この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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86 海とエリス

領主の屋敷にあった神器を渡すためにクリスさんに連絡を取った僕。クリスさんに指示された喫茶店に行くと、何故かカズマさんと笑顔で固まったままのクリスさんがいた。

 

「こんな所で何やってるんですかエリス様」

 

なんでいきなり正体がバレてるんだ?いやでも、そろそろ正体がわかってほしそうにしていたから良いのだろうけど……

 

「エリス様じゃないよ、クリス様だよ」

 

「いやいや、前からちょっとは気になってたんですよ。その姿の時のエリス様は、先輩であるアクアのことだけさん付けしますよね?ダクネスやめぐみんの事は呼び捨てなのに」

 

「……私は盗ってきたお金を教会を寄付するような、清く正しい義賊だからね。アークプリーストであるアクアさんのことを呼び捨てになんて出来ないんだよ」

 

目を泳がせ、誤魔化すように頬の傷跡をぽりぽりと掻きながら無理のある事を言っていた。

 

「エリス様は困った時にそうやって頬を掻くクセがありますよね」

 

そういえばそんな癖あったな。というか素直に認めればいいのに……クリスさんは頬を掻くのをやめ、立ち上がると……

 

「………ふふ、さすがですねサトウカズマさん。いいえ、それでこそ私の助手君と言えるのでしょうか。そう、あなたの予想通りです。ある時は冒険者。またある時は義賊の頭領。またある時はダクネスの友人の一人。またある時はウミさんの精霊。しかして、その正体は………」

 

「クリスさんはエリスさんだよ」

 

とりあえずいい加減僕も盗み聞きしてないで話に参加した方がいいと思い、あっさり正体を明かすとクリスさんはがっかりしていた。

 

「なんで私が言う前に言っちゃうんですか!?」

 

「ウミ!?いつの間に……」

 

「少し前から来てたんだけど……」

 

「というかお前、知ってたのか!?クリスがエリス様って!?」

 

「うん、というかこっちに来てすぐにだけど……」

 

こっちに無理矢理に連れてきたことを思い出すと、本当に申し訳なかった。とはいえアクアさんみたいに戻れないというわけじゃなかったから良かったけど……

 

「知ってたのかよ!?いや……知ってて当然か。お前の精霊で………ん?ちょっと待て……」

 

カズマさんは少し考え込んだ。何だろう?何か嫌な予感がする。ここはすぐに立ち去るべきか……

 

「色々思い出してきたぞ……」

 

僕はやばいと思い、その場からすぐ様逃げようとしたが、その前にカズマさんに腕を掴まれてしまった。

 

「お前、俺達と一緒に屋敷に住む前ってクリスと一緒に暮らしてたんだよな」

 

「そ、そうだけど……」

 

「それってつまりエリス様と同棲していたということだよな………お前、なんて羨ましいことを……」

 

掴んでいる腕がすごく痛くなってきた。いや、そうは言うけど……

 

「一緒に住んでいたって言うけど、ほら、今だってカズマさん、一緒に住んでるじゃない。一緒じゃない?」

 

「前にバニルが言っていた胸を触ったとかっていうのは………」

 

クリスさんが思いっきり顔を真赤にさせていた。いや、それは全く身に覚えがないし、多分一緒に寝ていた時に……

 

「お前、あれは寝ぼけていたって言うけど、それってつまり一緒に寝たということだよな………」

 

胸を触ったことじゃなくって、一緒に寝たということに対して怒ってるの!!いやいやそれだったら……

 

「カズマさんだって、アクアさんと馬小屋で一緒に寝泊まりしてたんじゃ……」

 

「あのヒロイン力皆無のアクアとエリス様を比べるんじゃねぇ!!」

 

痛っ!?思いっきり殴ってきたよこの人!?というか血の涙流してるし……あぁ、もう仕方ない

 

僕らは五分位殴り合いをし、互いに倒れていた。クリスさんはと言うと思いっきり呆れた顔をしていた。

 

「あの、なんで殴り合いになったの?」

 

「カズマさんが先に喧嘩売ってきたから……」

 

「悪い、可愛い彼女がいる上、更にはエリス様とちょっとした同棲していたのが羨ましくって……」

 

「というかカズマさん、クリスさんに最初に会った時にパンツを奪ってなかったっけ?」

 

「そういえば………」

 

「カズマさんがやらかしたことがアレだけど、他の人達だったら一緒に寝るよりかはパンツ盗ったほうがうらやましがると思うけど……」

 

「それもそうだな……悪かったな。殴って」

 

「いやいいよ」

 

「というかパンツ、パンツって連呼しないでほしんだけど……」

 

とりあえずお店に迷惑をかけたので、壊した物品を弁償し、屋敷に帰りながら三人であることを話していた。

 

「ウミさんの精霊になる前以前から普通にこの世界に来ていたんだよ」

 

「もしかして神器の回収で?」

 

「それもあったけど、仲間がほしいと願ったお嬢様と友達になることかな」

 

そういえばそんなお願いをしていたと言う話を聞いた覚えがある。本当に優しい人だな

 

「なんていうかエリス様って本当に女神だな」

 

「あはは、因みにこの事はダクネスには内緒だよ。あと私の正体についても内緒にしてほしいかな。まぁ知ってるのはウミさん、助手くん、あとはヒナタくらいだね」

 

「ヒナタも知ってるのか!?」

 

ベルディアとの一戦のあとにバレちゃったんだっけ。まぁ、ひなたお姉ちゃんは内緒にしているから大丈夫だろうけど……

 

「それにしてもせっかく隠していた正体を明かすっていう盛り上がる場面なのに台無しだよ…」

 

「もうすでに嫌な予感しかしないんだけど、まさかまた神器探しに付き合えっていうんじゃないだろうな」

 

「さすが助手君、理解が早いね!えっとね、今回狙ってる神器は聖鎧アイギスって言ってね。聖盾イージスとセットの神器だったんだけど、今回鎧の方」

 

「それ以上言うな!聞きたくない聞きたくない!もう危ない橋は渡りたくないんだよ!最近はなんかめぐみんといい感じだし、ダクネスだってなんか俺を意識してるみたいだし!大金入って働く必要もないしこのままみんなとイチャつきながら退廃的な生活を送りたいんだ!!」

 

神器探しを断ろうとしているカズマさんだけど、クリスさんは祈るようなポーズでカズマさんを見つめ……

 

「サトウカズマさん、お願いです…。どうかこの世界のために協力してくれませんか…?」

 

カズマさんは黙って頷くのであった。

 

「因みに僕も協力することに?」

 

「そうだね」

 

何だかんだで神器探しの手伝いをすることになったのだった。




次回はちょこっと外伝の話をやろうかと思ったけど、外伝の話は本編が終わってからの番外編としてやることにしました。

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