スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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日記形式さんが復活したので初投稿です。


破錠していた世界

 新西暦3月BB日

 

 久々に紙の日記に文字を書ける、そのことがまず嬉しい。心機一転、とまではいかないが、前よりも建設的なことを書かなければ。

 まず私(日記ではこちらに統一しておく)についてだが、あの脱出劇の後、丸2日も眠ってしまった。アードラーの拷問の影響と、直後の戦闘の疲労が一気にきたようだ。我ながら情けない限りだ。これがハガネ隊の面々だったら倒れることもなく、すぐにでも次の行動に移れた、とまではさすがにないだろうが、それでもここまで酷くはならないはずだ。そういう意味ではやはり私は凡俗なのだ。原作上、彼らとこれからも衝突する可能性がある以上、スタミナの強化と肉体鍛錬にも力を入れなければならない。体力も落ちていたから丁度いいだろう。

 そしてこの船の目的地についてだが、現在は中国のウォン重工を目指している。本来ならばアフリカのアースクレイドル、原作におけるアードラーの逃亡先に真っ先に行きたいのだが、既に中南米からのルートは連邦軍の海上打撃部隊及び潜水艦群に封鎖されていた。おそらくアードラーを含めたDC幹部がそこを通ったことが判明し、慌てて展開したのだと推測できる。加えて我々がアイドネウス島から遠ざかる際、針路は南米の方角を通っていた。他のDC部隊に合流されると推察されるのは当然の帰結といえる。

 敵部隊の探知についてはい号が担当してくれている。彼女の超音波は3匹の中で一番精度がいいらしく、伊400のT-linkシステムと合わせれば連邦やDCのレーダーよりも探査範囲が広いとのことだ。そのおかげで封鎖されていることにも接触前に気づけたし、現在進行形で連邦との接敵は避けることができている。それ故に、180度回頭の上での目的地変更なのだが。

 封鎖網を強行突破するという提案も出たが、それはできない。理由として、この船には今、超重力砲以外の武装がないからだ。監査のせいで共通兵装かつ最低限の火器とも言えるレールガンの弾以外は没収・追加入手ができなかったせいだ。なので連邦に見つかった場合、マシンセルの影響で勝手に追加された後部スラスターのスーパーチャージャーで逃げるか、何かされる前に超重力砲で先手必殺しかない。しかもそれで上手くいくのは相手が単艦だった場合だ。複数だったり、こちらが撃つ前に援軍を呼ばれたりしたらそれこそ一巻の終わりだ。ヴァルシオンタイプのジェネレーターは出力はあるが駆動音がうるさくてステルス性がなく、おまけに無理に潜水艦のスケールに納めたせいか、超重力砲を一発でも撃てばこの船を覆うGフィールドもしばらく保てなくなる。専用に調整されたこのGフィールドは、この船の参考元同様、館内の環境音・駆動音・生活音を内部に留めることができる、静音性の要だ。なのでこのフィールドがなくなれば、戦闘中にどんなに潜航して隠れても、あっという間に位置がバレてしまう。そういう諸々の理由から、戦闘はできるだけ避けるべきだ。これは船員全員で決めた基本方針だ。

 更に言えば、この船の生活用品・食料は10日分しかないし、修理が終わったゼノリオンの予備パーツ・消耗品も保って2,3回の戦闘分くらいだ。脱出時のような戦闘が起きればすぐに尽きてしまい、逃げ回りつつアースクレイドル、いやアードラーの元にたどり着くにはまず足りないといえる。

 アードラーや他のDC幹部に拾ってもらう、という案も皆で話した際に出た。これは一見有効に見えたが、残念ながらその手の連絡先を誰も持っていなかった。私はアードラーやビアン、シュウ・シラカワに近かったがアードラーからはあの段階で切り捨てられ、ビアンは死に、シュウは例のごとく雲隠れ。整備班や博士たちも他の研究チームや整備部隊といった現場に近い面々との連絡先はあれど、自分たちのようなはぐれ物を拾ってくれるような余裕のありそうな幹部との面識を持つものはいなかった。

