スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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原作ゲームの情報確認してたらこの回が出来ました。やっぱり戦闘を書けなきゃやってらんないです


踏み台としての戦い 1

【新西暦186年 11月E日】

 

 一度アイドネウス島に戻った私は、博士たちやリョウト、それに通信越しだがスレイたちにも心配されてしまった。そういえばチャットでも、殺人のことを吐露したことに対して、アイツはいつも通りセメントな口調で罵ってくるのかと身構えたら、妙に心配されてしまった。どうやら私はかなり参っているらしい。素の状態も、何度も出てしまっているだろう。このままでは『テンザン』を保てないかもしれない。いや、保たなければ。

 アードラーに南極でのことも含めて報告したが(勿論、レポートという形では既に出している)、当然の如く吐いたり気絶したことを突かれ、冷ややかに罵られた。私は『テンザン』としてそんなことはない、ただGと事前に食べた牛肉と被って吐き気がしただけだと強気に返したが、嫌な嗤いを返された。嘲笑っているのだ、屈辱だ。

 それから、アードラーからビアンの言っていた独立部隊の件が正式に決まったと告げられた。どうやら、あの話は与太話ではなかったようだ。今思い返しても、頭がくらくらする。

 だが、人選はアードラーが大分口出しをし、既にある程度決まっているらしい。メンバーの資料を見せてもらったが、正直に言えば、今と殆ど変わらず、それに何名か追加されるぐらいだった。具体的に言えば、パイロットが2名に、整備員が3名、研究職が3名、それぞれの家族が計3名追加される。アードラーの狙いが分かりやすいメンバーだ。整備員3名はアードラーの研究を知って糾弾した結果降格・左遷・解任されそうになった爪弾き者。研究職というのは別の部署からの異動という形になっているが、そのメンバーの内1人はあのヴィルヘルム・V・ユルゲンだ。そして家族の内の2名は、ユルゲンの妻と子どもだ。組織内でアードラーの邪魔になりそうな相手が、私の元に厄介払いとばかりに集められている。

 更にはパイロットのデータが2人共女性であること以外、詳細不明なことだ。私としてはそもそも他のパイロットなど必要ないが、一応それがないことを指摘すると、アードラーの過去の研究内容から独立した部署から、データとしてパイロット適正のあった者を適当に出したらしい。どうやら、私が他に戦闘を行える者が必要としないことは、既に見抜かれているらしく、この2人についてもこの話し合いの段階で省かれることを前提としていたらしい。さすがにアードラーのペースに乗りっぱなしになるのは嫌だったため、一応会うだけ会って判断するとその時は言っておいた。

 最後に、部隊の配属先と移動手段だ。場所はアイドネウス島の主要区画から離れた地下潜水艦用ドッグとのことだ。潜水艦の修繕に使うことを前提として設計・施工されたらしいが、立地条件が悪いことから、今ではある置物専用の場所となっているらしい。そして移動手段とは、その置物こと、古い潜水艦だ。名を"伊号400"、地球連邦が将来EOTI機関があるアイドネウス島をよりオープンな状態にした際に、旧世紀の技術の象徴としてオブジェクトとするために用意したものだった。第2次世界大戦時の損傷は2010年台のサルベージ後にある程度修復できているが、AM母艦としては必要な機能を改修しない限り持てないらしい。

 ならどうしてそんなものを宛がったと言ったが、アイドネウス島という孤島から自由に移動可能なキラーホエール級潜水艦及びグレイストーク級空中母艦は全て稼働中、鹵獲した連邦の潜水艦は現在無し、輸送機にも専属を充てがうほどの余裕はない、ならば一応でも動けるのがこれしかなかった、と順序立てて説明されてしまった。政治力が案外ないのだと、と煽ってアードラーを多少は苛立たせたが、実際これでは部隊としての自由度が下がるのは明白だ。ビアンの言う独立部隊という名目なのだから機動性は大事だ。そう伝えたもしたが、なら改修用の部品は他から調達しろ、と言われた。その後、もう1、2回煽ることでアードラー副総帥の許可証を発行させたが、潜水艦の改修に必要な人材は確保できなかった。

