スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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2021年の初投稿です。


オペレーション・ナインブレイカー 1

 意外性か、違和感か、はたまた不快感か。理由がどうにしろ、彼にとってそれらは注目に値するものだった。

 アームズフォート。彼の運命/虚憶には一切登場しない兵器群。彼が知る知識では、当時の地球の文明レベルでは建造は不可能に近いという計算が出た、異常なる牙。

 さながら、自分自身すら食らう暴力性の象徴。

 何故このようなものが生まれたのかすぐに調べたが、その原因に繋がる触媒は向こう側から現れた。イスルギ重工の愛娘であり次期社長候補。まだ若い、むしろ幼すぎるとすら言える年頃だった少女だった。しかし虚憶/記録通りの女狐は共同開発を行っていた協業企業と共に、したり顔で連邦の中枢へと足を踏み入れてきた。そして口八丁でその有用性をプレゼンしつつ、デモンストレーションとばかりに、当時のコロニー間テロ組織が計画していた地球への人工隕石投下作戦を、建造中だったスピリット・オブ・マザーウィルを用い、高度3000メートル上空の段階で全て撃ち落としてみせた。

 先日のコロニー統合軍が進めていた降下作戦も本来はSOMの射程から逃れた上で進められていたものだが、ハガネとヒリュウ改の活躍により座標がズレたことと、連邦軍がSOMの行動予定を欺瞞し防衛に徹したことで、頓挫することとなった。このことにより、作戦の成否・成果より、彼にとって重大なことが確定した。

 両軍ともにAFが存在する前提での作戦を用いた、それ即ち、連邦軍いやこの世界がAFという存在を認めたことに他ならない。

 この違和感を持つものは少ない。腹の読め切れないニブハルはどうかわからないが、連邦軍内で確認できているのは、初期に設計・建造に参加していたエリック・ワンだけだ。それ以外は“ただの新機軸の兵器群“程度の認識だった

 不確定因子と断ずるには十分であった。同時にこれは、切欠でもある。

 己/虚憶の外側の存在であれば、それは運命すら破壊可能な"因子"となるのではないか。

 その考えに思い至った後、彼はAFを利用するために動いた。連邦軍内部へと工作を図り、EOT機関から派生する形でAF研究会が発足できるように整え、自身もその一員として名を連ねる。結果的には政治的な勝ち組となり、想定よりも発言力を増すことができたのは行幸であり、本来の目的を達するための準備として開発にも口を出した。

 そしてその成果、正確にはその過程とも言える段階のソレに今乗り合わせている。本来の姿ではなく、地球の政治家としてだが。

 

「ビーコン消失まで後180分、目標は想定航路Aに移動」

「ヒリュウ改が予定位置に到達しました」

「ハガネによる連絡。機雷散布、完了しています」

「リクセント公国からの最終回答がきました。『玉体の保護を絶対とし、犯人グループの捕縛を求む』とのことです」

「鋭意努力する、と回答してくれ」

 

 慌ただしい艦橋の中、自身への電文にそう返すよう伝え、オブザーバー席から立ち上がる。180度をカバーするモニターには彼方にジブラルタル海峡を望む海が広がり、正面両端には本作戦に参加する船の艦長と、機動部隊隊長格の面々が映っている。その中には、己が枷を与えることができ、そして今は“弱まり出した”男の姿もいた。

 その男の存在に留意しつつも、その因果に刻まれた役割から、今だけは確実に従うと確信しつつ、小型マイクをスイッチした。

 

「まずは本作戦に参加してもらい感謝する。本作線は高度な政治的判断が現場で必要となる恐れがあるため、オブザーバーとして参加することとなった。改めて伝えるが、本作戦はDC残党を名乗るテロリストから、シャイン・ハウゼン王女を救出することが目的だ。非道なテロリストから、必ず王女殿下を助け出して欲しい」

 

 長々と作戦前の鼓舞を行っているが、これは作戦の主体が己にあるからだ。

 軍部の意地として、ハガネという特級戦力の存在意義を脅かす存在を生かしておけず、また実質敗退しているヒリュウ改の汚名を返上する機会を得なければならない。何よりも自らの失態により一国の王女を拐かされた以上、彼らは彼ら自身によって救出を行わなければ示しがつかないのだ。これは伊豆基地の古狸とて認識していることだ。

 その機会を得るには、シャイン・ハウゼン/連邦軍加盟国最高権力者の存在はビッグネーム過ぎた。いくら追撃・捕捉の準備は整えてあったとはいえ、極東方面軍が主体で作戦を開始するには政治的に難しかったのだ。だからこそそれに気づき、利用されるとわかった上で、手を差し伸べた連邦上層部に彼らは従うしかないのだ。

 

「これより、オペレーション・ナインブレイカーを開始する」

 

 例え彼らの内にどれほどの感情が詰まっていよう関係ないとほくそ笑み、大鉈を振り下ろした。その野心に呼応するかの如く彼の乗機するAF・スティグロは、ブラックボックス化された量子波動エンジンの唸りを響かせ始めた。