 しかしコネはギリギリのラインで保たれている。それがユルゲン博士たちのプロジェクト解散後にDCのスポンサー企業に迎え入れられたカイル・ビーン、正確には彼が転向したウォン重工であり、その親会社のイスルギ重工だった。まずはウォン重工のカイルに接触し、ウォン重工の社長、そしてイスルギの技術部門に接触する。伊400内のヴァルシオンのパーツとその稼働データ、そしてゼノリオンにも使われるマシンセルと念動兵器のデータは、取引材料としては十分使えるだろう。たしか現在の段階では、イスルギ重工は陰ながらDC残党をサポートしているはずだから、潜伏中の幹部やアースクレイドルとのアポイントメントもうまくいけば取れるはずだ。

 回り道だが、今できる最善はこうしかない。とりあえずはインドネシア諸島付近の複雑な海底を隠れ蓑に、そこへ向かうこととなった。

 

 追記:ファインマン兄弟とユルゲン博士は殴ることができた。

 

 

 新西暦3月BC日

 

 今日、私が知る限りの情報を皆に伝えた。

 この世界が物語であること。私の中身が本来の存在と違うこと。皆が本来どのような顛末を辿るのかということ。この世界が今後、どのような未来を辿り始めるかということ。

 この話は子どもたち2人とスェーミには酷だと思い、伝えていない。あの子たちは近い将来、死、もしくは肉体欠如の目に合うと告げるのは、あまりにショッキング過ぎる。いや、何よりも私の脆弱な精神は、告げることを拒否したのだ。良心というにはあまりに浅ましい、自己保身染みたものだと思う。

 最初はみんな半信半疑な様子だったが、技術的な話と、シュウ・シラカワとラ・ギアスの現状、今後のPT・AMと関連システムの発展、そしてビアン博士の本来の目的と結末を話し、信じてもらえた。そして、それを受け入れた上で、皆の反応は一言では言い表しにくいものだった。

 ラ・ギアスの情報を求める過程でサイバスターに倒されるという結末だったファインマン兄弟は苦々しげな表情をした後「ま、そうだろうな」と同時に重い溜息を吐いた。妻と子がエアロゲイター襲撃で死に、自身もデュミナスに利用されて、本来のODEシステムに取り込まれるユルゲン博士は、沈痛な表情を浮かべながら奥さんを抱きしめていた。奥さんもまた、泣きそうな顔になりながらも、しかし旦那さんを抱きしめ返していた。同じくODEシステムに取り込まれるジジ・ルー博士はバカね、と原作の自分自身の最後を笑っていた。もしかしたら、自嘲だったのかもしれない。異星人の襲撃でトニーが半身不随となり、テロリストに身を落としてまで彼の身体を作ろうとしたドナ博士は座り込んで顔を手で覆ってしまった。それでも顔を上げ据わった目を私に向け「回避する方法は……ま、逃げる一択か、そうならないように立ち回るかよね」と、強がりながら口にしていた。整備員の皆はこれからの激動の時代を前に動揺し、自分たちの詳細を私が知らないことに不安を覚えていたようだが、「まぁ未来を知ろうがやることは変わらないな」と、整備長のいつものしかめっ面に次々呼応し、普段の調子に戻ってくれた。

 そして本来生存していないはずシェースチとあ号たちは、むしろ「何を今更」「(予知で)知ってた」と返し、逆に私の話したことが事実であることをフォローしてくれた。特に、試作型マシンセルのベースと、それが何から得られたものか。シェースチたちはメテオ3の正体を知っていたのだ。そこから研究用に採取され、培養し、今はアースクレイドルにいる2人の天才博士によって理論と試作が行われ、伊400とゼノリオンに使われるマシンセルができたのだと。ただこのマシンセル、やはり試作品らしく、将来実装されるもにに比べ不安定なところがあり、暴走の危険性もあるようだ。ただそうであるためメテオ3/セプタギンのズフィルードクリスタルの性質に近く、念動力の影響を受けやすいらしい。故に今は、1人と3体の念動力で制御がうまくいっているとのことだ。

 その事実は私は初耳だったが、開発に加わった整備班や博士たちは事前にその危険性は聞いていたらしい。私は意外とハブられていた、前世と同じく、苛めにあいやすいせいだろうか。

 とにかくその補強もあって、皆は話を信じ、受け止め、これを回避しつつ、私が定めた目標を達成することが改めて決まった。ユルゲン博士たちが正道に戻り、バルトール事件が起きない場合どうなるかということも話題に出たが、さすがにそこまで想像するには今は余裕がない。私とて、私だけがこの事実を背負うならともかく、この船の皆が生きて未来を歩むために、今の状況を何とかするのが大切だというのは理解できる。だからそれを受け止め、私が報いと代償を払うのは、皆の安全が確保され、シェースチとスェーミ、あ号たちの治療がなってからだ。