 とにかく、これで私は、1部隊を任されることとなった。『テンザン・ナカジマ』には、こんなことはなかったはずだ。それなのに今、私の勝手な行動で部隊を率いることにまでなってしまっている。私はこれを修正して、ちゃんと踏み台になれるのだろうか。

 

 

【新西暦186年 11月Q日】

 

 整備班、ファインマン兄弟と共に部隊の拠点となるドッグへと異動した。部隊の新メンバーとなるものたちは先に来ており、現地で顔を合わせることとなった。

 新しい整備員の3名はアードラーと私の関係、それに『テンザン・ナカジマ』の噂を真に受けて、あからさまに不服な表情をしていた。特に1人はかなり幼い風貌で、つい子ども扱いをしたら、スパナで殴られそうになった。研究職の3名については、あのユルゲンにはむっつりとした、しかしどこか疲れた様子で対応され、その部下というジジ・ルーにも淡々と握手をされただけで終わってしまった。最後の1名であるドナ・ギャラガーは民間企業からの出向らしいが、アードラーの起こしたゴタゴタで私の部署に回されたらしい。そのせいか恨むような目で睨まれてしまった。勘弁して欲しい、私とて不服なのだ。

 他にパイロット2名が配属される予定だが、今日は現れなかった。元の部署で手続きに手間取っているらしいが、あまりに遅くなるようならこちらから迎えに行く必要がある。辞令が下って尚動かないようであれば、それだけ今回の件はなかったことにし易い。

 とにかく今日及び明日は荷物の搬入と整理、確認だ。ここを使えるようにしなければならないし、潜水艦を何とかAM母艦として改修する計画を建てなければならない。その間、私の部隊の扱いがどうなるかも他の部署とすり合わせなければ。2人のパイロットたちの件は、最悪その後になってしまうだろう。

 ここまで書いて整理すると、私は気を紛らわせるように思える。まだ悪夢が収まらないのだ。いつも夢の中に、私が潰してしまった顔が現れるのだ。気持ち悪い。

 せめてここが使い物になるまでには戦えるようにならなければ。

 

 

【新西暦186年 11月K日】

 

 資材搬入と同時、私に対し命令が届いた。現在行われてる極東佐世保基地攻略後に、伊豆基地に対する陽動として関門海峡を攻撃する部隊に加われとのことだ。このチームから出るのは私の他に新人3人と既存の整備員2人。また私とリオンの詳細データをモニタリングするということでユルゲン博士とギャラガー博士、それと私のリオンの調整のため、ファインマン兄弟の兄の方が付いて来ることとなった。その他のメンバーはドッグと準備と潜水艦改造のプラン作成だ。

 移動については、今まで同様シュヴェールト部隊を乗せたキラーホエール級に相乗りすることとなった。だが今回の作戦で2隻の戦闘原潜が使い捨て同然の扱いをされると考えると、やはり私たちの部隊に与えられなかったのはアードラーの横槍であることが確信できる。

 それと今回も私が乗る機体に改造が施されることなった。具体的には、背部に増設された1対のフレシキブルアームで繋がる2つのシールドだ。これを作ったファインマン兄弟曰く、先日のヴァルシオンの戦闘能力に感銘を受け、それを模倣・再現を目的としたが、まったく別の機能になったとのことだ。方法としては、インパクトランスから改良した斥力発生機能を搭載し、より力場を安定させ防御面に回すもの、つまり歪曲フィールドの再現だが、狙った

防御機能の目標値は及ばなかったが色々と応用できるようになった、と机上の空論のようなものを告げられた。

 動作は勿論シミュレータのみ、ぶっつけ本番。おまけにジェネレータの出力も合わせて調整しなければならない。今までの整備員2人は慣れたものだが、新しい整備員3人と、時間と人手が足りないと調整に駆り出された博士2人は度肝を抜かれたようだった。安定動作の保証も取れていない試作武器をいきなり実戦使用するというのだから、当然だろう。

 だが、私はそれでいい。悲しくて悔しいが、死ぬような痛い目にあっても、死ぬはずがないのだ。ならば将来のために、実地でのデータを取らせるというのも、私/『テンザン』の使い道だろう。勿論、新入り5人には「俺が使いこなせないわけねぇだろ、なんたってスーパーなんだからなぁ」という旨のばからしく、かつ根拠のない言葉で強引に通した。配属された面子にしても、私がさっさと死ねば、それだけ元の部署に戻れる確率も上がるのだからよいだろう。

