スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

14 / 35
もじけぇ!


人が生んだ色

【新西暦187年 1月bbs日】

 

 アードラーのごう問が続く。もう止めてくれ、わたしが何をしたというのだ。こんなひどいことをするなんてだからあいつはただのくずなあくやくマッドなのだ

 正気を しょうきを保て。だめだゲイムシステムには逆らえないそもそも原作でもむりだったじゃにかいやだこんあことでいや死ぬはずがないでもいたいたいた気持ち悪い吐くひっくり返るひひひひひいいいいいいい

 

 

【新 暦  7年 月にち】

 

 なんでこんなものをかいてたんだ

 そうだ、じぶんが自分でいるためだ

 自分のまま死ぬため しぬため ほんとにそうなのぼく?

 

 

【新  にち】

 

 いま、いつだ。もう、とう合ぐんとの戦いは  ったのか?

 もし、そうなら……ぼくの死が、近い だからこんな目にあってるかな

 私のさいしょの死のきかいが、あとすこし……もう、ちょっと、だけ……けど、かのじょたちをまだ、すくえて、いない

 

 

 

「あがあああああぷち、ぷちぷち潰す、ちが、そんなの、いや、うぐ、があぁぁぁあ」

 

 聞き慣れた悲鳴が、最低限の遮音処置が施されたプラスチックの壁の向こうから木霊する。がちゃがちゃとテンザン・ナカジマという実験対象を拘束する椅子ががちゃがちゃと激しく揺れ、よだれと脂汗を垂らし続けるその顔がこの世のものとは思えない形相で声を吐き出し続ける。ふん、と鼻息を一度鳴らして、アードラー・コッホは部下が操作するコンソールとディスプレイを見た。自身の研究テーマである"ゲイム・システム"の試作品、それをアドバンスドチルドレンにかけた場合の効果をモニターしているが、リンクレベル5での想定通りの結果しか返ってこない。これはこれでよい結果なのだが、アードラーの思惑としては、もっとレベルを上げてより高いデータを取りたい。しかしそんなことをすればテンザン・ナカジマを殺してしまう。これは尋問の体を借りた人体実験だが、尋問という建前の方が強いのだ。もし殺しなどすれば、何とか黙認という形を取っているビアンが黙っていないだろう。今でさえギリギリの瀬戸際だ、テンザンの部屋からは特別軍規に違反するもの、情報流出と見受けられるものは見当たらず、あの部隊のデータの監査/収穫が終わった以上、今日の実験が終われば解放するしかない。

 それでももう、テンザンは廃人同然といえる状態まで追い込めたのだから、多少の溜飲は下がった。部下に指示し、装置を止める。レベル5までのデータは十分揃い、テンザン本人からも、確たる証拠はないと証明できたからだ。

 

「な……んで……」

 

 不意に、実験ケースの中から蚊の鳴くような声が響いた。弱々しい声だ。まさに虫の息というしかないだろう。特殊な装置のついたメットを被る表情は項垂れて見えず、しかし未だ鼻血と涎をだらだら垂らす様から、憔悴/弱りきっている判断できる。おもむろにアードラーはケースの中に入り、テンザンを見下ろした。こうした方が、今こうして打ち負かした負け犬の遠吠えがよく聞こえ、さらに自らの手で追い打ちをかけられるからだ。

 

「どうし、て……こんあ、こと……わたしは……ぼくは……ただ、あいつらと、たたかっていた、だけ、なのに……」

「ほうほうそうか。けどなぁテンザンよ。お主は幾つかやってしまっておるぞ?」

 

 ぎこちなく、テンザンの顔がこちらを向く。怯えきった目だ、心地よい。自身の口元が喜悦に歪むのがわかる。

 

「お主は儂を見下しておったなぁ、せっかくDCに入れてやった、大恩人である儂をだ。そんな儂に対し、事ある事に責任を押し付け、バカにした発言をし、おまけに人や資材をちょろまかそうとした。これが迷惑以外何者でもない……いや、下に見ていたも同然じゃ。儂とお主の立場として、これだけでもまず許されないじゃろう?」

 

