この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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84 結婚式を阻止せよ

アイリスにあることを頼んでから一週間が過ぎた。この一週間、カズマさんはひたすらアイテム作りをしていた。アクアさんやめぐみんの二人はそんなカズマさんをみて、やる気にさせるために色々と説得したら単独行動をしたりとかしていたけど、カズマさんは意地になってしまって動こうとしなかった。

僕も説得に参加すればよかったのだけど、色々と準備があり無理だったけど、僕としてはカズマさんの事を信じていた。きっとカズマさんはダクネスさんを救うために動いてくれると……

 

さて結婚式はエリス教の教会で行われる。教会の中には街の有力者や近場の貴族が集まっていたが、皆好き放題喋っていた。きっとこの結婚式が茶番だということを皆知っているからだろうな。おまけに外にはダクネスさんの花嫁姿を見ようと集まった冒険者が沢山いた。みんな物好きだな……

 

「海くん、準備はできたよ」

 

「この一週間、頑張ったもんね」

 

「頑張ってくれたのはクレアさんだよ。色々と集めてくれたし……ただアクアさんに支援魔法かけてもらえなかったのは痛かったな」

 

僕らは式場の影に隠れながらそんな話をしていた。あの時かけてもらった芸達者になれる魔法があれば、僕の計画的にもかなり楽に進めたのだけど……何故かカズマさんと一緒に屋敷にいなかったし……まぁこれがあれば何とかなるかもしれないと思いつつ、手に持った鞄に目をやるのであった

 

やがてざわめいていた教会の中が静まり返った。教会の入り口から執事に手を引かれた花嫁が姿を現した。顔の目の前をヴェールで覆い俯きながら歩くダクネスは、ヴェール越しでも人目を惹きつけて離さない美しさを誇っていた。

続いて新郎であるアルダープが白いタキシードを着て入場してきた。

 

教会内のパイプオルガンが厳かな音楽を奏で始める中、僕は祭壇の方を見て驚いていた。

 

「何でカズマさんとアクアさんがいるんだ?」

 

「もしかして何かするのかな?」

 

銀と友奈の二人がそんな事を言う中、僕はちょっと嬉しくなった。ようやく動き出してくれたのか。

 

「海、嬉しそうだね」

 

「うん、海くん嬉しそう」

 

「嬉しいに決まってるだろ。きっとここからは物凄いことが起きそうだしね」

 

期待する中、祭壇の前に着いたダクネスさんと領主にアクアさんはあんまり厳かなではない声がかけられた。

 

「汝ーダクネスは。この熊と豚を足したみたいなおじさんと結婚し、神である私の定めじゃないものに従って、流されるまま夫婦になろうとしています。あなたは、その健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、おじさんを愛し、おじさんを敬い、おじさんを慰め、おじさんを助け、その命の限り、堅く節操を守ることを約束しますか?出来ないでしょう?私はこのままダクネスと帰って、カズマの料理をつつきながら、キュッと一杯やりたいなぁ……」

 

その場違いな発言に教会中の皆のギョッとした視線が、一気にアクアさんに集められた。

 

「……お、お前はワシの屋敷に来て散々迷惑をかけて行ったあの女!何を!一体ここで何をしておる!?」

 

流石の領主もダクネスさんから目を離し、アクアさんに罵声をとばしていた。ダクネスさんはカズマさんとアクアさんを見ながら、驚きの表情で口をパクパクさせていた。

 

カズマさんは驚いているダクネスさんの腕を掴み、色々と叫んでいた。

 

「バカバカうっせー大バカ女!お前の方こそ勝手にバカなことしやがって、勝手に俺の借金肩代わりしてんじゃねーぞ!!お前俺の女房気取りか!俺のことが好きならそう言えって!」

 

「誰がそんなこと言った!お前は本当に何を言ってる!大馬鹿者!!」

 

何だか口喧嘩始めたよ。今の状況わかってるのか?領主は我に返ったのか、ダクネスさんを連れて行こうとするなら借金を払えって言ってきた。するとカズマさんは鞄を掲げると、

 

「しっかり聞いたぞ、約束は守れよおっさん!おら、ダクネスが借りた金、総額二十億エリス!一枚百万のエリス魔銀貨で二千枚だ!これでダクネスはもらっていくぞ!べ、別に大好きなんてことねーよ。仲間だから、そう大切な仲間だからな」

 

「ああ!?なっ、二十億!?ああっ、待てっ、ララティーナを!ワシのララティーナを…ああっ金が!拾ってくれ!おい、拾ってくれっ!」

 

カズマさんが鞄からぶちまけたお金を慌てて拾い集める領主と参列者達、やれやれ、何だか色々と大変なことになってきたな。というかカズマさんは借金の事情とか何で知ってたのかわからない。おまけにあのお金はどう用意したのかな?まぁ今はどうでもいいか

 

「さて、僕らも行きますか」

 

「えっ、これぶちまけなくっていいの?」

 

「せっかく用意したのに?それに海くん、嬉しそうだよ」

 

「計画がちょっと変わったけど、公開する予定は変わらない。というかそんなに嬉しそうか?」

 

友奈と銀の二人が同時に頷くのであった。まぁようやくカズマさんらしくなってきたから嬉しいのかな?