 今はまだソロモン諸島、受け止めたとは言え、まだ全部のはずがない。時間がある内に、皆にはこれからのことを考えてほしかった。

 

 それと、久々にチャットを起動してアイツと話せた。すっかり音信不通になっていたので、回りくどく棘の混じった言い方ながらもかなり心配されてしまっており、何とか生きていると伝えられた。それと、一時的な目的で、今は中国に向かっていることも。そこまで伝えると、アイツはすぐに私の狙いがウォン重工だと当ててみせた。昔から色々と話しているので、私の当面の目的も察しているだろう。お前がそっちにいたらもしかしたら会えるかもな、とだけ伝え、向こうも「そうね(笑)」と返してくれて、久々の悪友との会話を楽しむことが出来た

 一度も顔を合わせたことのないチャットのアイツ/レディ・Iだが、死ぬ前には一度はオフ会を開いてみたいものだ。

 

 いけない、余計な欲が出た。そんな余裕はないのに。自戒しよう。

 

 

 新西暦3月BE日

 

 洗濯物の外干しがしたいという女性陣からの要望で浮上し、今日明日は手頃な島影に隠れて過ごすことになった。家事担当となっている女性陣(あのジジ博士もだ)は皆一斉に洗濯物を出し、整備員たちが突貫で作ってくれた物干し竿とワイヤーを伊400の甲鈑上に設置し、溜まっていた衣類を干した。私もそれを手伝おうと考えたが、それよりも近場の町での情報収集と多少でも日用品の買い出しをして欲しいという要望があり、アルウィックとユルゲン博士の3人で出ることとなった。女性用品もあることにアルウィックが文句を言っていたが、人数の都合上仕方ないものだと引き受けてくれた。

 私としても、渡りに船と言える状況だ。通信傍受は何とか試しているが、海から知れる情報はたかが知れており、そもそも拾えたとしても暇を持て余した通信手同士のお喋りか、暗号化されて解読できないものばかりだ。だから現在の生の情勢について詳しく知りたいならどこかで陸に上るしかなかったのだ。それに、突然の密室空間の生活に慣れていない素人集団がいつまでもあの環境に耐えられるとは正直思えないので、今回はいいガス抜きになったと思う。

 もう一つの理由として、カイル・ビーンへの連絡を取ることだ。海中からでもDコンのネットワークが使えるためできるとは考えていたが、連絡を任せているユルゲン博士曰く「周囲が明るい環境で連絡した方が向こうもこちらの状況を信用しやすいだろう」ということなので、その通りにすることとなった。連絡は博士の提案通り上手く行き、一週間後に上海で落ち合うことと、今後の連絡は伊400への暗号通信で行うことが決まった。どうやら通信越しのカイルは原作のような狂信的な部分が少なく、どちらかというと現状をまだ把握しきれていないサラリーマンのような雰囲気があったが、ユルゲン博士と会話していく内に実直かつ前向きな顔つきになっていった。ユルゲン博士がまともなら、カイルも真面目な元軍人、という立場にいられたのかもしれない。そんなバカな考えが、今も浮かんでしまう。

 カイルから聞いた話しだが、どうやら伊400とゼノリオンの話はウォン重工、というよりもイスルギ重工全体で噂になっていたらしい。詳細は聞けなかったが、「あの連邦の第7艦隊を単騎で破った……?」という呟きが漏れる程度の尾びれがついている程度だ。碌なものではない気がする。

 それと立ち寄った町だが、近くに連邦軍基地はなく、DCの攻撃対象からも外れていたことから穏やかな空気が流れていた。新西暦でも未だ20世紀の雰囲気が漂うこの町は、現地の食べ物なども美味しそうなものが揃っている。そういうものに目移りしながら買い出しをしていたが、店の人から自分たちのような空気の人々が最近来たと言っていた。もしかしたらDC残党がここに立ち寄ったか、はたまた潜伏しているのかもしれない。どちらにしろ長居はできそうにないようだ。カイルとの連絡も取れたし、これ以外の情報も少し拾えたら早々に立ち去ろう。

 

 

 

 新西暦3月BF日

 

