舞台。博麗霊夢の時代より、百年ほど後。


 人物。博麗星夢と名乗る、十八代目博麗の巫女。


 精神。博麗星夢の中身は霧雨魔理沙。



 これは、『博麗』になった魔理沙の、軽口と、弾幕と、魔術と、葛藤の短編である。



 


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 どうも。短編も書いてみました。
 

 注意・・・・ちょっと長い(三万文字くらい?)です。
私がやりたいことをやりたいように書いたので、文章崩壊、設定崩壊、文字稼ぎが見られますが、中二病を見るような生暖かい目で、見ていただけると幸いです。
ちょっとしたキャラ崩壊もございます。あと、原作キャラの死亡?も。

 それぐらい大丈夫だぜ!という人だけがこの先へ進んでください。

 それではどうぞ。







星の魔法、幻想の夢

 

 

 

 かつて見た。

 

 

 夜空に無数に輝く、あの流星たちを。

 

 はるか遠くの虚空に瞬く、あの星を。

 

 果て無き宇宙の中に、悠然と在り続ける星を。

 

 

 

 かつて目指した。

 

 

 瞬くように、流れるように、輝いて、在り続けて、星のように。

 

 

 一瞬だとしても光っていたいと。

 

 

 

 

 かつて在った。

 

 

 一つ一つ、星屑のごとく。

 

 確かにそこに、見えない輝きを放っており確かにそれも星だった。

 

 でも・・・・・。

 

 何時失ってしまったのだろう。その描いた星の全てを。

 

 

 いつの日にか、その星をまた心に描きなおせるのだろうか。

 

 

 そんな思いを胸に、夜空を駆ける。

 

 

 

 

 

 幻想の星、星をなる者(Star becomer)たる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔々・・・・と言っても百年位前の話か。

 

 ある二人の少女がいたそうな。

 

 二人は、仲良し・・・・というよりも腐れ縁みたいな関係でな。

 

 片方を『星』。片方を『太陽』と呼ぼう。

 

 『星』は聞いた。

『なあ・・・・・博麗の巫女って楽しいのか?』

 

 太陽は答えた。

『まあまあね。

でも、『普通の魔法使い』様よりかつまらないと思うわ』

 

 『星』は、苦笑いを浮かべ軽口に答える。

『そりゃあそうだ、私より人生を楽しんでいる奴なんぞ妖精ぐらいだろう』

 

 『太陽』は応じた。

『自慢にならないわよ、そんなの。

裏返すと妖精と同じぐらい能天気ってことよ?

・・・・まあ、アンタは妖精といい勝負できると思うけどね』

 

『おっとぉ、言ってくれるねえ・・・。

そんなに喧嘩を売りたいならこいつで売って見ろよな?』

 

 そうやって『星』が出したのは、一枚の符。

 

 そして『太陽』もその符を出したかと思うと・・・・。

 

 

 

 昼の太陽、夜の星。

 

 その二人はどうやら、共に戦うらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は――――――博麗である。

博麗・・・・幻想郷を管理する賢者の一角。人として博麗大結界を守り、代々巫女としてこの幻想郷のルールとなる。

 

 

 もっと詳しくいうと十八代目博麗の巫女、『博麗(はくれい) 星夢(せいむ)』である。

紅白の巫女服に、黒と黄色のリボンがミスマッチである。瞳は金で髪は黒のロング。

博麗の陰陽玉と、お祓い棒を持っており、誰がどう見ても『結界の管理者』である。

 

 さらに分かりやすく言うと、前世の名は『霧雨 魔理沙』である。

霧雨魔理沙の説明は・・・・・いらないな?

 

 

 何を言っているのか、となるであろう。

そんな君たちのためにこの私が懇切丁寧に説明してやろう。

 

 

 かなり前・・・・・霊夢が十四代目だったような気がするから、百十年ほど前の話だ。

 

 まず霊夢は、巫女として生き人間として死んでいった。

霊夢の徳の高さなら神霊として生きることもできただろうが、彼女はそれをしなかった。

霊夢は死や生に執着するような人でもないしな。

しかしもったいないことをしたとは思う。

 

 

 私が言えたことでもないが。

 

 

 結果からいうと私は種族『魔法使い』にはならず、人間のまま天寿を全うした。

理由としては、結局七十年生きて『永遠』に興味がわかなかったのと、

 

 

 後は『これ』だ。

 

 

 

 まあ、なんやかんやでこの幻想郷から二人の少女達がいなくなったよ、ということ。

特にこの世界に変わりがあったわけでもないが。

 

 悲しんでくれた人もいるだろう。別に必要ないけど。

 

 

 そもそもこんな転生術式を準備するのが大変だったと。

この魔術を見れば結構みんな驚くはずだ。公開するつもりはないが。

 

 

 私が博麗の巫女に転生した理由。

それは『彼女』の気持ちに近づけるか、と思ったからである。

 

 彼女は端的に天才であった。

博麗の巫女になれば彼女の見た景色にたどり着けるか、と思ったのだ。

 

 そんなに変わったような気はしないが。

 

 

 そんなこんなで巫女として生きているのだ、私は。

 

 

 

 

 博麗 星夢。

 

 私はこの名を結構気に入っていたりする。

 

 

 

 博麗はともかく、星の夢だ。私の過去使っていた弾幕も星型が多かったので、

この名前はビックリするほど好きである。

 

 

 別に今も星の弾幕は張る。

その弾幕を見て紫が「どこかで見たことのある弾幕ね」と笑っていたのだが、

やはり紫は気づいているか。

 

 

 

 

 

 

 八雲 紫。

 

 幻想郷において妖の側面を持つ胡散臭い賢者。

『境界を操る程度の能力』を所持し博麗の巫女のお目付け役でもある・・・・・なので。

 

 

「ハァーイ、星夢ちゃ~ん!元気にしていたかしら?」

 

 私が境内の掃除をしていると、どこから湧いてきたのかそこにいるのは隙間賢者。

 

 

「・・・・・・元気ですよ?気分はともかく」

 

 

 暗にさっさと帰れと伝えてみるが、特に気にしていないようだ。

だからその、張り付いた胡散臭い笑みをこちらに向けるな!

 

 一応あんたとは弾幕を交し合ったこともあるんだ!

ていうか、霊夢ともこんな付き合いだったのだろうか?

私だけなら、神様は不公平すぎると思う。

 

「で、紫さん何の御用です?用も何もないならさっさと帰宅していただきたいのですが」

 

 こいつのせいで境内の掃除が終わるような気がしない。

要するに邪魔だ。

 

「冷たいわねぇ~。昔は私の後ろをついて回ってたのに・・・・」

 

 嘘八百をまるで息をするように並べる紫。

自分の目でもいじったのかその金色の瞳からは、涙だと思しきナニカが

こぼれ落ちる。

 

 そういえば私の目は金色である。

ここは変化することのなかった点の一つである。

 

「ねつ造しないでください。本当に用事がないなら帰ってください」

 

 俗にいう『ジト目』を彼女に向ける。

ついでに攻撃する準備もあるといわんばかりに、

懐から退魔の札を大量に出す。

 

「あらあら、ごめんなさいね」

 

 ごめんなどと思っていないだろうが、一応謝ってくれる。

ニヤニヤ顔がとれていないのはご愛敬だ。

 

 まさか、用もないのに来てくれたのだろうか?

それならしっかり持て成しをしてあげないといけないのだが。

そう思って退魔の札を投げる準備をする。

 

 すると紫は慌てて、

 

「冗談よ、冗談。

貴方の札は霊夢に匹敵するぐらい痛いのだから、その札をしまってちょうだい。いや、本当に」

 

 と言ってきた。

 

 どうやら、博麗の巫女としての力もそこそこ身についてきたらしい。

妖怪の賢者様を慌てさせることの出来る程度には。

 

 

 

 

 

 改めて紫に用件を聞いてみる。

 

 すると、「紅魔館の吸血鬼が『星才の巫女』に会いたい」という要件だといった。

 

 紅魔館の吸血鬼、となるとレミリア・スカーレットもしくはフランドール・スカーレットだろう。

おおかた、私がどれだけ力を持っているかということを探るつもりに違いない。

 

 先ほど『星才の巫女』といったが、これは私の二つ名である。

名前とは違いこの二つ名を私は気に入ってはいないが。

 

 

 博麗の巫女には必要ない『魔力』を使い、霊力の扱いも一流。

妖怪退治は手慣れた様子。礼儀も正しく、知恵にも長けている。

 

 人里からは『本物の守護者』だの『魔法使いの再来』だの――――

その魔法使いは私だろうか――――言われている。

 

 事実、それだけの実績を私は残している。

ただし私に才能などない。ただ過去積み重ねたものを今使っているだけだ。

 

 そうでなければ『博麗の巫女』が魔力など扱えるはずがない。

 

 

 話が逸れたが、私は紅魔館に行かなくてはいけない。

さもないと、吸血鬼が神社のほうに来るかもしれない。

 

 

 そういえば、前世で付き合いがあり今世でも付き合いがあるやつと言ったら

紫と人里でたまに会う慧音ぐらいか。

 

 そういえば人間サイド――咲夜、妖夢、早苗、阿求、小鈴、董子――の様子を紫に尋ねたことがある。

 

 少々不思議がりながらも答えてくれた。

 

 咲夜は自分の時間を止め、半不老不死となったらしい。未だに紅魔館に勤めているそうだ。

 

 妖夢は、ほとんど変わらない。半人半霊であるからだろう。

ただ、半人前ではなく四分の一人前ぐらいにはなれたそうだ。

 

 早苗は、何故か神格を得てしまったらしく

ずっと諏訪子と神奈子に仕える風祝として守矢神社にいるらしい。あいつらしいと思う。

 

 阿求、小鈴は普通に亡くなってしまったそうだ。

董子も、外の世界で人間として死んでいったらしい。

 

 他の奴ら(人間以外)は、ほとんど変わらない様子だそうだ。

 

 

 さて、こんなことを考えている暇があったら紅魔館に行ってみようか。

 

 居眠り門番や紫もやし、瀟洒な女中さんの様子も気になるしな。

 

 

 

 

 

 空を飛んで霧の湖のほうへ向かってみる。

昔は箒を使って飛んでいたが、最近は霊夢のように飛ぶようになった。

 

 ちなみに私の能力は『宙を飛ぶ程度の能力』らしい。

空の漢字が霊夢とは違うのに意味はあるのだろうか?

