スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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基本は漫画・アニメ版基準になりますが、時々ゲーム版が出てきます(たぶん


初陣

【新西暦186年 8月BV日】

 

 先日の日記を消したい。だがそんなことをしたら、日記の私自身の記録として意味を成さないと思うので、恥ずかしいが、そのまま残すことにした。

 しかし、私自身のメンタルがこんなに弱いとは、私自身思わなかった。まさか模擬戦の、しかもペイント弾とわかっていたのに、実際に人が乗ったAMに銃口を向けただけで取り乱してしまうとは。というより、人に死をぶつけることへの拒否感だろうか、今生では格闘技も多少は噛じっていたのに情けない。

 むしろ格闘戦なら全然平気なのは、まぁ私自身が機体をちゃんと動かせるという自信と、格闘戦なら加減も効きやすいという認識、いや慣れみたいなものだろう。銃だと当たりどころが悪ければそのまま撃墜……殺してしまう。ゲームやシミュレータでは感じなかった、相手を確実に殺してしまうというビジョンが浮かんで、体の自由が効かなくなる。そうなると、格闘戦のみにしたほうがいいだろうか。

 いやだめだ。私はどこぞの剣豪や修羅ではないので、格闘戦一本で戦い続ける自信はない。ならばこの銃を人、というより人が乗った機体に向けて撃てないという状態を克服するか、このような状態でも何とかできる方法を見つけるしかない。そもそも私は『テンザン・ナカジマ』なのだ、射撃が得意でなければ意味がない。まぁ『テンザン』であればこのような人殺し云々に迷いなどないのだろうが、そこは紛い物の宿命だろう。何とかしなければいけない。

 とりあえず、しばらくはシミュレータや日課のトレーニングに、人を撃つときの心構えを得るため射撃訓練を加える必要がある。それに私の機体を預かっている整備員にも悪いことをしてしまったのでフォローしないといけない。さすがに初の実機訓練であんなボロボロにするのは、私ぐらいだろうし。

 やはり、気が滅入る。死にたい。まだ死ねないが。

 

 

【新西暦186年 8月CB日】

 

 アードラー副総統に要望を出し、一般兵の訓練場を使えるようにしてもらい、希望を出せば歩兵訓練にも参加できるようにしてもらった。実機訓練のことで幾つか小言を言われたが、そこはテンザン節で何とか乗り切った。あの男に関しては事前に知ってた背景もさることながら、実際に会った時の態度や雰囲気からそこまで友好的になる必要はないと判断した。あくまで私とあいつは取引相手、もしくは実験室の研究員とモルモット、ぐらいのドライな関係で十分だ。まぁ実験動物にしては、私は大きすぎるし人らしい要望も出すが。

 とにかく、訓練だ。鍛えていたおかげで純粋な体力面では問題ないが、やはり格闘訓練や射撃訓練、それに専門の器具を扱う方向では正規兵に遅れを取ってしまう。特に射撃ではまだ拒否反応が強い。日本で暮らしていた時には多少サバゲーもやってたし、自殺に使おうとして貫通力を高めた工具を銃に見立てたこともある。その時にはまったく問題なかったのは、それがただの玩具でしかなかったり、自分に対して向けたものだったからだろう。我ながら不器用な性根だ。

 だが一日訓練に参加できて、この拒否反応を薄める方法は思いついた。銃で相手を"殺す"のではなく"無力化する"という方向で使う、ようは牽制や誘い込み、もしくは絶対に相手が落ちたり誘爆しない箇所に当てればいい。例えば武器、もしくは推進剤のない部分に限った四肢や頭部。これなら何とかできそうだ。事実、訓練最後の模擬戦闘では相手の銃やナイフを弾くことに集中し、多少の成果を上げることができた。それまで銃を向ける度に硬直してすぐに死亡判定をされていただけに、素直に嬉しかった。

 とりあえず、目処は経った。もう2、3日この歩兵訓練に参加させてもらって、シミュレータやリオン実機での戦闘に活かそう。

 

 

【新西暦186年 8月CX日】

 