 

 

 

 少女が告げた言葉に、室内に沈黙が下りて、一呼吸の暇があったか否かの時間。テンザンが突然の告白に思考を停止させ、声を詰まらせていた。恋、などという埒外の概念が、不意打ち気味にぶつけられたのだ。前世では経験しており、様々なメディアや芸術でも見知っている。それでも今、もっとも忌避されるべき存在である自分に、その感情/概念を向けられることは、まず"ありえないことだ"。

 

「……先に言っておきますが、そこで"ありえない"というのはなしでお願いいたしますわ」

「っ……だ、だったら、何だ……私は、俺は……お前の国を焼いたDCの一員だぞ? そもそも出会ってまだ数日しか経ってないし、嫌なことだってさせてたり、そもそも人質にしているし、交渉の道具にもしようしている。しかも小間使みたいな真似まで……何でそんなあからさまな、その……」

 

 恋とはするもの、落ちるもの、抱くもの、苦しむもの、その他エトセトラ。そういう言葉とわかった気でいる。しかしテンザンの知るシャイン・ハウゼンがその言葉を己のものとするのは、ライディース・V・ブランシュタインのはずだ。いや、そうでなければならない。

 そうしなければ本来訪れる未来にて、アードラーによってゲイム・システム搭載型ヴァルシオン改に生体ユニットとして組み込まれた彼女を救う手がなくなってしまう。何より一連の事件の後、第2に戦争の際には、再度自国を襲われることになるので。その時彼女を勇気付けられるのは、ライディース以外には考えられない。

 一方で彼女を拉致した自分自身によって、シャインのもっとも直近に起こる危機と物語が、始まることなく閉ざされようとしていることも理解しているが、そこは最低でも己の身命でもって贖うつもりだ。

 

「そう列挙されると、私自身も不思議に思いますわ。けど、この船のみなさんがくれたもの……その切欠をくれた貴方に恋することは、ごく自然のことだと思いますのよ?」

 

 一目惚れという言葉もありますしね、そう晴れ晴れとした笑みで胸に手をやるシャインを、直視できなかった。けれども彼女はこちらをまっすぐ見つめてくる。自分のような価値のなくなった、いやこの世界には本来害悪でしかない存在に対して抱くには烏滸がましいほどの輝ける心に、それに相対できるほどの強さと覚悟は持ち合わせていなかった。

 

「そこが……よくわからない」

 

 だからこそ、そのような弱音、いや前世と同じようなただの弱虫の言い訳がこぼれ落ちてしまった。

 

「俺に……私にはそんな価値はないし、よしんばそれに応えられても、返せるものがない……それに、今の俺には、やらなきゃならないこともある。だから私のような男なんて忘れて……」

「そこ、ダメですわ」

 

 無意識な俯いていた眼前に、シャインの白い指先がビシリと差された。その指先は王女のそれにしては荒れており、この数日の生活が、彼女に刻んだものを残そうとしているようだった。

 

「きっとそれが、本来の貴方様なのでしょう」

「……様、なんでつけるなよ」

 

 そうやっていいのは、ライディースか、彼女が敬愛する人だけだ。

 

「そうですわね、貴方に"様"をつけるのはしっくり来ませんわ。だけれども、それだけで貴方には価値があるとかないとか関係ないですし、何よりそんなことを言うのは貴方に救われた全ての人に対しての侮辱でしかないですわ」

「んな……」

「シェースチさんだって言うでしょう。貴方が無価値なら、それに助けられる私は何なんですか、と。ジジ博士たちだって同じこと言いますわ。それに返せるものがない? 逆に私は、貴方からもらってばかりですの。だから返すべきは私の方ですが……それよりもっと、貴方にもらいたいものができたましたの。だからまだ返せないですわ」

「え、はっ……欲しいもの?」

 

 指さされたままたまらず後退するが、それに合わせてシャインもテンザンへと詰め寄った。そして明後日の方向へ向いていた顔に手を添えられ、向きを正面へと直される。必然、煌めくような碧眼と目が合い、我知らず顔が紅潮した。

 

「わたくしが、欲しいものは……つぅっ」

 

 そこに、割って入るような悲鳴を上げたのは、他ならぬシャイン自身だった。突然頭を抱えて、ついで顔を覆う。傍から見れば頭痛に似た動きであるが、先ほどまでに空気によって思考の定まらないテンザンはその意味を察することができなかった。

 

「っ、今のは……そんな……なんで今っ、いえっそれよりも!?」

「ど、どうした?!」

 

 らしくなく上擦った声を上げてしまったが、しかしシャインの顔に張り付いた感情に気づき、呼吸が止まる。紛れもない恐怖と焦りがそこにあったがためだ。

 

「逃げてください! この船が狙われていますわ!!」

「はっ? いや、急に、何で……っ、予知か?! 何が、いや、どんなことを見た?!」

 

