うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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犠牲者

 雪が吹き荒ぶ中、白い髪の毛の青年が脇目もふらず走っている。奇妙な面をつけている青年は、目の前に見える煙の柱めがけて、走っているのだ。

 

「・・・・・・」

 

 青年は、ここに来る前言われたことを思い出していた───────。

 

 

 

 

「カカシ、お前には雪の国へと向かってもらいたい」

 

「雪の国・・・。確か、ウシオたちが向かったはずでは?」

 

 火影室において三代目火影ヒルゼンに相対しているのは、暗部に所属する忍であるはたけカカシ。カカシは暗部の仮面を取らずに、ヒルゼンと話をしていた。

 

「その通りじゃ。しかし、状況が変わった。先ほど、里内におけるある区画において、不審な金の動きがあるという報告を受けた。金がどこから送られてきたかは分からんが、受け取った相手なら分かっておる」

 

 そこまで言うと、ヒルゼンは手元にあった書類をカカシの方へと向けた。そこには、見知った顔がスクラップされていたのである。

 

「秋野オチバ。第三班の担当上忍。隠されてはおったが、金の送り先は彼の元じゃ」

 

「そんな・・・。オチバさんが、どうして?!」

 

 面の上からでも分かるくらいに、カカシは動揺していた。カカシが暗部に配属されてから会うことは少なくなったが、彼はそういう人間ではないことは分かっていた。

 

「彼の自宅を調べると、いろいろ出てきたわい。もちろん、彼のターゲットもな」

 

「ターゲット・・・?」

 

 ヒルゼンは一呼吸おいて、カカシが問うていることに答えた。

 

「狙いは、うずまきナルト、そしてうずまきウシオじゃ。もちろん、ナルトは里におる。しかし、ウシオは彼の担当している班におる。・・・ウシオが危険じゃ」

 

「だから彼らは雪の国へ?しかしタイミングが良すぎる。彼らの任務がなければ、このような事態にはならないはずです」

 

「そもそも、この任務は雪の国の大臣と名乗る者から直接受けたものじゃ。もちろん、素性もはっきりしておる。故に安全だと考えたのじゃが、オチバの部屋にターゲットの情報以外にとんでもないものがあっての」

 

 ヒルゼンはそこまで言うと、カカシの持っている書類を眺めた。カカシはそれに気付くと、書類の次のページを捲った。

 

「雪の国の内部情報?それに・・・王の暗殺計画?!なんなんですかこれは!」

 

「どこまでが仕組まれたものかは分からんが、確実に誰かの意図によって動かされておる。オチバと雪の国にどのような関係があるかは、定かではないが、オチバも実行犯の一人であることが分かった。・・・しかし、このことは内密にしておきたい。もし、ナルトやウシオを狙った理由が九尾に関してのことならば、他国にその情報が渡っているということになる。・・・分かっておるな?カカシ」

 

 カカシはヒルゼンからそう言われると、一度頷き、瞬身の術で、火影室を後にした────────。

 

 

 

 

「無事でいろ・・・ウシオ!」

 

 カカシは口寄せの術で忍犬を呼び、付近へと散らばらせた。

 

********************

 

「やめろ!オチバ先生!どうしてこんなことするんだ!」

 

 カズラは小雪を抱えているオチバに対して叫んだ。オチバは、無表情のまま口を開いた。

 

「言っただろう?復讐だ。だが、お前たちには謝らなければならないな。関係のない人間を巻き込んだ。本当に、ウシオは許しがたいな」

 

「ウシオが狙いなのは、なぜだ!」

 

 カズラは激痛が走る足首を庇いながら、なんとか立ち上がった。そして、オチバを睨み付けながらそう言った。

 

「君にも関係のあること、だよ」

 

 そう言うと、オチバは近くの木まで歩いていき、そこに小雪を優しく寝かせた。

 

「関係?何を言ってるんだ!」

 

「あれから凡そ三年だ。僕の家族と、お前の母親が死んでからな。九尾の襲来によって!」

 

 そう言うオチバに対して、カズラは一瞬驚いたような表情をしたがすぐに怪訝そうな眼差しを向け口を開いた。

 

「九尾の襲来だと?それとこの状況になんの関係が・・・」

 

「直接は関係ない。しかし、関係はあるのさ。カズラ、お前はもし、あの九尾の襲来が天災ではないと言われたらどうする。何者かによって呼び出されたとしたら!」

 