 

 まあ、いい。

 

 

 

 神社へと昇る道には鬱蒼とした森――魔法の森ほどではないが――がある。

そこでは、たまに宵闇妖怪なども出るという噂だ。

 

 あいつも元気にしているのだろうか。

 

 そこからしばらく飛ぶといくつかの民家、ちらりほらりと人が見える。

 

 人里である。

 

 今回は用がないから、そのまま通り過ぎる。

 

 

 さらにそのまままっすぐ行くと、深い霧が見える。霧の湖だ。

 

 ここを西に行くと、魔法の森だ。

自分の家がどうなっているかが気になるが、今は先に紅魔館だ。

 

 そう考え、霧の中を突っ切ろうとする。

 

 幾分か進んだ時に、とある懐かしい顔を見つけた。

 

 六対の水色の羽に、この寒い中、半袖の小さな妖精。

 

 チルノである。

 

 

 その隣には昔のように緑髪の妖精、大妖精が控えている。

 

 まさに自然そのもの、変わらない二人の姿に苦笑を覚えてそのまま立ち去ろうかと考える。

 

 しかし、数瞬の考えの後にチルノ自身に見つかってしまった。

 

「ん?人間の気配?」

 

 気づかれた。逃げるか?いや、そんな急ぐこともあるまい。

ちょっとばかり遊んで行ったっていいだろう。

 

「妖精ですか?言語を使うだけの脳みそのある」

 

「馬鹿にしてるわね!脳みそがあれば喋れるのは当然に決まってるでしょ!」

 

 何を言っているんだろう。

ともかく、中も外も変わり無さそうで全く安心した。

 

 となるとだ。

 

「ここまでくるような人間はかなり久しぶりなの。

あたいと遊んでくれないか?」

 

 それ来た。

昔と脳みそも行動も変わっていない。

私と出会うとこいつはすぐに吹っかけてきた。

 

 

 今昔ともに用いられる、少女たちの優雅な決闘方法。

 

 

 この世で最も無駄で美しい遊び。

 

 

 『スペルカード戦』だ!

 

 

 

「互いに二枚ずつでよろしいですね?」

 

 私がこういうとチルノは二枚の符を取り出した。

それと同時に大妖精は少し遠くへと離れる。

 

「うん!・・・・・なんか、アンタ誰かに似ているような気がするわ」

 

 ギクッ!子供のほうが勘は鋭いというがまさかこの数秒でバレているわけはないだろう。

となると、

 

「霊夢に似ているんじゃないですか?

私も博麗の巫女ですので」

 

「あ、よく見ると霊夢の服とそっくりだ。

そうなると霊夢と同じぐらい強いの?」

 

「さあ。どっこいどっこいぐらいでしょうか」

 

 嘘だ。絶対に私のほうが弱いに決まっている。

 

「なら、アンタに勝てばあたいは霊夢以上ね!」

 

 ソレはないぞ、チルノよ。

まあ、口をはさむのも気が引けるので何も言わないでおく。

 

「いっくぞー!えい!」

 

 チルノの声とともにいくつかの氷が放たれ、私のほうへと飛んでくる。

それは私が最後に見たこいつの弾幕と全く変わりのないものだった。

 

 妖精は自然そのものだから変わることはない、ということか。

 

「その程度じゃこんな風に避けられてしまいますよ」

 

 そんな軽口をたたきながら氷の間をすいすいと通り抜けていく。

チルノからすれば、初めての相手だろうが私からするとすでに十何回も戦いあっている。

この弾幕も私は知っているのだ。

 

 チルノは、なぜ私が避けられるのかがわからないと思っているようでちょっとムッとした様子で話しかけてくる。

 

「なによ!まるでどういう弾が来るのか分かってるみたいな動きじゃない!」

 

 ギクッ!勘が良すぎるぞ!

どこかの巫女さんを思い出すぐらいに!

 

 そんなことを声には出さず冷静に答えなくては。

 

「まさか、貴方とは今日初めて会ったのですよ?

分かっているわけがないじゃないですか。

第一、貴方の弾が単純なんでしょう」

 

 最後のは事実だ。

氷の弾はワンパターンに私めがけて飛んでくるだけで、よけようと思えば誰でも避けれる。

 

 それでもチルノの心は治まらなかったようだ。

慰めたつもりなど微塵もないが。

 

「ぬ~!!ならば次はこれだ!」

 

 氷の弾がまた私に向けて飛んでくる・・・・が今度はレーザーも一緒に打ってきた。

しかしここら辺ならやはり見覚えがあり、避けるのにも苦労しない。

 

「へへへ・・・・・」

 

 私が避けている間に、謎の笑みを浮かべているチルノ。

その笑みはどこか不敵に、余裕を持っているので私を緊張・・・・そして期待させてくれる。

 

「どうしました?ずいぶんと余裕ですね。

とっておきの負け台詞でも思いつきました?」

 

 取り合えず煽っておく。

それでもチルノの表情は全く揺るがない。

 

 これは前言撤回したほうがよさそうだ。

 

 どうやら『妖精もしっかり成長する』らしい。

 

「第二段階だよっ!見て驚け、喰らって驚け!!」

 

 そうチルノが叫んだ瞬間、レーザーが3本から5本に増えた。

そしてレーザーが私の背後に出た瞬間、レーザーは崩れて弾へと変わる。

 

「ほう・・・・?」

 

 私の表情が変わったのはチルノからでも見えただろう。

それほどまでに私にとっては衝撃だった。

 

 かなり移動が制限されるようになった。

それだけで弾幕の避けやすさは大きく変わる。

 

 後ろから、前から押し寄せる弾――心なしか厚みが増したような気がする――を横へと躱そうとしても、

レーザーに遮られる。

 

 次々と狭い空間に、弾が飛び込み私が動ける空間は全くない。

 

 それを見たチルノは、不敵な口元をさらに歪めて笑った。

自らの『勝ち』を視て。

 

 但し私も遊びで『博麗の巫女』をやっているわけでもない。

ましてや元『異変解決屋 霧雨魔法店店主』で現『博麗の星巫女』だ。

 

 たかが氷精如きに負けるわけにはいかない。

まあ、私の負けず嫌いは今世に始まったことではないが。

 

 スペルカードルールに不可能などない。

これは私の信念である。今も昔も。

 

 つまりすべての弾幕は『穴がある』のだ。

一見、不可能にしか見えぬものにも。

どんなに追い詰められた状況でも。

 

 『博麗の巫女』は、その穴を突く天才である。

 

 

 

 そして、普通の魔法使いは。

 

 

 

 『穴を壊す天才』である。

 

 

 

 「霊恋『夢想閃光』!」

 

 

 その二つが混ざり合ったスペルカード、夢想閃光。

 

 七色の霊光に、一つの太い光線が合わさる正に『弾幕を壊すための弾幕』。

 

 それがチルノの築いた弾幕の城を消し去る。

 

 それだけでは収まらずチルノに向けてまで閃光が飛んでいく。

 

「ありゃ?」

 

 どうやらチルノはそこそこ油断していたようで飛んでくる光弾を避けることが出来なかったらしい。

これで一回休みになってくれてたら良いが、チルノはそんなにやわな奴じゃあない。

 

「いてててて・・・・・・」

 

 湖に落下はしたが、すぐに復帰してきたようだ。

 

 未だ、闘志みなぎるといった感じだ。

 

「そのまま湖で泳いでいてもよかったのですけども」

 

「まさか!これをほっといて水泳なんてできないやい!

今度はあたいの番ね!氷符『アイシクルフォール』!」

 

 上から注がれる氷弾を避けていく。

徐々に弾幕の物量が増えていくのも『学習』したのだろうか。

 

 しかし、それですらも『博麗』なら道が見えている様に避けれる。

ああ、あいつはこんな空間にいたのだろうか。

道理であんな表情を浮かべるわけだ。

 

 それからも私とチルノは弾幕の打ち合いをつづけた。

幾分がたっただろうか。どちらから言い出しただろうか。

 

 『決着をつけよう』と。

 

「いまさらだけどアンタ、霊夢に似てないわね。

本当に似てるのは服だけだわ」

 

「そりゃ別人なんだから似てないに決まってるぜ・・・・いや、決まってるじゃないですか」

 

 しまった、ついつい昔の口調が出てしまった。

この口調にしたのはできるだけ霧雨魔理沙だとばれないようにするためだ。

昔の口調にしてしまったら意味が全くない。

 

 現にチルノがどこかで聞いたことのある口調だと思ってしまったようだ。

首をひねっている。

 

「そ、そんなことより早く決着をつけません?

私はもうお腹一杯ですよ?」

 

「それもそうね!