 テンザンにつけられたメットを外し、その髪を掴む。一週間以上、ゲイム・システムの洗礼を浴びた身体はストレスで艶を失くし、所々禿げ、更には白髪化が急速に進んでいた。

 

「更にお主は、総帥から予備とはいえ、直接ヴァルシオンを賜った。これは他のDC幹部に対する裏切りじゃ。今まで誰も、DCの象徴ともいえるヴァルシオンを受け取ったことはないのじゃ。そんなことをしてしまったお主に対し、他の幹部はどう思ったか……簡単に想像できないかの? 故にこれは、正当なペナルティであり、見せしめじゃ」

 

 拘束具を外し、脱力したままのテンザンを、髪を引っ張って強引に床へと倒す。悲鳴すら上げないテンザンの耳元に近づき、混濁した目を見ながら囁く。

 

「で、一番の理由はなんじゃと思う? 簡単じゃよ……儂はお主が嫌いじゃ。気に食わん。お主があの部隊に移ってようやくわかったのだ。儂の出世を邪魔するのも、余計なことを起こして責任を押し付けられるのも、そんなものはただのスパイスに過ぎん。ただただお主のことが、生理的に大嫌いなだけじゃ。貴様をこうして甚振ってるとな、とても楽しいんじゃぞ?」

 

 かっか、と笑いながら、テンザンの顔から離れ、倒れたままの後頭部を踏みつけた。抵抗もないそれをぐりぐりと床へと押し付け、千切れていく髪の感覚を味わいつつ、とっておきの情報をくれてやるため、ほくそ笑む顔を楽しみながら動かし、口を開いた。

 

「最後に教えてやろう。お主のとこにいるあのノミもどきやイルカどもな……もって半年程度じゃ。あの時拾った研究員から聞き出したのじゃが、ノミもどきは人の時の身体と生体データはとっくに捨てておるし、イルカの身体も大分弄っているみたいじゃ。まさに救いようがないわけじゃ」

 

 テンザンの身体が、ぴくりと動いた。予想通りの反応だ。ふんっ、と鼻息を出して、思っきり踏みつける。ぎゃっ、と虫のように弛緩するテンザンが悲鳴を上げ、血が広がった。

 

「おっと、どこまで話したかの……ああそうじゃ、キチガイになった妹の方はな……こっちもたしか、よくて3年じゃったかな? 儂があの研究者もどき共から拾った治療法があれば話は別かもしれんが……教えて欲しいかのぉ?」

 

 反応を待つ。自分が感じ取っているテンザン・ナカジマの本質ならば、必ずあの言葉を言うはずだ。その確信が、声という形となって、アードラーの耳に届いた。

 

「……ぇて、くださ、い……」

「あぁ、なんじゃって?」

「教えて、くださ、い……なんでも、しますから……かのじょたちを、せめて、あの子だけでも……助けてください……」

「そーかそーか、なんでもするか! くはははは」

 

 アードラーは、得意気に笑った。こうも想定通りだと、先程の実験結果より愉快なものだ。その愉快さを完成させるため、テンザンから脚をどけると、頭を持ち上げ、懇願の色を湛えた目で、自らの上位者を見上げる顔で自身を見つめるテンザンに、笑顔で告げた。

 

「だめじゃ、死ね。その方が貴様は苦しんでくれるからのぉ」

 

 テンザンの顔が失意と絶望に染まる。これが見たかった。人間をこのような表情に変えてやるのは、何と楽しいことだろうか。苦労も報われるというものだ。自分が世界を支配したら、研究という実益を兼ねながら、もっとやってみたいものだ。

 ひとしきり嗤った後、手を離す。どしゃりとテンザンが崩れ落ち、かすかな嗚咽が漏れ出した。

 

「ああそうじゃ。お主の尋問は今日いっぱいで終わりじゃ。明日からはもうあの穴蔵に戻ってもよいぞ? もっとも、もうあそこに利用価値はないじゃろうがなぁ!」

 

 最後にそれだけ告げて、アードラーは研究室から出た。自分にはあのような負け犬と違って、まだまだやることがいっぱいあるのだ。終わったことは一旦忘れて、次の仕事に取り掛かるべく、アードラーは意気揚々と廊下を歩いていった。

