うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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新第三班

 どうしてこうなった・・・。

 

 季節は限りなく春に近い冬。まだまだ風は冷たいが、成長し始めた草花が、春の訪れを感じさせる。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「えっと・・・」

 

 里の甘味処のテーブルに、二人ずつ向かい合うように四人が座っていた。一人は表情を変えず、黙々と三色団子を頬張っている。また一人はムスッとした表情で甘味処の外を眺めていた。しかしどこか、暗い表情を浮かべている。さらにもう一人はその状況の中で、おどおどとしながらも笑顔を崩さないように必死だ。

 

 そして俺、うずまきウシオは、既に冷たくなった煎茶を啜りながら、またも心の中で呟いた。

 

 どうしてこうなった!

 

 ことの発端は数日前まで遡る。

 

********************

 

「火遁・豪火球の術!」

 

 黒髪の少年が、火遁の術を繰り出した。すでに戦闘を行っている仲間の援護を行ったのだ。

 

「大丈夫ですか、ウシオさん」

 

「すまない助かった、イタチ」

 

「いや、こちらも少し手間取りまして。アスナさんとサクヤ隊長は追っ手の対処をしながら向かってます」

 

 イタチと呼ばれた少年は、そう言いながらすでに戦闘を行っていた少年の隣に着地した。

 

「新手。また子どもか。俺たちも舐められたものだ」

 

「わけも分からない里の忍風情が。俺たちだけで十分だ。すでにお前たちの所持していた密書は取り返した。観念して捕まえられろ」

 

 羽のようなのマークが入った額当てをしている忍たちが、木ノ葉の額当てをした少年二人と対峙していた。

 

「ならば、お前たちを害せばいいということだ!土遁・土石流!」

 

 抜け忍の内の一人が、術を放った。術者の回りから土石流が流れ周囲を襲う。他はそれに気付いているようで、各々高い位置に移動していった。

 

「イタチ、俺の横で見てろ」

 

 何も言葉を発することなく頷き、イタチはウシオの行うことを眺めた。そしてウシオはものすごい早さで印組みをする。

 

「雷遁・電電六刺!」

 

 ウシオから赤い雷が六方向に分かれて放たれる。雷遁は敵の放った土遁を砕きながら進んでいった。

 

「くっ・・・!雷遁を使うのか、この小僧。さっきまで使ってなかったくせに」

 

 抜け忍が自分の術では害しきれないと理解し、後方へと撤退しようとした瞬間、突然の衝撃を受け空へと打ち上がった。

 

「土遁を使う奴らに、そうそう雷遁見せるかってんだ!見た(・・)か、イタチ!」

 

 赤い雷遁のチャクラを身に纏ったウシオが物凄い早さで敵の眼前まで移動し、拳で空へと打ち上げたのだ。

 

「ええ、バッチリです。雷遁・電電六刺」

 

 写輪眼を発動したイタチが、ウシオの術をコピーし、四散した他の忍たちを六つの青い電撃で狙った。持ち前の才能からか、上手く雷を扱えるようで、ウシオよりも正確に忍に当てていった。

 

「雷遁の鎧。速くはなるが、制御が難しい。それに、身体中がチクチクする。それにしても・・・」

 

 雷遁チャクラによる鎧、名付けるならば雷遁チャクラモードを解き、手をブラブラさせながらウシオは、イタチに近づいていった。

 

「上手く扱えるようになったな、イタチ」

 

 ウシオがイタチの側までやって来ると、自分の眼を指差しながらそう言った。

 

「まだまだですよ。二つ巴のままですから」

 

「だったらなんで俺より雷遁を上手く扱えるんだよお前は」

 

「それは知りません」

 

「このガキども!!いい気にさせておけば・・・!?」

 

 ウシオが打ち上げ、致命傷を負わせたはずの忍が起き上がった。しかし、その予兆を見逃さなかったイタチが、瞬時にその側まで移動し、首筋へとクナイを突き立てた。

 

「少しでも動けば、貴方の命はない」

 

 ウシオは離れたところから、イタチに続いて口を開いた。

 

「その通りだ。見たところアンタがこの隊のリーダーみたいだから、アンタを殺すわけにはいかない。さあ話せ。誰に命令された」

 

「・・・・・・」

 

 羽のようなマークだから、羽隠れとでもしておこう。羽隠れの忍は、二人の顔を睨み付けながら不敵な笑みを浮かべた。

 

「我々のような小さな里は、多くの任務をこなし、名声を上げなければならない。ここで情報をもらせば、以降クライアントが我々に依頼を持ってこなくなる。しからば・・・!!」

 

「・・・!?まずい、イタ・・・」

 

 次の瞬間、その忍は自分の着ていた衣服をガバッと開いた。イタチは驚き、一瞬相手の息の根を止めることに躊躇してしまった。

 

 その忍は、胸から腹部かけて起爆札を貼り付けていたのである。イタチは、瞬時にそのことを理解し、その爆発が及ばないところまで飛んだ。ウシオは、イタチがそうするのを見届けると瞬身の術で、イタチのすぐ横まで飛んだ。

 

 そのすぐ後、大きな爆発が起きた。爆風により木々は薙ぎ倒され、周囲20メートル圏内には大きなクレーターが出来上がった。

 

「どうして・・・」

 

 ウシオのすぐ横で、悲痛な表情を浮かべるイタチ。同じような経験をした二人だ。人の死には過度に反応する。しかし、ウシオはドライだった。

 

「忍は所詮、国の影の部分だ。誰かを守るためなら、厭わない、ということだろう。アイツらにもアイツらなりの正義があったんだろ。ま、単なる憶測だけどな」

 

 そう願いたい。

 

 ウシオは心の中で呟く。イタチはウシオがシスイと似たようなことを言っているのに少し驚いたが、ウシオとシスイの仲が良かったことを思いだし、合点がいった。

 