 カズラは驚きの表情をオチバへと向ける。それもそのはずだ。九尾の襲来は、天災であると言われていたからだ。胡散臭い噂はあった。しかし、カズラの持っている情報からは、何者かの仕業であることを証明できなかった。

 

「・・・バカなこと言ってんじゃねえぞ。じゃあなにか?アンタはウシオが犯人だとでも言いたいのか?!」

 

「・・・・・・」

 

 無言でカズラの顔を見るオチバ。これは、イエスと言っているのだ。

 

「あり得ない!アンタ、自分が何を言ってんのかわかってんのか!?」

 

「カズラ、君は悔しくないのか」

 

「あぁ?!」

  

 眉にシワを寄せ、ゆっくりとカズラの方へと近づいていくオチバ。カズラは身構えながら下がるが、足を怪我しているせいか、オチバのスピードより遅い。

 

「母が、家族が殺されて、悔しくないのかと聞いているんだ!」

 

「・・・!!」

 

 カズラの頭の中に、嫌な記憶がよぎる。思い出したくもない、記憶。自分を庇い、死んでいった母。口から血を吐き、涙を流しながら息子の無事を確認する姿を。

 

 悔しくないわけがない。忘れたことなんて一度もない。だからこそ、強くなった。もう誰も失わないために。

 

 そのビジョンのあとに、ウシオとナルトが思い浮かばれた。屈託のない笑顔でこちらを見ている。しかし、背後にはあの忌々しい九尾の姿。ウシオがカズラを指差すと、九尾は巨大なかぎ爪をこちらに振ってくる。

 

「そんな・・・ウシオが、そんな」

 

「僕も聞かされたときは驚いたよ。だけど、その方が辻褄が合う。だって、急に現れるわけがないからね。・・・九尾は口寄せされたんだ。何者か(・・・)によって」

 

 オチバはそこまで言うところで、カズラの目の前までやって来ていた。カズラはその場に尻餅をついてしまう。不敵に笑うオチバ。そんな彼を見つめるカズラ。オチバはカズラに向けて、手を差し伸べた。

 

「ともに倒そう。僕たちの敵を」

 

 カズラの頭の中に、いろいろな考えがよぎる。ウシオが里を襲う理由。九尾が現れた理由。様々な考えが。しかし全然まとまらなかった。それは、彼のなかに少しの懐疑心が生まれてきていたからであった。ウシオに対して。

 

 復讐できる相手がいる。それがどれほど幸福だろう。自分の生きる理由ができる。無意味に平和のために戦うより、ずっとずっといい。

 

 カズラは、差し伸べられた手を、眺めた。傷だらけの歴戦の勇者の手だ。そんな彼が、教え子に対し、そんな考えを抱いているのだ。とても悲しい。しかし、自分にもその考えが、少しはあった。

 

 カズラは、ゆっくりとその手に、自分の手を近づけようとする。そして。

 

 そのすぐ手前で、カズラは手を止めた。

 

「・・・・・・」

 

 オチバは表情を変えず、ただ黙ったままだった。

 

「例え、もし、ウシオが俺の復讐の相手だったとしよう」

 

 カズラはその手を握り締める。プルプルと震える拳。握りすぎて、血が出てしまうほどだった。

 

「確かに悔しい。憎い。殺したいほど。けどな・・・!」

 

 カズラは、出しているのとは違う方の手で、忍具の入っているポーチをまさぐる。オチバは気付いていないようだ。

 

「俺は!!」

 

 そのまま手裏剣を握り、オチバに向かって投擲した。突然のことに驚いたオチバは、かわしきれずに差し伸べていた手で顔を庇った。手裏剣による切り傷が刻まれる。そして、後方に飛んだ。

 

「ウシオを、信じる!!」

 

 決意の表情で、オチバにそう宣言した。

 

「血迷うな!カズラ!」

 

「血迷ってなんかねぇ!アイツは俺の友達だ!唯一無二の!乱暴者だった俺にできた、友達と呼べる初めての存在だ!アイツがそんなことしても、俺だけは信じている!周りから疎まれようと、俺だけになっても、それでも、信じ続ける!それが、友達ってもんだろうが!繋がりってのは、アンタにとやかく言われて切れるほど、柔じゃねぇんだよ!」

 