 あのリュウト・ヒカワと遭遇した。廊下でばったり、という感じでしかも私は最初、彼がリョウトと判らなかったが、とりあえず『テンザン・ナカジマ』らしく振る舞えた。結果して恐怖心というかいじめっ子にあったいじめられっ子みたいな態度を取られたが、予定通りなので問題なかった。あと、多少話してみてわかったのが、リョウトは数日前にアイドネウス島に来たこと、私とは別部隊に配属が決定していること、既にリオンに試乗していることだ。元々原作でもそう交流がある方ではなかったはずなので、同じアードラーの実験動物でも部隊が違うというのも納得だ。

 とりあえず、偶然でも出会えた記念ということでシミュレータに誘われた。リョウトにとって苦手なタイプでも数少ない同郷だからか、仲良くしたいのだろう。私としてはいずれ私を殺す存在の一人なので、本音は彼以上に苦手意識を持っているのだが、現状のリョウト・ヒカワの実力を知るためにそれに乗った。まぁ前世の私は彼より酷い性格だったので、同情も篭ってたが。

 結果としては、バーニングPT全国大会決勝の時戦ったリュウセイより弱い、という感じだった。私が特訓も兼ねて慣れない無力化戦闘で戦い、かつリョウトがまだリオンに慣れていないということを差し引いても、リョウトはまだまだとしか言いようがなかった。たしかにバーニングPTとしての挙動は問題なかったが、リュウセイより動きが素直すぎ、読みやすかった。リュウセイなら避けるだろう攻撃も普通に当たってしまい、私のほうが驚いてしまった。そのせいで、ついつい"素"でアドバイスもしてしまった。もう少し牽制する場所も考えろとか、リオンの速さに慣れろやら。

 途中で別のリオンがシミュレータに乱入してきた時は驚いたが、何とか右腕をもぎ取られた程度で2機とも無力化できた。恐ろしい腕で、かつ黒と金のカラーリングの乱入機だった為、ついにあのブランシュタインと当たったのかと考えたが、例の紋章が見当たらなかったから、別のエースか、それこそラストバタリオンのような特殊な部隊のメンバーだったのかもしれない。

 シミュレータとはいえ、エース級相手に撃墜せず無力化で制したということには自信が湧いた。ここ数日の特訓の成果がちゃんと出てるからだ。あとはこれをより洗練させつつ、実機でも活かせるようにすることだ。

 連戦で目を回したリョウトに別れを告げ、自室に戻る。もしリョウトにまたDC内で会うことがあったら、またシミュレータに付き合ったほうがいいかもしれない。今のあいつでは私を殺すこと、というかそもそもハガネ・ヒリュウ改部隊についていけるとは思えない。会うのはとても嫌だが、多少でも鍛えた方が都合がいいだろう。

 

 

 

【新西暦186年 9月BB日】

 

 出撃が決まった。内容はどこかの基地に侵攻する、というものではなく、リオン単騎の長距離巡航試験のようなものだ。だが、問題はその場所だ。

 作戦領域には、日本極東支部のレーダー範囲ギリギリの位置まで含まれている。細部までは覚えていないが、明らかにこれは、SRXチームが初めてリオンという機体と遭遇し、『テンザン』とリュウセイ・ダテが明確な敵対関係を取ることとなる戦闘だろう。

 実機訓練でようやく慣れてシミュレータの機動に近いことができるようになってきて、かつ無力化戦法に実践できるようになってきたタイミングだ。何度か誤射をして吐いたり機動に耐えきれずブラックアウトすることもあったが、ようやくそういうトラブルを少なくして戦えるようになっただけなのだ。正直、不安しかない。それに、この任務は恐らくテンザンではなく、別の部隊が行うのではなかったのか、とも思う。作戦領域からして明らかに連邦に対する挑発も含まれているのだ、勝手に行動しがちな『テンザン』だけにやらせるはずがない。私が主眼となってやることになったのは、明らかにアードラーのゴリ押しだ。怒りが湧きそうになる。

 いっそのこと、辞退、いやボイコットしてしまおうか。いやダメだ、これは私が『テンザン』としてやらなければいけないことだ。

 