「随分と派手にやったみたいですね」

 

 後方から声をかけられた。イタチはすぐにクナイを構えたが、ウシオが制止した。

 

「サクヤさんたちは、終えたのか?」

 

 新たな第三班の隊長、珠喰サクヤが立っていた。そのすぐ側には同じ班員の猿飛アスナがいる。

 

「鷹にダミーの密書を持たせて飛ばしました。万が一があった場合に。本物はここに」

 

 そう言ってサクヤは密書をバックから取り出して見せた。

 

「任務は・・・失敗ですね」

 

 イタチはボソッと呟く。そんなイタチの肩に手を置き、ウシオは言った。

 

「そう毎回成功するとは限らない。でも大丈夫かもしれない。一応、相手方の忍の一人にマーキングしておいた。・・・さっきの爆風で死んでたら意味はないが」

 

 今回の任務は、奪われた密書の奪取。表向きは。本当の狙いは、最近結成された忍里の発見。もしくは調査だ。依頼書のランクはCと書かれているが、三代目からはB相当の任務になることは、はじめから言われていた。

 

「・・・意味はあったみたいだ。どうやら、奴さんの命は助かったらしい。素人で経験の浅い忍を選んだからな。爆発が起きる前に逃げ出していたんだろう。微かだがチャクラを感じる」

 

 ウシオがしたマーキングは、嘗て四代目が使っていた忍術である飛雷神の術に使われていたマーキングを応用したものだ。ウシオ自身がその術を使おうとして出来た副産物である。時空間を利用して、マーキングした相手のチャクラを感知する。四代目のモノと同じように、マーキングは一度行えば消えることはない。飛雷神の術としても使うことが可能だが、マーキングに脆弱性があるのか、時空間転移を行うと、マーキングは消え去ってしまうが。今更ながらに、四代目の凄さ、父親の忍としての偉大さに驚くばかりであった。

 

「じゃ、すぐに行かないと、やばいんじゃないの?そいつ、もしかしたら死んじゃうかもよ?」

 

 アスナが不機嫌そうな顔をして、腕をくみながらそう告げた。

 

「確かにその通りだ。その忍里のやり方は、今の出来事で把握できた」

 

 任務のためなら自分の命すら厭わない。であれば、任務を放棄し逃げ帰ってきた者に対しての対処は、目に見えている。

 

「まだ動いている。そいつがどこか遠くへ逃げるのであれば、俺の目論見はハズレるってことになるが、一か八か賭けよう」

 

「では行きましょう」

 

 サクヤの合図で、ウシオを先頭にして、その場から移動する四人だった。

 

********************

 

 うちはイタチ。木ノ葉警務部隊隊長、うちはフガクの息子で、7才にしてアカデミーを主席卒業。ウシオと同時期に下忍に昇格した。しかしその翌年、任務中に謎の忍に襲撃され、班員の一人が殉職。もう一人の下忍はその際のショックにより、忍としての活動は不可能になった。そしてイタチの所属する班は解体。その後新たに編成された第三班に所属することになった。

 

 猿飛アスナ。三代目火影、猿飛ヒルゼンの娘であり、猿飛アスマの妹だ。彼女は本来カズラたちと同年齢で、12才で下忍に昇格したが、重い病を発症し、長い間病床に臥せっていた。そのため、班に編成されることはなく、翌年の班に編成されるはずだったが、新たな第三班が編成されたため、そこに所属することになった。病床に臥せっていたとはいえ、あの三代目の娘だ。忍の才には恵まれていた。しかし、性格に難ありとのことで、三代目も頭を抱えていた。

 

 本来このメンバーで編成された日から近くに行われた中忍試験に挑むはずだったが、イタチの諸事情よりその年の試験は見送ることになった。仮として編成された班だったが、今ではどこの班よりも優秀な班となっている。

 

「・・・ここだ、な。あの、穴蔵の中からチャクラの反応がある」

 

「この岩山、ですか?地底深くに里を作ったということでしょうか」

 

 ウシオたちは、チャクラの反応を追い、10㎞ほど離れた密林地帯へとやってきていた。木々が鬱蒼と生い茂り、里の存在は確認できない。岩影に隠れながら見えるのは、洞窟へと続く穴だ。

 

「違うわよバカ。あの穴から少しだけど風が流れ出てる。多分、あの穴の先に空が見える空間でもあるんでしょ。この辺りは大昔、隕石によって甚大な被害があったみたいだから、そのクレーターかなんかに繋がってるんじゃないの?」

 

 アスナが入り口を見ながら淡々と喋る。

 

「その場所に里を作ったということですね。ここは人も寄り付かない樹海。空から眺めなければ、里は確認できない。隠れるにはもってこいということですか」

 

 サクヤの朗らかな声が響く。それを見て、アスナはフンっとそっぽを向いてしまった。

 

「問題はどのようにして侵入する、ということですが」

 

「それについては俺に提案がある」

 

 ウシオが名乗りをあげた。そして影分身を作り、それを鳥に変化させた。

 

「こいつが空から侵入して、人気のないところへマーキングしてくる。それから、俺が飛雷神で飛ぶ。使えるチャクラ量にも限りがあるから、連れていけるのは精々一人か二人だ」

 

「では、イタチくんとアスナさんを連れていってあげてください。私は一人で大丈夫ですから」

 

 ウシオはそれに同意し、鳥を空へと放った。そして、近くにある木にマーキングをしておいた。念のためだ。

 

「そう言えばイタチ、この前シスイと任務をこなしたそうじゃないか」

 

「ええ、まぁ・・・」

 

 影分身がマーキングをし終える間、ウシオはイタチと話すことにした。イタチはどこか歯切れが悪い。

 

「いや、任務形式の演習だったか?まぁ、どっちでもいいか。里の上層部も、8才にして写輪眼を開眼したその実力を把握しておきたいってところか」

 

「・・・・・・」

 

