 サクの体の周りに、どんよりとしたチャクラがまとわりついた。まとわりついたチャクラは、掴み合っているシデノの体へと、飛びつくように移った。

 

「なんてことを・・・!!その術を使えばお前は!」

 

 ダンゾウが叫んだ。

 

 魂食ミとは、文字通り魂を食べる術。奥村サク、もとい珠喰一族の最後の生き残りである珠喰サクは、一子相伝であるその術を、会得していたのである。

 

 この術を発動すると、心臓の位置にあるチャクラの門、"死門"から、特殊なチャクラが溢れ、発動者の体周りにまとわりつく。そのチャクラに触れた人間は、チャクラを全て、発動者の死門に引きずり込まれる。発動者は対象者に、自身の体液を接触させないといけない。しなければ、そのチャクラが対象者を認識しないからだ。

 

 対象者の皮膚に付着した発動者の体液の所為で、死門から流れ出たチャクラが、自分の体であると勘違いをし、対象者のチャクラを体外へと流れ出たチャクラだと認識する。そのため、対象者はチャクラを奪われてしまう。

 

 取り込んだチャクラは発動者のものとなり、チャクラの性質は取り込んだチャクラと同等のものとなる。有り体に言えば、今まで使うことが出来なかった性質の術を追加で使えるようになるということだ。

  

 対象者はチャクラを全て抜かれ、死んでしまう。これを防ぐ術はなく、うちはとの大戦の時は、非常に重宝されたという。

 

 敵を必ず死に至らしめることができる術である。そしてそれと同時に、発動者の肉体年齢が停止する。取り込んだチャクラを制御するために、体内のチャクラが成長ではなく、制御にのみ使われるからだ。

 

 また、死んでしまうと、死門に取り込まれた対象のチャクラが死体となった体に溢れ、その対象者に体を乗っ取られてしまう。術を受けた対象者が、発動者の死門の中でチャクラ体として生き残っているためである。

 

 さらに、この術には寿命があり、寿命を迎えるとこれもまた、発動者は死に、対象者に体を乗っ取られる。寿命は凡そ30年。上下はするだろうがそのあたりである。

 

 これを防ぐには、もう一度同じ術を使い、上書きしなければならない。もしくは、別の誰かにその術を使ってもらい、封印してもらうこと。

 

 前者の場合、封印したチャクラと同じチャクラに、本来のチャクラが変質してしまわぬよう、コントロールを行わなくてはいけない。後者の場合は二人以上の術者が存在しなければならない。

 

 上記のもの以外に、完全に解除する方法があるらしいが、すでに失われていた。そもそも珠喰一族は、解除をすることはしなかった。

 

 一族の繁栄のために、術を行使していたからだ。つまり、後者の方法を使い続けていけば、永遠に術が生きることになる。

 

 以上の事から、まだ里という概念出来る前に、一族は危険視され、滅ぼされてしまった。

 

 一人の生き残りを除いて。

 

「チャクラが・・・熱い!!」

 

 サクは悶え苦しんだ。すでに空っぽの肉体となったシデノの体の目の前で。

 

『サク・・・貴様ァ!!』

 

 しかし、サクの封印が完全ではなく、シデノがサクの体を通じてそう呟いていた。

 

「ヒルゼン!サクを取り押さえるぞ」

 

 ダンゾウがヒルゼンに向けてそう叫ぶが、時既に遅く、シデノは次の行動に移ろうとしていた。

 

「封印術・百華封印!」

 

 すると背後から、無数の鎖が飛んできて、サクの体を拘束した。

 

「下がりなさい、二人とも」

 

「ミト様?!」

 

 初代火影の妻であり、九尾の人柱力でもあるうずまきミトが、姿を現した。

 

「シデノ、気でも狂ったか!あなたほどの忍がなぜこのようなことを!」

 

『ミトか?アタシを封印しに来たのか?安心しろよ。アタシは今、サクの体ン中に封印されてる。言いたかねぇが、動けない。・・・今はな』

 

 徐々に動き出すサクの体。ミトの封印をしてもなお、立ち上がろうとしていた。

 

『アタシは絶望したんだよ。忍に、里に、国に、世界に!』

 

 完全に立ち上がったサクは、右足で蹴り跳躍しようとした。しかし、右手で懐にあったチャクラ刀をその右足に突き刺した。

 

「!?」

 

 その場にいた全員が疑問符と感嘆符を同時に浮かべた。

 

「は、やく。私を封印、して、ください。ミ、ミト、さ、ま!」

 