 カズラはそう宣言した瞬間、オチバの表情が一瞬柔らかくなったような気がした。しかしすぐに険しい顔に戻り、すぐにクナイを構える。

 

「そうか・・・。だったら、死ね!!」

 

 オチバはクナイを投げつけた。自由に動けないカズラは、腕で顔を覆う。万事休すか、と思われた瞬間、そのクナイはどこからか飛んできた手裏剣によって弾かれた。

 

「・・・!!」

 

 オチバとカズラがその飛んできた方向を見るよりも早くに、その飛ばした人物は、オチバとカズラの間に現れた。

 

「ウシオ!!」

 

 カズラは目の前に現れた背中にそう声を掛けた。

 

「遅くなったな、カズラ。大丈夫か?」

 

「ああ、当たり前だろ」

  

 ウシオはちらりとカズラを眺める。カズラの足からはドクドクと血が流れ続けている。

 

「カズラ、アヤメを頼む。ここは俺が何とかするから」

 

「待てよ。俺だって・・・痛っ!!」

 

 立ち上がろうとするカズラだが、先ほどよりも痛みが増しているようで、すぐによろけて転んでしまった。

  

「お前のせいで、また人が死ぬことになるかもね」

 

「・・・」

 

 ウシオは、鋭い表情でオチバを睨んだ。

 

「ごめん、オチバ先生」

 

 その表情は、すぐに悲しみの表情へと変わった。ウシオが言った一言は、オチバを怒らせることになる。普段のオチバからは見ることができない、顔へと変えた。

 

「なぜ謝る。なぜ謝らなければならない!!本当に君がやったのか?!」

 

「そう、思ってくれてもいい。あの時、多くの人を傷つけたのは、母さんの中に入ってた、そして今俺の弟の中に入ってる、九尾であることに変わりはない。俺がもっと強ければ、母さんや父さんの力になれてれば、里のみんなが悲しむことはなかった。二人も死ななかった。弟が、こんなに苦しむことはなかった!だから、あの十字架は、俺が背負う」

 

 そう言われたオチバの表情から険しさは消えていた。むしろ、清々しさを思わせるような顔だった。

 

「それほど大きな十字架を、君のような子どもに背負えるのかい?」

 

「それが、生き残った者の責任だ。起きてしまったことは、二度とやり直せない。例えそれがどれほど悲しくても、真っ直ぐ向き合わないといけないんだ!」

 

 ウシオは転生する前の自分を思い浮かべていた。ウシオには本来起こり得ないことが起きた。新しい体と、名前、そして家族を得た。しかし、転生する前の自分には戻ることができない。二度と。これは一度、生を終えたウシオだからこそ言えたことだった。

 

 もしかしたら、自分自身に言っているのかもしれない。

 

 ウシオはそうも思った。

 

「僕には、無理だね。無理だ。あの時から、ずっと、この感情をどうするべきか、悩んでいた。だから、僕は君たち家族に復讐するんだよ。君の命を手向けとして、僕は、楽になるんだ。・・・大人がみんな、強いわけじゃないんだよ。みんなただの人間だ。弱く儚い、脆い人間」

 

 オチバはクナイを構える。表情も鋭くなり、所謂、臨戦態勢だ。ウシオも、そんなオチバを見て、クナイを構える。

 

「僕は、君に死んでほしい。原因となった君たちがのうのうと生きているのに耐えられない。この苦しみを晴らすためなら、僕はなんでもするよ・・・!!」

 

 言い終わると同時に、オチバはクナイをウシオに投げつけた。ウシオは瞬時にそれを理解し、自分のクナイで弾く。

 

「・・・!?」

 

 ウシオがクナイを処理している間に、オチバは瞬身の術でウシオの目の前まで飛んだ。突然のことに対応しきれなかったウシオは一瞬怯んだ。それを見逃さなかったオチバは、瞬時に印組みをした。

 

「水遁・水乱波!」

 

 オチバは口から水を吐き出す。ウシオはそれを受け、かなり後ろにある城壁まで吹っ飛んだ。

 

「僕にとって、家族は生き甲斐だった。だからこそ、それを奪った九尾は許せない。それを今も飼い続けている木ノ葉も。原因を作った君たちも!」

 

 至近距離でまともに術を受けたウシオ。勢いにより、砂煙が舞う。

 

「火遁・火龍炎弾!」

 