 イタチは無言だ。ウシオはイタチの表情を確認しながら会話を続けた。

 

「でもまぁ、なんなんだろうなぁ」

 

「え?」

 

「昔、シスイに聞いたことがある。写輪眼の開眼条件。確か、精神的なショックが特殊なチャクラを生み出して、うちは一族はそれが眼に表れる。多分あれだろ?お前が開眼したのは・・・」

 

「・・・・・・」

 

 イタチは表情を曇らせた。元班員の出雲テンマの死が、イタチに写輪眼を発現させた鍵なのだ。あれほど渇望していた力が、そのような方法で生まれてしまったのであれば、イタチにとっても複雑だろう。

 

「気にすんな、なんて言えないけどな。俺たちは、これから先の未来の人たちが、そんな思いをしないために日々戦ってる。今この状況だって、いつ戦争が起きたっておかしくない。尾獣っていう兵器を各里が所有してるんだ。いわば、冷戦状態。平和ってのは、それに怯えながら生きていくことなのかね・・・」

 

「その兵器の一つが、アンタの弟なんだけどね」

 

 アスナがボソッと呟く。ウシオはその一言に、ぴくりと反応した。

 

「どういう意味だ、アスナ」

 

「どうもこうも、そのままの意味だよ。アンタの弟は戦争のための道具として存在してる。でなけりゃ、里にあんな被害をもたらした獣畜生、とっくの昔に殺されてるよ。知ってる?アンタの弟を殺したい大人は山ほど・・・?!」

 

 アスナの首筋に、一本のクナイが突き立てられた。誰よりも速く、上忍のサクヤでさえ追うことができなかった。アスナは自分の置かれた状況を、すぐに理解できなかったが、首筋に冷たいなにかが当たっていることに気付き合点がいった。

 

「貴様、それ以上言ってみろ。お前を、殺すぞ」

 

「やめなさい、ウシオくん」

 

 体から赤い雷遁のチャクラを漏らしながら、殺気を溢す。それをサクヤは冷静にウシオの肩に手を置き、止めた。

 

「・・・クソッ」

 

 そう言ったあと、クナイを腰元へとしまった。アスナは冷や汗を流しながら、小さく息を吐いた。

 

「アスナさんも、不謹慎です。貴方の才能は認めます。けれど、忍に必要なのは才能ではなく、仲間を思いやる心です。下忍になって学ぶことは、忍術や戦術よりもチームワーク。以後気を付けなさい」

 

 普段のサクヤからは発さない空気を発し、アスナの目を見据えながら言った。

 

「すみ、ませんでした」

 

 アスナは小さく口を開いた。しかし、サクヤの表情は変わらない。

 

「謝る相手が違います」

 

 サクヤにまた言われたことに腹をたてたのか、アスナは歯をギリっと噛み締めた。そして、大声で捲し立てる。

 

「っせえな!あんたはアタシの母親じゃない!アタシに構うな!」

 

 アスナは言いながら入り口の穴へと走った。

 

「おまっ、待て!!」

 

 ウシオの制止も遅く、アスナはすでに入り口に入っていってしまった。

 

「追わないと!」

 

「ええ」

 

 イタチとサクヤが示し合わせ、その入り口へと急いだ。しかし。

 

「止まれ」

 

 ウシオたち三人は、穴の直前で停止した。それは、穴からその先にあるであろう里の忍が、捕縛されたアスナとともに現れたからであった。

 

「ようこそ、木ノ葉の忍諸君」

 

 すでに数人の忍に囲まれていた。

 

********************

 

「さて、密書を返してもらいましょうか」

 

 案の定、岩山の中心にある空間に、忍里のようなものが形成されていた。ウシオたち四人は、その里の、木ノ葉でいう火影室のような場所に縄で縛られながら座らされていた。

 

「密書は、すでに木ノ葉へ送った。残念ながら」

 

 ウシオが呟く。しかし、その里の長であろう人物は、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「そうですか。ならば、しょうがありませんね」

 

「なんだ、あっけないな。お前たちの目的は果たせないんだぞ」

 

「ええ、そうですね」

 

 そう言いながら、長は自分が座っていた席から立ち上がった。

 

「これでも、目的は達成出来ています」

 

 ウシオは怪訝そうな瞳を向ける。長は外を眺めながら呟いた。

 

「我々の里は多くの国、里なら流れ着いた抜け忍によって形成されています。その多くが、戦いを望むような荒くれ者たちです。・・・手っ取り早く金を産み出す方法をご存知ですか?」

 

「・・・」

 

 ウシオは無言のままだ。他も同じ。それは、誰もがその意味を理解しているからだ。

 

「戦争です。国と国が争うためには、兵力がいる。その兵力を養うには多くの食べ物などの資源が。資源は忍ではない者が産み出す。兵を雇うために国は里に金を払う。その金は里の忍に行き渡り、その忍はそれを使う。まさに戦争経済。戦争という名のビジネスは、まさに世界を発展させるにはとっておきの方法なのです」

 

「あなた方は、戦争を起こそうというのですか?」

 

 サクヤがとうとう口を開いた。長はニヤリと笑った。

 

「Exactly!あの密書は、里の金の動きについて記されたものです。少し前に起きた、雪の国事件に関する」

 

「オチバ隊長の・・・」

 

 ウシオは瞳を曇らせた。彼が生きている中で、恐らく彼の人生観というものを変えた事件のひとつだからだ。それが、悪い意味であることは、言わずもがな。

 

「不審な金の動きを記した書物。大きな里は大変ですね。汚点を残しておかなければならないとは。どの里でも、汚点が流出するのは避けたい。貴方たちは、まんまとそれに釣られたわけですよ。それに、貴方たちが追ってきたであろう忍も私の指示です。何もせず、里へと帰れ、と」

 