 それに今回の兵装の主な使い道は盾だ。安定動作するかはともかく、今の私には調度良い。基本は伊豆基地や佐世保基地から撤退中の部隊が相手なのだから、相手を足止めする、つまり落とす必要性がないから、盾で守りきればよいのだ。勿論普通に考えれば戦力を削ぐことも目的になるのだが、私はまだ、あの悪夢を振り切っていない。なら、全力で行動不能、嫌がらせをするまでだ。

 そうなると、今の私の権限を使って、共に出撃するシュヴェールト部隊にも、積極的攻勢を避けさせなければならない。今回は命令系統が違うからそれなりに筋だった話を通さないといけないが、やらなければならないだろう。分かりやすい陽動で落ちるのなんて、誰も避けたいはずだ。勿論それが命令だし、戦果を上げなければいけないというのも分かるが、作戦指揮を行う指揮官とて、無駄な損耗を避けたいはずだ。

 そして、今の私の立場、つまり独立部隊としてなら、その言い訳は通るはずだ。何故なら私たちの損耗は、彼らの分としてはカウントされない。故に、いつかの焼き増しのようなことだってできるはずだ。

 

 

 

 

 

 リュウセイ・ダテは自身のPT/ゲシュペンストタイプTTのコックピットで通信越しに届く作戦内容を受け取りながら、機器のバーニアを駆動し、海上をホバー移動させていた。今回の作戦は、九州地区北部にある関門海峡に出現したディバイン・クルセイダーズから拠点である関門橋を防衛することと、敵主戦力である戦闘原潜の撃退にある。いつものSRXチームの3機に、今回は佐世保基地からなし崩し的に伊豆基地に所属となったメッサーパイロットであるジャーダ・ベネルディ、ガーネット・サンデイ、ラトゥーニ・スゥポータ。更に元教導隊で緑のエースカラーとなったゲシュペンストMkⅡを駆るカイ・キタムラ。そして同じ極東基地所属でベテランのイルムガルト・カザハラの、合計8機編成でのものだ。海中での戦闘方法は既にシミュレーション・演習で散々こなし、気合も十分。

 やれるさ、と誰にも聞こえない声音で口の中に決意を零すが、状況はリュウセイが考えているよりも悪かったようだ。

 

『なんてこった……関門橋は既に破壊された後かよ。これじゃ、トンネルの方もアウトか……』

『加えて、防御装置は根こそぎ破壊されている……我々が到着するまで時間があったとはいえ、徹底しているな』

『はい。ですけどまだ、敵原潜は完全に海峡を超えていないようです』

 

 嘆きながらも状況を冷静に見極めるイルムとカイに、ラトゥーニがレーダー情報を各機にリンクしながら追加情報を加えた。リュウセイも更新されたマップを見ると、そこには7つの敵影が映し出されていた。離れた位置から徐々に近づいてくる2つは今回のメインターゲットであるディバイン・クルセイダーズの戦闘空母・キラーホエール。戦闘区画とキラーホエールの間で旋回しているのは、直掩機と思われるシュヴェールト4機。そして戦闘があったと考えられる関門橋に座しているのは、黄色い人型戦闘機、かつて戦ったことのあるディバイン・クルセイダーズの戦闘兵器だ。しかもご丁寧に、カラーリングもあの時と黄色。それが標準のカラーリングなのか、それとも特定のエースを表すのかは分からない。

 だが、一つだけ判明していることがある。

 

『あの機体……DCの新兵器っ』

『やはり現れたか……っ』

『各機、警戒せよ。関門橋からの通信では、海峡の防衛戦力は全てその機体に破壊されたとのことだ』

 

 あの機体、そしてパイロットの戦闘能力が、人外染みていることだ。ライと同様、指揮車のイングラムから届いた報に固唾をのむ。

 

『あの機体……あんな変なパーツ付けてるのに、空も飛べてその上そんなに強いのかよ!?』

『あの機体本体には、新機軸の飛行装置が内蔵されてる……けど、背中の大きな盾はわからない……』

 