 吹き飛ばされ、城壁に打ち付けられたウシオも負けずに術を放つ。大きな火が、龍の形をしてオチバを襲う。オチバは術の強大さに、感心していた。

 

「まだ子どもなのに、これほどの術を・・・。君は、いや、君なら・・・」

 

 オチバは今いるところから後ろへと飛び、距離広めた。

 

「水遁・水龍弾の術!」

 

 オチバも同等の力の術を放った。水のないところでこれほどの水遁を繰り出せるところを見ても、流石は上忍と言ったところだ。

 

 二つの龍が、衝突した。水が火によって蒸発し、辺りは水蒸気で満たされていた。それによって視界が悪くなり、お互いにお互いの位置がわからずにいた。オチバは、どこから来るのかと辺りを見回す。

 

「ハッ!!」

 

 するとオチバは上空から、チャクラ刀に雷遁のチャクラを流したウシオが、それを振りかぶって斬りかかろうとしていた。オチバは、一瞬でそれを理解し、後方へと飛んだ。

 

 また、二人の間に一定の距離が出来上がる。

 

「俺は昔、繋がりってのが分からなかった。むしろそんなもんどうでもいいと思ってた。だから、それを失った今だからこそ、先生の苦しみが分かる。だけど、俺には守るものがある。守らなきゃならない、大切な繋がりが、まだ残ってる!だから俺は、死ぬわけにはいかないんだよ」

 

 ウシオの言う昔というのは、転生する前のことだろう。それを知るよしもないオチバだが、冷静にそれを聞いていた。

 

「・・・!?」

 

 その瞬間、ウシオが片ひざをついた。いつの間にか肩で息をするようになっている。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。くそ!」

 

 体が気だるい。視界がぼやけ、はっきりとしない。要するにチャクラ切れだ。ウシオにどれほど才能があろうと、オチバのような上忍とは保有するチャクラ量には圧倒的な差がある。ここに来るまでに、多くの雪忍と戦ってきていたウシオには十分に戦える程のチャクラが残っていなかったのである。

 

「・・・やっぱり君は子どもだ。このくらいで息をあげるなど」

 

「まだだ・・・」 

 

「いいや、終わりだよ。もう」

 

 オチバは瞬身の術でウシオに近づくと、そのまま大振りの蹴りを喰らわせた。

 

「ガッ・・・!?」

 

 吹き飛ばされるウシオ。オチバはすぐに瞬身の術でウシオの背後にまわり、ウシオを蹴りあげる。上空に打ち上げられるウシオ。そして、一息つく暇もなく、上空にまわったオチバは、ウシオを地面へと叩きつけた。

 

「カハッ・・・!!」

 

 ウシオは叩きつけられ、うつ伏せになる。オチバは叩きつけられたウシオの首もとを押さえた。押し上げられる血を吐き出すウシオ。

 

「このときを、どれほど待ち続けたか。君が僕の班に配属されたときから、どれほど」

 

 そう言うと、ウシオの腰に納められているチャクラ刀を握った。ゆっくりと取り出すと、その刃をウシオの右足に突き刺した。

 

「アッアアァァアァアアア!!!」

 

 右足に激痛が走り、ウシオは悲痛な声をあげた。

 

 オチバは首だけでウシオを持ち上げ、投げ飛ばした。地面を何度も跳ね、そのたびに真っ白な雪の上に血痕がついた。

 

「・・・もう、終わりにしようか」

 

 ゆっくりと近づくオチバ。シャク、シャク、シャクと、雪の上を歩くたびに音がする。ウシオはかすかに目を開き、近づくオチバを眺める。視界が歪む。それでも立ち上がろうとするウシオだが、力なく崩れた。

 

「くそぉぉぉ・・・・」

 

 掠れた声で言うウシオ。オチバは、悲しそうな表情でそれを眺めた。そして、ゆっくりと、印組みをする。

 

「大丈夫、痛みは一瞬だ」

 

 印組みを終え、口を開く。

 

「水遁・水時雨」

 

 オチバの口から無数の水でできた針が吐き出された。それが、ウシオに迫る。この術を食らわなくてもすでに意識が朦朧としているウシオ。ウシオは、薄れゆく意識のなか、自分の不甲斐なさを嘆いた。

 

 しかし、そのとき、その攻撃は阻まれた。

 

「・・・!!」

 