 流出してしまったのは仕方がないとして、なぜ盗まれた。俺は別行動をしていたから密書の中身は知らなかったが、あの事件のことだとは、思いもよらなかった。一つの国の崩壊に関わった証拠だ。厳重な警備のもと保管されていたはず。まさか、スパイ?いや、それは・・・。

 

 長の席の隣には、ウシオが先ほどマーキングした忍が立っている。先ほどとはうってかわって、できる人間の顔立ちだ。

 

「何から何まで、そっちの思うつぼだったってわけか」

 

 ウシオは苦虫を噛むような顔をして俯いた。サクヤは長を睨み付けながら口を開いた。

 

「それで、我々をどうするつもりですか?」

 

「一つ目の目論みは失敗しました。であれば、次です。まずはあなた方には死んでもらいます」

 

 長は外に向けていた目を縛られている四人へと向けた。そしてまた口を開いた。

 

「そしてそれを多くの国へと公表します。・・・砂隠れによる仕業としてね」

 

「そんなことしたら・・・」

 

「そう。少し前に同盟を結んだばかりの里同士が争いはじめたとなれば、結ぶ前よりも大きくなるのは確実です。裏切りはとてもいいスパイスとなりますから。お話はこれくらいにしましょう。元砂隠れの忍と、これから打ち合わせがありますから。・・・ミクモ、彼らを牢へと連れていきなさい」

 

「はっ!」

 

 先ほどウシオがマーキングした忍が、その場にいた他三人の忍に目で合図し、ウシオたちを立たせた。そして、四人を引き連れて、その部屋から後にした。

 

********************

 

「させない。戦争なんて、起こさせない」

 

 四人は、別々の牢へと入れられた。ウシオは、隣の牢のイタチの呟きを耳にした。

 

「イタチ?」

 

 ウシオは縛られたまま、イタチに声をかけた。

 

「ウシオさん。俺は、戦争なんて起こさせない」

 

「分かってる。俺だってそうだ。もう二度と、あんなこと・・・」

 

「だったらどうすんのよ。このままじゃ、本当にそうなるわよ」

 

 その会話に、アスナが口を挟む。

 

「元はと言えばお前が!」

 

「うるさいぞお前たち!」

 

 監視を任された先ほどのミクモと呼ばれた忍が、一喝した。ウシオはそんなミクモを、睨み付ける。

 

「なんだその目は。そんな目をしても状況は変わらない」

 

「そうか?」

 

 その瞬間、ミクモの目の前からウシオが縄だけを残して、かき消えた。

 

「!?」

 

「そんなもん俺が変えてやる」

 

「うぐぁっっ・・・!?」

 

 ウシオは、先ほど施したマーキングを使い、ミクモの背後をとったのである。そしてそのまま、クナイで頸動脈を切り裂いた。

 

「・・・すまない」

 

 ミクモは多くの血を流し、そのまま絶命した。

 

「施したマーキングが、役に立った」

 

 ウシオは、ミクモが持っていた鍵を使って、それぞれの牢を開いていった。そして、一人ずつ縄を切る。

 

「さすがウシオくんですね」

 

「たまたまだよ。それに、サクヤさんこそ代案があったんだろ?」

 

「多少手荒でしたが、ありました。しかし、これが今のところ最善です」

 

 サクヤは縛られていた場所をさすりながら答えた。

 

「どうしますか、隊長」

 

 イタチはサクヤに問う。サクヤは険しい顔をしながら言った。

 

「そうですね。とにかく、ここから出ましょう。見張りは恐らく交代制。この状況も、すぐに感づかれる」

 

 イタチとアスナは頷いた。しかしウシオだけが、そうしない。

 

「どうしましたか?ウシオくん」

 

「・・・」

 

 ウシオは無言でいたが、少しして口を開いた。

 

「皆殺しか?」

 

 ウシオの表情が歪む。サクヤは顔を少し伏せながら、ゆっくり頷いた。

 

「他里から寄り集められた荒くれもので、あの男の考えに同調しているならば、この里は危険思想そのものです。生かしておけば、次に起こらないとは言い切れません」

 

 それを聞いたウシオは少し目を瞑った。そして、考えが固まったのか、ゆっくりと瞼をあげる。

 

「先ほど送った影分身が、この里の中を教えてくれた。それほど大きくない。しかし、至るところに忍がいる。ほとんど全てが忍だ。全てを処理するには相当の労力がいる。そこでだ・・・」

 

 外されていた医療パックを取り戻し、中から兵糧丸を手に取り口に放り込んだ。少しでもチャクラを回復するためだ。

 

「俺がこの里を埋める。土遁を使って」

 

「・・・漏れもあるでしょうが、ほとんど害せるでしょう。分かりました」

 

 サクヤは少し陰りのある表情で了承した。

 

「サクヤさん以外の二人は里の外のマーキングまで飛ばす。サクヤさんは自力で。そのあと五分後に決行する。外にいる三人には、逃げてくる忍をやってくれ。それから・・・」

 

「ウシオさん」

 

 話しているウシオをイタチが口を挟んで止めた。

 

「なんだ」

 

「ここにいるのは、ほとんど忍なのでしょうが、それ以外はどうするのですか?」

 

「・・・」

 

 ウシオは押し黙った。

 

「全て殺す。ここにいるのは、危険思想を持った者たちだけだ」

 

「そう、ですか。わかりました」

 

「じゃあ、作戦開始だ」

 

 ウシオは五人ほどの影分身を作り出した。

 

********************

 

「もうすぐ五分ですね」

 

「ええ・・・」

 

 ウシオがマーキングした里の外の木の側には、イタチとアスナが立っている。二人とも、手にはクナイを持ち、既に戦闘体勢だ。

 

「遅れました」

 

 イタチが呟いたすぐあとに、サクヤが瞬身の術で現れた。

 

「ウシオくんは?」

 

「既に位置に着いているでしょう。岩山の頂上。開いた穴の縁に立っているはずです」

 