 ジャーダとラトゥーニの声にようやくこちらに気づいたように、敵機の目が瞬くように輝き、重力に逆らうが如く浮かび上がった。そしてリュウセイたちに向きを合わせるや否や、一直線に飛んできた。かつての記憶が、手汗と共に蘇るようだ。

 

『っ、二手に別れる! 俺とSRXチームで敵機動兵器を撃破する! 残りは戦闘原潜を止めろ、ブリーフィングで言った通り、決して撃沈はするなよ! イルム、お前が指揮を執れ!』

『了解っ!』

 

 カイ・キタムラ少佐が自機である翠のゲシュペンストMkⅡを表に出しながら指示し、ジャーダたちからも了解の返答が通信機越しに返ってきた。返答と言葉は同時にイルムガルト・カザハラ少尉のゲシュペンストが転進し、沖合の戦闘機群、そして原潜へと向かっていく。それが分かった瞬間、敵兵器は驚くべきことに機体を海面に対して水平にし、背に繋がれた盾を広げたのだ。翼のように広がる一対の盾は、格納されていた発振器と思わしき箇所からエネルギーフィールドのようなものをバチバチと放電を撒き散らしながら展開し、ついにはブレーキのように空中で急ストップしてみせた。

 

『何をするつもりっ……?』

 

 アヤの疑問は今敵機に向かう4人全員の代弁だった。もうすぐ、4機の中で最長射程を誇るライのシュッツバルトの砲が届く。ロックオンは既に済ませているはずだ。だがリュウセイには、嫌な予感が湧き上がるのを止められなかった。その予感は自分の機体ではない、仲間へ向けられたものだ。

 たまらなくなって、リュウセイは叫んだ。

 

「カザハラ中尉、ジャーダさん、ラトゥーニっ……避けろぉ!!」

 

 叫びの直後、黄色い稲妻が海峡を駆け抜けた。それはあの敵機だ。理屈は分からないが、あの動作はクラウチングスタートのような"溜め"の状態だったのだ。その初速・加速はかつて南極で見た白い未確認機と同等だ。安々と音速を突破したそれに、反応しきれなかったシャーダ機が巻き起こる風圧に巻き込まれ脱落、イルム機もまたすれ違いざまに何かをぶつけられ、左腕を叩き切られた。

 

『っ、ミサイル防御!!』

 

 だが、危機は彼らだけではない。置き土産とばかりに放たれた6発のミサイルが迫ってきていたのだ。4機の弾幕と、壊れた橋の破片を盾にして何とか落とし躱すが、時既に遅く、ラトゥーニと、もう一人の戦闘機パイロットであるガーネットのメッサーが爆発していた。搭乗者は無事に脱出したことを確認できたのが幸いだが、イルムのゲシュペンストがたまらず自分たちに合流してきたことから、状況は一気に悪くなったと判断できた。

 

『どうだ、カザハラ中尉』

『ヤバイですね、あの数程度の戦力なら囮ってことも考えられましたけど……こんなのがいたら話が違いますね』

『……ジャーダたちは?』

『皆無事です、今頃みんな泳いで陸地に向かってます。原潜の方も、一応仕込みはいれときました』

『助かる。それで、やれるか?』

『勿論、やられっぱなしじゃ男が廃りますからね』

 

 荒れた呼吸を整えながらも軽口を叩くイルムに、カイがマシンガンを渡しながら頷いている。その間に指揮車両のイングラムから届く命令に従いフォーメーションを取った。迎撃位置は相手の飛行能力も加味し、橋の上。そこに素早く5機で陣取ると、ついに敵は現れた。背部の盾を格納、排熱の煙を吹き出しながら、黄色い下手人が悠然と飛びながら、こちらを見下ろしてくる。ピシリとした膠着状態が生まれ、どちらから先に動くか、いつスキを晒すか、読み合いの空間が生まれてしまった。リュウセイの中で、蛇に睨まれたカエル、そんな言葉が浮かびそうになったのを無理やり押さえ込むと、オープン回線から、いつか聞いた声が響いた。

 