 キラーホエール級に乗り込む前に、何度か演習でやりあっているプロジェクトTDメンバーをシミュレータでノして、ステラ1ことスレイにテンザン節をぶつけて溜飲を下げておいた。ついでにステラ4ことアイビスに対してもヒヨコといって挑発しといた。あの2人は私/テンザンを殺す際にはいないメンバーなので多少は楽に付き合えるから、ついつい構ってしまう。それに『テンザン・ナカジマ』として相手を煽るときの練習にも丁度いい反応を返してくれるので非常に助かる。

 ……気分転換はここまでだ。ついに私は、戦場に立ってしまう。その事実が、ただひたすらに恐ろしい。怖い。嫌だ。

 弾が機体に当たってすぐに爆発し死んでしまうのではないだろうか。もしかしたら機器の不良で墜落し、海に沈んでしまうのではないだろうか。もしかしたら、PTのタックルや拳で圧死するかもしれない。

 だめだ、手が震えてきた。これ以上考えるのはやめよう。

 無事に終わりますように。

 

 

 

 

 DCに先行配備されているF-32シュヴェールトのパイロットは、己の不運を嘆いていた。折角の新型戦闘機のお披露目ができるというのに、実際はDCの問題児のお守りだからだ。彼の感では、リオンに乗って先行するパイロット、テンザン・ナカジマは必ず何かやらかすと予想していた。それは他の2機のシュヴェールトのパイロットも同様なのだろう、機体の挙動が心なしか鈍い。

 

『……レーダーに感。反応は連邦の輸送機だ、このコースのまま直進すると、向こうから発見される恐れがある、一時後退せよ』

 

 母艦からの緊急通信に、緊張感を張り巡らせる。このシュヴェールトも、そしてAMリオンも、今はまだ連邦に見せるわけにはいかないのだ。いや、もしかしたら非公式には既に会敵しているのかもしれないが、それを彼らにも伝えられてない以上、接触は避けるべきだ。

 

『ホッ! ホエール1、輸送機の進路は?』

『……連邦の極東支部だ』

『そうかいっての!!』

 

 権限上質問を拒否できないオペレータが輸送機の進路を答えると、リオンが加速した。何してやがるあのガキ、とシャーク1ことシュヴェールト隊リーダーの悪態が通信機から聞こえ、すぐに停止するように通信を開こうとする。だが少しばかり遅かったようで、リオンがレーザー照射されたアラームが、母艦からの通信で響いた。

 

『シャーク隊、下がってなっての!』

 

 構わず、リオンが上昇し、レールガンを視認した連邦軍のT5タウゼントフェスラーに向け、発砲。やりやがった、と彼は口内でこぼすと、開かれたリオンコックピットのテンザンに向かって叫ぶ。

 

「テンザン・ナカジマ特尉、ただちに攻撃を止め撤退しろ! まだリオンは連邦に見せるものではない!?」

『ホッ、そいつはどうかよ? 今回の件、明らかに俺にこうして欲しいって思惑があると思うっての。だってよぉ、あからさま過ぎるだろ、このコースっとぉ!!』

 

 彼の言葉に反論しなあら、リオンが更にレールガンを発射。2発の銃弾は一発は輸送機の胴体を掠め、もう一発は右翼の端を削って、機体バランスを崩させた。嬲ってやがる、と同僚が零すが、テンザンはそれに構わず更に撃ち、決して直撃させなかった。母艦から、輸送機が救援信号を発していることをキャッチしたと報告が来た。さらにレーダーを見れば、急速に接近する機影が3つ。極東支部のPTだ。

 

『っ、ナカジマ特尉、PTが接近中! 撤退を……』

「知ってるっての……シャーク隊、距離5000まで後退し待機。5分後にミサイルで俺の撤退を援護をしろ。これは特尉としての命令だ』

『なっ、貴様何を……』

『ホッ! 俺に逆らうのかっての? 俺はアードラー副総統のお気に入りだぜ。そんな俺の命令を聞けないってのは、ちょいと拙いんじゃねーのかねー』

『このガキ……シャーク1、了解』

「っ、いいんですか、隊長?!」

 

 リーダーの命令許諾に、たまらず尋ねてしまう。だがリーダー機は『ただ従え』と口にした。階級上はリーダーとテンザン・ナカジマは同等だが、ナカジマ特尉はその特殊な立場を利用しているため、下手な反論はこちらの不利にしかならないのは明白だった。それに今の会話は母艦にも記録されているため、最悪は基地に戻ってから糾弾することも可能だ。