 混乱しきっていた頭が冷水を被ったように、シャインという要素によって答えを得て動き出す。強引に自分の意識を切り替えて、シャインへの問いただすが、しかし青ざめた顔色を見て口を結ぶ。安心させるために咄嗟に着ていた上着を羽織らせつつ、おそらくは出歯亀をしているだろうと想像していたこの船の頭脳たちへと吠えた。

 

「あ号、聞こえるか?! 静音潜航解除、すぐにアクティブソナーを使え!」

『突然何を……いや、これはっ』

『まずいってコレ! 高エネルギー反応、直上から!』

『機関緊急起動! サイドキック準備、全員何かに掴まれ!!』

 

 回答は、その反応で十分だった。咄嗟にシャインを抱き寄せつつシェースチのポッドにしがみつく。瞬間、天地が反転するかの如き揺れが起き、思考と視界を揺さぶった。体も上下左右に揺さぶられ、何度か床に打たれたが、問題ない範囲だ。反射的にテンザンにしがみ付いたシャインにも怪我はない。

 しかし問題なのは、船の重力制御が殺しきれない慣性が働いたことだ。悪い、と眠り続けるシェースチに一声かけてから部屋を飛び出て、ドアのすぐ横に取り付けられた船内電話を引っ掴む。状況を共有するために全体放送へと切り替え、大声で捲し立てる。

 

「こちらテンザン! 全員無事か!? 司令室、何があった?! 船の被害は?!」

『こ、こちらジジ、食堂での被害者はないわ』

『格納庫、何人かタンコブ拵えたが問題ねぇ!』

『っ、こちらアルウィック、司令室だ。後方80m海上に高エネルギー……いや、重力波が着弾! パターンはヒリュウ改!』

『こちらい号、歪曲フィールドの戦闘出力展開は成功。けれども海が荒れて位置も何も…?!』

 

 シェースチと同じく音声変換装置に出力されたい号の声が途切れると共に、再び船が揺れた。先ほどよりもマシだが、しかし今度は爆音が伴うものだ。

 

『こちらろ号、フィールドに触雷! まずい、コレ囲まれてるって?!』

『あ号だ、シャイン王女とのP・ネットワーク接続を求む。情報を打破するため彼女の予知したものを見たい』

 

 想像よりも不味い状況の中、あ号から出された提案を受け、いまだに服を掴んだままのシャインへと目をやる。こちらの顔を見上げていた彼女にもその声は聞こえており、先の取り乱した様子とは打って変わり、決意を固めた表情で頷いた。

 

「私はかまいませんわ、やってください!」

『承知した。テンザン、お前にも繋げるぞ』

「頼むっ」

 

 答えた途端、視界というスクリーンに目とは別のレイヤーが現れ、シャインの見た光景/予知を映し出した。

 そこには、四肢を捥がれ、カメラアイから光を失うアーマリオンがあった。海中に沈みゆくそのガラクタ目掛け、光の刃が断頭台の如く振り下ろされ、塵一つ残らず消滅した。その刃は、数多のPTや特機に囲まれ、船体に無数の風穴を空けた伊400まで届き、真っ二つに切り裂いた。船の内側には狂騒状態となった皆がおり、それも深海の水に飲まれて消えてしまった。

 映像はそこで終わった。込み上げそうな吐き気を無理やり手で抑え、その時初めて手首のDコンが点滅していることに気づいた。どうしました、と怪訝な顔をするシャインから手を離し、震える指先で操作、点滅/通知内容を見、目を見開いた。

 

「断頭台の……行進……」

 

 直訳したその言葉が意味するのは、複雑なものだ。ただの言葉であれば、死刑囚への情景描写。しかし彼/"テンザン"と、彼の知識を知るものからすれば、類似した別の意味を推察できた。

 

「嵌められた、のか……? いや、違う、それなら文面はカーパルスになるはずだ。ならこれは、アイツにもイレギュラーな状況下か……ッ」

「それは、どういう意味ですの?」

「"私達"がまとめて追い込まれたかもしれない、ということだ」

 

 罠の如き絶望的な状況に押し込まれたこと、それがこの言葉の意図かと思い至る。その考えを補足するかのように、Dコンには別のデータが合わせて送られていた。詳細な海図と航路、そして目的地と思わしきピンマーク。北欧のどこかと思われる場所だが、覚えのない場所だ。しかしこれが本来の次の目的地か、はたまた今回だけの脱出経路かは定かではないが、今逃れる方向性は定めることができた。すぐに情報をストラングウィックたちに流しつつ、シャインを両手で抱えて格納庫に向かう。

 点灯が赤色へと変わる通路を走りながら考えるのは、ミツコに売られたかどうかだ。しかしそれはすぐに否定できた。もし自分たちを亡きものに、または捕縛するのであれば、種子島の時に既にやっているからだ。シャイン王女の件で状況が変わったのであれば、イタリア出港の前に抑えられているはずだ。それに、直接顔を合わせ、何度も言葉を交わした彼女には、"原作"よりも強かで、とらえどころのないように思えた。もし本当にテンザンを売ったのならば、決別の際には映像で笑顔すら見せくるのが想像できる程度には、"テンザン"はミツコを信じていた。