『……ったくよ〜。連邦の正規兵がこれじゃあ歯ごたえがなさすぎるっての。そうは思わねぇか……なぁ、リュウセイ・ダテ?』

「っ! どうして俺の名前を……いや、その声はテンザン……テンザン・ナカジマかっ?!」

『ヒャッハハハハ!!! そうだよ、俺だよリュウセイ〜〜! 気づくのが遅かったじゃねえか!!』

 

 告げられた言葉に愕然とした。ライから『知り合いか」と問われ、少し迷いながら、頷く。

 

「あいつは、俺がバーニングPTで最後に戦った相手だ。どうしてDCにいるかはわかんねぇけど……」

『ホッ! そんなのお前と同じに決まってるだろ! 本物のロボットに乗って、本物の戦争っていうゲームをやりたかっただけだよ! その為にDCの誘いに乗ったんだ!』

 

 突きつけられた言葉に、歯を食いしばる。確かに自分はそうだ、そんな稚拙な理由で軍に入ってしまった。

 だが、そうではない。今まで何のために戦うか迷っていた心が、テンザンから注がれた嘲笑という火によって、怒りとなって形作られていく。いや、形はわかっていたのだ。それが炎の灯りによって、ようやく見えだしたのだ。

 

『まったく、この前戦った時に気づいてくれると思ったのに、悲しいぜ〜俺は? ま、その程度のクソザコだからさっさとゲームオーバーしちまうだろうなぁっ!! はっははは!!』

「……ああ、そうだよ。確かに最初は、ロボット目当てだったかもしれねぇ、だがな!!」

 

 叫びと共に、己の手を、ゲシュペンストの手を、銃口を、テンザンに向けた。

 

「今は違う! ゲーム感覚で命のやり取りなんて出来るか! てめぇなんかと一緒にするんじゃねぇ!!」

『っ……だったら俺を止めてみなっての、カッコつけめ。じゃないと人がいっぱい死んじまうかもなぁ?』

「言われなくてもなぁっ!!」

 

 銃爪を、膠着した状態を裂くスイッチを押した。M950マシンガンが瞬き、火線が一直線に伸びる。同時に、ライのシュッツバルトとイルムのゲシュペンストも回避機動を読んだ位置に弾幕を張った。しかし、テンザン機はパワーダウンよろしく急落下することで回避すると、海上にぶつかる寸前、右盾の力場を展開しながら横っ飛びにバーニアを吹かした。その盾は、落下地点へ先回りしていたカイのゲシュペンストのプラズマステークを受け止め、追撃の右回し蹴りすらも、今度は左の盾で叩きつけるようにいなした。

 

『っ、この若造、口だけではないか!?』

『ほっ、怖ぇオッサンだな、オイ?! けどよぉっ!!』

 

 盾で片手片足が塞がれた翠のゲシュペンスト向けて、胸部バルカンが放たれる。カイはかろうじて残った右腕でガードしながらクロスレンジから離脱したが、間髪入れずにレールガンの砲身が光った。左足の付け根を狙った一撃は寸分違わず入り込み、ゲシュペンストの装甲を貫き、機械の足を海中まで吹き飛ばした。

 

『ぐぅっ?!』

『カイ少佐っ?! リュウ、合わせて!!』

「了解! T-LINKリッパー、シュート!!」

 

 アヤのゲシュペンストタイプTTと同時に、背部コンテナを開放、格納されたリッパーを念動力とリンクさせ、敵を定める。相手はあの、世の中をゲームとしか見做していないふざけた男。そんな相手のために仲間や家族が傷つけられるのは許さない。その怒りを込めて、リッパーを放つ。一度は通じたそれは、今度も効くはずだ。それも以前とは違い、より正確性を増したそれを避けられるはずがない。

 リッパー使いの先輩であるアヤと合わせ、上下左右4方向からの同時攻撃。更にはカイをフォローしながら接近するイルムに、万が一逃した場合に備え、最大火力であるツインビームカノンを叩き込む準備を整えたライ。このまま仕留める、その気持ちでリッパーを操作するリュウセイに対し、テンザンはあざ笑うように動き出した。

 

『これが全力? だからヌルいってんだよ!!』

 