 倒れこんでいるウシオは、なんとか目を開き、見上げた。大きな背中が、その水遁を阻んでいたのである。

 

「カ、ズラ・・・」

 

「大丈夫かよ、ウシオ」

 

 カズラがウシオとオチバの間に現れ、水遁を一身に受けたのだ。水遁はカズラの体に穴をあけた。体のあちこちから血が流れ出す。

 

「何やってんだ、バカ野郎・・・」

 

 掠れた声でそう声をかける。

 

「うるせぇな。体が勝手に・・・いや、違うな。お前を救えるのは、俺だけだと思ったからだ」

 

 直立のまま、背中でウシオに告げた。

 

「お前が命をかけてるのに、俺がそうしないわけにはいかないよなぁ、ウシオ」

 

 そう言うカズラは、特殊な印を組んだ。そして、瞳を瞑り、口を開く。

 

「忍法・羽化当仙(うかとうせん)・・・」

 

********************

 目を瞑ったままのカズラは、すでに故人となった祖父のことを思い出していた。祖父はカズラがアカデミーに上がる少し前に、寿命を迎えこの世から去った。

 

***** 

 

「秘伝忍法?」

 

 薄暗い部屋には、大きなベッドがあった。そこには、老人が横たわっている。その側には栗色の髪の毛の少年がいた。

 

「そうじゃ。カゲロウのやつは恐らくお前に教えないじゃろう。じゃから、ワシが教えることにする」

 

 そう言われているのは、まだ額当ても貰っていない、アカデミーにすら通っていない子どもだ。しかし、老人の顔は真剣だった。

 

「この術は、ワシら薄葉一族にしか伝えられておらん。ワシの義祖父、つまり、カズラの高祖父である薄葉カゲロウが編み出した必殺の忍術じゃ」

 

 カズラの父もカゲロウと呼ばれる。薄葉一族は、代々当主がカゲロウの名を受け継ぐことになっているのだ。その役目を終えると、カゲロウと名乗る前の名前に戻る。カズラもいつかはカゲロウと名乗ることになるのだ。それは女性でも同様だ。薄葉一族は、性別に関係なく当主を決める。カズラの祖父は薄葉一族に迎え入れられた婿養子なのである。

 

「コーソフってなに?じいちゃん」

 

 可愛い顔で首をかしげるカズラ。頑固な表情だった老人も、苦笑いを浮かべた。

 

「そうじゃな、じいちゃんのじいちゃんじゃよ」

 

「じいちゃんにじいちゃんいるの!?」

 

 老人は優しい顔でカズラの頭を撫でた。

 

「じいちゃんのじいちゃんは、ワシがお前くらいの頃に死んだ。ワシらを守るために、この術を使ってな」

 

「死んじゃったの?」

 

「そうじゃ。この術が必殺であるのは、そのためじゃ。確実に相手を殺さなければ、ワシらの後ろにいる者は殺されてしまうからの」

 

 薄葉一族のチャクラは、特殊だ。チャクラ自体が、扱いやすい。チャクラコントロールが異常なほどに正確なのである。この特性を利用し、カズラの高祖父である薄葉カゲロウが編み出した、体内にあるチャクラを全て放出し、留め、超人的な肉体を得る術である。しかし、それと引き換えに、体内のチャクラを全て失う。つまり、命を落とす。

 

「じゃから、お前の父は使わせたくないのじゃろう。一族という慣習からの脱却を目指しておるようじゃが・・・。そうではないのじゃ。これを教えるのは、一族の習わしだからではない。大切な何かを守るために。ワシにはこの術は扱えん。薄葉一族のチャクラを持ってはおらぬからの。薄葉の血を持つお前のばあちゃんが使える。もう、ここにはおらんがの」

 

 先代の薄葉カゲロウであるカズラの祖母は、当代の薄葉カゲロウを守るために、この術を使ったのだ。カズラに教えないのは、恐らくそのためだ。無駄な命を散らすべきではないとでも、考えているのだろう。

 

「お前にはおるか?大切な何か」

 

 カズラは腕を組んで考える素振りを見せた。しかし、答えは出なかったようで、答えは出なかった。

 

「よい。いずれ見つかる。お前は優しい子じゃ。この術の本当の意味を、理解してくれると信じておる。そして、未来の世界が、こんな術を使わないような世界であることも、の。・・・では、見ておれ。印はこうじゃ・・・」

 