 ならばミツコが逆に嵌められたか出し抜かれたという思考は、最悪なものだが妥当性を持っていた。イスルギ重工が伊400/第9研究室を含むDC残党を支援しているのは公然の秘密だ。その中で自分たちへ強いパイプを持っているミツコに対し、最初にアクションをかけるのはありえることだ。ミツコが単純に出し抜かれただけなら、この情報を送られることもなかっただろう。それ故に最小限の情報と暗号しか送られてこないこの状況は、ミツコ自身も身動きが取れないことを想像させた。

 そしてそれだけの想像をし、もっとも重要な疑問にぶつかるのはすぐだった。

 

「誰だ、誰がそんなことをできるッ? どんな理由がある?!」

 

 たまらず大声で疑念を喚き散らし、角を曲がる。

 ミツコの地位からして彼女を何かしらの理由で拘束でき、ヒリュウ改が来ている。それだけで連邦軍が今回の襲撃者だとは判断できる。問題は、その中の誰が主導となっているかだった。最低でも伊豆基地の司令官以上、しかしそこから先の候補は多く、かつシャインという札がある以上、陰謀とは無関係な職業軍人が事を起こしているという可能性もある。イスルギ重工社長など、連邦に食い込む軍需産業社長クラスという可能性もある。もしかしたら、同じ重力兵器を持つ外宇宙戦力かとも選択に入れるが、しかしホワイトスター到着前だということで可能性から打ち消した。

 結論、情報が足りない。そこで思考を打ち切りつつ目的地の格納庫前で足を止め、顔を赤らめていたシャインを降ろすと、館内通信が再度かかった。

 

『こちらヴィルヘルム。テンザン君から送ってもらった場所がわかったぞ! ノルウェーのアンドーヤ基地だ!』

『ノルウェー?! なんだってそんなとこを……』

『旧世紀から存在するロケット発射基地だ。今も連邦の管轄だが、近年そこはイスルギ重工が改装している……実質的に、イスルギの傘下だ』

『ロケットということは種子島と同じ……VOBか!? なら次の指定地だったという訳か」

 

 ストラングウィックたちの推測に納得する。ギガベースの時と同様にAFの撃破を新たに依頼されるのであれば、VOBを接続できる基地に移動するのは必然だった。だが今の状況であれば、そこに大きな障害がある。

 

『そんなところまで逃げられるのか?! あ号、スキャンはまだできないか?!』

『ソナーと熱源感知はまだ駄目だ! 海が荒れたままだし機雷が多すぎる!』

『念動による感知も……くっ、ノイズがかかっている?!』

『ノイズ?! なんで念能力にノイズなんてかかる?! また私の知らないことか?!』

 

 ストラングウィックの悲鳴じみた疑問と同時にドアを開き、格納庫へと入った。シャインの手をそのまま引っ張ると、彼女の目がこちらを向いた。

 

「あの、何故私をここまで連れてきたのです? このような場合、私のような非戦闘員は別の場所に退避しておくのでは……」

「ああ、確かにそうだ。けどこれが俺の考えてる通りなら……最悪、お前っていう札を切る必要がある」

「私の……! 人質、ですわね」

 

 本来のシャイン・ハウゼンの立ち位置は正にそうだ。テンザン・ナカジマに誘拐された悲劇の王女様、本来の目的はアードラーに対しての交渉材料だが、しかし連邦に対しても有効に働くジョーカーだ。彼女が今回の原因である可能性が高いからこそ、その価値は高い。

 

「そうだ……文句は、言うなよ」

「言われずともですわ」

 

 迷いなく首肯する彼女に、安堵と後悔、怒りと罪悪感がぐわっと沸き立つ。好意をあんなにも素直に向けてくれた相手を、即座に人質として利用する。これほどの悪徳と滑稽さがあるだろうか。己自身の判断に吐き気と自殺衝動が表に出そうになるのを、歯を噛み締めて抑えつけ、心の奥底にしまい込む。道化のように、"テンザン・ナカジマ"のように嗤えることができればいいのに、自分という"余分"は、そのようなロールを許してくれない。しかも、自分を信じ、ただ見つめてくる少女に対し、謝ることも、感謝することも筋違いだ。自分は結局、悪性なのだから。

 だから今は頭を振って、強く少女の手を取って直通の研究室を開く。中ではストラングウィックとヴィルヘルム・V・ユルゲン、そしてリョウトが慌ただしくコンソールを叩き、実機の調整を最速で終わらせシステムを立ち上げており、強化ガラス窓の向こうに広がる格納庫では整備班が転がる機材の中を走り回るという鉄火場の様相となっていた。

 いつまでもウジウジするなと意識を張り詰め直し、声を響かせる。

 