 右腕のミサイルポッドからありったけのミサイルが四方に放たれると、その何発かに向けて、敵機の右腕レールガンが放たれた。当然、ミサイルは爆発し、更に爆炎に巻き込まれたミサイルもまた誘爆する。リッパーが1基ずつ破壊され、イルムが一瞬怯むが、それでもと爆炎、そして爆発によって生じた海水の水蒸気の中へ突っ込む。

 そして、リッパーが何かへ突き刺さった。手応えあり。よしっ、と呟いた瞬間、それは起きた。

 

『っ、制御系をやられたか!?』

 

 リッパーと同時に突っ込んだイルムのゲシュペンストの頭部にあの盾が叩き込まれ。

 

『きゃぁぁ!!』

「アヤっ?!」

 

 隣接していたアヤ機の頭部と右腕部がレールガンの弾丸で破壊された。

 

『アヤ大尉! ちぃぃっ!!』

 

 ライがツインビームキャノンを放って、イルム機に組み付いていたテンザンを引き離す。間断入れず放たれた2射目は盾から発生した翠色のエネルギーフィールドに阻まれ霧散してしまった。同時に、下がっていたカイがイルムと入れ替わるようにテンザン機へ肉薄し、プラズマステークと右手に新たに装備したプラズマカッターで斬りかかる。テンザンは両盾の力場で受け流し、更には"空いた"右手で貫手すら作り、明らかに格闘戦で劣るはずの機体構造でゲシュペンストと水上の徒手格闘戦を繰り広げていた。

 一体どうやってリッパーから逃れたのか。どっと流れ出た汗を気にする余裕もなくサーチすると、答えはすぐにわかった。ミサイルポッドだ。あのミサイルを一気に放った瞬間、空になったポッドを残る二つのリッパーの軌道予測位置に投げ、目くらましが効いている間に、自機はイルム機の迎撃に集中したのだ。連鎖爆発で遠距離狙撃の目を潰したのも、そのためだったのだ。

 

『どうしたぁ教導隊!! それが老いってもんかぁっ!!』

『貴様、何故それをっ……ぬぅ!』

『遅ぇっ!』

 

 そして、自分が呆けている間に、カイ機の両腕が、そして首から上が盾から発生したエネルギーフィールドによって切り飛ばされ、止めとばかりに自在に動く両盾から放たれた衝撃波で関門橋の支柱へと叩きつけられた。片足でも尚立ち上がろうとした翠の機体は、しかし損傷に耐えきれず、支柱に体重を預けるように機能を停止した。

 これで、残るは自分たちSRXチームのみ。奇しくも、以前と同じ組み合わせだ。だからこそ、不安が過りそうになるのを、ライに見透かされた。

 

『リュウセイ、しっかりしろ! 来るぞ!』

「っ、わかってる! アヤ、まだ大丈夫か?!」

『ええ、けどT-link系がやられたからリッパーは使えないわ。イングラム少佐、フォロー願います!!』

『……いや、残念だが今、私に余裕はない。指揮車からのデータリンクは行うが、指揮はアヤ、お前が執れ』

『え、は、了解しましたっ! SRXチーム、フォーメーション6にチェンジ。リュウ、貴方がフォワードよ』

「っ、わかった」

 

 指導者であるイングラムからの直接援護はもらえないが、しかしそれでも勇気を振り絞り、機体を前に出す。あの黄色い機体は今まさにこちらへ向かってきている。30秒もせずに再接敵、初撃でやられることだけは避けなければならない。いや、そもそもアレだけの啖呵を切っておいて、このまま何も出来ずに引き下がることはできない。

 テンザンの力は本物だ。瞬く間にこちらの部隊を半数潰して見せ、その上ベテランとも言えるカイとイルムの2人を潰してみせたのだ。今も震えそうな自分でどこまでやれるか。

 

「いや違う、やるんだ、俺は!!」

 