 

 

 

 ビアン・ゾルダークは敬礼する部下を片手を上げて制し、牢屋へと続くドアを開いた。今までほとんど使われたことのないこの部屋は、しかし今は異様な腐臭と鉄臭さが漂い、思わず顔をしかめてしまう程だった。しかしそれを耐えて歩き出し、迷いなく目的の牢の前にたどり着く。臭いの元はここであり、床には腐った吐瀉物や赤黒く変色して固まった血が散乱していた。その中心に、テンザン・ナカジマは仰向けに倒れ、血の付いた指で床をこすっていた。

 痩せこけている、以前深夜に別宅に訪れた時の膨よかな顔立ちが見る影もない。先程の監視室に詰めていた兵たちに聞いたが、食事も最低限しか与えられていなかったらしい。自身の膝下で行われていた非道に怒りが湧きそうになるが、しかしこの光景こそが自分の成そうとする正義の結果、その一端であるという認識を秘密結社の総帥であるビアンは自覚し、お門違いの義憤を抑え、冷静さを取り戻した。

 

「……起きているか、テンザン」

 

 膝を折り、声をかける。半開きの口と目がこちらを向き、感情のない瞳がビアンを映し出した。後悔がそれだけで湧きそうになるが、それもまた、抑えつける。

 

「何故ここに、と聞かれだろうから先に答えておこう。今回の件、調査を許可したのは私だ、アードラーの行ったことまでは全て把握しきれなかった……だが、咎は私にある、責めるなら責めてくれ。それを伝えるため、ここに来た」

「……ハガ、ネ、は……?」

 

 掠れて、何とか耳を澄ませて聞こえる程度のか細い声。普段の態度と声質からは想像もつかない弱々しさに、奥歯を噛み締め耐え、淡々と質問に答える。

 

「お前が収監されてすぐ、宇宙に上がった。今頃はマイヤー……宇宙統合軍と戦っているだろう」

「わた、したちの……ぶ隊、は……?」

「研究データなどはアードラーが持っていったが、機体や潜水艦、設備もそのままだ。だが実験部隊であり、その成果が芳しくない今の状況では、解体の意見もすぐに出始めるだろう」

 

 残酷なことを言っていると、ビアンは自覚していた。ビアンはテンザン・ナカジマを自前の"剣"として育てるため、名目上、特殊な兵器群を開発するための部隊を設立した。元々整備員に一部として配置されていたファインマン兄弟の独自思想を持ったテスラ・ドライブ兵装に加え、プロジェクト解散が決まった直後のODEシステムメンバーの一部を合流させ、建前の形を強固にした。更にテンザンたちは独自にDC内に隠されていた特殊な研究を掘り出し、それを運用することにも成功した。ここまで見れば十分な結果といえるが、しかし期待される戦果は上げられなかった。

 たしかに目立った戦果としては、ウェーク島の制圧や関門海峡攻略があるが、部隊の成果として求められていた肝心の戦術レベルでのPT戦では殆ど敗退している。加えて、ウェーク島防衛戦では、仕方のない形とはいえ、防衛失敗の責任を負う立場となってしまっていた。それなのに今まで目立ったペナルティがないのは、裏からビアンが取り直していたからだ。しかし今回、ビアンすら知らなかったグランゾンの機能について仄めかすようなことをし、更には部隊成立前に行った北米基地攻撃では、DCの情報部が正式名を知ることができなかった新型PT/ヴァイスリッターの存在を言及していたことが判明したのだ。こうなればもう、追求するしかない。

 調査結果として、テンザンは限りなくシロであると判断した。アードラーが主導で行った調査では、苛烈なまでの尋問、いやその体を借りた実験で情報を吐き出そうとしたが、「この世界はゲームだ」「すぐに怪物が現れる」などという正気とは思えない発言ばかりで、実のある言葉は一切口にしなかった。部隊の拠点となる地下ドッグでも情報を吸い出したが、それらしいものはなし。"日誌や日記も見つかることはなかった"。