「ゼノリオンはっ?!」

「今OSと主機を立ち上げた! すぐに出せる!!」

「システム側からブラックホールエンジンとヴェルトール全体へのリミッターは出来てる、それ以外は万全だ!」

「アーマリオンは……ごめん、もう少しかかる!」

「リョウト、お前は後で来い! 最悪第二波に備えて待機、自分の命を優先しろっ!」

「それは……っ、わかった、勝手にする!」

「そうは言ってないだろ! くそっ……」

 

 こちらの意図を察した上で、あえて言うことを聞こうとしないリョウトに苛立ち目を逸らすと、両腕に結束バンドの拘束をされたまま椅子に座らせられているリュウセイがいた。恐らくはシミュレーターから出されそのまま待機、この非常時に簡単な拘束だけされて放置されたのだろう。部屋の端でそうしているのは中々にシュールな図だが、しかしストラングウィックたちの背と、格納庫にあるR-1を交互に移す目には強い光が宿っている。ドサクサに紛れて逃げるのか、とメタ染みた推測を立て、すぐに近くにあった作業用ロープを手にとった。

 

「お、おいテンザンッ?!」

「うるせぇ、静かにしてろっ」

 

 案の定、オーバーなうろたえ方をするリュウセイに、"テンザン"として取り繕う余裕もない態度で答えつつ、ロープで更に強く縛り付ける。リュウセイが逃げるのは別にいいが、それでストラングウィックたちが傷つけられるのは絶対に避けたいからだ。

 

「シャイン、コイツを見張っとけっ! 俺はこのまま出る!」

「分かりましたわ……それと」

「あん、まだ何か……」

「あの答えは、まだいらないですわ。ただ、貴方の事を想う女がいることは、絶対に忘れないでください……ご武運を」

 

 また、思考が止まりかける。ただの少女/キャラクターだと思い込みたかった、一人の女の子/人間の目が、まっすぐにテンザン・ナカジマを射抜く。呼吸すら止めて、肺から空気を無くし、窒息を起こして死にたくなった。それを、強引に息を吐きだし、踵を返す。そのまま何も返すことなく、ゼノリオンに駆け出した。

 色恋沙汰の余裕などない、このような状況で言うことではない、そもそも彼女はライと結ばれるべき存在だ。何度も何度も浮かぶ理由は、しかし当の少女に否定されたばかりで言うことができない。

 だから、これは逃げだ。答えを出すこと、応えること、それを受け止めてだけ受け止めて、背を向けたのだ。クズで優柔不断で意気地なしの卑怯なやり口だ。

 その自覚を持ちつつ、ゴチャ混ぜになっている感情と意識を強引に"テンザン・ナカジマ"の仮面で覆い隠す。

 そうすると、どうしてか泣きたくなり、胸中に煮え立つもの全てをそのまま塗りつぶしたかった。

 やはり自分は"正義の味方"などにはなれない、弱虫のままだ。

 

「……さて、リュウセイさん。手伝ってほしいことがあるのですが」

「……へ? は? え?」

 

 そして、縮まった思考では、シャインがリュウセイへ耳打ちすることを気づくことができないのは、必然だった。

 

 

 

「浮上してきたな」

『全機、出撃してください』

 

 ジブラルタルを背にしたヒリュウ改のオペレーターに応える形で、ギリアムは愛機のゲシュペンスト・タイプRのスロットルを回し、リニアカタパルトから飛び出した。眼下では先に出撃していたハガネ・ヒリュウ改それぞれの所属機動部隊が順次フォーメーションを込み、取り決め通りの位置取りをしている。自機は中衛だが、状況次第で即座に前衛へスイッチできるようになる位置だ。

 

『くそっ。なんっか乗り気がしねぇっ! ケツの締りが悪いっ!』

『マサキ、お前はあくまで民間協力者だ。本作戦への参加義務はないぞ』

『けど、アイツは絶対にシュウについて何か知ってやがる! この機会を逃すわけには……あ〜けど、痒い!』

『マサキ……気持ちは分かるけど、我慢するニャ』

 

 ライディースの忠告を受け取りながらも引くことはなく、しかし参加すること自体には後ろ向きなマサキ・アンドーがサイバスターに人間臭い迷いの挙動をさせているのを見ながら、その意見に同意するものが多いのだとギリアムは認識していた。実際、以前の作戦から体調の優れないクスハや、後詰めという体で参加を控えさせられたラトゥーニという例もあった。一方で積極的参加をしているのは、リュウセイの救出を主眼に置いたSRXチームに、自分自身を含めた、腹に何かを抱えた面々だ。

 本作戦『オペレーション・ナインブレイカー』はシャイン王女を救助することを第一目的とした、れっきとした救出作戦だ。しかし、そもそもが潜航中の潜水艦を相手に、"重力砲撃で退路を絶ち""機雷群で行動を制限し""最新鋭の艦船3隻と最精鋭部隊で攻める"という、明らかにやり過ぎな一面がある。その理由には裏の意図が存在することは自分のような立場の人間や察しのいい人間ならば初めからわかっているし、それでも行うしかない政治的な意味があるというのも納得しているが、気味の悪さを拭いきれないのも事実だ。