互いにこのスペルで決着をつける!いいわね!」

 

 チルノが符を突き出して言う。

それに対し、私も符を突き出して答える。

 

「勿論です!」

 

 

 

「夢想ッ!天星ッ!」

「フローズンホワイトプラネット!」

 

 そして互いのスペルを合わせあう。

 

 私のありとあらゆるものを吹っ飛ばす星弾に、

チルノの白い氷の惑星がぶつかり合う。

 

 全力の星同士のぶつかり合い。

それは一瞬だけ、消して晴れない霧の湖の、霧を吹き飛ばしたらしい。

 

 そして。

 

 

 最後に立っていたのは私だった。

当たり前だ。博麗の最終奥義ともいえるモノを使ったから。

 

 これでもまだ立って居られていたら、かなり落ち込む。

 

 私はチルノに敬意を払ってこの技を使ったのだ。

 

 

 高みを目指す、氷精に。

 

 

 

 私は落ちていくチルノを眺めながら、紅魔館のほうへと飛ぶ。

 

 

 「楽しかったぜ、チルノ。

またいつか弾を交し合いたいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は負けた。自分の力をすべて乗せた惑星を破られた。

ああ、悔しい。あんなに頑張ったのにな。

 

 でも。あの目。

 

 あの、金の瞳。

 

 私はあの眼を知っている。

 

 あの、不敵で鋭く、魂を乗せたあの瞳を。

 

 あれは私の目指した、背中。

 

 黒と白の魔法使い。

 

 

 「ま・・・りさ?」

 

 全く別人の巫女に彼女の背中を重ねて。

 

 

 「また・・・・だんまくしようね?」

 

 

 チルノは湖へと、堕ちた。

 

 

 

 それから幾百の時がたち『氷の魔精』と呼ばれる妖精が生まれるが、それは別のお話。

 

 

 

 

 チルノとの遊びを終えた後、しばらく飛ぶとあのうっとおしい霧を抜けることが出来た。

それと同時に、お世辞にもいい色とは言えない紅が目に飛び込む。

どぎつい赤が周りの風景ととてもミスマッチだ。

 

 これが私の目的地、紅魔館である。

普通の人間は近寄りたくはないと思っているだろう。

 

 地面へと降り立ち、紅魔館の前に立つ。

と、『いつもの見慣れた風景』が見える。

 

 鼻提灯を浮かべ、とても輝いた寝顔を見せる少女。

彼女は自らの勤める館の、自らが守るべき門にもたれて、仕事・・・睡眠をしていた。

名は中国・・・・もとい不良門番、紅 美鈴だ。

 

 これが仕事中でなければ、寝顔だけで『ノーベル平和賞』をとれるぐらいだと思う。

仕事中でなければ。

 

 霧雨魔理沙(わたし)にとっては散々見慣れた光景である。

だが博麗星夢(わたし)には、まったくもって異常な状況である。

 

 魔理沙なら、こんなもの無視して通ることが出来たが星夢なら別だ。

仮にも礼儀正しい巫女さんであるからな。

 

 こういう時は揺さぶって起こしてあげるのが『優しい巫女さん』のするべきことだろう。

そう思って私は中国の身体を揺さぶってみる。

 

 ゆさゆさ。

 

「zzzz・・・・・」

 

 ゆっさゆっさ。

 

「zzzz・・・・・」

 

 ゆさゆさゆさゆさ。

 

「ムニャムニャ・・・・・・」

 

 

 こいつ、ほんとに門番か?

私にはただの一般人にしか見えない。ならば、退治してやるのが巫女としての務めだろうか?

 

 ゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。

 

「・・・・・グウ」

 

 いくら揺さぶっても中国の態度は変わらず、正にその不変の姿は門番であった。寝てるけど。

こうなると『最終手段』でも使ってやろうか?

 

 そう思って自分の懐から、一枚の符を出す。

そして詠唱でたたき起こしてやろうかと思った瞬間。

 

 もう一つの見覚えのある影が現れた。

銀の髪、瀟洒な態度、優雅ささえ伴うその動き。

 

 そういえば、こいつをたたき起こすのはお前の役目だったな。

 

 瞬間、中国の頭から銀の角・・・・・ではなく綺麗なナイフが生えたかと思うと、悲鳴を上げて飛び起きる。

 

「ひゃあああ!咲夜さん、すいません!寝てました!?」

 

「ええ、とってもぐっすり寝ていましたよ。そりゃあもう」

 

 顔を真っ青にして咲夜に謝る中国に、全く無表情に怒っている咲夜。

ここまでなら見たことあるが、一応今の私は『お客様』だ。

 

 いったい、瀟洒なメイドさんはどんな態度をとってくれるのか・・・・・?

 

「失礼いたしましたわ、『博麗星夢』様。

我らの門番の、失礼な態度をお見せしてしまいました。

心よりお詫びいたします」

 

 そういって咲夜は頭を下げた。

ほう、まともな態度だ。しかしまともな態度をとるということは、私が霧雨魔理沙であると気づいてはいないようだな。良かった。

 

 取り合えず、気にしてないということを伝える。

それから、早く当主(レミリア)のもとへ連れて行けということも。

 

「はい、かしこまりました。それでは私について来てください」

 

 私は咲夜についていく。

思えば、この赤い廊下も久しぶりだ。そう考えると懐かしい赤だ。

 

 

 

 

「ここが紅魔館の当主、レミリア・スカーレットお嬢様のお部屋でございます」

 

 そう言われて辿り着いたところは、何度か来たこともある部屋だった。

レミリアと会うのは、おおよそ百二十年ぶりだ。霊夢の葬式の時だったか?

 

「・・・・失礼ですが、博麗様」

 

「・・・・・何でしょう?」

 

「あまり、お嬢様に無礼な態度をとらないでください。

いくら博麗の巫女とはいえ『自らの誇り』を傷つけられたらお怒りになられるかもしれません」

 

「・・・・・肝に銘じておきます。

あと、『博麗』じゃあ霊夢と混乱するでしょう?『星夢』でいいです。様もいりません」

 

 そういうと、咲夜は驚いた表情を見せた。

こいつでもこんな顔をするのか、といったぐらいの顔だ。

 

「ふふふっ」

 

「・・・・笑わないでくださいよ、星夢」

 

 咲夜の膨れた顔も、何年ぶりだろう。

時間を止めたと聞いてはいたが、全く変わらなそうで安心した。

 

「それでは、どうぞ。

お嬢様、『博麗星夢』様をお連れしました」

 

「・・・・・入りなさい」

 

 私は紅いドアをゆっくりと開ける。

そうして私の前に座っているのは、やはり姿の変わらない『永遠に幼き紅き月』だった。

 

「お嬢様、こちらが『十八代目博麗の巫女』、星夢様でございます」

 

「初めまして。私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットだ。」

 

 私の前に佇むのは、吸血鬼の頂点ともいえる少女だ。

それがいま、質量さえ感じる圧倒的なオーラを放ってきている。

こんなの、始めて受けたら倒れてしまうのも当然だと思う。

 

 声だけで魔物かと勘違いするほどの濃厚な気。

明らかに潰しに来ている、がこちらとてただの博麗の巫女ではない。

 

 これぐらいの重圧など何度でも見てきている。

で、なくては紫が一人で紅魔館になど行かせる訳がないのだ。

 

 暫くのあいだ、二人の間にそれ以上の会話はない。

しかし、少し経たとき不意にレミリアが気配を切った。

 

「ハア。負けだ負けだ。さすがは『星才の巫女』なだけはあるな」

 

 そういって『紅魔館の主』ではなく『レミリア・スカーレット』に切り替えた。

 

「何のことでしょう?」

 

 取り合えず、すっ呆けてみる。

それを聞いたレミリアは吸血鬼特有の犬歯を見せて笑う。

 

「ククククク・・・・。馬鹿にして。

博麗星夢。お前は『博麗霊夢』と並ぶぐらいの才を持っている。違うか?

いや、そうだろう。そうでなくてはおかしい。ククククク」

 

 何がそんなにおかしいのだろう。

レミリアはさっきから笑い続けているが、私はそれに対して苦笑い以外の何を返せばよいだろうか。

 

「ククククク・・・ハハハハハ。

咲夜、紅茶を出せ。こいつはれっきとした客人だ」

 

「かしこまりました」

 

 そういって咲夜が一瞬消えたかと思うと、すぐに菓子と紅茶を持ってくる。流石だ。

それよりもさっきまでは客人ではなかったということだろうか?

それなら呼び出しておいて酷いと思うが。

 

「もし、私が重圧に耐えきれず壊れてしまっていたらどうするつもりだったんです?」

 

「ん?ああ、その時は我が麗しき妹殿に預けてつもりだったさ」

 

 預ける?与えるの間違いだろう?

つまり、あそこで耐えておいて正解だったということか。

 

 それから、いくつかのことを話した。

私に対するレミリアの扱い、レミリアに対する私の扱い。

 

 大体友人のようなもので収まったが。

 

「そういえば貴方は、巫女の癖に魔法を使うそうじゃない。

ここにも魔女がいるから、会ってみるといいわ」

 

「ええ、そうします。そういえば先ほど仰っていた妹君はお元気なのでしょうか?」

 

「ええ、元気も元気よ。後は精神面ね・・・・・」

 

 フランも特に変わりはなさそうだ。

それでは、お暇させていただくとしようか。レミリアの様子も分かったし。

 

「それでは御馳走様でしたっと」

 

「あら、もう行ってしまうの?もっとここにいてもいいのに。

それこそ永遠に、ね」

 

 馬鹿なことを言うやつだ。

永遠は嫌いだから、魔法使いにならなかったというのに。

 

「すみませんが、私は永遠はあまり好きではないのです」

 

「あら、そう。じゃあ、代わりに運命でも見てあげましょうか?

私の数少ない趣味の一つですけども」

 

 趣味?能力を使っているくせに。

まあ、先のことを知っておいて悪いことなどないだろう。一応頼んでおく。

 

「えっと。貴方のこれからはねぇ・・・・・・・」

 

おみくじでも引いている気分だ。

特に結果なんか気にしちゃいない所が。

ちなみに、ウチ(博麗神社)のおみくじは全部末吉だ。

 

「あ、でたわ。貴方のこれからは・・・・・・いいこと80%くらい、悪いこと80%くらいと出ているわ。

一体どういうことかしら?」

 

 知るか。だから信用してないんだ、運命なんぞ。

 

 レミリアに別れを告げ、次に向かうは紅魔館内、魔法図書館。

そこには『月と太陽と五行の魔女』こと、パチュリー・ノーレッジ様がいらっしゃる。

 

 彼女に会いに行くため、紅魔館の紅き廊下を歩いていく。

途中でいくらかのメイド妖精にもあったが、やはり変わらずに役立たずのようだ。

 

 そういえば、私の向かう先の魔法図書館に別に名前はないらしい。

何時も真っ暗でカーテンに閉ざされているから『ヴワル魔法図書館』がいいと提案したこともあるんだがね。

今なら、『星と月の書庫』とかいいと思う。

 

 そんな事を考えながら、歩いていると魔法図書館への階段、やけに仰々しい扉が。

この図書館に入るのは、転生の魔法を作るときの資料を借りたときか。

 

 ここから奪った・・・・・失礼、拝借した本は私が死んだら返すといったが、

返した覚えはない。勝手に持って行ってくれたのだろうか。

 

 押すのにさえ一苦労する大きな扉を押して、最初に目に飛び込むのは本、本、本。流石、図書館なだけはある。

礼儀正しい巫女さんは、引きこもりにも礼儀正しいのだ。

 

「失礼します、パチュリー・ノーレッジはいらっしゃいますか?」

 

「・・・・・・・私がパチュリーよ。何か御用かしら?この閉ざされた魔法図書館に」

 

 そういって奥から出てきたのは、紫色の寝間着を纏ったインドア派魔法使い、パチュリー・ノーレッジだった。

今までに見た、人外どもは全く姿が変わってなかったがパチュリーも例外ではなかったようだ。

 

「・・・・・・ああ、貴方がレミィの言っていた『星才の巫女』かしら?

