ガーディアンが行く場所 オレは臆病な君を守り続ける   作:孤独なバカ

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サチの願い

ギルドハウスに入った日にクリスマスパーティーを開いた。

そこにはクラインや、エギルなどの小規模ギルドのメンバーが多く出席しており、オレは剣を向けた人に謝りに回ることになった。

そしてなぜかヒースクリフも自分のギルドが主催しているクリスマスパーティーに参加せずにこっちに参加していたのが驚いたが。

食事は、アスナとサチが作ったらしく大好評だった。サチは最近は狩りにはほとんどでていないらしく、オレがギルドから抜けている間、オレが昔やっていた下位層の支援をずっとしていたらしい。

マップデータやモンスター情報など多くの情報を攻略組やキリト達から聞いたのであろう。サチは攻略組の中では有名だった。

そのかわりレベルはマージンがとれていないのでここからはギルドの事務仕事をしていくらしい。

でもあれからサチのことで少し変わったことがあった。

サチのことが直視できないのだ。

サチを見ると恥ずかしくなってきて目を背けてしまう。でもサチと一緒にいると楽しくて、幸せな気持ちになるし、サチが他の奴と話しているとモヤモヤする。

エギルに相談すると、答えはすぐに返ってきた。

お前サチのことが好きなんじゃないのか?

オレは少し考える。確かにサチのことは友達としては好きだけど、そういう風には意識してきたことはなかった。それにずっと気になってきたことがある。

今のオレとサチの関係ってどんな関係なんだ。

 

クリスマスパーティーが終わったその夜オレは家具のカタログと自分のステータスを見ていた。

ニコラスを倒した時のコルとむちゃくちゃなレベリングをしていたためオレは貯金額は余るほどにあった。家を買って最高級な家具を買っても10Mはあまるだろう。

レベルも急成長のおかげでレベルは90をこえており半年間休んでも復帰するとしても十分余裕があるくらいだ。レベルを見るとどれだけオレがいかれていたかがよく分かる。

膨大なダメージを受けないとスキル熟練度が上がらないバトルヒーリングが熟練度MAXになっているのもおかしいしその上位の状態異常無効化もかなりいかれている。

今のところ毒だけだが熟練度を上げれば麻痺やスタンまで無効になるといういかれている能力だ。

多分バトルヒーリングがMAXになるとは制作者側も誰も考えてはいなかったの対応であろうが。

こりゃ誰にも言えないよな。

オレはウィンドウを閉める。

するとトントンとノックする音がした。オレがドアを開けるとサチが立っていた。

「サチ?どうした?寝れないのか?」

「違うよ。私のこと誰かがいないと寝れないと思ってない?」

「……まぁ、それで何しにきたんだよ。」

「ちょっとユニバース。」

「冗談だって。ほら、入れよ。」

むくれているサチを、部屋中に入れる。

「んで、どうしたんだサチ?」

「……本当は昨日伝えようと思っていたんだけどこれ。」

そこにはタイマー式のメッセージ録音結晶だった。

オレはそれの使い方を2つ知っていた。1つ目は大切なことを誰かに伝えたい時。

そしてもう一つは

「……もしかして、サチ、自殺しようと考えたことがあるのか?」

遺書として大事なことを伝えるため。

サチは首を左右に振る。

「違うよ。ただ生きていられると思ってなかったの。」

サチが下向く。

「……私がこの世界から逃げようと言った前の日に長い間仲良しだった他のギルドの友達が死んじゃったんだ。」

サチは下を向き泣きそうになっていた。

「私と同じくらい怖がりで、ぜんぜん安全なはずの場所でしか狩りをしなかった子だけど、それでも運悪く一人の時にモンスターに襲われて死んじゃった、」

正直に圏外でソロプレイヤー以外が一人になることは自殺行為と言える。特に後衛のプレイヤーは特にだ。

「それから、私いろいろ考えてそれで思ったんです。この世界でずーっと生きてくためにはどんなに強くても、本人に生きようって意志がなければだめなんだって。」

そうかもしれない。

サチが言っていることは多分真実だろう。

「本当は、はじまりの街を出たくなかった。黒猫団のみんなとは昔から仲良しだったし、一緒にいるのは楽しかったけど、でも狩りに行くのは嫌だったんだ。だから本当にここまで生きていられる思わなかった。」