 そして、それでも尚ギリアムが積極的参加を表明しているのは理由がある。アイドネウス島に残されていた第9研究室の研究データは確かに驚愕を齎すものであり、伊400が内に抱えているだろうヴァルシオン由来の何かを解明することも合わせ、その確保を行うべきと考えるのは職務の準じたものだ。

 だがギリアムの本命は"テンザン・ナカジマ"だった。シュウ・シラカワが認めた神がかり染みた技量は確かに脅威だが、しかし連邦軍情報部としてギリアムがより重要だと認識したものは、DCの兵士として戦い始めてから時垣間見せる"不可思議な知識"だ。ラングレー基地襲撃時に漏らしたアルトアイゼンやヴァイスリッターを匂わす口ぶりや、あのグランゾンに関する何かと思わしき"ネオ"という単語。極めつけはバーニングPT全国大会でのリュウセイへの挑発時に見せた"未来を知っているかのような態度"に、中高生時代の度重なる自殺未遂。

 あの傲慢ぶった態度の中に、致命的な何かを隠している。そう思うのは秘密を探る立場の人間や陰謀家には必然だった。

 ビアン・ゾルダークやシュウ・シラカワと空気が違うのは、それが漏れることを恐れているような言動も取っていることだ。あの2人であれば必要な場合であれば即座に開示する。事実、ビアンはその最後に自らのやるべき事を示し、ハガネ・ヒリュウ改の面々に託している。しかしテンザンは不意のことでそれらしい単語を漏らすことはあれど、詳細を一切出そうとしない。前述の2人と同等の読みや知識を持っているのであれば話は別だが、情報部のプロファイリング担当は、テンザン・ナカジマにそれほどの視野はないと推測している。

 では、別の理由で開示できない情報を抱えていると考えるのが必然だが、その"何故"には情報部の頭脳では思い至ることができなかった。しかしギリアムは、己の出自から一つの推測は立てている。あまりに荒唐無稽であり、しかしただ情報を出すだけでは同類の敵性存在を呼び込みかねない劇薬だ。その扱いと確認には最大限注意が必要だった。

 故に、今回は最大のチャンスだった。

 

『全機、火器管制制限解除、備えろ』

 

 同じようになにかのチャンスを伺っていると感じつつ、しかし自分と同様に意図を隠そうとしているイングラムの掛け声に、前衛・中衛の機体がそれぞれ武装を構える。

 同時に、ヒリュウ改の重力衝撃砲で荒れている海の一部が膨れ上がり、巨大な水球が勢いよく現れた。解析班によれば、リニアカタパルトのない伊400でも同等の加速度を得るために搭載されたグラビティカタパルト、その加速と重力制御から機体とパイロットを守るために付与されるエネルギーの膜だ。それは内側から独りでに割れ、その内に潜んでいたターゲットが、加速状態のまま上空へと昇っていく。

 

『ホ! こいつはまた、御大層な歓迎じゃあ……』

『攻撃開始』

 

 イングラムが振り上げた手を下ろす。瞬間、包囲していた各機が一斉にターゲット/シールダーへと攻撃を仕掛けた。ビーム、実弾、重力波、ミサイル、レーザー。ハガネ・ヒリュウ改の機動部隊が持つ瞬間最高火力は、余程の特機でもない限り、対象を爆散させるだろう。

 

『チッ、随分な挨拶じゃねぇか!!』

 

 それを、その機体は全力機動を掛けながら上昇しつつ避け、受け、払う。テスラドライブの機能をフル活用した、無重力空間と錯覚するような上下左右反転を交えての機体制御で非実体弾と重力光球を躱し、回避機動を取りながら引き抜かれた左のリボルバーでミサイルと徹甲弾を打ち落とした。更に間隙を縫って突貫したアルトアイゼンを、背部の巨大なシールドをラッチから外すことなく受け流し、そのまま突き出された右腕/リボルビングステークを背中を向けたまま避けつつ掴み、勢いそのままにディスカッターを振り上げていたサイバスターへ、カイの得意とする柔道の背負投を思い起こさせ動きで投げつけた。

 初速に優れた近接組がいなされるのは想定済み、掴み投げというモーションを挟んだことで動きが止まった瞬間に、後衛に待機していたR-3のストライクシールドが360度敵機を包囲する。だがその目的は攻撃ではなく、あくまで動きを制限するための、動く壁だ。

 

『隊長、ライ!』

『よくやった、アヤ』

 

 SRX計画最後の機体であり、この日のためにロールアウトの間に合わせたR-GUNを駆るイングラムがビームカタールソードを抜刀、キョウスケにも劣らぬ踏み込みで居合を叩き込む。その動きはアイドネウス島の時よりも鋭く、教官である彼自身の成長、いや、本来の動きを取り戻すかのような気迫だ。それに引き上げられるようにライ/R-2のビーム・実体弾とビームチャクラムの両腕同時攻撃が牽制として左右への動きを目ざとく封じた。上下左右、更にはストライクシールドが即座に応じて形成された上下と背後の壁、正面からはビーム刃。教導隊でも初見であれば四肢の1本2本を覚悟するそれを、しかし"想定通り"シールダーは対応する。