 テンザンの疑いは、ひとまず保留となった。しかしもう、部隊を指揮するだけの建前や地位、そして今の様子から、気力と体力もないだろう。さらに実験データはインパクトランスなどの既に公開されているものを除き、アードラーが引き継ぐ、という名目で盗んでいる。故に、兵器実験部隊としてのあの場所が存在する意味は、完全に失せたのだ。今はまだ残っているが、あと数日もすれば、根回しをしたアードラーから解体の具申が上がるだろう。

 

「……すまない。このようなつもりではなかったが、結果として、不用意に君たちを傷つけるだけになってしまった」

 

 謝るつもりはなかった。だが、気づけばビアンは、頭を下げていた。そうするだけの結果を、テンザンに被せてしまったのだ。組織の長としては早計かもしれないが、一人の男として、謝罪すべきだと心が動いていたのだ。光の失せたテンザンの目がじっとビアンの顔を映し出していたが、不意に、先程よりも強い声音で、言葉を紡ぎ出した。

 

「……テスラ、研のコネ、ある、か……?」

「? ああ、まだあるが」

「なら、あいつらを、そこに連れて……シェースチたちを、たすけてやって、くれ……あんたが死ぬ、その前に……」

「……その言い方……私が、もうすぐ死ぬ、と?」

 

 顔を上げると、テンザンは白くなった唇を歪め、薄く笑っていた。自嘲の色を含んだそれに、不意に、怖気が走った。

 

「……なぁ、ビアン……わたしは、みらいを知ってるんだ……その未来で、あんたは、もうすぐ、ハガネの部隊に……この星のけんに、倒されるんだ……本望、だろ?」

「そう、か……」

 

 その目に、言葉に、偽りはなかった。だからこそビアンの灰色の脳は、テンザンの真実に近い場所に近づいた。

 テンザンの言動は、全て未来の知識が由来なのだ。だからこそ、グランゾンの変異を知り、ヴァイスリッターの情報を持ち、彼のいる"星の剣"たるハガネやヒリュウに突っかかるのだ。何故その知識を持ったかは不明だが、今までの言動と本性との乖離は、ある事実から逃避するためのもののはずだと、容易に推測できた。

 

「テンザン……その未来に、君はいるのか?」

 

 半ば確信を持って聞くと、テンザンは、声にならない声で、笑った。目端からだらりと涙の粒が落ち、汚物と混じって消えた。

 

「死ぬ……ころされるのさ……わたしは、ふみだいなんだ……あいつの、成長をうながすため、ただの名前付ききゃらくたー……なんでもかんでもゲームと結びつけて、人の命を屁ともおもわない、くそったれなクズ野郎……それが、わたしの役割で……本当のぼくはもっと醜い……ひきょうで、弱虫で、怖いものからすぐ逃げて……ちょっとしたことで人に大きな迷惑をかけて、苦しめて、いないほうがいい人間で……一度死んでも……意地汚く、こうして、生きてしまって……ああ、なんて、クズだ、ぼくよりひどい人間なんて、いない……」

 

 その言葉は、ビアンへの回答というより、自分自身に向けているものだった。事実、テンザンの目にはビアンの姿は映っておらず、左右とも明後日の方向を向いている。詳しくはわからないし、伝えたいことも理解しきれていない。しかしテンザンは、どうしようもなく卑屈な自分に酔っているのだというのは、理解できた。このような目にあっていても、テンザンの本心はむしろ望んでいた"罰"なのだ。同情の余地はあるが、嫌悪もある。しかし、今この場でそれを指摘し、責めることに益はない。ただテンザンがより自分の中に潜り、他者や現実を拒絶しようとするだけだ。

 そんなことをすれば、この"幼い子ども"の根にあるものも、自分から手放してしまう。

 それを見逃すのは、1人の男として、決して許されることではないだろう。だからビアンは、この部屋に来るまで言おうかと迷っていたことを、胸の中から取り出すように声に乗せた。

 

「……テンザン、君たちは先日、アポイントもなく私の別宅を訪れたな」

 

 乾いた笑い声が、ゆっくりと収まりだす。律儀だな、と微笑を浮かべたくなった。

 

「何故来たかと聞けば、"天体観測のついで"だったか。立場もわかっていないことをすると怒ってもよかったが、君は子どもを2人と、私が前から目をかけていた少年を連れていたからな……怒りだせなかったよ」