なら、いいわ。好きなだけここの蔵書を見て言ってちょうだい。大したものは置いていないけどね」

 

 何も言わなくても用件が伝わっている。

これでここの本を自由に読んでいいことになった。

だから、近くの棚から一冊の魔導書を取り出し開いてみる。

 

 読んだことがあった。

 

 別の書庫からも、取り出してみるがすでに既読している本だ。

どうやら結構な数、ここの本は読んだことがあるみたいだ。

 

 いくつかの棚を巡って、読んだことない本を探すが数冊しか見当たらない。

 

 司書の悪魔にも聞いてみた。赤髪の黒い悪魔さんだ。

名を小悪魔という。

 

「すみませんが、ここ十年ほどで追加された本はどこにありますかね?」

 

「ここ十年・・・・。こちらの本などではないでしょうか?外界からやってきた本のようですが・・・・・」

 

 タイトルを見てみる・・・・・『非統一魔法世界論』?

本自体は読んだことないが・・・・・。ページをぱらぱらとめくって見てみる。

 

 ほうほう・・・・『この世界のありとあらゆる力は統一出来るとされているが、私は新たに統一原理に当てはまらない『魔力』なる力を発見した・・・・・』どういうことだ?

 

 当たり前の事じゃないか。

読み物としては面白そうだが、いまいちこの世界に合っていないと思う。

本を小悪魔に返し、他の本は無いかと問うてみる。

 

「これはどうでしょう?かなり魔法の年季が入っていると思いますが」

 

 ・・・・・・『the Grimoire of Shinki』?やばそうな代物だな。おかしな気配をビンビン感じる。これも駄目だ。

 

 

「小悪魔さん、他の本をお願いします」

 

「はっ、はい!かしこまりました!」

 

 

 

 

 

 

 何時間図書館にいただろうか。ここは年がら年中カーテンがかかっているから、季節も時間も天気もわからない。

 

 いくつかの本を手にしては、すぐに飽きるの繰り返しだ。魔導書を読んだのもかなり久しぶりだ。

そのたびに小悪魔に取りに行かせては、返させていた。済まない。

 

「ひい、ひい、はあはあ・・・・・・」

 

「大丈夫ですか?小悪魔さん」

 

 小悪魔は息切れしてしまったようだ。疲れ切った表情を見せている。

 

「だ、大丈夫です・・・・・ふう」

 

 大丈夫か?あんまり無理すんなよ。

私が小悪魔の心配をしていると、パチュリーが飛んでこちらにやってきた。

 

「どう?有益な情報は見つかったかしら?」

 

「はい、ありがたいですね。魔導の本は神社にはほとんどないので」

 

「そう・・・・・ゴホッ、ゴホッ・・・・・!

それは、よかったわ・・・・」

 

 すっかり忘れていたが、パチュリーは喘息持ちだったな。

喘息持ちなのに、こんな埃っぽい薄暗いところにいても大丈夫なのか?

 

 自分も結構疲れているはずなのに、自らの主を看病する小悪魔の姿を見て感動する。

それと同時に、図書館のもう一つの入り口に目を向ける。

 

 正確には、そこからあふれ出る、禍々しい限りのナニかに。

この肉体になってかなりそういう勘も優れたのか、覚えのある感覚が倍ぐらいに感じられる。

 

 魔力、妖力、瘴気、殺意。

そのどれとも言えないようなこの感覚に、懐かしさがよぎる。

 

 この感じを、言葉に表すなら『狂気』だろうか。

私はその入り口の方向、ひいてはその向こうにある地下室へ向かって歩く。

 

「・・・・あら?どちらに行くつもりかしら?巫女ちゃん」」

 

「囚われの『妹君(姫様)』を助けに行こうかな、と」

 

「あれはお姫様じゃなくて『正体不明の10人殺し(U・N・オーエン)』じゃないかしら?

まあ、行くなら気を付けて死なないように。これ以上魔法使いという絶滅危惧種を減らしたくはないわ」

 

 おっと、心配してくれたのか。意外だな。

こいつは、勝手にしろといいそうなタイプだと思っていたのだが。

 

「意外ですね。貴方はそういうことを言うタイプには見えないのですが」

 

 パチュリーはため息をつきながら言う。

 

「人間の知り合いなんて、おおよそ100年ぶりくらいなのよ。新しい『魔法使い』との出会いもね。

せっかく知り合った魔法使いを、放っておくなんてできないのよ。・・・・・私のタイプではないのは確かだけど」

 

 ふーん。ああ、あれか。『つんでれ』ってやつなのか。

まあ、いいや。その気持ちを受け取って無傷で帰ってきてやるよ。

 

 パチュリーに別れを告げて、地下室への階段を下りる。

地下室への階段は、紅くはなくどちらかといえば赤黒い感じだ。

鉄の階段を下りていく度にコツーン、コツーンと私の足が音を立てる。

その音につれ、徐々に狂気の強さが増していく。ここは近寄りたくない場所トップに躍り出るのだろうか。

 

 私はある扉の前で足を止める。最も狂気があふれ出る扉の前で。

 

 

 さあ、『悪魔の妹君』とでも、お茶会に挑もうか。

 

 

 

 

 

「おまたせ」

 

「待ってないわ・・・・・貴方は誰?」

 

「名前を聞くときは?」

 

「これは失礼。私はフランドール・スカーレットというわ。職業は、妹」

 

「私は博麗星夢と申すものです。麗しの妹様」

 

 わざとおどけた・・・・、というよりおちょくっているような返事を返す。

もしかしたら怒ってすぐに『きゅっとしてドカーン(物騒なアレ)』されるか、と思ったが

そんな事はない。そもそも私が最初に会った時も、少しばかり会話が通じないだけで普通の人外だった。・・・・・話が通じないのは、誰でも一緒だったか。

 

 要するにちょっと顔をしかめられただけで、すぐさま命の危険はないことを確認できた。そういうことである。

そもそもここに来た理由は特にないのだ。フランドールとお話ししたいだけで。

 

「・・・・博麗?新しい巫女かしら?それともお嫁さん?」

 

「残念。巫女だけどお嫁さんじゃないのです。別の巫女なら紹介しましょうか?緑のおかしな巫女・・・・風祝?」

 

「別にいいわ。結婚適齢期は500年以上前に過ぎたのよ」

 

 見た目は全く変わっていないだろう。

フランドールとの会話はやけに弾むからいい。

 

「それで博麗の巫女さんが何しに来たの?私なんかに会いに来たってなーんにもないでしょうに」

 

「面白そうだから来てみたのです」

 

 事実、面白い。

少しぐらい狂った人間のほうが、一緒にいて楽しい。

 

「相当な人格破綻者ね。狂気に飛び込む夏の虫?」

 

「多分そいつは、紅白の蝶ですね」

 

「うげえ。そんな蝶、見たくないわ。

さぞかしおかしな性格で、おかしな人格で、おかしな強さでしょうね」

 

 すべての博麗の巫女を否定したな、こいつ。

確かに、霊夢と私の前の代はそんな感じだけど。

 

 いや、冗談ではなく先代巫女、『博麗 封夢』はやばかった。

腕の一振りで妖怪が溶けただの、山を一つ飛ばしただの、月に一人で攻め入っただの、嘘か真かわからないような噂が未だに、充満している。・・・・・全部事実であるが。

 

 え、私?

私は、優しい優しいとってもいい性格で人格の巫女さんですわよ。うふふ。

 

「あ、もしかして一緒に遊んでくれるのかしら?弾幕ごっこで」

 

「ああ、無双ゲー(ボム連打)ですね。それなら私の得意分野ですよ。

コイン1枚で16回使えます」

 

「あんたはコンティニューさせないのさ!」

 

 一回死んでるんだ。これ以上コンティニューしてたまるもんか!

 

 

 

 

 

「ああ、負けちゃった。嘘ぉ。貴方弱そうだったのに・・・・」

 

「嘘ですよ。割と」

 

「信じないわ」

 

「それでいいでしょう」

 

 「そして誰もいなくなるか?」

それを潜り抜けて私はフランに勝利することが出来た。

 

 まあ、幾多の妖をくぐり、神とも相まみえた私からすればこんなもの目をつぶっていれば避けられる。

自分で言うことでもないと思うが。

 

「ああ、誰かと話すのも久しぶり、遊ぶのも久しぶり、人間と会うのなんてもっと久しぶりだったわ。

最後に出会ったのは、私のお嫁さんかしら?それとも・・・・・」

 

 私だろう。紅魔館に本を借りに来た時にちらっと見た。

まさか、あれが今生の別れになるなんてな。

 

 ま、いいんじゃないか。こんな昔みたいな弾幕ごっこも。

 

「さあ、良い子は帰って寝てなさい。さもないと怖ーい巫女さんが襲いに来るかもしれないわよ?」

 

「どうぞ大歓迎。ケーキと紅茶を用意して待っているわ」

 

「ノンシュガーで頼みます。・・・・・そういえばお茶会しに来たはずなのに」

 

 すっかり目的が入れ替わってしまっている。

楽しかったので別にいいのだが。

 

「お茶会?今準備できるのは心臓クッキーに、血液紅茶だけよ?」

 

 そういって、紅茶とクッキーを準備してくれる。

ああ、お遊びで乾いたのどを潤すにはぴったりだ。砂糖はカップ3杯分でな。

 

 私が部屋においてあった椅子に座ると、フランドールがコップに紅茶を注いでくれた。

そしてクッキーを机の上において、自分も椅子に座る。

 

 今はテーブルを挟んで、向かいあってる状況だ。

おいてあるクッキーを一つつまんで食べてみる。

 

 ありゃ、うまい。とうとう私も人食家になろう、ということか?