 そう言って、イタチは上を見た。当然のことながら、ウシオの姿は見えない。

 

「ウシオくん・・・」

 

 サクヤは小さく呟いた。

 

********************

 

「みんなのためだ・・・。仕方がない」

 

 縁に立ちながら、ウシオは自分に言い聞かせていた。

 

 仕方がない。仕方がない。そう。仕方がないのだ。誰かを守るというのは、誰かを守らないということ。どこがでそんなことを聞かされた気がする。この世界だったか、それとも前の。

 

 これまでの任務で、あまり人を殺すことはなかった。下忍はそんなことは任されない。それでも任されるというのは、俺たちの班が期待されているということだろう。喜ぶべきか、喜ばざるべきか。俺は、後者だと感じる。

 

 それでも進まなければならない。俺は、スーパーヒーローじゃない。忍者。アサシン。暗殺者。闇よりいでし、影なるもの。多くを求めることはできない。俺が救えるのは、俺が救いたいと願う人たちだけだ。しかし。

 

「こたえる、なぁ・・・」

 

 等間隔で配置した影分身と目配せし、同時に印を組んだ。そして。

 

「土遁・岩宿崩し」

 

 地面の岩にチャクラを流し、岩石配列を崩す。すると、里の壁がみるみる内に崩れていった。自分がいたところも崩れるため、足場を確認しながら状況を観察する。

 

 キャー!!

 

 なんだ?!どうした!?

 

 お母さん!どこ!?

 

 里中から多くの声が響いた。女子供。そして老人もいる。それが全て死に至る。岩山は高い壁かつ、崩れている。登ることは不可能だ。そして、カモフラージュのため出入口は一つしかないようで、全ての人間は逃れられない。それでも、落ちてくる岩の上を飛びながら登る忍はいた。

 

「・・・」

 

 ウシオは冷静にその一人一人にクナイを投げる。その対処をしている間に、忍は下へと落ちていく。

 

「すまない。すまない。すまない」

 

 ウシオは幼少期から変わらず、いい人間だ。これは外から見られたときの印象だが、概ね全ての人間がそう思っているだろう。義理人情に熱い、優秀な忍。しかし、彼自身はそう思ってはいない。彼自身が変わり始めていると理解しているからだ。人の生き死にに関わりすぎたせいか、前の世界での常識はとうの昔に崩れ去った。今なお、考え方は変わっている。肉体年齢は12歳の少年だが、精神的には前の世界から合わせると25歳くらいの青年である。精神的な面で成熟しているといえば、そういえるだろう。

 

 耳は塞がない。塞いではならない。自分が起因とした殺戮は、殺戮による音は聞かなければならない。

 

「これはやられましたね。よもやあなたが閃光と同じ術を使うとは」

 

 不意に背後から声を投げ掛けられた。足場が崩れているので、瞬時に反応しようとして体勢を崩した。その声の主はそれを見逃さず、クナイを投げつけた。

 

「くっ!!」

 

 ウシオは体勢を崩しながらも、そのクナイを自分のクナイで弾き飛ばす。そしてそのまま後方へと飛び、適当な距離を取る。

 

「さすがは、と言ったところでしょうか。しかし、舐めない方がよろしいですよ?我が里の忍は、実力派揃いですから」

 

「その言葉をそのままあんたに返す。あんたこそ、舐めない方がいい。俺の仲間は、天才揃いだ」

 

「ほほう」

 

 会話をしている間にも、岩山は崩れる続けている。里の長たる所以か、崩れ去る岩山を冷静に対処し、汗一つかいていない。

 

「少し、話をしましょうか」

 

「冥土の土産にか?」

 

 里の長は気持ちの悪い笑いを向け、口を開いた。

 

「あなたにとって、平和とはなんですか?」

 

「平和・・・」

 

「私にとっての平和とは、この岩山のようなものです。少しの綻びで崩れてしまうような、儚いもの。だからこそ、人は求め、争い合う」

 

「言いたいことはわかる。だが、お前はこの平和を壊そうとしている!忍を焚き付け、争わせ、甘い汁でも啜ろうというのか!」

 

「甘美なものには引かれますが、そんなちゃちなものに興味はありません。偽りの平和なぞ、あってないようなものです。それに、平和の根底には必ず争いがある。光には影があるように。二つは一つでワンセットですから」

 

 ウシオはクナイを投げつける。長はそれを冷静に対処する。

 

「それならいつまでたっても終わらないってことじゃねーか!」

 

「終わりなんてありませんよ!人が人である限り、永遠に争いはなくならない!!風遁・大突破!」

 

 上級忍術を放つ里の長。ウシオは、崩れていく足場から足を踏み外し、瓦礫の上まで落ちてしまった。

 

「くっ!」

 

 血を拭いながら、辺りを見回す。里は全て埋められたが、里の壁はいまだに存在していた。恐らく、術の精度が低かったのだろう。岩壁の配列を崩しきれなかった。

 

「貴方が生み出した犠牲の上に、貴方が立っているのが、わかりますか?」

 

 すぐ、背後に長が瞬身していた。ウシオは急いで距離を取る。

 

「分かっている。それでも、俺は、進まなければ!」

 

「こんな言葉を知っていますか?・・・やったら、やり返される」

 

「?」

 

 いきなり告げられた言葉に疑問の顔を浮かべたウシオだが、その表情は背後からの衝撃によって、すぐに歪んだ。

 

「なん・・・」

 

 痛みに堪えながら首だけでゆっくりと振り向くと、年端もいかない子どもが額当てを片手に持ち、片方の手に持っているチャクラ刀でウシオの脇腹を突き刺していたのだ。

 

 あの岩から逃れたのか。これは、奇跡だ。  

 

 しかしその子どもも、すでに息も絶え絶えだった。身体中傷だらけで、今にも倒れそうだ。

 

「父上の、敵、だ!」

 

