この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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87 ゼル帝誕生

クリスさんに神器集めを頼まれてから数日が経ったある日のこと、僕は日課である鍛錬を行っていた。

 

「今日はこれぐらいにしておくかな」

 

各武器の鍛錬を終わらす中、友奈が僕にタオルを渡してきた。

 

「海くん。お疲れ様」

 

「悪いな……というか別に毎朝付き合わなくっていいんだぞ」

 

「その……何というか海くんといる時間をもっと増やしたいなって思って……」

 

顔を赤らめながらそんなこと言う友奈。何というか可愛いな。

 

「あの私……お邪魔でしょうか?」

 

「大丈夫だよ。ゆんゆんだけじゃないからね」

 

僕と友奈のやりとりを見ているゆんゆんとクリスさん。いや、別に邪魔だとは思ってないけど……

それにしてもクリスさんが付き合ってくれるのは珍しいな

 

「どんな鍛錬をしているか気になって見に来たけど、そんなオーバーワークってわけじゃないみたいだね」

 

「無理な鍛錬をすると倒れるからね。もしかして無理をしてないか心配して?」

 

「大丈夫です。無茶しそうになったら私が止めるので」

 

「あれ?何だろう?私だけがお邪魔な気が……」

 

二人の女の子にこんなに心配されるなんて……まぁ確かに最初の頃は結構無茶をしては、死んでエリスさんに怒られたりしたけど……というかなんでゆんゆんはいきなり落ち込んでるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

ゆんゆんと別れて、僕らは屋敷に戻る途中、爆裂帰りのカズマさんとめぐみんとばったり会ったのだが……

 

「なんでカズマさん、膨れてるの?」

 

「何故か私が爆裂魔法を放った後に機嫌悪くなってるんです。カズマ、一体私が爆裂魔法を放った時に何を言ったんですか?」

 

「何もないから、別にめぐみんのことなんて何とも思ってないから」

 

「何をツンデレみたいなことを言ってるんですか。いい加減機嫌直してください」

 

一体何があったのか分からないけど、もしかしていい雰囲気になったから告白めいたことを言おうとしたら、爆裂魔法の音でかき消された的なことか?いやいや、そんなまさか……

 

「何というか色々と惜しかったんだね……」

 

「あのカズマさん、何があったかわからないですけど、元気だしてください」

 

クリスさんと友奈の二人に励まされながら、屋敷に戻ると……

 

「返してよぉぉぉぉぉ!私の可愛いゼル帝を返してぇぇぇ、わああああああああ、返してよぉぉォォ」

 

「フハハハハハ、ざまあみろ寝取られ女神!貴様の大事なペットは……こら、付いて来るではない。飼い主のもとへ行くがいい」

 

泣きながらバニルさんの背中を叩くアクアさんと、白目をむいて絨毯の上に転がっているウィズさんとダクネスさんの姿があった。一体何があったんだ?

おまけにバニルさんの足元には小さなひよこがいるし……

 

「ねぇ、カズマさん、めぐみん、僕が朝の鍛錬をしている内に何があったの?」

 

「何でこの状況になってるかは分からないが、お前がいない間に色々とあったんだよ」

 

僕ら三人が出かけている間、どうやらダクネスさんのお父さんに呪いをかけたのが、バニルさんじゃないかと話になり、事情聴取を行っていたみたいだ。まぁ呪いをかけていた悪魔はバニルさんじゃないということは知っているけど、何でそこら辺の説明をちゃんとしないんだよ。この悪魔は……

 

おまけにカズマさんの知的財産で得たお金はウィズさんが最高級のマナタイトを買ってしまい、全部なくなってしまったみたいだ。何というかもうお金関係はウィズさんに触れられない場所に隠しておいたほうがいいんじゃないのかな?

