金木研はヒーローになりたかったのだ   作:ゆきん子

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飯田君、いい声してますよね。アニメの話ですが。


11話 お騒がせなマスコミ

 

校門前には、何やら人だかりができていた。

雄英のゲートに群れを成した人々は、それぞれカメラやマイク、ボイスレコーダーなどを各々の手に持っていた。

近寄ろうにも近寄れず、どうしようか迷っていると、雄英の制服を着た僕に気が付いたのか髪を結んだ女性がずんずんと近寄って来て、僕にその手に持ったマイクを向けてきた。

 

「オールマイトがこの学校の教師になったけど、彼の授業はどう?」

「え?」

「彼は教師としても優秀なんですか?」

 

なるほど。この報道陣はオールマイトの教師就任で取材に来てるのか。

そういうことなら、この数も頷ける。オールマイトは道を歩くだけでネットのトレンド入りだからな……。

 

「すみません。先生から、お答えする許可を頂いてないので。……じゃあ、これで」

 

有無を言わさぬ内にスッと頭を下げて、人垣をすり抜ける。

 

「なによー、すましちゃって!」

「おい、やめとけ」

 

後ろのほうで先程の女性の苛立ったような声と、それを宥める男性の声が聞こえる。

僕は気にしても仕方ないと、足早に生徒玄関へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「金木」

「は、はい」

 

昨日の戦闘訓練の映像と成績を見た相澤先生は、緑谷君と爆豪君に一言二言告げると、今度は充血した目をこちらに向けた。

 

「敵役に徹したのか勝ちたかったのか分からねぇが、自傷じみた行為はやめろ。あんまりやるようだったらこっちにも考えがあるぞ」

「はい……」

「それから、最後に轟に手を伸ばしたのは、お前達が友人だから、でいいんだよな?……敵に情けをかけて今回みたいに拘束された、なんてお粗末な結果になるのだけはよせ。分かったな」

「そうです。…気をつけます」

 

隣の席の焦凍がピクリと反応したのに意識をやりながらも相澤先生にしっかりと頷くと、彼も言いたい事は言ったのか頷きを返した。

 

「よし。次、轟。個性の使い方は群を抜いて上手い。だが、一人で突っ走りすぎだ。金木みたいにピュンピュン飛び回れるような奴は滅多にいないが、()()()()()()()()ことは昨日分かっただろう。そういう奴に接近されたときの対策を考えておけ」

「……はい」

 

焦凍がきつく手を握りしめる様子が目に入る。

バッと音がするんじゃないかという勢いで振り返った爆豪君は、親の敵でも見るような凶悪な表情で焦凍と……僕を睨みつけた。

"群を抜いて上手い"と評された焦凍を睨むのは、まだ分かる。見た限り爆豪君プライド高そうだし。

ただ、何で僕まで睨まれてるんだろう。……もしかして、昨日の講評の時に言い過ぎちゃったかな。僕は間違った事は言ってないと思うけど、そういう問題でもないんだろう。

 

何かを考え込んでいるような焦凍と、キッと睨みつける爆豪君の間で肩身の狭い思いをする僕を置いて、相澤先生は切り出した。

 

「さて、そろそろHRの本題に移る。急で悪いが君らに……」

 

思わせぶりにセリフを溜めた相澤先生に、誰かがごくりと唾を飲む。

なんだろう。また臨時テストでもやるのだろうか。

 

「学級委員長を決めてもらう」

「学校っぽいの来たー!」

 

ドン、と効果音が出そうな顔で相澤先生が言った言葉に、誰かがホッとしたように興奮の滲む声を上げた。

 

それを皮切りにして、途端に沸き立つ教室。

皆が手を挙げ、我こそはとそれぞれ自己主張をする。

焦凍もいつもの無表情で頭の横まで手を挙げていた。その向こうの八百万さんも、姿勢正しくたおやかな手を高く挙げている。

僕は……手を挙げない。

やった経験が無いし、何より僕が誰かの代表としてまとめるのは、あまり向いていないと思う。僕の性格的にも。

何より、こんな個性豊かなメンバーをまとめるなんて、荷が重い。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

騒然とする教室に、よく通る声が響き渡った。

 

「"多"をけん引する責任重大な仕事だぞ…!"やりたい者"がやれるモノではないだろう!!」

 

声の方を見てみると、何やら深刻な顔をした飯田君がいた。

あれ、飯田君……。

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!!」

「そびえ立ってんじゃねーか!何故発案した!」

 