 

「冗談に決まってるじゃない。普通のクッキーに普通の紅茶よ。

貴方、仮にも神職でしょ?そんなんでいいの?」

 

「引きこもりは多才ですね。まさか紅茶も入れられるなんて」

 

 疑問には答えず、クッキーをつまみながらフランドールの意外な特技について驚いている。

フランドールはその様子を見てため息をついた。

 

「はあ・・・・。貴方って霊夢というより魔理沙よね。分かる?き、り、さ、め、ま、り、さ。」

 

 うーん。私の隠しきれないセンスがあふれているのか、そろそろバレそうだ。

バレちゃダメなことはないが、なんとなく嫌である。

 

「知ってますよ。私の魔法の原点で、先々々々代博麗の巫女の親友ですよね」

 

 自分で言うのは何か恥ずかしいがね。

 

「うん・・・・」

 

 なぜかそれを言うとフランドールの顔に陰りが見えた。

どうしたんだ?私が何かやったか?心配になったので質問してみる。

 

「どうしました?浮かない顔をしていますが」

 

 その顔はまさに見た目相応の表情なのだが・・・・。

 

「うーん、まあ、何でもない」

 

 『何でもない』が、一番気になる。早く答えてほしい。

 

「どうでもいい話なんだけど魔理沙って今何やってるんだろうな?って話」

 

「うん?人間として死んだんじゃないんですか?」

 

「うーん。そうなんだけどね。あの魔理沙がタダで死ぬようには思えないのよね」

 

 嘘だ。人間としては死んだがここに私はいる。

 

「考えすぎじゃないですか?人間なら寿命で死にますよ」

 

「うーん、そうかなぁ」

 

 そうだ。『霧雨魔理沙』はもう、死んでいる・・・・・。

 

 

 

「すみません、フランドール。少し気分が悪いので帰らせてください」

 

「あら?砂糖の入れすぎかしら。それではお大事に~。次来るときはケーキを持ってきてね」

 

 正直、軽口に乗るほどの元気もない。

この話題を考えるのはよくない。

でも、私が『博麗星夢』として生きるうえでとても大切なことなのだ。

 

 ドアを開けて、入ってきた階段を上り始める。

 

 『私』とは何なのだ、ということ。

『博麗』でも『霧雨魔理沙』でもない半端者。

 

 この話題を考えると自分の心が陰鬱に沈む。

だから、あんまり考えたくはない。それでも自分のことを決めたい余りに私は考えてしまうのだ。

 

 私は誰なのかと。

 

 先ほどは意気揚々、弾むような足取りで降りてきた階段も今、上がるときとなってはどんよりとした気持ち。

結局階段を登り切ってしまった。これ以上この紅魔館に居たって仕方がない。さっさと退散することにしようか。

 

 レミリアにも、パチュリーにも何も告げずに帰ろう。

そう思って私は紅い館のエントランスを抜ける。その先には花の庭園。そういえば中国は門番だけじゃなく庭の手入れもやっているんだっけか?花を見ると心が癒されるような気がする。気休めに過ぎないがね。

 

「あ、さっきはすいませんでした」

 

 そんなことを考えながら、庭を歩いていると中国に見つかった。

どうやら、先ほどたたき起こされたばっかりであるのでさすがに起きていたようだ。

 

「いえ、気にしてないですよ。まあ、仕事中に寝るのは感心できませんが」

 

「えへへ・・・・」

 

 えへへ、じゃあない。今の私はそこそこ苛立っているから、吹っ飛ばされるかもしれないぞ?

まあ、そんなことしないがね。

 

 そんじゃさっさと帰らせてもらうよ。

 

「・・・・・ちょっと、待ってください。星夢さんでしたね?」

 

 ・・・・一体、なんだ?急いでいるのに。

 

「・・・気が、乱れすぎです。

このままだとあなた疲れすぎで死ぬかもしれませんよ?

お嬢様の圧力をじかに喰らったと聞いています。どうか、休んでいっては・・・・」

 

 おそらく、心から心配していると分かるほどの中国の表情。

その視線につい心動かされ、休んでいくと言いそうになるが。

 

 疲れているのも、自分が一番わかっている。

それでも、私はここにはいられない。

休んでなどいられないのだ。

 

「・・・・心遣い感謝いたします、美鈴さん。

ですが私は、ここでは休んで行けません」

 

 故に私はここで休むことを拒絶する。

前者で中国の顔が明るくなったが、後者で先ほどよりも必死な表情を見せる。

 

「何故ですか!?遠慮ならしないでください!

貴方に死なれると、レミリアお嬢様、パチュリー様、そしてフランドール様まで悲しまれます!」

 

 遠慮しているわけではない。死ぬ気もない。

ただここから去りたいのだ。

 

 本当に気分が悪くなってくる。

 

 くそ。

私は美鈴を押しのけて庭の外、すなわち屋敷から出ようとするが、さすが武闘家。

そんな簡単にはどいてくれない。体格の差もあり、押しのけて出ることは成功しなかった。

 

「今の貴方の気は、最悪です。

力づくでも・・・・・・」

 

「やめてください、美鈴さん」

 

 力を込め私を気絶させようとした美鈴。

しかし、気分は悪くても博麗の巫女としての力は健在だ。

 

 私は最小限の力で美鈴を振りほどき・・・・・スペルカードを宣言した。

 

「夢符『二重魔法結界』。

済まないですが眠ってもらうのは貴方です。」

 

 博麗の巫女の本質は結界術にある。

幻想郷の結界も、博麗神社の結界も、遠く過去にさかのぼれば消して見つからない八雲紫の家の結界でさえ、

全ては博麗の結界術だ。

 

 これはその、最強の結界術と西方の魔術を掛けあわせた完全に私だけの結界術である。

つまり私の魔法の全てと、博麗の全てを乗せている。

 

 それを至近距離かつ、全力で――加減するほど余裕がなかったのだ。やはり疲れている――喰らった美鈴は、

空を舞い、地面に寝た。

 

 ・・・・・・やっちまったんだぜ。

善意を弾幕で返すのが、幻想郷のルールだとは言えやりすぎた。

 

 まあ、先に手を出そうとしたのは中国だし問題ないか。

そう考え私は紅魔館の門を出る・・・・・・はずだったのだが。

 

 

 

「どちらに行かれるのです、お客様?」

 

「・・・・・・・・・咲夜さんですか」

 

 

 紅魔館の壁にもたれかかりこちらを見つめているのは、メイド長十六夜咲夜だった。

どこに行こうが私の自由だと思うがね。まさかここは牢獄なのでしょうか?

 

「さっき、起こしたばっかりなのにまた寝ちゃったじゃない、美鈴。

どうしてくれるのよ、星夢」

 

「知りませんよ。すぐ寝る美鈴さんが悪いんでしょう」

 

 どうやらすぐに攻撃しないところを見ると、あんまり怒っているわけではなさそうだ。

だって私は悪くないんだからな。

 

「それで?気分が悪いんじゃないの?休んでいかないの?」

 

 どうせ、さっきまでの話も聞いていたくせに。

また言わせるのか?そしてまた私を止めるのか?

 

「いいえ、私は貴方を止めないわ。

どうせ止められるわけないしね。ただ私が言うのはたった一言、『お大事に』よ」

 

 ・・・・・ふん。

ならさっさと出てっていいか?

 

「いいんじゃない?また、遊びに来てほしいけどね。お嬢様とパチュリー様、妹様のために」

 

 じゃあ、さっさと出させてもらうぜ。

 

「ちょっと、待った。後一言だけ追加させてもらうわ。」

 

 ・・・・何だよ。

もういい加減にしてほし・・・・。

 

 

 

「貴方の憧れの『霧雨魔理沙』はもっともっと、よわーい人間よ」

 

 

 は?

一体何を言い出すかと思うと一体なんだ?

そんなこと私は分かり切っているのに。

 

「じゃあね、それだけは絶対に忘れないで」

 

 そういって彼女は一瞬にしてその姿を消した。

後に残されたのは困惑した私だけ。

 

 

 「『霧雨魔理沙』はもっと弱い・・・・・・か。

じゃあ、私は一体何だろうな?」

 

 

 

 

 

 

 そのまま、博麗神社に戻る気もなく、来るときにも行こうとしていた魔法の森に行ってみることにした。

森の風景自体に全く変わりはなく、足に絡みつくような雑草も、森を彩るキノコの数々も、生い茂っている。

 

 魔法の森の瘴気にずっと当たっているといくら耐性があるとはいえ、今の私なら危険だ。

森の中を走るように抜けながら、少し見覚えのある開けた場所に出る。

 

 丁寧に積み上げられたガラクタに、筆で書かれた看板。そこには『香霖堂』の文字が躍っていた。

 

 入ろうかと一瞬思案するが、今はやめておくことにする。

この心情のままで入ると、見せたくもない涙を見せる羽目になりそうだ。

ここが香霖堂なら私の家はすぐそこだ。やっぱり走って私の家へと向かう。

 

 

 

 私が息を引き取ったのは博麗神社だ。

霊夢がいなくなり、次代の巫女が妖怪退治に出ているとき、私が神社で見張りをしていたのだ。

 

 そこで死んだ。ただの寿命だ。どうってことはない。

だから、この家には博麗神社よりも久しぶりだ。

魔法の森なんて来る機会が全くなかったからな。

 

 香霖堂とは対照的に乱雑に置かれた物たち。下手な字で『なんかします 霧雨魔法店』と書いてある、看板。

まごう事なき私の家だった。

 

 私の家の前に立ち様子を見ていると、昔よりかは綺麗になっていることがわかる。

アリスか香霖が片づけてくれたのかな?