「貴方の平和のために失われた命が、残した復讐の塊です。痛いでしょう?痛いでしょう!これが、戦争です!」

 

 分かっていたつもりだったが、これは、痛い、な。

 

 先ほどまでで失われたチャクラも相まってか、ウシオの意識は朦朧としていた。刀を持った子どもは、気を失い、刀から手を離した。ウシオは片ひざをつく。それでも、里の長をにらみ続けていた。

 

「ここで貴方を殺すことも可能ですが、いえ、それはやめておきましょう。貴方は、とても面白い。実に滑稽だ。そのままでは、いつか壊れてしまう。私のように・・・」

 

 長はウシオの隣まで歩いていき、そう口にした。そして、ウシオの背後にいる子どもを抱えて立ち去ろうとしていた。

 

「待、て。お前は・・・ウグッ・・・!!」

 

 口から血を吐くウシオ。長は汚いものを見るかのような目でウシオを見ていた。そしてそのまま口を開いた。

 

「私はアラシ。突風のアラシ。いずれまた合間見えるでしょう。貴方が忍を続けているなら。その偽りの正義を信じ続けているなら」

 

 ウシオは脇腹を押さえながら、片方の手でアラシたちが行こうとしている先を掴もうとしていた。しかし、そこでウシオの意識は、深い闇へと落ちていった。

 

********************

 

「ウシオさん・・・」

 

 イタチは、木ノ葉にある病院の一室のパイプ椅子に座って、横たわるウシオを見ていた。

 

 岩壁が崩れ終わった後、どれだけ待ってもやってこないウシオを探しにいった三人は、前よりは浅くなった穴の中で血を流しながら倒れているウシオを発見した。

 

 アスナが応急処置を行い、すぐに木ノ葉へ戻り今に至る。あの場所から木ノ葉までは相当離れていたが、サクヤがウシオを抱えて全速力で走った。

 

「・・・」

 

 普段は気の強いアスナも、今回ばかりはしおらしかった。あれほど簡単に捕まったのは、アスナが原因なのは、自分でも気付いているからだった。

 

 俺がいながら・・・。

 

 イタチはテンマの事件の時以来、このようなことがないように強くなろうとしていた。テンマのお陰で手にいれた写輪眼だ。そんな言い方はしたくないが、無駄にはできない。

 

 その時、病室のドアがガラリと開いた。開いた先には、少しだけ気落ちしているように見えるサクヤが立っていたのである。

 

「具合はどうですか?」

 

「まだ目を覚ましません」

 

 サクヤは後ろの壁にもたれ掛かっているアスナの前を通りすぎて、ウシオが眠っているベッドの側までやって来て、動かない左手に触れた。

 

「傷自体はそれほど酷くないらしいです。お医者様が言うには、精神的な問題かと・・・」

 

 そう言うと、そのままその左手を強く握った。

 

「精神的?」

 

 イタチは明らかに怪訝そうな目を向けた。あのときな何があったのか。イタチたちにはわかりっこない。

 

「眠りから覚めることができないのか、それとも覚めることをしたくないのか。幻術の類いをかけられた形跡もありませんから、恐らく後者でしょう。ウシオくんならきっと、幻術を自ら解く方法くらい知っているでしょうから」

 

 そしてそのまま、サクヤは側に立て掛けてあるパイプ椅子を開いて座り、目を瞑って話し始めた。

 

「結果的に、あの里は壊滅しました。里と呼べるか定かではありませんが、任務は達成。しかし、里長の死体は出てきていません。ウシオくんに少なからず外傷があったようなので、恐らく逃げていったのでしょう。側にチャクラ刀も落ちていたので」

 

「では・・・」

 

 瞑っていた目を開きイタチの言葉に答えるように続ける。

 

「恐らくあの男が元凶。あの里を束ねていた。あの男が生きているとなると、また同じことをしないとも限らない。三代目から直々に仰せつかったのですが、この任務は無期限延長。進展があれば、すぐに私たちに連絡が来るそうです」

 

 イタチはサクヤから見えない位置で、拳を握り締めた。

 

「隊長は、これから・・・」

 

「私はまだここにいます。ご両親が心配するでしょうから、貴方たちはそろそろ帰りなさい」

 

 イタチがどうするんですか、と言いかけたところでサクヤが挟むように口を開いた。

 

 聞きたいことはそれではなかったのだが、半ば納得させられて、イタチはパイプ椅子を立った。そのまま、アスナがいる辺りで止まり、口を開く。

 

「帰りましょう」

 

 それだけ告げ、イタチは扉を開き、外へと出た。アスナはすぐには出てこなかったので、そのまま病院の外まで出た。

 

「寒い、な」

 

 もうすぐ春だと言うのに、外はまだまだ寒かった。木々や草花は新芽が芽吹こうとしているが、季節はそうさせまいと必死なように感じた。

 

「兄さん!」 

 

 病院の門のあたりから、声をかけられた。弟のサスケだ。その隣には、買い物袋を手からさげた母さんがいた。

 

「サスケ・・・」

 

 イタチは自分が自然と微笑んでいることに気が付いた。最近は嫌なことばかり続き、暗い表情でいることが多かったが、サスケといるときはそんな表情はしなかった。

 

 イタチはゆっくりと二人に近づいていくと、サスケがイタチの方へと駆け寄ってきた。そしてそのまま、イタチのお腹の辺りに抱きついた。イタチは一瞬驚いたが、下にある頭を眺めて、優しく撫でた。

 

「ウシオくんは、大丈夫?」

 

「目は覚まさないけど、身体的には問題ないって・・・」

 

「そう・・・」

 

 母は、ウシオの母と友人だったと言う。そのせいか、ウシオのことは幼い頃から知っており、自分の子どものように接していた。

 

「兄さん!これから修行に付き合ってよ!」

 

 サスケが無邪気な表情をイタチへと向ける。このように、落ち込んでいる暇なんて与えられるはずもなかった。

 