くっと歯を食い縛って言い切った飯田君の手は、まるで本人の性格を表しているかのように真っ直ぐ空へと伸びていた。

実直なまでのその行動に、目を細める。

思わずクスリと笑いが漏れた僕に、焦凍は不思議そうな表情を向けた。こういうノリに慣れていないんだろう。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間ということにならないか!?」

 

反論したのは蛙吹さん……あぁ、梅雨ちゃんだ。梅雨ちゃんと、切島君だった。

僕からすれば梅雨ちゃんの口から"クソ"なんて言葉がでたことが意外だったが、それは今どうでもいいか。

それに飯田君も正論で返した。誰の意見も的を射ているが、確かに。この時点で複数票が入る人は信頼に足り得る、と言えるかもしれない。

飯田君は先生に確認を取ると、何処からか寝袋を取り出した相澤先生はそれに包まれながら至極どうでもよさそうに許可を出した。

 

その後、飯田君がテキパキと白い用紙を人数分に分けて配る。

僕は配られた用紙とシャーペンを手に、誰の名前を書くか考えた。

 

別に、入学してからそこまで仲良くなった人は居ない。相変わらず焦凍と過ごすのが多い僕は、焦凍の人を寄せ付けない雰囲気もあってか、尾白君のように優しい子が時々話しかけてくれるくらいだ。

じゃあ、尾白君か、それともさっき手を挙げていた良く知る焦凍か……。

そんな時、僕は先程の飯田君の行動を思い出した。

 

「……」

 

シャーペンが紙の上を滑る。

見慣れた僕の文字は、()()()()()名前を綴った。

 

 

 

***

 

「僕、三票ー!!?」

 

緑谷君がとても驚いた様子で目を見開いた。

黒板には焦凍の名前が無い。それと、僕の名前も。

 

「ぼ、俺に、一票入っている!?一体誰が!」

 

飯田君が動揺したようによく通る声を発する。

飯田君の名前の横には正の一画目が正しく刻まれていた。

 

「他に入れたのね…」

「お前もやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田……」

 

飯田君の言葉の意味を理解した八百万さんと砂糖君が、飯田君に呆れたように声を掛けた。

まさか、あんなに委員長になりたがっていた様子なのに、他の人に入れるとは思わなかった。……危うさを感じるほど、とことん実直なんだなと、彼に対して評価した。

 

結果は見事三票獲得し委員長になった緑谷君と、その隣では二票入った副委員長の八百万さんが不満そうに立っている。

緑谷君は、いまだに信じられないと言った様子で、呆然と立ち尽くしている。

色々あったが、とりあえず学級委員は決まったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

「ショート、学級委員の投票、自分に入れなかったの?」

 

ズルズルと音を立てながらも、育ちのせいか不思議と品を損なっていない焦凍に話しかけると、今日はどこか上の空の彼は顔を上げる。

 

「…あぁ。俺よりも適任な奴に入れた」

 

それを聞いた僕は目を見開く。

正直、驚いた。

 

「なんだ、どうした」

「ううん。…ううん。そっか」

 

不思議そうにこちらを見返す焦凍にやっと反応を返す。

微笑んでそれだけ言うと、焦凍は居心地が悪そうに目を逸らす。

今日は僕は何も持ってこないで、そばを食べる焦凍の向かいでコーヒーばかり飲んでいるせいだろうか。

いや、微笑ましい目で見たせいか。

 

「!」

「何!?」

 

ガヤガヤと沢山の生徒で騒がしかった食堂だったが、そんな場所にも響く程のけたたましいサイレンの音が響き渡る。

 

「警報…?」

 

呟く焦凍に答えるように、硬いアナウンスが響いた。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

それを聞いた生徒は、理解したものから出口へ我先にと走り出す。

生徒の殆どが食事をしていた食堂は、たちまちてんやわんやの大騒ぎとなった。

 

上級生の話から察するに、校舎内まで誰かが侵入してきたらしい。

僕らは人が多い出口に向かったところで直ぐには出られないと判断し、何か状況が分からないかと窓に近づく。

 

「あれって…」

 

窓の外にはテレビカメラやマイクを持った大人たちが大勢いた。

その中には今朝見た女性記者も居て、ゲートの前に集まっていた報道陣だということが分かる。

隣の焦凍も、不愉快そうに眉を顰めていた。当然だろう。彼らがやっているのは言ってしまえば不法侵入だ。

 

「あの、皆さん!落ち着いて…うっ」

 