 決意の声と共に、影がかかる。テンザンだ、真上を即取られた。真横にバーニアを吹かし、転けそうになりながら、レールガンを回避する。アヤとライのマシンガン/ビーム砲の弾幕が張られるが、その間隙を安々と見切り、テンザンの機体がリュウセイの正面に立った。どこから来る、右の貫手か、盾か、左のレールガンか、バルカンか。今まで見てきた全てから攻撃を予測しようとした瞬間、特大の悪感が脳裏を走り、反応速度にまで及んだそれは機体を無意識同然に動かし、ゲシュペンストを跳ねさせた。

 悪感は正しかった。答えは、飛行機のような機影を側転させるかのように繰り出された足払い。

 

「お、おおおぉぉっ!!」

 

 飛び退きながら、真下のテンザン機を目掛けてマシンガンの弾を降らせる。避けられると想定していなかったのだろう、テンザンの反応が僅かに遅れ、弾幕を咄嗟に受け止める盾のエネルギー発振がばちりと遅れて鳴った。

 

『シュートォッ!!』

 

 その隙を逃す程、天才/ライディースは愚鈍ではない。ビームキャノンが右の盾を消し飛ばし、巻き起こった爆発がテンザン機を吹き飛ばした。だが不安定な姿勢で海峡橋から落ちようとしすんでの所で、焼け焦げた黄色の機体は空中で制動し踏みとどまった。真横に転がっていたゲシュペンストタイプの頭部を右手で掬い上げると盾代わりに構え、同時に左腕のレールガンが瞬き、吶喊するアヤ機の脚部と、ライ機のカノンと左腕を正確無比に破壊した。

 味方がやられる。だが、だからこそのラストチャンスだ。

 

「天上天下ぁっ真っ向唐竹割りぃぃ!!!」

『んなっ?!』

 

 気合が灼熱となって口から溢れ、発現しだした力は、咄嗟に展開したビームソードを僅かに伸長した。そして、ブーストを乗せた縦一文字の振り下ろしを反応の遅れたテンザンへと御見舞する。今度こそテンザンが橋から飛び退くが、代わりに今までこちらを苦しめたレールガンを両断した。

 これで、相手の武器は2つのみ。まぐれとはいえ、遂に追い詰めたのだ。

 

「はぁ、はぁ……どうだ、テンザン!!」

『ホッ、満身創痍で何言ってんだよ。それに俺の目的である原潜の通過はもうそろそろ……』

『いーや、残念ながら、それは叶わないね』

 

 通信に割り込んできたのは、先程頭部の制御系をやられて戦線離脱していたはずのイルムだ。どういうことだ、リュウセイとテンザンが同時に尋ねると、突如海中から爆発が起き、水柱が立ち上った。

 

『お前さんが詰めの甘い奴で助かったよ。ジャーダの機体が丸々海に沈んでくれたおかげで、即席爆弾にすることができたぜ』

『……ホッ、味な真似してくれるじゃねぇか! けどよ、それでもできた爆弾は一個だけ……』

『ああ、だが一個で十分だ。後は私だけで対処できたからな』

 

 再び、水柱が立ち上る。今度は爆発のものではない、何かが海中から現れ、それに纏わりついたものだ。

 それは、蒼を基調とした、ゲシュペンストに似た機体だった。しかし鋭角的な突起物を増やし、より頭部は人に似せ、背にはスタビライザーと思わしきウイング、そして左手にはシールドのような発生装置を備えている。見たことのない機体だ、だがその声はとく知っているものだと、リュウセイの勘は教えてくれた。

 だからこそ、感激と共に、その名を呼んだ。

 

「イングラム教官っ!」

『イノシシだと……そうか、隠してやがったな、てめぇ!?』

『ほう、ビルトシュバインのことを知っているとはな……お前があの時我々を襲撃してくれたおかげで、こいつの実戦配備が早まった。まだ調整は済んでいないが……ご覧の通り、お前のおかげで、お前の目論見を潰すことはできたわけだ』

 

 ぎりっ、と通信越しにテンザンが歯ぎしりした音が聞こえた。どうやら自分たちが戦っている間に、イルムとイングラムが原潜の方を何とか対処してくれた、という事実だけはわかった。司令部を兼ねた輸送機から届くデータでは、原潜が海域から離れていっているのがわかった。よしっ、と小さく口内で呟くと、大きなため息が聞こえた。言う間もなく、今正に眼前にいるテンザンの機体からのものだった。