 やってしまった。悪い予感として思考から外していた、DC残党と連邦軍の戦闘があり、そこに介入してしまった。だが、後悔ばかりしていても前に進めない。まずはその要因をここに書き出そう。

 まず、子どもたちのストレスのこともあり、今日も1日潜行せずに島影に潜むことになった。その間にゼノリオンを外に出して細かいところを整備していたのだが、い号から連絡があり、昨日買い出しにいったあの町の直上で戦闘が行われていることが判明した。DC残党のリオンと連邦のリオン・ゲシュペンストの混合部隊だ。い号から連絡を受け、待機状態のゼノリオンの望遠レンズで確認した時には、町には既に被害が出ていて、逃げ遅れていた人々の顔が見えてしまった。

 気づけば私は、熱した頭でゼノリオンを起き上がらせていた。シェースチは一度だけ静止の言葉をかけてくれたが、私はまたも青臭いことをいってゴリ押してしまい、集音マイクから聴こえる博士たちの怒声に謝りながら出撃した。そして慣熟ができていない稚拙な操作技術ばかりの連邦のリオン、そしてベテランが乗ってたと思わしきゲシュペンストを無力化した。機体性能に助けられた面が多かった。動きやすい分、近接もやりやすい。おかげで弾も節約でき、町へ流れ弾を落さずに済んだ。

 問題はここからだ。DC残党のリオンの1機が、動けなくなった連邦軍機を撃とうしたのだ。今思い出すだけでもゾッとする光景だ。咄嗟に私はその弾を切り落として、彼らに引くように伝えた。銃を撃ったDCのパイロットが私を詰ったが、彼らの言い分は、連邦という組織に向けられているのがわかった。

 原作を知っている身としては、彼らの主張も理解できるし、共感もしてしまう。散々自分たちを嬲ってきた現実/連邦に立ち向かう力を持っているのに、どうしてそれを振るってはいけないのかと。自分たちならきっと、連邦軍よりもうまくやれるはずだと。ビアン総帥が覇権を握った方がよかった。特に最後の主張は、彼個人を好き始めていた私としては、頷きたいと思ってしまった。

 だけど、ダメだ。DC本来の力の使い方は、異星人や侵略者から星を守る刃としてだ。私たちはビアン博士が用意してくれた武器と組織の名前を勝手に使っているに過ぎないのだ。だからこそ、一般のDC兵/今日出会った人々の持つ連邦打倒は、ただの過程の一つに過ぎないのだ。そもそもビアン・ゾルダークは、今彼らが起こしている、そして私も加担している、一般人を巻き込んだ戦いは望んでいないはずだ。

 私はそれを伝え、説得しようとした。そして撃たれた。予想できていたため、防御することができた。何とか機体から脱出した連邦のパイロットを守るため、ひたすら元DCのパイロットたちの攻撃を防ぎきった。そして連邦が完全に引いたタイミングで逃げ出した。

 

 結局私は中途半端なままだ。

 戦うことはできても、人を殺すこともできないし、そんな思いを抱くだけで手足が震えそうになる。この前の脱出劇は心身ともに追い詰められていたからこそできた無茶だ、その時でさえ私は人殺しを極力避け、チームの皆にいらぬ苦労をかけてしまった。

 そして今も、DCを守って、DCから撃たれ、連邦の兵士を守る。そして撃たれても反撃できない。このような調子ではダメだ。必ずアードラーから2人と3頭の治療方法を得なければならないのに。その時には、殺してでも奪わなければならない。

 だからちゃんと、早く、人殺しに慣れないと。

 

 

 

 新西暦3月C日

 

 何とかあの町から逃げ延び、再び潜水艦生活に戻った。そして私は早々に皆で決めたことを破った罰として、1人で船内全てを掃除することになった。子どもたちやスェーミの手伝いも禁止だ。何だかんだ言って船の中は結構汚れが目立つ。小型とは言えAM1機の改造スペースの余裕がある格納庫が存在し、少数とは言え集団生活が行われ、そして色々と散らかす子ども(外見・実年齢問わず)がいる。加えて出港時のドタバタで整理できていないところもある。1日では終わることはないだろうから、到着までの残り6日間をフルに使い完遂するつもりだ。昨日の戦闘で病み上がりの体に急列な負荷をかけてしまった面もあるので、掃除という低負荷作業で元の調子に戻しつつ、徐々に高負荷になるよう重りや作業量を増やせばいい。つまり私にとって、渡りに船だった。