 サクの声でソイツは話した。

 

『サク!貴様!!邪魔をするな!』

 

「嫌です!邪魔をします!私は、この里が大好きです!そして、あなたも!あなたを裏切者なんかにさせません!」

 

「解印術・百華牢解印!」

 

 百華牢解印。解印術とは銘打たれているが、先程の術の上位互換。だが、単純な上位互換ではなく、まったく別の術へと変質している。百華封印は、対象者の血流を流れるチャクラに働きかけ、チャクラの動きを封じる術だ。その際、その拘束は鎖となって目に見えて現れる。チャクラによってサクの体を御しようとしているシデノにとっては、天敵となる術。

 

 しかし百華牢解印は、そもそも使用用途が違う。専ら拘束として使われる封印術とは違い、開放のために使われる。対象箇所は対象者の八門。

 

 門は頭に近い場所から、右脳に開門、左脳に休門、胴体に生門、傷門、杜門、景門、驚門、心臓に死門の八つ。その全てを開くことで驚異的な力を手に入れることができる。この術は、そのすべての門を段階を踏ませることはなく、一気に開くのだ。

 

 手練の体術師が使う八門の技は、手練であり、その順序があるからこそ初めて機能する。もしこれを無理矢理開こうとすれば、どうなるか。

 

『が、がぁぁああぁぁぁあ!!』

 

 封印ではなく解印。対象箇所が八門であるからこそ、それは死に直結する。この場合の死は、魂食ミによって死門に封印されているチャクラも使用しての死なので、身体的に死亡したとしても、体の乗っ取りは行われない。

 

 つまり、現状最善とする方法こそ、この術であった。少ない犠牲で、事が済む。

 

 サクの体はまだ未熟で、そもそもチャクラの高負荷に耐えられるはずもない。これを防ぐためには、自らその門を閉じる必要がある。しかし、閉じるということは、シデノにとっては悪手であった。自らが封印されている死門を少しだけ開くことで、サクの体を制御しているのだ。門を塞ぐということは自分を封印するとうこと。

 

『こんなことすれば、サクの体が!』

 

「そのようなこと、承知です。サクもこの里の忍!驚異となるものがあれば、その身を呈して対象を排除する。柱間様と互角に渡り合えるあなたを野放しにするわけにはいきません!!」

 

『クソッ・・・・。クソクソクソクソクソクソ!!』

 

 しかし、それでも、驚異的な力を手に入れていたことは確かだった。

 

 シデノはその場で跳躍し、一瞬でミトのところまで飛んだ。ミトの顔に拳を叩きこもうとした。しかし、その拳を眼前で止めたのである。

 

 拳による風圧が、ミトの顔へと届いた。だがミトは身動ぎ一つせず、その拳の先にあるシデノの瞳を見据えた。

 

『お前、止めるのを分かっていたな』

 

「ええ」

 

『アタシがこのまま引き下がると思っていたな』

 

「ええ。あなたのいいところは、敵味方問わず、認めた相手には最大の敬意を払うところですから。それに、一番気に入っている子の死が絡んでいるのなら、尚の事。あなたは必ず止まると」

 

 シデノは拳を下ろし、その場に胡座をかいて座り込んだ。

 

『そうかい。はっ!いいよ。封印しな。アタシを』

 

「ええ。そうさせてもらいます」

 

 ミトは百華牢解印を解くと同時に、別の術を使う。

 

「封印術・千床封印」

 

 その言葉と同時に、光の針が、シデノの心臓部分へと向かった。この封印術はチャクラの流れを断つ術。先程の封印術は、破られない限り、ほぼ永久的に持続するが、これは一時的なものだ。サクの術が完全に効くまでの時間稼ぎともいえよう。

 

『魂食ミの寿命のことは知ってる。そうなりゃ、知らねぇぞ』

 

「それまでには、きっといい里になっています」

 

『そうか。フン。せいぜい、足掻けよ猿』 

 

 シデノは瞳をミトからヒルゼンへと向けて言った。

 

 その瞬間、サクは意識を失った。

 

「サクっ!!」

 

 駆け寄るヒルゼンとダンゾウ。サクは苦悶の表情を浮かべながら、その場に横たわった。

 

 その後、しばらくして、サクは意識を取り戻した。めでたしめでたし、というわけにもいかず、サクは半月間捕縛されることとなった。

 