 

 自宅のドアを開けて、中に入ってみる。

中は外よりも私が生きていた時との違いが顕著だ。

 

 とても片付いている。私はとっ散らかしていたのにもかかわらず、だ。

やっぱりアリスが掃除してくれたのだろうか。

魔法道具も整理されており、薬品も本も棚に戻っている。と、いくつかに積み上げられた本と、その近くにおいてあるメモを見つけた。

 

「ええと、何々・・・・『結局、死んでも本を返さなかったじゃないの。

いつか生き返った時に返しに来なさい パチュリー・ノーレッジ』ねえ・・・・。

めんどくさいやつだなあ」

 

 その本たちは私が紅魔館から拝借した本たち。

ご丁寧にメモまで書いてくれている。

 

 その隣にはもう一つ、何かが置いてあった。 

布にくるまれた細長い何か。私はその布をめくって、中身を見てみる。

 

 そこには、またメモとどこかで見たことのある剣が入っていた。

えっと、メモの内容は・・・・。

 

『この剣は遠い過去に君を騙して手に入れた剣、霧雨の剣だ。

宝の持ち腐れだから香典代わりにここにおいておく。

生き返ったら使うなり溶かすなりしてくれ 森近霖之助』

 

 ああ、昔『八卦炉』の修理の時に交換した鉄くずの中に入ってた剣か。

と、いうかみんな私が生き返る前提で話をするのはやめてくれ。

 

 生き返らないから。生まれ変わったからね。

よく見ると、生前にはなかったいくつかの物も置いてある。これも香霖やパチュリーと同じ香典変わりだっていうことか?

 

 私も使うものがテーブルの上においてある。博麗の札だ。生命力をあげる効果のある。

これは一体誰の贈り物だ?

 

『魔理沙さん。貴方はもういなくなってしまったのですね。でもあなたといつかまた出会えることを信じています。いつかその日まで 博麗永夢』

 

 博麗・・・・永夢。

霊夢の次代の巫女だ。そういえばあいつはやけに私に懐いていたような気がする。慕われていたのかな。

それなら私は幸せ者だ。

 

 これは一体なんだ?そうやってつまみ上げたのは、黒白の服に金髪、箒を持った・・・・・私だった。

いや、私ではなく私の人形だった。人形といえば・・・・・。

 

 人形にもまたメモが付いており、メモの中身はこんな感じだった。

 

『・・・・・馬鹿。どうして魔法使いにならなかったのよ。寂しいじゃない・・・・。

弔いに人形を作ってあげたから、生き返ったら飾っておきなさい アリス・マーガトロイド』

 

 何か書いてあるが、小さすぎて読めない。まあ、いいか。

しかし、どいつもこいつも・・・・・。

 

 

「一体何がしたいんだ?」

 

 他にも大量の香典替わりが置いてある。

どの方向を向いても目に入るぐらいに。

なぜこんな量、届いているのだろうか?

私は妖怪どもにとって大した存在じゃない、弱い人間なはずなのに・・・・・。

 

「それは違いますわ。()()()()()

少なくともあなたはとっても大きな大きな存在でした。

今のあなたより、そしてもしかすると『博麗の巫女』を凌駕することさえあるほどの、ね」

 

 突然後ろからかかった声に驚き、振り向く。

しかし、誰もいない。幻聴か?まさか。

 

「どうしました?紫さん?」

 

「ふふふふ・・・・。まだしらばっくれますか」

 

 後ろからを声をかけて、消えることが出来るものなどこいつしかいない。

八雲紫、ただ一人だ。

 

「はあ・・・・・そりゃあ、分かってるか。

せっかく十数年も騙しきったと思ってたのに」 

 

「そりゃあ、分かっていますわ。

冥界にも地獄にも、貴方の魂は逝かなかった。

だから、貴方の一番やりそうなことに目を付けたのですよ」

 

 結局全部お見通しか。

掌の上で踊らされているような気分だぜ、全く。

 

「ふふふ・・・・・」

 

「・・・・なあ、どういうことだ?」

 

 私が大きな存在だった?

霊夢を凌駕するくらいに?

 

 妖怪の賢者の発言にしては大きな違和感を感じるな。

『普通の』魔法使い風情が、守護者よりも上か。

 

「ふざけるのも大概にしろっ・・・!」

 

 苛立っていた私が怒りをぶつけようと叫ぶが、それを遮るように紫がこう言う。

 

「いいえ。ふざけてなどいませんわ。

貴方は幻想郷成立以前、『我ら』が生まれるもっと前、ある意味で言えば、あの月の賢者よりも長く生きている。

『博麗』と並ぶほどの長き血を継いでいる者です。」

 

 幻想郷成立以前・・・・!?

いや、月の賢者といえば『竹林の隠者』こと八意永琳の事だろう。

 

 何時か聞いたことがあるが、彼女は軽く一億歳を超えると言っていた。

それより・・・・・私が長生きだと!?

 

「何が言いたい、八雲紫ィ!!」

 

 私は紫の胸ぐらをつかんで脅すように叫ぶ。いや、叫ぶしかない。

自分の脳が理解しないのだ。紫の言葉の真意がわからないのだ。

 

 紫はただ私にゆすられるだけで何も抵抗はしない。

 

「・・・・・・理解できないでしょう。しかしある側面で言うと間違いなくその通りなのです。

貴方は・・・・・この世界において、博麗の巫女と同じ位置にいます」

 

 私は紫をつかみゆすっていた手を止める。

紫の口調は、幼い子供に深き意味が隠された童話を語るような感じだ。

 

「・・・・・最後に聞かせてくれ」

 

 私は最大で、最後の謎を紫に問う。彼女なら答えてくれるのではないかという淡い望みを込めて。

 

「私は一体・・・・・何者だ?」

 

 その問いで紫の動きが一瞬だけ止まってしまう。

が、すぐに動き出す。そして紫はこんな話を始めた。

 

「お話よ。むかしむかぁーし・・・・・二人の少女がいました。」

 

「・・・・・・・」

 

 

 

「その二人の少女はとても仲が良く、様々なところへ夢を求め冒険へ出かけました。

 

暗闇の夜を越え、幻の境界を暴き、東西を往き、大空を共に夢想する大冒険に。

 

そうですね・・・・片方を『星』、もう片方を『月』としましょう」

 

「・・・・・・なあ」

 

 私は口を挟もうとしたが、紫の顔が後悔したような表情だったのを見て、躊躇う。

 

 

「『星』は聞きました。『ずっと一緒だ』と。

もう片割れの『月』は言いました。『もちろんだ』と。」

 

 私は黙って聞いていることしかできない。

 

 

「しかし・・・、いつの間にか『月』が消えてしまいました。

もう片方である『星』は必死に探しました。『消えた片割れ』のことを覚えている者はなく、そんな者がいた痕跡もありませんでした」

 

「・・・・・・・・」

 

 

「彼女のことを必死に探しました。数年、数十年。

そして・・・・・・・」

 

「・・・・・・死んじまったのか?」

 

 流れを断つために私は故意に不躾な質問をする。

しかし、紫はその質問には答えない。しかし代わりのように問を出してくる。

 

「さて、『星』が探していたのはなんだったのでしょう。

そして、『月』はどこに行ってしまったのでしょう。」

 

 『星』が探していたもの?

 

 『片割れがどこへ行ったか』はもう既に解けている。

だが、前者の答えが出てこない。

 

「片割れが探していたのは、貴方が探しているものと似て非なるものよ。

一生かけてでも見つけてやりたいもの」

 

 紫は泣きそうな顔でそんなことを言う。

まるで『私は見つけられなかった』と言いたいかのように。

 

「・・・・・さようなら、星夢。また次会うときまで」

 

 そういって紫は隙間に姿を隠してしまった。

後に残されたのは、宿題を出された私だけ。

 

「・・・・・はあ。何しに来たんだか。

ただでさえ悪い気分が、更に下がっちまったじゃないか」

 

 そういって、私は自宅漁りを再開する。

 

 

 

 いくつかの本棚を見ていると、懐かしいものを見つけた。

 

「・・・・ん?この本って・・・・」

 

 私が手に取ったのは、『the Grimoire of Marisa』だった。

これは私が、スペルカード研究の時に作った本だったはずだ。

 

 私はそれを服の中にほうりこんで、別の棚を探索する。

 

 

 

 

 

 すっかり日が落ちた。

 

 日が落ちたことに気づいた私は、急いで『元』自宅を出て博麗神社へと向かう。

向かう途中に、アリスの家が見つかったが見下ろして素通りすることにする。

 

 森の上を飛び、人里の上を飛び、数分で博麗神社だ。

太陽は完全に、地平線の下へ沈みここからはもう妖の時間だ。

 

 私は神社の石畳の上に降り立ち、本殿のほうへ入っていく。

夕食の準備をするのだ。

 

 

 博麗の巫女は基本貧乏、という目で見られているような気もするがそれは大きな誤解だ。

貧乏なのは霊夢だけで、しっかり少数ながらも参拝客が来るれっきとした『人間神社』の今は、普通の食事を送ることもできる。・・・・・この言い方自体貧乏っぽい気もするが。

 

 そういうことで今日の夕食は、白米、エノキタケの味噌汁、うまい野草、川魚だ。

おいしいし腹も膨れるからいい。

 

「・・・・・いただきます」

 

 私はこの体になってから人と一緒に飯を食ったことがあまりない。紫ぐらいだ。

だから黙々と食べる。ただ一心不乱に箸を動かす。

 

 そういえば、今もキノコは大好きだ。

朝、昼、晩、一日10回食後と食前、食事中。それから就寝前に。流石にそんなに食べないがね。

 

 もしかすると、それが原因で紫にバレたのかな?