 

 脳裏で思い出すのは、あの日の光景。夜間に前触れもなく響いたノックに驚き、愛犬と共に玄関を開けた先にいた、少し形が異なる、6人の少年少女の姿。組織の長として叱責を与えなければとも考えたのに、楽しげに笑いながら話しかけてくる彼らを見ていて、何故かそんな感情はなかった。

 

「天体観測に丁度いい場所を言えと脈絡もなく言ってきたからな、ついそのまま答えてしまったよ。君はその礼に面白いアニメのデータをくれたが……君たちはそれ以上に善いモノを、私に見せてくれた」

 

 ビアンが指差した方へ向かって、一番幼い子ども2人と、心を一度壊された少女が風のように走りだした。それを戦争に巻き込まれたまま戦う道を取る少年と、補助歩行装置に乗った、人の形を失った少女が、ビアンに一礼をして追いかける。最後にテンザンが大きく一礼すると、すぐに偽悪的であからさまな悪い顔になると、ゴマすりの手つきでデータカードを手渡してきた。それで用は終わったと、すぐに踵を返し、先に行った子どもたちを追いかけていってしまった。満点の星空を指差し、無邪気に笑い合う子どもたち。その姿に、ふとビアンは、何故自分はこの地球が美しいのかという、自身の決意の理由を、無意識に自問していた。

 なぜ、世界は美しいのだろう。海と空がひたすら広く蒼いからだろうか。大地の匂いと感触が心地よいからだろうか。人の営みが尊いからだろうか。そんな、詩人が好みそうなものではない。

 子どもの時分に見上げた世界が、途方もなく嬉しく思えたから。

 まだ幼かった娘を胸に抱き、亡き妻と共に見上げた星空が、どうしようもなく愛しく思えたから。

 そんな、当たり前の思いがビアンの今と心を作ったのだ。

 

「私は、礼がしたかった。私の原点を思い出させてくれた君に、感謝をしているのだ。だからこそ、言わせてくれ」

 

 いつの間にか、テンザンの目がビアンを見上げていた。その目を怖気づくことなく、まっすぐに見つめ直す。

 

「テンザン……そんなに悩むな、君を嫌う人間は山ほどいるだろうが、それと同じぐらい君を助けてくれる人間もたくさんいる……だから君は、もう、君の思うままに生きてもいいのだ」

「……それじゃ、ダメ、だ……わたしが、すきに生きたら……」

「それでもだ。人はどういう生き物だ? 集まり、知恵を合わせて、困難に立ち向かう……時には1人で歩くことがあるかもしれないが、それでも、人は誰かと共に前に進める生き物だ。君の抱えているものも、君の仲間とならば、きっと超えられるだろう」

 

 我ながら、何と青臭く無責任なことを言っているのだろうと、自嘲したい気持ちがあった。懸命に首を横に振り、自身の言葉を否定しようとするテンザンに、それでも今言わなければならないと、ビアンはテンザンの言葉から感じだした予感に押され、真意を押し殺そうとする"子ども"へとアドバイスを送る。

 

「君は、誰かを守ってもいいのだ。人を殺さなくてもよいのだ。精一杯、胸を張って生きてみたまえ……未熟なヒーローよ」

 

 言いたいことはまだあったはずだ。それでも今浮かんだものは、全て吐き出すことができた。押し付けがましいものを言うだけ言って、ビアンは立ち上がり、踵を返した。

 

「さらばだ、テンザン・ナカジマ」

 

 呆けたような顔をしたテンザンは、ビアンに何も言ってこなかった。混乱しているだけだと表情から察したからこそ、ビアンは短い別れの言葉だけで済ませたのだ。既に明日、テンザンがこの場所から治療の上あの部隊に戻せるようにし、滞っていた補給も運ばせるよう手配は済んでいる。故に、渡せるものは、先程のエールで最後だ。

 入れ込み過ぎだな、と歩きながらビアンは思う。同時にそれが、悪くなかったとも。

 

 

 宇宙統合軍の旗艦マハトがハガネ・ヒリュウ隊に墜とされたという報が届いたのは、その翌朝だった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。