 薄暗い部屋には、老人と少年がいた─────。

 

***** 

 

「俺は仙人の境地へと至る。オチバ先生。あんたを倒して、みんなを救う!」

 

 カズラから放出されたチャクラが、カズラの体に纏われる。背中にはチャクラによる羽が形成されていた。カゲロウのように美しく、儚げな輝き。それが、カズラを包み込んでいた。

 

「その術、秋道一族の術に似ている・・・。もしかして、薄葉一族にしか使えない術とかかい?」

 

「悪ぃが、時間がねぇんだ。説明してる暇はねぇ。一気に決めるぞ」

 

 そうカズラが口にすると、一瞬にしてカズラの姿が消えた。瞬身の術よりも早い。ただの瞬間移動の枠を超えて、どうやら時空間忍術の類いにまで昇華されているようだった。実際に時空間忍術になっているわけではないが、それでも同等の速さにまでなっていた。カズラが体に纏っているチャクラがそうさせているのである。

 

 もちろん、オチバはそれに追い付けるわけがない。オチバが、カズラが消えたと判断するよりも前に、オチバの体は後方へと飛んでいた。オチバは突然訪れた衝撃に、驚くばかりであった。後方の木へと叩きつけられ、そのままへたりこむ。

 

 なんとか顔をあげて、元々自分がいた場所に目をやると、そこにはカズラの姿があったのである。そのとき、初めて、カズラの攻撃であるの気づいたのだ。

 

「な、なんだ今の攻撃は・・。速すぎるなんてレベルじゃない。光よりも速い。四代目以上の速さ。どこでそんな術を・・・」

 

 カズラを睨みながら、そう口にするオチバ。そのとき、カズラの姿が一瞬歪んだ。次の瞬間、叩きつけられたオチバは、背中の木と共に、さらに後方へと吹き飛んでいた。木は根本の少し上から千切れ、切断面が荒い切り株となっていた。速さにより、攻撃の勢いが数百倍にまで跳ね上がっている。

 

「ガハッ・・・・・・!?」

 

 オチバは身体中の骨が粉々になるのを感じた。このままでは、臓器のほとんどが潰れ、恐らく、死ぬ。

 

 オチバは痛みに耐え、なんとか、体勢を立て直した。カズラよりも速く次の行動に移さなければならなかった。しかし。

 

 そう考えるよりも先に、カズラの蹴りがオチバの頭部に繰り出された。たまたまそこを右腕でガードしていたため、頭部へのキズは免れたが、腕が使い物にならなくなった。右へと飛ばされるオチバ。

 

 この勢いで繰り出される攻撃に、カズラ自身の体が耐えられるはずがない。しかし、それは纏われているチャクラによって防がれていた。ついたキズはそのチャクラによって、超速で治癒されているからだ。

 

 オチバは吹き飛ばされながらも、未だに使える左手で印を結んだ。そして、口から水を吐き出し、辺りを水浸しにしたのである。その水が、一面の雪を少し溶かした。そして、地面がぬかるみ始めたのだ。

 

「・・・!?」

 

 そのため、次の行動に移そうとしていたカズラは、体勢を崩してよろけた。それを見逃すオチバではなく、壁には叩きつけられずその壁を蹴り、カズラの元へと飛んだ。そして、先ほどウシオを刺したチャクラ刀を構え、特攻する。

 

 決まった。

 

 オチバはそう思った。刀の(きっさき)が、すでにカズラの心臓部へとあと数センチのところへと迫ってきているからだった。いくら治癒しているとはいえ、心臓をひとつきにされたら、命はない。そして、その鋒が心臓に刺さった。しかし。

 

「・・・?!」

 

 しかしオチバは、まったく手応えを感じることが出来なかった。それは突き刺さったはずのカズラが、霞のように消え、次の瞬間には、オチバの上部へと移動していたからだ。カズラは、残ったチャクラを全て自分の右手に集める。そして、そのまま、カズラは、オチバの背中へと拳を叩き込んだ。

 

 

「当・千・砲・弾!」

 

 

 ものすごい勢いで地面へと叩きつけられたオチバ。その勢いにより、オチバのまわりには大きなクレーターができており、その威力の凄さを物語っていた。

 

 当然のごとく、オチバは意識を失う。白目を向き、口からは血を流していた。

 

 カズラは、それを眺め、確認すると今度はゆっくりと、ウシオの元へと近づいていった。それと同時に背中の羽も少しずつ消えていっていた。

 

