青年、仙人に会う
痛い。
身体中が痛かった。日差しによって熱されたアスファルトの上に、広がる大空を仰ぎ見る。
思えば最悪な人生だった。
俺が生まれてすぐ両親は死んだ。身寄りがあるわけでもなく、その瞬間俺は天涯孤独の身となった。
その後は両親の友人と名乗る人物の援助を受けながら、中学までは行くことができた。しかしその後は自分からその援助を断ち、高校へは行かずにすぐ働きに出た。
なんとか地元にある工場で働くことができた。汗と鉄の匂いにまみれながらネジやバルブを作る日々。
同い年の奴らが制服着て、青春してる最中に、俺はせっせと生活費を稼ぐ。
数年して工場は閉鎖された。理由はよくわからないけれど、上の会社の不正が発覚したとか。高校を卒業するくらいの年齢になって、無職のクソニートになった。
そして。
そして、今に至る。俺は車に轢かれて、人生の終わりを体感しているところだった。決して自分から終わりにしたわけではない。
車に轢かれそうになっていた男の子を救おうとした。
世界、人生への反逆。こんなクソ野郎でも、人の命くらい救えるという証明をしたかった。結果、救えたらしい。男の子の母親と思われる人物が、俺の横でワーワー騒いでいる。
そういえば、もう視覚すら危うい。目の隅から少しずつ黒く染まっていっている。辛うじて、耳はまだ聞こえるけど、ずっと耳鳴りがしてるみたいにキーって音が聞こえ続けてた。
「お兄ちゃん」
誰かが俺を揺すった。痛みは尋常じゃなかったけど、耐えて眼球だけをその揺すられた方向へと向けた。
見れば先ほどの少年らしき影が俺を見下ろしていた。
「どう、した?少年」
「痛い?」
当たり前だ。しかし、反論する気力なんて残ってない。そうだね、とだけ呟いた。
「死んじゃうの?」
うん、そうだね、とだけ呟く。
「ごめんなさい」
謝られてもなぁ。
「そういうときは、ありがと、う、でいいんだ、ッウ!?ゲホッゴホッ!!」
吐血。そろそろみたいだ。腹ん中ぐちゃぐちゃで救急車が来たとしても助かる確率は少ないだろう。まぁ、助かったとしても、って感じだ。
「お兄ちゃん」
少年は再度俺を呼ぶ。何故だかより鮮明に、クリアにその声は届いた。
「ありがとう」
「……あ、あ」
少年から感謝を述べられると、俺の意識はそのまま闇へと落ちていった。なるほど、案外死ぬ寸前ってのは安らかなんだな。
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「……い」
死んだ。体の痛みが引いているので恐らくそうなんだろう。
「お……」
目は瞑ったままだ。死んだらどうなるかっていうのは結構気になるところだったので、目を開いた先に何があるのか、ワクワクしていた。
お花畑なのか、また三途の川なのか。どちらにせよ、意識があるということは死後の世界ってのは存在するんだろう。
「おい!起きんか馬鹿者!」
「うひやぁあっ!?」
いきなり声を掛けられ、咄嗟に目を開いてしまった。
「あ……へ?」
「やっと目覚めたか」
広がる世界は真っ白な空間に、ぽつんと浮かんでるじいさん一人。・・・え?
「はぁ!?」
「なんじゃそんな声を出して」
「なんじゃって……」
いろいろ突っ込みどころが満載だった。真っ白だし、浮いてるし、じいさんだし。どこから突っ込めばいいか分からなかった。
「儂は六道仙人。見ておったぞ、お主の最後を」
「りく……?仙人?何言ってんのアンタ?何?神様?」
「儂らの世界では神様のように扱われておるがの。儂は忍宗を作りあげた忍世界の祖、大筒木ハゴロモ」
ニンシュウ?忍世界って言った?何、忍者なの?
「その通りじゃな」
「なんでナチュラルに思考を読んでるんだよ」
「ここは認識が作り上げる空間じゃからの。思考も混同してしまっておるのじゃろう」
じゃあ、別に黙ってても意味ないわけだ。
俺は立ち上がり、自身の体の隅々まで見渡した。姿は死んだときの格好だ。見たところ、怪我はない。
「六道のじいさん、でいいの?」
「ああ」
我ながら凄い適応能力だ。まぁ、突っ込むことをあきらめただけなのだけれども。
「ここ、どこ?」
「ここは……」
六道のじいさんは辺りを見回した。
「……浄土の少し手前、といったところか」
「まだ天国じゃないってこと?俺なんでここにいるの?」
「お主はたまたまじゃな。本来行くはずの浄土とは別の浄土の手前におる」
「は?」
本来行くはず?じゃあ、ここは?