 

そしてこの状況についての説明を聞くとどうやらアクアさんとバニルさんが喧嘩している時に卵がかえり、ひよこもといゼル帝が生まれたみたいだ。だけど刷り込みの影響なのかゼル帝はバニルさんの事を親だと思いこんでいるみたいだ。

困り果てていたバニルさんはゼル帝の寝床で脱皮した。ゼル帝は特に気にすること無く皮の方のバニルさんになついていた。

 

「まさか未来で必要になるであろうマナタイトがこのような形で手に入ってしまうとは………まぁ良い。我輩はここで帰らせてもらう」

 

バニルさんは何だか気になることを言い残して、倒れたウィズさんを担いで帰っていくのであった。

 

「マナタイトが必要って……一体何に使うつもりなんだ?」

 

「さぁな。バニルがすることについては何も気にしない方が良いぞ」

 

カズマさんはさっきまでの騒ぎのせいなのか疲れた顔をしていた。そしてバニルさん達とすれ違いに銀、友海、牡丹の三人が帰ってきた。

 

「ただいま……って何?あのバニルは?」

 

「さっきまでなかったよね?」

 

二人がバニルさんの皮を見て戸惑う中、牡丹だけが何かを察した

 

「まさか本当に寝床だったなんて……」

 

まさかと思うけど、未来でもあのバニルさんの皮が残ってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなで食事を摂っている中、クリスさんがある話を切り出してきた。

 

「助手くんにはもうお願いしたんだけど、出来れば皆にも神器回収を手伝ってもらえないかなって」

 

「手伝ってやりたいのはやまやまなのだが…。すまない、クリス。前領主が捕まったため、まだ体調が回復しきってない父に代わり、私が領主の仕事を任されてるのだ。本当にすまない」

 

「いいよ、いいよ、そっちの方が大事なお仕事だし、気持ちだけでも嬉しいよ」

 

ダクネスさんは申し訳なさそうに謝ると、クリスさんは笑顔でそういった。そういえば前領主の息子はお咎めないとのことで今はダクネスさんの補佐をしているみたいだ。あんな良い人まで捕まることになったら可愛そうだし良かったのかもしれないな。

 

「私は手伝えることがあるのなら手伝いますが。でも、出来ることなんて限られてますよ?その神器とやらが悪人の手に渡ってるなら、私の爆裂魔法が火を噴きますよと脅してあげても構いませんが」

 

「あ、ありがとうめぐみん。めぐみんに頼めるような事があれば、その時はお願いするね。ええと、それで…」

 

クリスさんが期待を込めてアクアさんを見るとゼル帝を愛でていたアクアはきっぱりと告げた。

 

「残念だけど手伝えないわ」

 

てっきり協力してくれそうだと思われていたのか、全員がアクアさんの方を見ていた。

 

「お前どうせひよこに餌やってあとはゴロゴロしてるだけだろ?こん中で一番暇を持て余してるんだからちょっとくらい手伝ってやれよ」

 

「神器回収なんて後よ。私には大切なイベントが待ってるのよ」

 

神器回収より大切なイベントってなんだろう?

 

「皆は女神エリス感謝祭って知ってるかしら?」

 

女神エリス感謝祭って確か聞いたことがあるな。一年を無事に過ごせたことを喜び感謝し、幸運の女神エリスを称える祭り。毎年この時季になると世界各地で執り行われる恒例行事らしい。

 

「エリス祭りはここでもやるのですね。私たちの里でもやりましたよ。この日に幸運の女神エリスに仮装すると、次の祭りの年までの一年間を無事に過ごせるようですね」

 

僕とカズマさんはクリスさんの方を見ると、クリスさんは首を横に振っていた。どうやら迷信みたいだ。まぁ祭りってそういうものだろう

 

「エリス祭りには当家も毎年関わっているぞ。我がダスティネス家は代々敬虔なエリス教徒だ。祭りの開催にあたっては、毎年多額の寄付をしている」

 

皆がエリス感謝祭について盛り上がる中、僕はある事を思い出していた。それは文化祭での劇のことだ。文化祭を迎える前に死んでしまったから、勇者部の出し物である演劇に参加できなかったな………まぁ、あっちの神樹の中の世界で喫茶店はやったけど、やっぱり皆と演劇はやりたかった

 

「海くん………?」

 

「うん?いやちょっと色々と思い出してな」

 

演劇をやりたかったって言ったら、友奈に気にかけてしまう。あんまり思い出さないほうがいいかもしれない

 

「……………」

 

何故かクリスさんが僕のことを見て、何かを考え込んでいた。何だろう?何を考えてる?

 

するとカズマさんとアクアさんが口喧嘩をし始めた。アクアさんはエリス祭を中止してアクア祭をやるべきだとかいい始めた。そんなことしたらエリス教の人たちに怒られそうだけど……

 

「もう皆文句ばっかり言って!?それだったらめぐみんとクリスの三人で何とかしてみせるから!」

 

とんでもないことをいい始めたよこの女神は……

 


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