「ダメでしょ、サスケ。これからご飯なんだから」

 

「えー・・・」

 

 気を落とすサスケ。それを見たイタチは母に向かって言った。

 

「夕飯までの間だけ。すぐに帰ってくるから、いいでしょう?母さん」

 

「・・・仕方がないわね」

 

 イタチはサスケの手を取り、うちはの居住区へと歩きだした。

 

 その時、三人の横を小さな影が通りすぎていった。イタチはそれを目で追った。見れば、あのうずまきナルトだった。黄色い髪の毛で、九尾を身に宿す子ども。そして、ウシオの弟でもある。もうすぐ面会時間は終わるのに、どうやらウシオのところへと向かっていったようだった。

 

「兄さん?」

 

 目で追っていたイタチを心配したのか、サスケが少しだけ小さなトーンで声をかけた。

 

「大丈夫だ、サスケ。・・・行こう」

 

 ウシオさんなら、きっと大丈夫。

 

 半ば願いのようなことを考え、ゆっくりと歩きだした。

 

********************

 

「帰りましょう」

 

 アスナはイタチにそう告げられても、その場からは離れようとしなかった。壁にもたれ掛かり、腕を組んだままだ。

 

 アタシのせいだ。

 

 アスナはずっとそう考えていた。トラブル原因になるのは始めてではない。父上と兄の喧嘩の原因も、アスナだったからだ。そのせいで兄は、家を出ていった。

 

「大丈夫ですか、アスナさん」

 

 サクヤから声をかけられ、ハッと我に帰った。

 

「・・・」

 

 アスナは何も言わずに、コクンと頷いた。

 

「きっとあのときのことは、避けられなかったんです」

 

 そう言ったサクヤを、アスナは目を見開きぎみに眺めた。自分の思っていたことを当てられたのだ。動揺しながらも、大人はすごいと感じていた。それと同時に、同情されたことへの感謝と反骨心が一度にやってきて、心がぐちゃぐちゃになった。

 

「アタシ、が、子どもみたい、なことを、しな、ければ!ウシオは、きっと今も笑って・・・」

 

 アスナは自分でもおかしなしゃべり方になっていることに気付いていた。しかし、気を付けていても直すことはできなかった。

 

「向こうの人たちは、私たちに気付いていました。気配を遮断して、潜んでいたのでしょう。それに気付けなかった私にも責任はあります」

 

「で、でも!アタシが出ていかなければ!」

 

「遅かれ早かれ捕らえられていたことは確かです。それに、捕らえられたとしてもすぐに脱出したでしょう?問題は、ウシオくんに全てを任せた私にあります。ウシオくんは優秀な忍です。それに甘えていた自分もいた。皆さんはまだ、子どもなのに・・・。だから、責任を感じることはしないでください。命あっての物種と言いますから、生きていることに感謝をしましょう。だから、泣かないで・・・」

 

「え・・・」

 

 アスナは自分のほほを撫でた。すると、生暖かい水滴が指に付着した。すると、関をきったかのように涙が流れ出て、拭いても拭いてもそれは止まらなかった。

 

 アスナは幼い頃から病にかかりやすく、他人と接触することが少なかった。しかし、持ち前の才能でアカデミーの卒業試験に合格したのである。コミュニケーション能力の不足ゆえ、アカデミーでもクラスに馴染めなかった。それは今もそうで、優しい言葉をかけられても、強い口調ではね除けてしまうのであった。

 

 彼女のプライドからなのか。それゆえ勘違いされやすいが、彼女は基本的に優しい人間であった。

 

 その時、閉じられていた病室の扉が勢いよく開かれた。涙でぐちゃぐちゃになった顔をその方向へと向けたアスナは、知っている顔を見つけた。うずまきナルトだ。

 

「お、おお?どうしたんだってばよ、姉ちゃん」

 

 ナルトはゆっくりとアスナに近づいていき顔を覗きこもうとするが、アスナはすぐに顔を背け、止まらない涙を止めようとしていた。

 

「あ、兄ちゃん!!」

 

 そんなアスナを不思議そうに眺めていたナルトは、自分の目的を思い出し、ウシオの眠っているベッドへと駆け寄った。サクヤの隣で、心配そうにウシオを眺めるナルト。そんなナルトは、顔を向けずにサクヤに問いかけた。

 

「兄ちゃん、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ですよ、ナルトくん。きっと目を覚まします」

 

「そっかぁ、よかった」

 

 そう安堵の表情を浮かべると、イタチが座っていたパイプ椅子へと腰かけた。足をふらふらさせながら、そのままウシオを眺めている。

 

「アタシ、帰ります」

 

 アスナはボソッと呟いた。先ほどよりかは、収まった涙を拭きながら、部屋を後にしようとして扉に手をかけた。そしてそのまま扉を開こうとしたときに、ナルトがくるりとアスナの方を向いた。そしてそのまま、アスナに声をかける。

 

「姉ちゃん!」

 

 アスナは、答えない。扉を開かないところを見ると、背中でそれに答えているのだろう。涙に濡れた顔を見られたくないのは見え見えだった。

 

「兄ちゃんのために泣いてくれて、ありがとう!」

 

 アスナの心臓が、どくんと高鳴った。それを聞いてすぐ、逃げるようにその部屋を後にした。

 

 違う!違う!アタシは、アタシは!!