 その時代において、珠喰一族はすでに滅んだ一族であったためだ。封印は、いかなるものか。それを見極めることだったが、そもそも、その一族の文献そのものもなく、件の術に関して知る者も少なかった。

 

 シデノしかり、ミトしかり、生前の初代火影、千手柱間と交流を持っていた者。また、サク自身から打ち明けられた者。というのも、柱間から、親しい者以外へ漏らすことを禁じられていたからである。

 

 サクは流浪の民であり、その民を里に引き入れたのは他ならない柱間であった。だが、サクが魂喰の一族であることを知っていたわけではなく、偶然そうなっただけであった。

 

 魂喰一族には、胸部の心臓部分に近いところに、円形の黒い痣がある。父からその話を聞いていた柱間は、彼女に氏を変えさせ、別人として過ごすことをさせた。その後、サクはシデノに預けられた。  

 

 それは、魂喰一族がどれほど危険な一族であるかを証明していた。

 

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 志布志シデノ。初代火影や二代目とともに、里の建立に携わった伝説の忍者である。史実では、戦争中、二代目火影が死んだ戦いで、共に命を落としたとされていた。

 

「シデノ様は、深い青色の特殊なチャクラを使用する忍でな。そのチャクラ故か、木ノ葉の蒼炎と呼ばれておった。ウシオ、お前のようにだ」

 

「蒼炎・・・。今は、そんなことどうでもいいんだよ。さっきの言い分だと、また封印をさせればいいんだろ?それをすれば」

 

「サクはそれを拒んだのじゃ。封印の上書きをするということは、一人は必ず犠牲になるということ。それに、サクは、シデノ様の魂を消すことを、頑なに拒んだ。それもそうじゃろう。あんなことがあっても、彼女にとっては育ての親なのじゃから。そもそも、すでに術の寿命は終わっている。今サクの体の中にいるのは、紛れもなくシデノ様じゃ」

 

 ウシオは苦い顔をした。そのようなことをさせた時代に。

 

「死の森の奥へは、どうやって行くんだ」

 

 ウシオは両隣にいる二人に目配せをし、そう言った。

 

「行ってどうするつもりじゃ。今のサクはシデノ様に体を乗っ取られておる。お前たちは確かに強い。恐らく現行の班の中で最も。しかし、それは下忍の中での話じゃ。行けば、確実に命を落とす」

 

 ウシオの瞳から、炎は消えていなかった。目の前のヒルゼンの目の中にある悲哀の炎ではなく、希望を信じる熱い眼差し。

 

「昔、母さんに封印術を習った。さっき言ってた封印術、いや、解印術だったっけ?聞いたことがある」

 

「・・・確かに、ミト様と仲が良かったクシナならば、件の術も知っておるだろうが。しかし」

 

「あの人は、俺たちの上司で、先生だ。俺たちが何とかしなきゃいけない。それに、もう二度と、大切な人を失いたくない」

 

 ウシオの頭に浮かんでいるのは、オチバであった。あのような形で失ったのであれば、尚更だ。

 

「・・・」

 

 ヒルゼンは三人を見やったあと、立ち上がり、窓の外に広がる木ノ葉の里を眺める。

 

「死の森の入口の真反対に、もう一つ入口がある。大きな岩で塞がれた入口じゃ。そこは歴代の影たち、重役のみが開くことのできる封印が施されておる。その封印に今言った人間のチャクラを流せば、開くが・・・」

 

 そう言うと、ヒルゼンは机の引き出しから巻物を取り出した。

 

「この巻物に、ある印を結べば、前述の封印は解ける。チャクラを流す必要はない」

 

 ヒルゼンがその巻物をウシオに投げる。ウシオは無表情でそれを受け取った。

 

「その後、その道を進むと目の前に祠が見えてくる。その祠の中のレバーを引けば、直接死の社に辿り着くことができる道が見えてくるじゃろう。恐らく、誰よりも早く到着する事ができる」

 

「分かった。・・・行くぞ、みんな」

 

 ウシオから声を掛けられた二人は、何も言うこともなく、出口の扉を開き出ていった。ウシオはその二人に続き、開かれている扉に向かう。そんなウシオに、ヒルゼンは声を掛ける。

 

「木ノ葉の民は、儂の家族じゃ。もし、家族に危険が及ぶようなら・・・」

 

「勘違いするなよ、じーちゃん」

 

 ヒルゼンの言葉を遮るように、ウシオが口を開いた。

 

「サクヤ隊長も、家族だ」

 

 ウシオはそう言うと、乱暴に扉を閉じた。




次回につづく。

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