「何かの不手際でこちらの世界の浄土に繋がってしまったようじゃの。お主はこちらの世界の人間ではないから、浄土に向かえないのじゃろう」
「は?じゃあ俺死ねないの?」
「いや、すでに肉体は死んでいる。繋がりも切れて戻ることも不可能じゃな」
えっとつまり。
事故で死んだはいいものの、行かなきゃいけないところに行けなかったから、魂が天国へ行けずにここに留まっているってこと?
「その通りじゃな」
「え、困る。それ困る。こういう世界があるから輪廻転生とかは肯定するとして、だ。俺、次の人生歩めないじゃん。今度こそ幸せになれないじゃん!」
「すまぬ、そればかりはどうしようもない」
「ま、それはいいや」
「よいのか」
「うん」
少し怪訝そうな顔をした六道のじいさん。
「じゃあじいさんはどうしてここにいるんだ?」
「儂はアシュラとインドラの魂の行方を見ている」
「へー……神様って大変なんだな」
「儂の子じゃからな。それに、これは必要なことなのじゃ」
「ふーん。じゃあ俺はどうしようかなぁ。じいさんと、ルームシェアすんのはやだしなぁ」
「見ておったぞ」
「は?」
「先ほども言ったじゃろう。お主の最後を見た、と。勇敢な最後であったではないか。魂が現世に留まっておらぬところを見ると、後悔はないようじゃな」
疲れたので俺は腰を下ろした。
「後悔なんてありすぎて、したりないくらいだよ。生まれた瞬間から後悔の塊だったようなもんだからな」
「ふむ。話してみろ」
「へ?えっと……うん。じゃあ……」
そっから物心ついた頃から覚えていることを全て話した。話していていろいろ思うところはあったけれど、まぁ今さらだしと思い、思い過ごした。
「ふむ凄惨な人生じゃったな」
「凄惨とか言うなよ。……まぁ凄惨なんだけど」
「ふむ……」
そこからじいさんは何かを考え始めた。
俺は、じいさんにも思考が読めるんなら俺にも出来るだろ、と思い実行したが、どうやら不可能のようだった。じいさん曰く、儂だから出来ること、らしい。
「よし、分かった」
「は?何が」
「お主を転生させる」
「……は?」
********************
黄色い髪の毛をした青年が月夜の中を駆けていた。後ろには赤い髪色の女性がついている。
「ここまで来れば大丈夫よね」
「そうだね。でも油断は出来ないよ」
「分かってる。でも昼間から走り通しだから疲れたわ」
二人は走るのをやめ、そこら辺にあった大樹の下に座り込んだ。
「密書の奪取。とりあえず成功かな?」
「木の葉の黄色い閃光がいるんだもの。大丈夫よ」
「君のバックアップのお陰だよ」
青年は兵糧丸をかじりながら答えた。
……あ。……おぎゃ……。
その時、女性の方が何かを感じ取ったかのように、視線を森の奥の方へと向けた。
「ねぇ、何か聞こえない?」
「え?俺には何も聞こえないけど」
「いや、聞こえる!赤ちゃんよ!赤ちゃんの泣き声!」
そう言うと、女性はすっくと立ち上がり、その声のしたという方向へと駆けていった。
「ちょっ!?一人じゃ危険だ!」
青年はすぐに追いかける。彼女の足取りがその物事の本気さを物語っていた。そして。
「あ、赤ちゃんだってばね!!」
女性は叫んだ。風の音の他に何も聞こえない静かな森の中に、その声は響いた。
青年が到着したときには、女性がその小さな命を胸に抱いていた。
「ミナト……この子」
「……」
ミナトと呼ばれた青年は、その命を眺めた。彼女と同じ赤い髪色をした男の子だった。
「とりあえず、急いで里に戻ろう。今の声で、敵に見つかったかもしれない」
「……!ご、ごめんなさい」
「いいよ。クシナがいなければ、この命を救えなかったかもしれない。……早く帰って三代目に報告しよう」
「ええ!」
クシナと呼ばれた女性は男の子を布に包み、優しく抱いた。そして、先ほどと同じく月夜の中を走り出したのであった。
みなさんどうもこんにちは、zaregotoです。
最近ナルトにまたはまり始めたので、SSを書こうと思いました。そして、何番煎じも、いいところですが転生ものを書こうと思った次第であります。
本作品の設定として、主人公の本来いた世界にはNARUTOはマンガとして存在しており、完結済み。しかし主人公はマンガなどの娯楽には一切触れてこなかったので、ほとんど知識はありません。
仕事場の休憩室にNARUTOはありましたが、途中までしかおいてませんでした(木の葉崩し篇くらい)。なので誰が誰で、黒幕は誰か、とかは一切分かっていません。
彼が、この物語に、介入することによる原作の改変もあるかと思いますが、生暖かい目でいてくれると助かります。批評まってます。