サチがオレの方を見る。

「この結晶は、今日に設定していたのは、今日まで生きていたかったから。」

「今日?クリスマスになんか思い出があったのか?」

「違うよ。去年のクリスマスに雪が降ったの覚えてる?」

「あぁ、クリスマスイブとクリスマス当日にだけ降ったのは覚えてる。」

確か四層で見たんだったはずだ。

「ねぇ。ユニバース、ちょっと街を歩かない?」

「別にいいけど……」

急だったので戸惑ったが了承する。

外に出ると白い雪が上から降ってきている。外にはカップル達だろうか。手を繋いで帰ってきている男女の二人組がいた。

ここの層にはギルドハウスが多いのでその影響だろう。だから、クリスマスの時ぐらいカップル同士二人きりでいたいのだろう。

サチは何も言わずに歩く。オレはただ横を歩く。

たったそれだけだった。しかしサチは涙を浮かべていた。

そしてしばらく歩いたところで転移門前についた。しかしそこにはいつもと雰囲気が違った。

……すげぇ。きれい。

いつもはゴーストタウンで有名だけど今日に限って街中に点灯がつき雪が灯りよってきれいに映っていた。

こんなにきれいなものは始めてだった。

「きれいだな。」

「うん。ほんとにきれい。」

サチも立ち止まりその景色に見る。

「ねぇ。ユニバース。私はキミの役にたてたかな?」

急に言われて少し慌ててしまうが、

「もちろん、たっているよ。」

サチに微笑む。

「オレが苦しい時はなぜかサチがいるんだよ。本当に聞いて欲しかったも愚痴だって言いたかったことも、ギルドのリーダーやっていたら言えなかったんだ。リアルのことなんて誰にも言えなかったからな。」

思えばあの時になんでオレはサチにリアルの自分について話したんだろうか?

「苦しい時は支えてくれるし、オレを、正しい方向へ導いてくれたからな。」

もしかしてオレのお母さんが生きていたらサチみたいだったのかな?

暖かくて、優しくて、一緒いて心地よい。

多分だけどオレはこの世界でサチに会うためにこの世界へ来たのだろう。

「本当にサチに会えて良かった。」

心からそう思った。

「オレにとったらとても大切な人だよ。サチは。」

「……ほんとに?」

「ほんとにだ。」

「……良かった。」

ホッとするサチがすごくかわいく見えた。だけどまた暗い表情に戻る。

「……ほんとは今日こうやって歩くことが私の願いだったの。」

サチがオレにそう言った。

「……あの時はクリスマスまで生きていられるとは思ってなかった。でもユニバースがあの日以来荒れてしまって本当は私たちの責任なのに全部キミが背負ってくれた。でも、私は何もできなかった。」

「それはオレが。」

荒れていたと言おうとしたがやめる。サチは多分そんなことを求めていないのだ。

「……ねぇ。ユニバース、私どうしたらよかったの?キミが傷ついていくのを止めるために何をしたらよかったの?」

オレは何も言えなかった。真実は分かっていた。

オレが傷ついていくのを止める方法を。ただしオレはそれを拒絶していた。

だって、それはオレにも責任があるのだから。

「……ほんとは私に相談してきて欲しかった。辛いことを全部話して欲しかった。でもユニバースは誰にも相談しなかった。多分私が黒猫団のみんなに狩りに行きたくないことを言えなかったようにユニバースも言えなかったんだよね。」

オレはその後の言葉を聞きたくなかった。多分その言葉は真実なんだから。

しかしサチはその一言を言い切った。

「だってキミは誰かに頼ることを知らなかったから。」

その一言が重くのしかかる。しかしそのことは真実だった。

オレは誰にも相談したことがなかった。人から頼りにされることがあっても頼ることは一度もしたことがなかった。

だって、オレは頼る人がいなかったから。

「ユニバース、私もお父さんがいないんだ。」

その一言を聞いた時、オレはサチの方を見る。

「私がちっちゃいころ家を出て行っちゃったから。だからお母さんは私を養うために毎日のように働きに出てたの。だから私も甘えることがよくわからなかったんだ。」

サチがオレの手を握る。手が冷たい。多分冬の夜中に冷たい空気に触れ続けたからだろう。

「でもこの世界へ来てユニバースが出会って毎日一緒に寝てくれて、なんかお父さんみたいだな、って思ってた。でも、本当は違うんだ。多分私はお父さんみたいじゃなくて、もっと近くでキミに甘えたかったんだと思う。キミは私と似ていたから。」

「……」

何も言えなかった。サチの現実のことなんて考えたこともなかった。でも本当にオレとサチの境遇は似ていた。

「だから、キミに死んで欲しくない。私が死んでしまってもキミには生きていてほしい。」

「……無理だよ。」

オレはサチの言葉を否定した。

「…多分オレはもう耐えられない。もう誰も失いたくない。」

もうパーティーメンバーを、ギルドメンバーを失いたくなかった。何よりもサチには生きてほしい。どんなことがあっても死んで欲しくない。

オレを誰よりも心配してくれて、生きていてほしいと願ってくれる女の子を死なせたくない。

「一緒にこの世界から出るんだ。生きて、現実世界でキミに会いたい。キリトとアスナ、ケイタにサチも全員で集まってオフ会をしたい。」

「私も?」

「もちろんだよ。」

オレは隣で頷く。

「だから一緒に生きていこう。明日も明後日もお互いにずっと助け合いながら、お互いが笑って現実世界に帰れるように。」

するとゴーンと鐘の音が聞こえる。それと同時に街に明かりが消え雪がやんだ。

「……なぁ。来年もクリスマスに雪の街を君と一緒にいたいな。」

「……うん。」

「帰ろうか。今日は家を買いにいかないとな。」

オレは手を引く。

「んで何時に行く?」

「えっ?」

「ついてくるんだろう。サチ。」

笑って答える。

雪の街も好きだけど、夜の街も好きだ。オレは照れることがキミにバレないから。だから、一番伝えたいことがいえる。

「ありがとうな。サチ。心配してくれて。」


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