 とりあえず今日と明日を使い居住スペースと廊下を綺麗にしなければ。

 

 

 新西暦3月CA日

 

 今日書けることはただ一つ。

 カビキラーは偉大だ。

 

 

 新西暦3月CB日

 

 何だあれは。あんなものがこの世界に存在するはずがない。そもそも何であれに人が、けど何とか逃走できたが、けど、どうして存在して……いや、落ち着こう。こんなことを書いても意味がない。冷静になろう。まずは、今日起きたことを書き起こしていこう。

 ルソン島沖を抜けて、上海も間近になったが、このタイミングでカイルから連絡があり目的地が変更になった。場所は日本の九州南方、種子島。新西暦後に民間に払い下げられたロケット打ち上げ基地は現在イスルギ重工が購入・管理しており、社専用の宇宙基地になっているようだ。カイル曰く、私達のことを上に話したら、何とイスルギ重工の上層部からその指示が出たらしい。通信モニター越しのカイルも困惑した様子であり、こちらの頭脳担当軍団も、そのような辺鄙な所を指定された理由は見当もつかないようだ。しいて上げるならば連邦に我々を引き渡す際、こちらが抵抗した場合の被害を抑えるためと考えられるが、それだったらもっと早い段階で動いているはずだ。

 そこまで話し合い、我々は指示に従うことにし、針路を変更した。

 そして、アレと遭遇した。

 一言で言えば、超巨大な海上近接戦艦。その船体は矢尻のような流線型であり、全身が耐ビームコーティングが施された薄い金色の装甲に覆われている。海上を背部の巨大バーニアで駆け回り、潜水艦には夥しい対潜魚雷群、そして海上に上がった機体には、前部を覆う巨大なビームブレード衝角での質量攻撃を行ってくる。艦橋と思わしき場所は装甲に覆われ、その間にある複眼状のカメラセンサーはいっそ昆虫のセンサーに似ている。

 私は、あの形状を知っている。あの戦闘方法を知っている。だがそれは別のゲームの兵器だ。この世界にあるはずがない。

 それでも、認めざるを得ない。

 あれはアームズフォート スティグロだ。

 元の設定を知っていても、全長数キロもある物体が亜音速で突進してくる様は肝が冷えたし、伊400も回避と防御で手一杯になっていた。何とか後部ブースターを破壊して逃げたが、次も同じ手が使えるとは限らないだろう。何故存在しているかはともかく、二度と遭遇したくない相手だ。

 

 これだけ書いても、スティグロを停止させた時に見えた、燃えながら海に投げ出される人々がまだ忘れられない。慣れないといけないのに。ちくしょう。

 

 

 

 新西暦3月CR日

 

 昨日遭遇したスティグロ/アームズフォートのことをストラングウィックたちに聞いた所、かなり一般的に認知されているというのがわかった。何とトニーたちも知っているらしい。

 始まりはある軍事企業の技術開発が目的だったらしく、当時軍内で構想に上がっていた、大艦巨砲主義の再来に備えたフラッグシップの開発計画にかみ合い、試験機という体裁で生み出されたものだということだ。最初に開発された超巨大自立歩行要塞/スピリット・オブ・マザーウィルは、ハガネなどにも搭載された衝撃砲のプロトタイプと、今日のPT・AMの下半身設計の技術に連なる構造を取ることで当初の技術獲得の目的を果たし、おまけに現在もユーラシアからアフリカを中心として稼働中とのことだ。情報を収集していたジジ博士が言うには、連邦のヒリュウ・ハガネ隊が宇宙統合軍との決戦で逃した統合軍の5分の1に当たる降下部隊を、地上から撃ち落としたのも、ジュネーブ付近に陣取っていたSOMらしい。

 しかもこのアームズフォート、メテオ3出現以降、各国で需要が増えているようだ。1つはPT・AMとは違い、要塞として機能を持っているため権力者の緊急避難場所、そして軍事的には移動可能な砦として侵略者がどこから現れても対応できることだ。もう1つは中東など、政治的・宗教的に人型兵器を忌避する地域からの支持だ。しかも中東は未だ需要の高い化石燃料の権益で裕福であり、現在ではアームズフォート開発のスポンサーとなっているようだ。そのため形式上、アームズフォートの殆どはグローバル企業の所有物だが、実質はほとんどの戦場で連邦の各軍との共同戦線を張ることから、連邦の恐るべき兵器としてDCから認識されていたとのことだ。私が今まで遭遇しなかったのは、運がよかった、とストラングウィックはいった。