 

『いつもの前口上はどうしたってんだ、よっ!』

 

 半歩前方へ踏み込み、リボルバーのバレル下部から形成された銀の刃が安々と打ち込みを受け止める。動きを更に止める、と判断したアヤがR-3越しにストライクシールドを操り両肩部を、R-2のビームチャクラムがしなり剥き出しの脚部を狙う。だが、それらが到達するよりも前に、シールダーの盾中央部が展開され、そこから衝撃波が噴出された。こちらの攻撃を吹き飛ばすのではなく、シールダーの押し込みとなる推進力に利用されたことにより、R-GUNが大きく押し戻された。

 チッ、と舌打ちがあったかと思うと、R-GUN自らが鍔迫り合いをしていたビーム刃を払いつつ、もう片方の刃を発振する。しかしその瞬間、シールダーの盾が今一度唸り、0から亜音速への急加速を機体に齎し急降下させた。結果、ビームの軌跡が空を切り、イングラムの舌打ちが再度無線に響いた。

 

『あのブーストかっ』

『隊長、くぅっ!!』 

 

 シールダーに迫っていたR-3のストライクシールドのその背を一瞬で見失い、あわやR-GUNにぶつかる直前で慌てて散開し事なきを得たが、反応が一瞬遅れたR-2のチャクラムはついでとばかりにハンドレールガンに真芯を撃ち抜かれた。ライディースの歯噛みする悪態が聞こえるが、しかしその前に交代とばかりに前に出た影があった。

 

『まだまだオープニングサービスはあるわよっ』

『仕掛けるぞ、エクセレン! ブリット!!』

『了解です、T-LINKリッパー、アクションッ』

 

 息つく間を与えさせぬために、ATXチームが動く。態勢を立て直したアルトアイゼンとヴァイスリッター両機左腕のマシンキャンとビームキャンが放たれ、海面からはブリットのタイプTTによるT-LINKリッパーが翔ぶ。合わせてSRXチームが機体制御を整えるため中衛へと下がった。

 連携攻撃の2重化。過去の戦闘で、連携攻撃を多重に仕掛けることで中破・大破まで持ち込めたことが判明したために仕掛けた罠。相手も人間である以上、高密度の連携相手には疲弊し、対処できなくなる。それは当然の認識だ。

 だが、相手は規格外の、更に外側だ。

 

『ッ、ランページ・ゴーストの崩しかよ、よくやるっ』

 

 保持していた盾から手を離し、もう1丁のハンドレールガンが引き抜かれた。両腕を交差した射撃体勢を取りつつ、右足先が大盾を引っ掛ける。左右2連射、計4発の電磁投射弾頭が盾の影から撃ち放たれ、直後に両肩のスラスターを噴射、機体を上下反転させ、盾を迫りくる牽制射撃へと向けて防御する。放たれた弾はリッパーを全機撃ち落とし、その内の一発はブリットのゲシュペンストを掠め動きを止めた。

 しかし、シールダーの動きがブリットに向いた一瞬の隙にヴァイスリッターがフルブーストで旋回、アルトアイゼンの対面位置に陣取り、慣性を殺しながら槍/ランチャーを構えた。

 

『あらご存知? それならもっとカスタムしちゃおうかしら』

 

 オクスタンランチャーW、実弾とビームが乱数射撃かつ広範囲にばら撒かれる。ストライクシールドとはまた別の、銃撃の檻だ。それを補強するかのように、大きく飛び上がったアルトアイゼンの両肩ウェポンラックが開き、ベアリングの牙を剥いた。

 

『このまま閉じ込める、クレイモア!』

『シェース、ッ……まだだ!!』

 

 騎士兜染みた機体頭部だけをヴァイスリッターに向けたまま、ハンドレールガンを1丁だけ仕舞い、盾の保持を右腕に直してアルトアイゼンへと掲げて、ベアリングの雨に対して傘を作り出す。同時に機体は両肩・両腰部のスラスターを用いて小刻みに上下左右に動き、銃撃の網を紙一重で躱し続けた。あれだけの視界で避けきれるのか、と驚嘆すべき腕だが、しかしこと連携であれば、ATXチームの方が一日の長がある。加えて彼らは2度もシールダーに煮え湯を飲まされる、3度目は許さない。

 

『ブリット! エクセレン!』

 

 名を呼ばれた2名/2機の背部から、本作戦用に増設されたミサイルランチャーが顔を出しスプリット・ミサイルが撃ち出される。距離の関係もありすぐに小型分裂弾頭に別れたそれは、急降下を開始したアルトアイゼンと動きを封じ込まれたシールダー目掛けて迫る。

 

『特攻、いやっ!?』

『アルトの装甲と貴様の盾、どちらが硬いか試させてもらうぞ』

 