 だが、リーダーが5分間とはいえ、単独での戦闘を黙認した本当の理由を彼は察することはできた。

 無敗。それがアイドネウス島でのテンザン・ナカジマの戦績だ。その実力に偽りがないことは、演習で彼と戦ったことのあるシャーク隊は身に沁みて理解している。先日はテンザンと同じ理由で招集されたパイロットと、11月の決起のための部隊調整に来ていたエルザム・V・ブランシュタインを同時に相手取って、しかも手加減をして勝利している。言動や態度、スタンドプレー気味な所はともかく、その化け物じみた実力だけは信頼できる。だからこそ、許可したのだ。

 

『ホッ! 聞き分けOKっての。それに、対PTの実戦データを取ることもできるからよぉ、モニタリング忘れるんじゃねぇぞー』

 

 それだけいって、テンザンはレールガンの砲口を輸送機から接近するPT3機へと向けた。だがそれと同時に、沿岸部から砲撃が届く。いつの間にか、海岸には演習に参加していただろう71式戦車バルドング隊が陣取り、PT隊の援護準備を整えていたのだ。数は10、さすがにまずいと考えた途端、テンザンはその砲撃の雨の中に飛び込み、勢いのままPT隊の上を通過した。呆気に取られるPT3機だが、その内の1機、砲撃戦仕様のシュッツバルトが、咄嗟に背の大出力砲2門を放った。咄嗟の牽制のつもりのはずが、パイロットの腕がいいのか、テンザン機の進行方向にぶつかるだろうそれを、テンザンは機体をループさせて回避しつつ、背後を向いた瞬間にミサイルを発射。海上をホバー移動で行動するPTはそれぞれバラバラに回避、その行動の合間に、テンザン機のレールガンが戦車部隊を射程に捉えた。

 レールガンが瞬く。遠方のせいか直撃はないが、至近弾の爆風で何両かが転倒した。残りの戦車が後退するが、空を亜音速で飛行するリオンはそれよりも早く動き、遂には戦車隊に肉薄した。そしてあろうことか、地表すれすれまで下降すると、すれ違い様に、あのリオンの固定脚で戦車をすくい上げ、蹴り飛ばしたのだ。そして1両を逆さまにして吹き飛ばしたあと、飛び上がりながらレールガンで再び至近弾をぶつけ転倒させる。反撃はあるが、それを全て紙一重で回避しつつ、再度接近して、同じように蹴り飛ばす。

 それはPTがマシンガンを撃って牽制すると共に終了し、その時には全ての戦車が転げ、戦闘不能状態となっていた。

 PT相手では、更に初撃で大出力ビームを避けながらシュッツバルトのビーム砲を一門破壊し、更に指揮官機と思わしき後方のゲシュペンストの頭部を連続射撃で削る。横に回った挙動の速いゲシュペンストがビ−ムソードを構える。その機体の胸部に向かって蹴りを放ち、蹴りの反動で距離を取る。その際にミサイルをシュッツバルトに撃ち牽制。マシンガンを構えていたシュッツバルトはたまらず回避に専念したが、一発を左腕で受け、中破。

 

『ホッ! ヌルいっての!!』

 

 そううそぶくテンザン機の四方から、ゲシュペンスト2機から放たれたリッパーが襲った。資料にあった、念動誘導タイプ。それを真上に飛ぶことで一度は回避、しかしリッパー2つがぶつかり墜落するが、残りは直角に曲がって更に追ってくる。テンザン機はそこで反転しレールガンで迎撃しようとしたが、そこをシュッツバルトとゲシュペンスト指揮官機のマシンガンが襲った。更にバックするように上昇して間一髪逃れるが、逃げ切れず、ついに機体が被弾し、リッパーに右脚を持って行かれた。

 

『ナカジマ特尉、5分経過しましたっ!!』

 

 母艦オペレーターからの声にはっとして、経過時間を見る。同時にリーダー機からはFOX3の要請。従い、PT3機及び戦車部隊に向かいトリガー。PT部隊が一斉にこちらを向くと共に、テンザンがシュヴェールト隊に飛んだ。放たれた9発のミサイルは狙い違わず向かい、PT隊が慌てて迎撃態勢を取る。そうしなければ残された戦車隊に被害が出るからだろう。