とりあえず混乱を何とかしようと、僕は珍しく声を張って混乱した生徒に話しかける。

が、不用意に近寄ったのが悪いのか、誰かに足を踏まれた挙句に鳩尾にひじが入った。

怪我をするわけでもないし、よろけるほどでもなかったが、衝撃を感じて思わず声が漏れた。

 

「無駄だ。聞こえてねぇよ。……教師が気付いて次の放送が流れるまで収まらないな」

 

焦凍はポケットに手を突っ込んで些か冷たい発言をする。

確かにそうかもしれないが、このままでは誰かが怪我をしてしまう。普段訓練しない経営科やサポート科なども一緒に居るので、もしかしたら既に怪我人が居るかもしれないが。

 

そんな僕の目の前で何かが飛んでいくのを、無意識に捕まえる。

 

「何だそれ」

「め、がね?みたいだ」

 

フレームが上部にしかないメガネはどこかで見覚えがある。

その時、出口のほうで、バゴンと大きな音が鳴って顔を上げた。もしかしたら怪我人かもしれない。

 

「って、飯田君?」

「……何やってんだ」

 

光り輝くEXITの文字の上に不安定に立つ飯田君は、まるで走るフォームのお手本のような……端的に言うと、非常口のマークのように壁に張り付いている。どこかで落としたのか眼鏡はしておらず、見慣れない素顔を苦しげに歪めていた。

そんな不思議な状態の飯田君は、すうっと息を吸い込むと大きく口を開いた。

 

「皆さん…大丈ー夫!!ただのマスコミです!何もパニックになることはありません。大丈ー夫!!」

 

彼の良く通る声が響いたときには、皆彼の大胆な行動に呆気にとられたように動きを止め、彼に注目した。

 

「ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

飯田君の機転によってその場は次第に収まり始める。

僕は思わず眩しいものを見るように、床に下りる飯田君を目を細めて見守った。

…そうだ、眼鏡返さないと。

 

 

 

午後のHRになって、緑谷君が昼の食堂での事を理由に、飯田君を委員長に指名した。

クラスの中にも食堂での飯田君の活動を見ていた人は沢山居たようで、満場一致、といった様子だ。勿論僕も賛成である。

飯田君は喜びをかみ締めるような様子を見せると、張り切ってその推薦を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。

僕がいつものように焦凍と下校しようとしていると、後ろから聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

「金木くん!」

「……飯田君?」

 

僕が振り返って名前を呼ぶと、飯田君は口を開いたり閉じたり、揃えた指で眼鏡を押し上げたりと何やら言いあぐねた様子だ。

隣で焦れた焦凍は先に帰ると言って踵を返そうとするが、すぐに済むからと飯田君に止められる。

焦凍の視線は氷のようで、目は口ほどに物を言うとは言うが、「ならさっさと済ませろ」と言っているようだった。

 

「間違っていたら申し訳ない……だが、君だとしか思えない!」

「えと、…何が?」

「僕に票を入れてくれたのは、金木くん、もしかして君なのではないだろうか!」

「うん」

「そうかやっぱり……って、本当なのか!?」

 

自分で聞いておいて驚いたように仰け反る飯田君。なんだかちょっと変な子だな。

 

「いや、まぁ…本当だよ」

「そうか……。あの場で名前が無かったのは数人…麗日さんは俺と同じく緑谷君に入れたと言っていた。ならば!あの場で多少なりとも俺と会話をしたことがあって、そして俺に票を入れることができたのは…金木くん、君だけなんだ」

 

5本揃った指で飯田君は探偵のように僕を指し示す。

 

「確かにそうだけど……流石に、下校の時にちょっと話したくらいで票を入れたりはしないよ。僕が君に入れたのは――」

「い、入れたのは?」

「そうだな…。委員長に向いてるんじゃないかと、思ったから……かな?」

「な、なぜ最後にそんな弱気になる!?」

 

いや、確かに向いてそうだとは思ったけど、それこそ勘で、としか言い様がない。

飯田君は何やら納得が行って無さそうだが、僕は苦笑を返して彼と別れた。

 

「……あいつに入れたのか」

「うん。何となく、なんだけど…」

「ふーん」

 

今日の焦凍はやっぱりどこか上の空で、僕は熱でもあるんじゃないかと心配になった。

 

 

 

 




1日上の空だった轟焦凍君の脳内↓
(そういえば…カネキの言ってた週末って明日か?カネキの全力ってどんなもんなんだ?身体能力が高いのは本来の能力に付属したもの……って事か?だとしたら……変身でもすんのか?よくわかんねぇ…)

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