「カズラ、お前、どこでそんな。でも、ありが・・・」

 

 ウシオは、か細い声でカズラにそう言った。そして、感謝の意を述べようとした瞬間、カズラがまるで糸が切れたかのように倒れこんだのである。それは、背中の羽が消えるのと同時だった。

 

「カズラ!!」

 

 ウシオは、残った力を振り絞り、倒れたカズラの元へと急いだ。カズラの側へより、背中を支えた。

 

「お前・・・」

 

「あー、体が全然動かない。まるで自分のもんじゃないみてぇだ」

 

「さっきの術は、そういう術(・・・・・)なのか?!命を燃やす・・・」

 

「命を燃やすか。カッコいい言い方だな。それ、頂きだ。・・・大体、ウシオが思ってる通りだ。俺はもうすぐ、死ぬ」

 

 カズラは、夜空を見上げながらそう呟いた。カズラが術を使っていた時間は凡そ10秒。わずか10秒で、全てのチャクラを失ったのである。

 

「なんで、そんな・・・」

 

「ばっか。お前だってそうしたろうがよ。俺たちを助けるために。・・・俺許せなくてさ。さっき一瞬でもお前を恨んだ俺が。大切な何かを、疑っちまった俺自身が」

 

 カズラはどんどんと衰弱していく。同時に、心臓の鼓動も遅くなっていった。

 

「じいちゃん、俺わかったよ。この力の使い方。大切な何かを守るため。やっと何かが見つかった。でも、この先、この力を伝えられなくなっちまった。・・・まぁ、少し、嬉しいかな」

 

 ウシオが握っているカズラの手から、力が抜けていく。

 

「早いんだよ!バカなこと言うんじゃない!!これからだろうが!火影になるんだろ?俺のライバルなんだろ?まだまだこれからなんだよ!これから沢山、色んなことがあって、それで、それから!!」

 

「だから、もう、いいん、だって。お前らに、会えて、よかった、から」

 

 カズラは、ゆっくりと瞳を閉じる。ウシオの瞳から流れた大粒の涙が、カズラの瞳に落ちて、それがカズラの頬へと流れていった。

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

「カズラァァァアァァア!!」

 

 

 

 

 

 

 カズラの意識は闇へと落ちた。




みなさんどうも、おはこんばんにちは!
Zaregotoです。

雪の国篇完結?です。
長い文章を書いてると、ほんとに自分の文章が稚拙だということを思い知らされます。それに加え、ケータイの不調で、本文を書き込むとき異常に書き込みが遅くなりまして。ストレスフルです。

裏切り者は、オチバ先生でした。実は、彼のことを考えたときからこの結末は考えていまして。何らかの形で主人公たちに立ちはだかる、という感じに。この作品では、ウシオがチートのように扱われていますが、あくまでも下忍の中でのお話です。チャクラ量こそ、普通の下忍よりも少し多いですが、それだけですから。相応の修行を積んだ、上忍では叶うはずありません。そこで、カズラが捨て身の攻撃を繰り出していくのです。

カズラのこのような展開も予め考えていました。どこかで、ウスバカゲロウという虫を特集しており、
「これってナルトの中の登場人物の名前にでそうじゃない?」
と思いまして。そこから、ウスバから続く名称を探していきました。ここで重要なのはカゲロウという名です。カゲロウはごく短命な虫として有名です。成虫の状態では何も食事をとらないと聞きます。つまり、彼ら一族の術はそういうことですね。でもカゲロウは短命ですが、ウスバカゲロウは短命ではありません。ここはまぁカゲロウという名称だけに注目して頂ければ。余談ですが、カズラの父の名は、サイシン。母の名は、アゲハ。祖父は、カマキリ。祖母は、キチョウとなります。

実は、雪の国篇というのは、名ばかりで、オチバ班が壊れる理由付けをさせるためのお話でした。無印ナルト劇場版第一弾において、若いカカシが小雪姫を助けている描写がありました。ここにも少し理由をつけようと思い、オチバの処理のために向かったカカシが偶然小雪姫を見つけた、ということにしました。

はたして、カズラはどうなったのか。続きは次回のお話で。次回は新章の前日譚となります。

稚拙な文章で非常に読みにくいかと思いますが、精進していきますので、これからもよろしくお願いします!



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