 だが、ミサイルと高速で離脱するテンザン機が交差した瞬間、あろうことかテンザン機は一度反転し、レールガンと腕部ミサイル、胸部チャフグレネードをシャーク隊のミサイルに放ったのだ。

 両軍とも、この行動に驚くがすぐにその意図に気づいた。広範囲に広がった爆風と爆炎、それにチャフは、テンザンのリオンを視界及びレーダーから隠したのだ。

 その爆煙が広がる最中に、テンザンはシャーク隊と合流し、沖で待機しているキラーホエールへと向かっていった。

 

『ふぃー、まったく。疲れたが、あいつら雑魚すぎるっての。正直PTが弱すぎてデータになるのかっての』

 

 通信から聞こえたテンザン・ナカジマの声は、いつもの調子を保っていた。あれだけの立ち回りを見せた後でこれとは、素直に感嘆の息を漏らす。

 

『……ナカジマ特尉。今回の独断専行の件、上には報告させてもらいますが、よろしいですな』

『おうおう、まったく問題ないっての。まぁあの雑魚すぎる連中との戦闘データも合わせりゃ、俺の方が正しいってわかるかなぁ。はっはー!』

 

 相も変わらず、腹が立つ物言いだ。リーダーはぐぬぬと臍を噛み、通信を閉じた。

 テンザン・ナカジマ。その実力は本物であり、リオンの性能がPTを凌駕することを証明した。例えどれだけ問題児であろうと、成し遂げた事実を変えることはできない。恐らくはテンザンの言うとおり、お咎めはないだろう。それはテンザンの指示で戦闘を近くからモニタリングしてデータ収集していたシャーク隊も同様だ。そうでなければリーダーがあれで引き下がることはない。

 悔しいが、テンザン・ナカジマは、間違いなくエースであり、旗揚げするDCの中枢を担う人物になるのだろう。

 苦労するな、と彼は思いながら、彼もまた通信を一度閉じ、ふうと一息ついた。

 

「……くそっ、なんだよこれ……こんな恐ろしいのが続くのかよ……ふざけんなよ……」

 

 だからこそ、小声で呟かれたエースの弱気は、誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

 

 恐ろしい相手だった。リュウセイは心底疲れたというような気持ちでコクピット内で脱力した。遭遇戦とはいえ未確認機との戦闘。しかも1機相手に戦車部隊とPT3機を手玉に取るような相手だ。命が縮んだ、とため息が溢れる。

 

『リュウ、ライ、大丈夫?!』

『左腕と砲が一門、それに内部の電装系が一部損傷していますが、問題ありません』

「こっちも、えーと……リッパーが未帰還、胸部装甲にダメージ表示があるけど、何とか……アヤの方は」

『こっちもリッパーがダメ、それに頭部も結構やられたわ……明らかに手加減されてたわね……』

 

 上官であるアヤ・コバヤシの言うとおり、クリティカルダメージはない。更には全て転倒させられた戦車部隊には、通信で聞く限り死傷者0、その気になれば撃破もできただろうに、それをしなかった。加えてあの戦い方は明らかに遊ばれていた。

 

『何とか追い払いましたが……実質こちらの負け、ですね』

『そうね……それにあの機体、どこの所属かしら。あんな腕のパイロットまで……』

 

 パイロット。そうパイロット。リュウセイにはあの動きに覚えがある。それもつい最近、あの神憑り的な機体制御と、脚部の使い方。だからこそリュウセイは、その"勘/感"とも呼ばれるものに従い、ゲシュペンストのTTリッパーを追撃に使えた。真上に飛ぶことを読めた。だが、それが誰かまでは思い出せない。

 一つだけ確信しているのは、いずれまた、あのパイロットと戦うだろうということだけだ。そして今のままでは、自分は"また"負けるということだ。そうなれば今度こそ、自分は生きて帰れないだろう。

 

「強くなんなきゃな……」

『ほう、殊勝な物言いだな、リュウセイ』

「お、オレだってそういう気持ちぐらいある!」

 

 チームのライディースに冷やかされ、戦車部隊を救助を手伝いながらも、リュウセイは更に、このチームと共に強くなることを心に誓った。

 

 


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