 

 

 

「・・・・・御馳走様でした」

 

 一人っきりの食事を終えれば、次は入浴だ。

 

 特筆するところも特にないので、割愛させていただくがね。

 

 

 

 入浴を終えると、寝間着に着替え寝床に入る。

いつもならすぐに明かりを消し、すぐに寝る・・・・が、今日はどうしてもそういう気分にはなれない、ので。

 

「自分の本を読むって・・・・・なんか恥ずかしいな」

 

 私の家から持ってきた、「the Grimoire of Marisa」だ。

 

 パラパラとページをめくって、内容を流し読みする。

その手が不意にある一ページで止まった。

 

「『夢想天生』・・・・・。これは確か私が名付けたんだっけか。

今じゃ、私が使う側になってるけどな」

 

 博麗奥義、夢想天生。

霊夢のは、ありとあらゆるものから浮く、縛られない夢想天生だった。

私のは、全てを押しつぶす、星を放つものだ。

 

 博麗は、一人一つ『夢想天生』を持っている。

そのどれもが・・・・・・強いのだ。

 

 またいくつか、ページをめくっていく。

すると、そこから白紙のページがあった。

 

「・・・・・・諦めちゃったんだっけ」

 

 そう。the Grimoire of marisaはグリモワールの名だけあって分厚い。

しかし、何かが書かれているページと言われると、実はその半分にも満たないのだ。

 

 それは彼女が最後に参加した異変。霊夢がいなくなる前の最後の異変。

 

 その異変の名は『現龍異変』というのだが、長くなるので割愛させていただく。

 

 その異変以降私はグリモワールを書くことをやめてしまったのだ。

 

 理由は、老いてしまったから、だろう。

 

 

 ならば・・・・・。

 

「今の私は、若々しいからな」

 

 そう考え、床から出て居間の戸棚へと向かう。

戸棚の中に入った、『外界の筆』を寝床にもっていき・・・・。

 

 『the Grimoire of Marisa』のMarisaの部分を、二重線で消し代わりに『Seimu』と書く。

少し不自然だが大丈夫だろう。

 

「今日からこれは星夢()の魔導書だ」

 

 『the Grimoire of seimu』の誕生である。

早速、最初の白紙のページにこんなことを書き込む。

 

「えっと、『この魔導書は我が尊敬する魔法の師匠、霧雨魔理沙氏の物を、拝借したものである。

ここに私が今まで見聞きしたすべてのスペルカードを記していきたい・・・・・博麗星夢』こんなもんでいいか」

 

 そしてページを一つめくる。

そこに今日見たチルノの新しい弾幕の、形状と評論を書いていく。

 

 ついでに、今まで見た妖怪の張ってきた弾幕もだ。

 

 さっきまで白紙だったページが、次々に染められていく。

弾幕のスケッチ、受けていた時の心境、弾幕の隙などが所狭しとページ内に並べられていく。

 

 ソレを見ている者はおらず、彼女は今、完全に努力し積み重ねる、霧雨魔理沙という魔法使いだった。

 

 

 

 

『うぅうううう~!!終わった!ああ、疲れたぁあ!』

 

 心の中でそう叫んだあとに、時計を見る。・・・・・午前十二時。既に明日、だ。

外も、妖がうごめく時間だ。人間の巫女はさっさと寝ることにしようか。

 

 今日はいろんなことがありすぎた。 

 

 布団の中に入り明かりを消し、回想を始める。

 

 まずは、境内の掃除をいつものようにしてたんだっけか。

そしたら紫が来て、紅魔館に行けだのなんだの言う。

 

 だから紅魔館に行こうとすると、チルノと戦うことになったんだな。

あいつ、すごく強くなってたなぁ。

 

 で、チルノを倒して紅魔館に行くとまったく起きない中国が咲夜に刺されたんだよ。

それでレミリアのところに連れて行ってもらって、その足で図書館にいって。

 

 本読んでたら、懐かしいもんを感じるからお茶会いって遊んで。

 

 そっからは・・・・・あんまり思い出したくないな。

 

 

 紫の話・・・・・・。すごく謎な話だったが、あいつはすごく悲しそうな顔をしていたな。

やっぱり・・・・そういうことなんだろうな・・・・・。

 

 

「寝るか・・・・・おやすみ」

 

 

 わざと口に出して、自分の気持ちを抑える。

さあ。今日のことはもう忘れて明日のために頑張ろう! いや、もう今日か。

 

 そんなことを考えながら、私は眠りについた・・・・・。

 

 明日からはまた、博麗としての世界が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・くそっ」

 

 目が覚めてしまった。

時刻を見てもまだ、丑の刻。妖のオンパレードが終わったころだろう。

 

 そもそも、あんなことがあって悶々としている日に眠れるわけがないのだ。

グリモワールを開いて寝ようとしてみるがまったく効果がない。

 

 すぐにグリモワールを閉じて服を着替える。

博麗の巫女服・・・・・だが、魔法使いの、私の帽子をかぶって。

 

 そして境内に出てみる。

冷たい石畳。森から吹いてくるさわやかな風。

 

 でも。

 

 

 私の心が治まることなど・・・・無かった。

逆に激しく燃え上がる感情。それは昼間にも感じた、『自分とは何だ』という問いだった。

 

 答えは決して出ない問。

それを考え続けると人はどうなるか。

 

 簡単だ。壊れてしまう。

だからそんなことをしないように、自分の脳がセーブをかける。

俗にいう頭がごちゃごちゃになるその状況だ。

 

 そして、霧雨魔理沙は・・・・今まさにその状況だった。

 

「畜生・・・・・!」

 

 頭の中を巡るのは、紫の話、フランの話、咲夜の言葉、美鈴の言葉。

 

 そのどれもが・・・・・『博麗星夢』を肯定し・・・・・、

 

 

 

 『霧雨魔理沙』を否定しているようで。

 

 

 

 自分を否定されたとき、人はキレる。

理は、進む道が消えてしまい、自分の価値がなくなってしまうからである。

 

 しかし、今の場合。

 

 『博麗星夢』は肯定され、『霧雨魔理沙』は否定される。

つまり、自分が半分ずつで、割れてしまっている。

 

 精神の断絶。それは、ある意味で『霧雨魔理沙の死』を表していた。

 

 

 その状況に至った時。

 

 博麗星夢は己が全ての力を行使し。

 

 世界を滅ぼすほどの力を使うに違いない。

 

 理は。彼女・・・・博麗星夢こそ、霧雨魔理沙であるからだ。

 

 

 ごちゃごちゃと並べるのはやめよう。

 

 シンプルに、今の霧雨魔理沙はとても不安定だった。

 

 

 

「ふざけるなよ・・・・・!

私は・・・・私は・・・・・」

 

 

 霧雨魔理沙だ。

 博麗星夢だ。

 

 

「私は・・・・・・!」

 

 私は・・・・・・!

 

 

 もはや、自分の事さえ朧気になり。

 

 それでも立ち続け、その金の瞳は涙にぬれている。

 

 顔色はとても白く、一目で体調が悪いと分かるほどの白色。

 

 彼女は夜の境内に立ち尽くし、最後の答えを待っている。

 

 

 

 しかし、答えは無慈悲に。

 

 

 

 

 

 

「私は・・・・・・誰だ?」

 

 

 博麗?霧雨?

 

 

 星夢?魔理沙?

 

 

 

 

 

 

 

 お前()は一体何者だ?

 

 

 

 

 彼女はぶっ壊れた。

 

 

 

 

「誰だ誰だ誰だ誰だ私は誰だ誰だ誰だ私が私で誰だ誰だ誰だ誰だ誰だお前は私で私は誰でお前の名前は私で誰が私で貴方が私の誰で私は私で誰がお前でわたしはだれでわたしはだれでわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわ私は私は私は」

 

 

 私は・・・・・・。

 

 

 私は・・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、なんだっていいや」

 

 

 

 彼女の糸は切れた。

 

 もはや、博麗でも霧雨でもなくなってしまうほどに。彼女は殺された。

 

 自分であることを見失い、自分が誰かさえもわからなくなり、自分は何でもないと、答えを出してしまった。

 

 彼女の答えは正解でも間違いでもない。

 

 でも、そのことを教えてくれるものは『博麗星夢』には・・・・。

 

 

 

 

 

 一人たりとて・・・・・、いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・・やれやれ、全く変わっていないじゃあないか。魔理沙よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、『博麗星夢』には。

 

 

 足のない幽霊のような姿、緑色の髪の毛、魔法使いのような恰好。

 

 魔理沙はすっかり忘れていたが、彼女の始まりの人。

 

 

 名前を言うことはない。忘却の彼方に過ぎてしまった亡霊。

 

 

 だから。

 

 

「あんたは・・・・あんたは、どこまで行ったって『霧雨魔理沙』だよ。

お前が、歩みを決して止めず遠く長い道のりを、星を目指して飛びつづけるというならね」

 

 

 その、悪霊は。

 

 

 彼女を取り戻す。

 

 

 

 お前は『霧雨』だと。 

 

 言ってやる。

 

 

 その悪霊は後ろを向き、未だ何かをぶつぶつと言っている彼女にこう言った。

 

 

「あんたが、誰かは自分で決めな。

私は、お前がどこまでいったって『霧雨魔理沙』であることに何ら変わりない。

だから・・・・・自分が誰かぐらい自分で決めろよッ!博麗星夢ッ!!」

 

 

 そういった瞬間。

 

 彼女の肩がびくりとはねる。

 

 

 そして悪霊は、空気に溶けて行ってしまう。

 

 こんな言葉をを後に残して。

 

 

「またいつか、私のかわいい弟子、『霧雨魔梨沙』ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから何時立っただろうか。

 

 彼女の目に光が再び宿った。

 

 

「・・・・・そうか。あんたか・・・・・」

 

 そして何かを思い出したかのように、呟く。

 

 

 

 そして・・・・・突然走り出す。

森の中へ、何に引っかかろうと、真っすぐに真っすぐに。

 

「・・・・・・・・・私は・・・・私は・・・・・」

 

 

 うわ言のように、ずっと呟いている言葉。

しかし、その言葉には、重みが・・・・先ほどにはない、重みがあった。

 

 

 真っすぐ真っすぐ真っすぐ真っすぐ。

 

 

 

 

 まるで――――流星のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア・・・・ハア・・・・・ハア・・・・」

 

 私はずっと走り続けた。

無限にどこまでも行けるかのように。

 

 するとだ。

こんなところがあったのか?と思うほどに大きな平原に出た。

 

 こんなに大きいのに一回たりとも入ったことがない平原。

 

 果て無く続くように見えるほどの、大平原。

 

 

 ま、あり得ない。でも、ここは幻想郷だ。あり得ないことがある楽園だもんな。

 

 

 私は紺色の夜空を見上げる。

 

 空に、強く、輝くのは黄金の星。

 

 私はその星を見上げて、強く、あの光にも負けないようににらんで。

 

 

 そしてあることを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・なあ、霊夢。質問があるんだけどいいか?」

 

 昼下がり。神社の縁側で駄弁りながら私は霊夢に問う。

 

「どうせ大した質問じゃないと思うけど、いいわよ」

 

 私は、霧雨魔理沙。彼女・・・・・博麗霊夢は、博麗の巫女。

 

 

「じゃあ、聞くぞ。自分って、どこまでが自分だと思う?

見た目が変わったら自分じゃあないのか?記憶がなくなったらもう自分じゃないのか?