 

『ここでコンティニューしても意味ねぇか。まっ、時間稼ぎは出来たしな』

「テンザンてめぇ、それはどういう意味だ!」

 

 あまりにふざけた物言いに再び怒りが充填されようとしたが、それよりも早く、通信員から悲鳴のような報告が届いてしまった。

 

『イングラム少佐、カイ少佐、新たなDCの戦闘原潜が熊野灘沖で発見、伊豆半島へ向けて進行中とのことです!!』

 

 この場にいた連邦軍の兵士全員が、息を呑んだ。これだけのことをしてのけた存在が、実はただの陽動に過ぎなかったのだ。

 

『極東基地への帰還命令が出ています、お急ぎください!』

『まっ、そういうこったよ。残念だったなぁ、雑魚共? ぎゃっははは』

「っ、つまりお前はただの囮だったってことか!?」

『だ〜いせ〜いか〜い。早く帰らないとお前らの大切な基地がぶっ壊れちまうかもしれねぇな〜』

『お前クラスを囮に使うって……くそ、侮ってたか、俺も?!』

 

 バン、とイルムが計器に拳を叩きつけた。その理不尽への怒りは、この場にたった1人を除いた全員に共通したものだった。その一方で、機体各部からショートを起こす敵機が上空まで悠々と浮かび上がり、沖合/原潜が撤退した方へ向かって反転した。リュウセイは反射的に、逃げる気か、と声を挙げようとしたが、それを止める余裕も、時間も、実力もないことを自覚し、声にならなかった。

 

『あーばよ、リュウセイ。今度はもっとマシに遊べるようになってろよなぁ!』

 

 それだけ言い残して、テンザンの黄色い機体は空と海の青の中に消えていってしまった。

 結局、声を出せなかった。まんまと相手の策略に乗せられた上に、その茶番とも言える戦闘でもぼろぼろ。このような時、ただの負けでは言葉が足りない。

 惨敗。先日MAPWで破壊された佐世保のときとは違い、正面から戦った上で、叩き潰されたのだ。

 悔しかった。自分の弱さと決意の遅さに苛立ちが漏れ、涙を流しそうになった。

 

「……ちっくしょぉぉぉぉ!!」

 

 だから今は、喚くようにしか、それを吐き出す術を持てなかった。

 

 

 

 その後、極東基地へ進軍していたDC原潜群は"三島地区"のみをピンポイント爆撃して、姿を消した。ボロボロの状態から辛うじて戦闘可能な領域まで修理しながら極東基地PT部隊を待っていたのは、無傷の伊豆基地であった。

 DCの意図は上層部が予測し、対処を判断する。だがリュウセイには、テンザンにおちょくられているようにしか思えなかった。勿論、本人の言を信じるならば、囮という役と立ち位置から潜水艦に指示を出す立場ではないだろう。それでもあの場で圧倒的な力と嘲りが今も焼き付いてしまっている。

 この戦いがまだ続くようだったら、その圧倒的暴力が、家族や友達に向けられるだろう。

 そんなものは、御免だ。

 ガーネットに、ゲームからPT乗りになったのがずるいと言われ、それに「よくない」と明白に答えることができたこと。そして自分自身が出した戦う理由にようやく得心を得ながら、リュウセイの足は冷蔵庫のように寒い地下格納庫に向かっていた。

 白くなる息を吐き出しながら、いつか自分が乗ることになるだろう相棒、今はまだ組み立て途中のSRXチーム専用のPT・R-1を見上げ、呟く。

 

「頼むぜ……R-1」

 

 もっと強くならなければ、テンザンには勝てない。テンザンと、その背後にいる存在から、大切な人たちを守れない。だからこそ、力を貸して欲しい。その願いを届けるために、無意識にここまで来たのだ。同時にそれは、リュウセイの心中に形作られたものを、遂に芯とした。

 悔しさと怒りは燃料に。決意は自分の意思を失くさないようにする錨に。そして、意思は刃に。

 リュウセイ・ダテは、星の剣としての一歩をついに踏み出したのだ。




もうちょっと弱く短く書かなきゃなぁ、と思いながら、こうマシマシに書いてしまいます

誰か助けて(白目

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