 

 アタシは、ウシオのために涙を流しているものだと思っていた。しかし、それは違った。アタシは、責任を感じている自分を哀れんで、自分に対して涙を流しているんだ。アイツの弟の言葉を聞いて、感謝の言葉をかけられて、酷く心を揺さぶられた。アタシが、アイツの弟の悪口を言ったからこんな事態になったとも言える。そんな弟のナルトに、笑いながら感謝された。

 

 病院の廊下を全速力で駆ける。途中誰かに注意されたかもしれないけど、そんなことどうでもよかった。一刻も早く、ここから逃げ出したかった。

 

 そして、病院の門を抜けた辺りで、ゆっくりと足を止めていった。ハアハアと息を切らし、顔の汗だか涙だか分からない水滴を、拭った。

 

 アタシは・・・。

 

「最低だ・・・」

 

 アスナさ、病院を背にゆっくりと歩きだした。

 

********************

 

「・・・ん」

 

 ウシオは目を覚ました。

 

「ここは・・・」

 

 辺りは暗い。手で探ってみるが、当たるものは何もない。それどころか、ここはどこでもないような気がした。言うなれば、闇だ。真っ暗で、たどり着く先のない、永遠。

 

「夢か、幻術か・・・」

 

 左手でほほをつねってみる。

 

「痛く・・・ないか。夢?夢とわかる夢ってどうなんだ?」

 

 痛みはなく、感覚はふわふわしていた。しかし、ウシオはデジャブを感じていた。どこかで感じたことのある感覚だったのだ。

 

「一体、どこだ?」

 

 どうしようもないので、その場に座って考えようとしていた。しかし、それは儘ならなくなった。

 

「・・・?!」

 

 目の前の暗闇が晴れ、別の空間が広がったからであった。

 

「これは・・・」

 

 見たことある。だけど、見たことない。正確には、この体は見たことない。この景色は、前の世界のものだ。まだ幼い頃、両親の友人の家へ預けられたときの景色。

 

「・・・」

 

 なぜ、というような疑問は言わないことにした。言ってもしょうがないからだ。どうせ夢なら。

 

 ふとその景色のすみを見ると、幼い頃の転生前のウシオが体育座りしていた。

 

「懐かしいな」

 

 両親の友人は、お世辞にも良い育て親とは言えなかった。むしろ、というところだろう。物理的な害はなかったが、精神的なものを与えられていた。頼る相手がいなかったウシオにとって、物理的なものより、些か辛いものであった。

 

 今から考えると、あの家族が俺を引き取ったのは、友人だからということだけではなかったのだろうと思う。時々見に来てた児童家庭局の連中の前では、良い顔をしていたから。恐らく、国から与えられる支援金が目当てだったのだろう。

 

 当時は気付かない振りをしていたが、嫌でもあのときのことは、頭の片隅に残っている。だから、あのときの畳間で体育座りをして、うつむいていたときのことは、忘れられない。畳の繊維の数を数えながら、時間が過ぎるのを待っていた。

 

 だからこそ、高校へは行かずに働きに出た。あのときよりは良い暮らしが出来ると思っていたが、寧ろ腐っていった。ただ金を稼ぐだけの毎日。自分はこの世界に必要なのか、と日々自問していた。

 

 故に命を張って、あの子どもを救った。我ながら、バカな考えだったように思う。だが、不思議と後悔はなかった。

 

「どうして、こんな夢を・・・なんだ?」

 

 広がった風景に、少しだけ違和感を覚えた。確かにあのときの畳間だが、違う気もする。随分前の記憶だから、忘れているだけかもしれないが。

 

 そんなことを考えていると、襖がゆっくりと開いた。そこに立っているのは、恐らくこの家の主人か、母親だ。この家の子どもとは、あまり親しくしていなかったからだ。だからと言って、その両親と親しくしていたとは言えないが。

 

 しかし、その予想は外れていた。

 

 ウシオは目を疑った。そこに立っていたのは、立っているはずのない人物だったからだ。

 

「嘘だろ・・・そんなはずは」

 

 そこには、死んでいるはずの父親(・・・・・・・・・・)がいたのである。幼い俺は、その人物を見や否や、小さい体で足に飛び付いた。そしてワンワン泣いている。

 

「待てよ、待てよ待てよ待てよ!どういうことだ!これは・・・」

 

 その瞬間、ゆっくりとその景色に光が射し込み、ウシオの瞳を刺激した。

 

 そして、そのまま、ウシオの意識は事切れた。

 




 どうも皆さん。zaregotoです。

 今回も新キャラクターとして、猿飛アスナが登場しました。

 アスナはカズラたちと同い年ですが、体を壊してその年の班編成には関われなかった設定にしております。そして、アスマの妹という設定で、彼女を原因としてアスマが家出をしたということにしております。三代目夫婦としては、結構な高齢出産ですが、目を瞑って頂けると幸いです。

 額当てに羽のマークをあしらった忍の里ですが、恐らく、あのような里は多く存在していのではないかと思います。認知されていない里、もしくは集落があるのではないかと。戦争が終わったからといって、ピタッと争いがなくなるとは思えませんから。

 主人公が転生している必要はない。というような感想を述べられる方な多く見受けられます。転生してるなら、四代目が死ぬことくらい分かるだろう?のような類いの感想です。

 はじめの方で言ったと思うのですが、主人公はナルトという作品のことは知っていますが、真剣に読んだことはありません。転生前の世界ではほとんどの娯楽を嗜んだことはなく、寧ろそれら全てを必要のないものであると考えていたからです。たまたま中学卒業後に働いていた工場の休憩室にナルトが置いてあっただけで、もしなかったら全く知らなかったのです。・・・という設定です。いわば、にわかにもなりきれない読者、といったところでしょうか?

 この物語はあくまでも、不運な主人公が転生してもう一度人生をやり直す物語です。主人公は家族や友人との出会いと別れを経験し、人間らしさを身につけていきます。原作の改変はおこなうかもしれませんが、決して故意におこなう訳ではなく、話の流れ上そうなってしまうのだと思います。

 ですので、歯がゆい思いをされる方がこれからも増えていくと思いますが、その歯がゆさを楽しんでいただければ幸いです。

 長くなりましたが、ここであとがきは終了です。これからも転生伝をよろしくお願いします。また、読者の皆様にはこれからも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしたいと思っております。

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