 アルトアイゼンが選択したのはヒートホーン、ステークは捉えた際の2撃目だ。当然このままいけば、両機はぶつかり、ミサイルの群れに突っ込むことになるだろう。決められるか、と思わず操縦桿を強く握った矢先、下方から高エネルギー反応。

 アーマリオンか、と思考を走らせると同時に、ゲシュペンストのニュートロンビームライフルを構える。間髪入れず、その存在に気づいた他の機が膨れ上がる海面目掛けて銃撃を放った。いくらアルトアイゼン並に強化改修したとはいえ、直撃すればひと溜りのない死の攻撃を前に、しかし現れた"赤く輝く機影"は恐れることなく突っ込み、吠えた。

 

『スプリットビーム、ハード・ヒ−トホーン、アクティブ!!』

 

 影が瞬く間に消える。ワープ、というわけではない、純粋に速いのだ。センサーが追えない、などという悲鳴がどこからか漏れる。影すら残さぬその姿は、出力の低い拡散ビームをばら撒きつつ、文字通り瞬く間にシールダーとアルトアイゼンの間まで上り詰め、備え付けた角に雷を纏わせた。

 

『同じヒートホーンならっ!』

『何っ?!』

 

 アルトアイゼンとアーマリオン、2機の角がぶつかり、スプリットビームに撃ち抜かれた端から小型ミサイルが爆発した。その爆発の泡と、互いの加速力による相打ちから逃れるため、2機は同時に刃を反らし交差する。結果、アルトアイゼンの軌道はシールダーから逸れ、がら空きの側面を晒してしまう。逃すかとばかりにレールガンの銃口が向いたと思いきや、しかし次の瞬間には銀の曲剣を展開し、先のアーマリオンにも負けぬ速さで切り込んだサイバスターを迎え撃った。

 

『踏み込みが、足りねぇッ!』

『っ!』

 

 払い、突き、逆袈裟、計3合の切り結び、それを制したのはシールダーだ。主の気持ちそのままに、動きに精彩さを無くしたサイバスターは、跳ね上げられた両腕を下ろす間もなく、がら空きの胴に盾の一撃を叩き込まれて後ろへ下がった。すかさず背部から飛び出したハイファミリアの2機がフォローに入ろうとしたが、しかしUターンして直上から迫ったアーマリオンのスプリット・ビームが両機の間を埋め尽くし、親機であるサイバスターと共に距離を取る。

 その隙にアーマリオンがゼノリオンの背に周り、機体の背部を預ける。T・ドットアレイの異常活性化を示す赤色が薄れ、通常のダークブルーへと機体色を戻したアーマリオンは、チリチリと雷光を纏わす脚部から排熱を行いつつ、油断なく連邦軍を見据えた。

 敵戦力の増加と合流に、場が膠着した。こちらも今の内とばかりに態勢を立て直しつつ、今度は自身が前へ出て、油断なく銃口を向ける。相手も小休止が必要だったのか、兵装を構えてはいても、攻勢に出る素振りはない。

 

『……ちっ、やっぱり来やがったか』

『言っただろ、僕は君の仲間だって』

『おかげでこっちの予定が1つできなくなったての……ああ、くそっ。おい、連邦の連中! こいつはどういうことだっ?! こっちにはシャイン・ハウゼンがいるんだぞ! そいつがどうなってもいいのか!?』

 

 その銃口の向き先であるシールダー/テンザンは、アーマリオン/リョウトに何事か悪態をついた様子だったが、すぐにこちらに対して脅迫してきた。状況を考えればその主張は誘拐犯として順当なものである。しかしこちらの作戦上、交渉の余地はない。だが、時間稼ぎにはよいだろうと、無線の集音機能をオンにした。

 

「こちらは地球連邦軍所属、ギリアム・イェーガー少佐だ。そのような物言いということは、人質交渉の余地があるという認識でよいのか?」

『ホッ、教導隊か……ああ、そうだ。不意打ちについちゃ許してやる。お前らの目的がシャインだってのもわかってるから、条件次第じゃ返してやってもいいぜ』

「条件か……」

『ああ、まずはお前は全機母艦に戻れ、それと後ろにいるアームズフォートも下がらせろ。そうじゃなきゃおちおち話もできねぇぜ』

 

 破格の条件だ。こちらから先に仕掛けた以上、道理は向こうにもある。しかし何故か、人質の開放条件を提示するという、下手の手段に出てきた。これは交渉次第で本当に行けるか、と脳裏に迷いが生じた瞬間、横やりが入ってきた。

 

『残念だが、それはできない』

『っ、お前、は……』

 

 モニターに投影された映像に、この作戦で実質最高指揮権を持つ男が映る。人外じみた瑠璃色の髪を逆立てる、野心を持つ政治家というものを具現化した姿に、テンザンの息が止まった。

 

『私の名は、アルテウル・シュタインベック。大統領補佐官だ』

 

 

 




おかしい、シャイン王女が強すぎる……

2021/2/1 一部描写を削除しました。

2022/2/24 Gコン→Dコンへ修正しました。

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