 私は、恐ろしい。そして追求したい。誰がアームズフォート構想をこの世界に持ち込んだのか。何故そんなものを出してしまったのか。宇宙から来る侵略者相手に、地上でしか利用できない兵器は……いや、たしかに拠点防衛の兵器として理にかなっている。私が恐ろしいのは、あの超兵器の存在による、原作の流れからの乖離だ。もしそれが原因で、SRX計画などに悪影響が出たら……そのことが恐ろしいのだ。

 もしかしたら、私のせいか。確かに私は、アームズフォートや、この世界にないロボットや兵器の話を上げたことがある。だがそれは、チャットや掲示板といったインターネットの隅程度で、しかも妄想やゲームへの要望の一環として話題に出した程度だ。そこから実際の兵器として世に出るなどありえるはずがない。ならば考えられるが考えられるのは、私以外に転生者がいることだ、それならば何故、表に出てこないかわからない。私のように死を既定されているのか、もっと大きな悪役になっているのか、はたまた別の役割を担っているのか。

 情報が足りない。ひとまずはアームズフォートについては保留にし。今は目先のことに集中しよう。明日にようやく辿り着く種子島での交渉だ。何があっても良いよう、心構えをしておかなくては。

 

 

 

 

 彼女は海から反射される陽光に伊達メガネを掛けた目を細めながら、読んでいる文庫本のページを捲った。ありきたりな恋愛小説だが、俗な部分には縁遠い生活を送っている彼女には十分な娯楽であり、教本だ。自分以外に客のいないカフェは静謐であり、マスターの淹れたコーヒーに口をつけると、コーヒー特有の苦味にほうと息を零す。脚を組み直しつつ、一度視界を窓の向こうに目をやると、この島唯一の港に停泊する大型潜水艦から、人型兵器が運び出されていた。手筈通りのようだ、とこの状況を仕組んだ張本人である彼女は視線を文庫本に戻そうとした。

 タイミングよく、カフェ出入り口のベルがあり、新しい客が入ってきたのを認識した。高鳴り出した気持ちが鼓動となって体を揺らしだす。このカフェは今"彼"以外誰も入れないようにしている。この島における大きな権力を持つ彼女には容易いことだ。だからこそ、待ち人がついに現れたという事実を彼女はわかったのだ。彼の歩幅とドアの配置から、自分の姿はまだ視界に入っていないことを推測し、窓の反射ですぐに自分の格好を確認する。いつものセックスアピールとミステリアスさを強調するチャイナドレス/仕事服ではなく、落ち着いた柄のセーターにロングスカート、薄いピンクのカーディガン。伊達メガネも合わせて、普段の自分を知る人間はそうとは気づかない装いだ。よしっ、と内心零すと、彼が壁の向こうから現れ、こちらを見つけた。

 彼/テンザンが目を見開く。当然だ。自分は本来、このような場にはまずいない存在だ。そして彼の知識では、この場にいてはならない存在だ。それも承知の上で、くすりと微笑を浮かべながら、文庫本を置き、彼の正面に立つ。最後に映像で見たよりも大分痩せているが、それでも彼女が覚えている、あの日に見た目の光が、徐々にその中に戻り始めているのがわかった。そのことが解って、頬が緩む。それも一瞬、すぐにテンザンが知っているだろう扇子を出し、口元を隠した。はしたない女と思われたくないからだ。

 

「おひさしぶり、それとも初めましていうべきでしょうか? レディ・Iですわ」

 

 テンザンの口が、あんぐりと開く。予想通り、というよりも、やってやったという気持ちでいっぱいになった。この時の為に残した布石は無駄ではなかったのだと、彼の表情が伝えてくれた。だからほくそ笑みのを止められず、新たに、そして彼を現実に戻すため、己の本当の名を口にした。

 

「それとも、貴方にはこういうべきでしょうか? イスルギ重工取締役、ミツコ・イスルギですわ」

 

 彼女/ミツコは、花のような恋する少女の笑顔をテンザン・ナカジマに向けた。

 




初期案ではミツコがダブルヒロインの一角でした(もう1人はレフィーナ艦長)

2022/2/24 Gコン→Dコンへ修正しました。

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