僕らはカズマさん達と合流すると……

 

「いつもの調子に戻ったんだね。カズマさん」

 

「ウミ!?それにユウナ!?ギン!?お前らまで来てたのかよ!?」

 

「僕らもダクネスさんを助けるために頑張ってたんだけど、やっぱりカズマさんがやらないとね」

 

「そんな褒めんじゃねぇーよ」

 

「ちょ、ちょっと待てお前ら!誰がこんなことをしてくれと言った!貴様達は、私の覚悟を何だと思ってる!それにこの大金は一体どうしたんだ!?」

 

未だに文句を言っているダクネスさん、いつまで意地を張ってるのやら……

 

「人を助けるのに理由なんてないでしょ」

 

「そうそう私たちは勇者部だからね。理由なんてなくても人助けはしないとね」

 

「その勇者部っていうのに私も入ってるの?まぁでも面白そうだから良いけどね。というかお金は本当にどうしたの?」

 

「大金は俺の思いつく限りのすべての知識と権利を、全部売っ払ってきた。それに合わせて、今まで貯めた討伐賞金もひっくるめたら、ちょうど二十億エリスになった。もう売っちまったもんは仕方ない。買い戻すことも出来ないからな」

 

僕らの言葉を聞いてダクネスさんは、困った様な嬉しい様な、泣き笑いみたいな不思議な表情を浮かべ、それでも何かを言い続ける。

 

「そんな事までして、お前は…お前と言う奴は…っ!私は、私は…っ!」

 

「ガタガタガタガタ、いい加減にしろよコラッ!もうお前に拒否権はねーんだよ!これ以上口答えするんじゃねー!もう領主のおっさんからお前を買ったんだよ!お前はもう俺の所有物になったんだ!いいか、これから散々酷使してやる。だから、俺がはたいた金の分、身体で払ってもらうから覚悟しろよ、このど変態クルセイダーがー!!分かったら返事をしろ!!」

 

「ふぁ、ふぁい」

 

衆目の中で思いっきり怒鳴りつけられたダクネスさんの顔は恍惚としていた。多分ご褒美なんだろうな

 

「はぁ…はぁ…か、買われてしまった。貴族の私がこの男に!まさか、か、身体で払えとは…!しかもこの状況は……式場からお姫様抱っこでさらわれるだとか……まるで、まるで……」

 

カズマさんに抱きかかえられたダクネスさんは思いっきりよだれを垂らしていた。そりゃシチュエーション的にいいけどさ……

 

「さすがや鬼畜のカズマさん!肩代わりしてもらった壊した建物の借金を返しただけなのに、なぜかダクネスを買い取った状態に!ねえカズマ、ダクネスに身体で払ってもうなんてめぐみんが聞いたら爆裂魔法を叩き込まれるわよ?気をつけてね?」

 

「なんでめぐみんに!?」

 

確かにめぐみん辺りに怒られそうだな。というかめぐみん、友海、牡丹の三人がいないのがちょっと気になるな。一体どこで何をやってるのやら……

 

そんなことを思っていると、ダクネスさんは色々と吹っ切れたみたいで、取り押さえようとしてくる領主の部下たちに立ち向かい、アイアンクローをぶちかましていた。

 

「なんで助けてもらったやつが率先して突っ込んでいくだんよ!アクア、支援魔法お願いします」

 

「任せなさい!芸達者になる魔法はいるかしら?」

 

「頼む、あれはいいものだ」

 

あの魔法をつかうというなら、とうとうこれの出番だな。

 

「アクアさん、僕にもお願いします。カズマさん、領主の声でごにょごにょごにょ」

 

「そ、そんなこと言って良いのかよ」

 

「そのための準備は完了してる」

 

「わ、分かった」

 

カズマさんの了承も得られたことだし、早速適当な声で……

 

「アルダープ様、申し訳ありません。王女様の暗殺に失敗しました!!」

 

別人の声を使ってそう叫んだ瞬間、式場にいた全員が領主の方を見ていた。

 

「な、何を……」

 

「馬鹿者!!ジャスティス王子に送ったあの体を入れ替える神器を使って、ララティーナと結婚する計画を台無しにしたあの小娘を殺せなかっただと!」

 

「だ、騙されるな!?そいつらが……」

 

「証拠ならあるんだよ!!」

 

僕は持ってきていた鞄の中から何十枚ものの紙をぶちまけた。それは今まで領主がやってきた悪事の数々だった。

 

「な、なんでそれが!?マクスのやつに……」

 

「悪いけどこっちには色々とコネがあってね」

 

悪魔の力が関わっている以上は悪事の証拠を集めるのは難しい。でも証拠がなければでっち上げればいい話だ。クレアさんにもそこら辺の許可を貰ったし、セナさんにも協力を頼んどいた。

 

おかげで領主の部下たちの動きが止まった。あとはこのまま逃げれば……

 

「えぇい!!証拠がどうのとか言いおって!!貴様らを捕まえれば何とか成る!!お前ら!捕まえろ!!」

 

強硬手段か。それだったらこっちも一気に全滅させてやろうか……

 

「ライト・オブ・セイバー!!」

 

満開を発動させようとした瞬間、聞き覚えのある声とともに教会の壁がドアごとゴトンと倒れ、外の眩しい陽の光を背に、二つの影が立っていた。

 

「めぐみん、やったわよ!私、やってやったわ!めぐみんが大親友の私にしか頼めないって言ってたから協力してあげたんだからね」

 

「はいはい、ご苦労様ですゆんゆん。さすが私の大親友ですね。あとはもう帰って、ウタノたちと農業でもやっていてください」

 

「えぇ!?」

 

「めぐみん師匠、ほら、皆注目してるよ。セリフセリフ」

 

「何だか犯罪行為に加担したってお母様に知られたら……はぁ」

 

何故かめぐみん、ゆんゆん、友海、牡丹の四人が駆けつけてくれたけど、めぐみん、その杖の先端に溜まっている魔力は、もしかして……

 

「悪い魔法使いが来ましたよ!悪い魔法使いの本能に従い、花嫁をさらいに来ました」

 

めぐみんの一言で、カズマさんの見せ場がなくなった気がするのは気のせいだろうか?

 

 

 

 

 


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