それとも・・・・・すべて変わってしまっても、自分が自分であることは変わらないのか?」

 

 私が問うのは、『自分』の境界線。

自分が自分であるために必要なこと。

 

「そーねーぇ・・・・・。『自分』ねえ・・・・・・

私は・・・・たぶん、自分が博麗の巫女じゃあなくなったら、自分が自分じゃなくなると思うわ」

 

 私はその答えに驚く。霊夢はそういうことなど気にしそうになかったからで、『博麗の巫女』にそれほどの想いを抱いていたなど知らなかったからだ。

 

 でも、よく考えるとそうかもしれない。『博麗霊夢』は『博麗の巫女』であるからこそ、博麗霊夢だ。

そうなると、霊夢はもう死んでしまったら霊夢ではないのか。

 

「あんたも、死んだら『霧雨魔理沙』ではなくなるでしょ?

ああ、でも魔理沙の場合は・・・・・そうね・・・・・」

 

「私の場合はなんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『星を追いかけるのをやめたとき』・・・・・・・か。

どうやら、私は『霧雨魔理沙』であることから逃れ無さそうだな」

 

 答えはもう、とっくの昔に出てきていたらしい。

私は、どこまで行っても『霧雨魔理沙』だ。

 

 

 空に浮かぶ星。

 

 ソレを見つめ、調べ、捕まえて、壊して、夢に変えて、自分が星となって、それでも。

 

 

「星を追わずにはいられない・・・・・か。なんてひどい性だよ、まったく」

 

 

 たとえ名が変わろうとも、たとえ記憶がなくなろうとも、たとえ全てが変わってしまっても。

 

 

 

 

 

 

 

「私は・・・・・・・・『霧雨魔理沙』だッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 夜空に一陣の流星が靡く。かと思うと、次々に、雨のように降り注いでいく星々。

 

 何もなく果てのない平原に、まるで堕ちているのかと錯覚するほどの落星。

 

 その幻想的な雰囲気の中で、少女は叫ぶ。

 

 

「そうだッ・・・・!

 

お前は言ったんだ!!『星を追え』と!!『星を捕まえてみろ』とッ!!

 

 

そうだッ・・・・・!

 

 

貴方は言ったんだ!!『夢を追え』と!!『星になってみろと』とッ!!」

 

 

 

 彼女は叫ぶ。自分が自分であるために。

 

 

 

 

「いいよ、やってやるぜッ!!

 

 

たとえ、幾百年かかろうともッ!!!たとえ、このすべてが朽ちようともッ!!!

 

 

いつまでも星を追い続けてやるッ!!!そしていつかッ・・・・・・・!」

 

 

 

 自分であることを叫び、自分であることを誇る。

 

 自分が『星を追い』、『星を砕き』、『星を見て』、『星を描く』。

 

 

 その金の瞳は、真っすぐに星を貫き。

 

 その体は何のゆがみもなく空を見上げ。

 

 その心は一遍の陰りもなく、それこそ星のように。

 

 

 

「いつかッ・・・・!」

 

 

 

 

 

 彼女は、夢であるから。

 

 

 

 

 

 

「いつかッ・・・・!」

 

 

 

 そう、彼女の名前は。

 

 

 

 

 

 

「星になってやる!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 『霧雨魔理沙(Star becomer)』であるから。

 

 

 

 そして、星の夢を描くものである『 博麗 星夢 (Star dream drawer)』であるから。

 

 

 

 いつまでも、いつまでも。

 

 

 

 

 

 

「私が・・・・・・『霧雨魔理沙』でッ!そして『博麗星夢』であるからッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 星を追え。『普通の星追い』よ。

 

 

 

 永遠の先でも、須臾の中でも、どこにあろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、夜が明ける。星はまた、いつか輝く。

 

 

 

 

 だから、その時まで。

 

 

 

 彼女は、夢を追って太陽の、光の下で星を描くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 星が逃げないように。

 

 

 

 

 そして夜こそ彼女は飛ぶのだ。

 

 

 

 

 星になるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はあ・・・・・やっと解ったのかい・・・・・・。遅すぎると思うがね』

 

『まあ、魔理沙・・・・今は星夢か。なら仕方ないと思うわよ。

あいつは一番近いものがわからなくて、一番遠いもののことをよーく分かってるのね』

 

 ここは博麗神社の鳥居の上。その上に二人が乗っている。

一人は先ほど星夢に助言をした、『緑髪の悪霊』。

そしてもう一人。

 

 どうやら実体は無く、幽霊か、もしくは隣と同じ悪霊か。少なくとも人ではないようだ。

紅白の巫女服、赤色のリボン、その姿はまさに博麗の巫女だった。

 

『しかし、魔理沙が博麗の巫女になるなんてねえ・・・・・・。

だーれも予想してなかったと思うがね・・・・

私でもわからなかったねぇ・・・・師匠失格かな・・・・・あんたはどうだい?分かってたかい?』

 

『私は結構わかってたわよ?

魔理沙ならやりかねないってね。まあ、なんてったって私はあいつの・・・・・星だもんね』

 

 悪霊はその言葉を聞いて頬を吊り上げる。

まさか、こいつがそんなことを言うとは思っていなかったのか。

 

 声にまで出して笑ってしまう。

 

『ハッハッハッ・・・・・!まさかお前がそんなことを言うなんてなあ・・・・。

似合わないし、お前さんは星じゃなくて、『太陽』なような気もするがなぁ』

 

 その言葉を聞いて、紅白の霊は顔も赤く染める。

この二人、どうやらそこそこ長い付き合いであるようだ。

 

 その二人をつないでいるのは『霧雨魔理沙という星』なのかもしれない。

 

『うるさいわねぇ・・・・ちょっとぐらいいいじゃない、似合わないこと言ったって』

 

『いやぁあ・・・・クックック・・・・『私はあいつの星』かぁ・・・・・ククク・・・・・』

 

 悪霊はどうやら笑いが堪えられないようだ。

紅白の霊は、表情を落として不機嫌そうにしている。

それを表すために、鳥居にかかった足を揺らし始めた。

 

『ちょっと?しつこすぎないかしら?悪霊さん』

 

『うん、うん・・・・笑いすぎたねぇ・・・・・ククク』

 

 まだ笑ってるじゃない。

そんなことを考えた、霊はその言葉を飲み込み不意に空を見上げる。

 

 その空には、雨のように降り注ぐ流れ星。

 

『・・・・・・・・』

 

『・・・・・どうしたんだい?・・・・・おお、流星か。

そういえば今日は・・・・『夢流星』の日だったかな?』

 

『夢流星?なによそれ。聞いたことないわね』

 

 唐突に見知らぬ単語を出す悪霊に、紅白の霊が疑問で返す。

その疑問を、悪霊が解き明かして見せる。

 

『なあに、はるか昔に忘れ去られた流星群の一つだ。

全く不定期に、星が落ちるように降る流星達。いまじゃあ、この幻想郷でしか、いや幻想郷でさえごく稀にしか見えないとても珍しい流星群だな。それほど珍しいから・・・・』

 

『それほど、珍しいから?』

 

 悪霊は不自然に言葉を切る。

そこを紅白の霊が聞き返すと。

 

『見ると夢がかなう、と言われているんだ』

 

 一瞬の沈黙。

それが二人の笑い声でかき消される。

 

 

『あははははっ!あいつ、分かって叫んでるのかなぁ・・・・・あはははは!!』

 

『いやぁ、魔理沙の事だからどうせ知らないと・・・・あははは!』

 

 二つの笑いは夜の闇に溶けていく。

一通り笑い終わった後、また後に残るのは静寂。

 

 ふと、もう一度、霊達は空を見上げる。

 

 

 そして空の澄んだ紺色、そして星降る世界の幻想に。

 

『ふふふっ・・・・・』

 

 笑顔を零して。

 

 

 

 

 星にエールを送る。

 

 

 そのエールは霊達だけではない。

 

 

 

 たとえば。紅魔の門主だったりとか。

 

 

「流星ですか・・・・・・あの人もこれを見て心安らいでいればいいのですが・・・・・」

 

 

 たとえば。人形の魔法使い、そして七曜の魔法使いだとか。

 

「星ね・・・・・どこか懐かしいかしら?どこで何やってるのかしら、あの馬鹿」

「星ね・・・・・あの白黒と。今日出会ったあの巫女も星使いだったかしらね?」

 

 

 たとえば。吸血鬼の姉妹だったりだとか。

 

「良いことも悪いことも八割ずつ程、ねえ・・・・。

あいつの運命は見てて飽きなそうな気がするなぁ」

 

 

「流星の日だったかしら?まあ、地下室じゃ気にならないけどねぇ・・・・。

次に遊びに来るときは、ケーキを持ってきてくれるかしらね?」

 

 

 たとえば。妖の賢者だったりとか。

 

「流星ねぇ・・・・・。あの子もあれを見て・・・・時を知ったのかしらねえ・・・・。

今の私には・・・・・必要のないことだけどね・・・・・」

 

 

 たとえば。世界の裏側だとか。

 

「ねえ!見て『月』!流星群よ!流星群!」

 

「流星群?まさか、この時期に流星群なんてあったかしら?ねえ『星』これってさあ・・・・・」

 

「ええ、たぶん、これは・・・・・」

 

「「我々、秘封俱楽部の出番ね!!!」」

 

 

 そして。

 

 

 

 陽気な悪霊だったりだとか。

 

 

『まあ、頑張りなよ。わたしゃ何時までも見といてやるからね』

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 博麗の亡霊とか。

 

 

 

『往きなさい、飛びなさい、追いなさい。

 

いつか星になるその日まで、夢を幻想に、幻想を現実にするその日まで。

 

決して、後ろを向くことなく、首を垂れることなく』

 

 

 

『星になって見せなさいよ・・・・!霧雨、魔理沙!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 星は、夢になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 これが・・・・・。



 これが・・・・・。





 俺の書きてぇ魔理沙だぁあああああ!!!!!!



 というわけで、魔理沙短編でした。


 大体の構想は、「凋何とか」さんの「スターシリーズ」に影響を受けてる・・・はずです!


 描いててすっごく楽しかったので、もしかすると連載ほっぽらかして短編書いてるかもしれませんが許してください。


 それでは。そろそろ連載を書き始めるので。そこで会いましょう。


 続きかけとか言われたら一応考えときます。





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