「戻ってこれたのか?」
気がついたら真っ暗な空間に見覚えのある椅子が二つあった。ここはいつもエリスさんが死んだ人を導く場所だよな
「帰り道を用意してくれたのはいいけど、此処から先どうすればいいんだよ」
突然あんな場所に飛ばされ、まぁ色々と大変な目に目に遭ったけど、色々と実りのある体験をできたのはいいとしよう。
「エリスさんに頼めば帰れるって言われたけど、その本人が留守みたいだしな…」
何もない場所だし、ただ待つだけというのも暇だな~折角だからエリスさんの椅子に座って待ってるか
試しに座ってみたけど特に面白みないし……早く帰ってこないかな?僕がいない間みんな大丈夫だったか心配だしな……
そんなことを思っていると、上から光が照らされた。もしかして誰かが死んでやってきたのかな?エリスさんが戻ってこないし……こういう時は……
「勇者よ!何故もがき生きるのか?滅びこそわが喜び。死にゆくものこそ美しい。
さぁわが腕の中で息絶えるがよい!」
とある大魔王のセリフを言ってみた。
「ウミ、お前、何してるんだ?」
複雑そうな顔をしているカズマさんがそんなことを言っていた。まさかやってきたのがカズマさんだったなんて……
「いや、暇で……エリスさんなら留守だよ」
「暇つぶしに大魔王ごっこやってんじゃねぇよ!!というかお前がいない間大変だったからな!!ユウナは物凄く心配してたし、俺達はメチャクチャやばい魔物と戦う羽目になったりとか……」
「ご、ごめん。こっちも色々と合って……」
「まぁ、そこら辺はヒナタから聞いてるから分かってるけど……俺が怒ってるのはまた死んでエリス様に会えると思ってちょっと期待したら、仲間の一人が大魔王のポーズをしながら出迎えてくれたガッカリ感!!俺の期待を返せ!!」
「ご、ごめんなさい」
怒ってるのはそっちだったか。いや、僕だってカズマさんが来るとは思ってもなかったし……
「あのーおふたりとも何をしてるんですか?」
カズマさんに胸ぐらをつかまれていると、エリスさんが困った顔をしながら僕らのことを見ていたのだった。
「ウミさん、おかえりなさい。ある程度の事情はあちらのひなたさんから聞いてます。それとカズマさんも、お気の毒に……」
「いや、そんな気の毒とか……というかダクネスの奴はなんだってあんな魔物を退治しようとしてるんだ?」
「そんなにやばい魔物なの?」
カズマさんの話を聞く限りでは本当にとんでもない魔物みたいだ。でも、ある程度の魔物ならめぐみんと友海がいるからほぼ一撃じゃないのかな?
「クーロンズヒュドラって奴でな。首が八本あるドラゴンなんだけど、めぐみんと友海の爆裂魔法と爆裂勇者パンチで消し飛ばしても、再生しやがって……」
かなり面倒な相手だな。でも頑張れば倒せそうだな。
「カズマさん、生き返ってもダクネスの事を責めたりしないでくださいね。今回はあの子が無理を言って行ったクエストですから、きっとカズマさんが死んだことに対してショックを受けてるかもしれませんし……」
エリスさんは慰めるように話していた。それにしてもエリスさんのときとクリスさんの時とは本当に違うな……別人みたいだ
「いや、別に責めたりとかしないですよ。そういえばエリス様ってこっそり地上に降りて遊びに行ってるんですよね。ウミの奴、あんまり精霊状態のエリスさんを出したりとかしないんで、本当に会えるのが死んでからっていうのがちょっと残念で……アクセルの街に遊びにこないんですか?」
いや、エリスさんってクリスさんの時でも結構忙しいから、精霊状態で呼び出すのが申し訳なくって……
「実は言うと何度も会ってますよ。そろそろ気づいてもいいと思っていますが……でも、気づいたらウミさんが怒られちゃいますね」
「ん?今なんて?」
カズマさんがエリスさんの地上での姿について予想を立てるけど、どれも正解じゃなかった。
というか性格がぜんぜん違うけど、見た目が少し似ていると思わないのかな?
「ウミは知ってるのか?」
「うん、知ってるけど………言ったら怒られそうだからやめとく」
言ったら一緒に寝たこととか話すことになるから止めといたほうがいいな
『ねー、カズマー、カズマさーーーん、蘇生が終わったから戻ってきてー!酸っぱい匂いのダクネスが物凄く落ち込んでんの!』
アクアさんの声が聞こえ、ようやくあっちに戻れるみたいだな。
「それではカズマさん、今度は地上での姿で会えるように心から願っていてください。ウミさんもユウナさんに心配かけてごめんねと話すようにしてくださいね」
僕らはエリスさんに見送られながら帰還するのであった。帰還する時に薄っすらエリスさんの右頬に白い筋が浮かんでいたけど、カズマさん、アレに気がついていたらかなりのヒントになるな
「ようやく戻ってこれたな」
元の世界に戻ってきて、ちょっと安心している僕、すると何故かめぐみん、銀、友奈、友海、牡丹の五人が僕を見て驚いていた。
「いきなり戻ってこないでください!!びっくりするじゃないですか!」
「ごめん、あとただいま」
「ひなたさんから話は聞いてたけど、何だか大変だったみたいだね」
「まぁね」
僕は友奈の方へ行き、そっと頭をなでた。
「ただいま。友奈」
「うん、おかえりなさい」
笑顔で返してくれる友奈。何というかこうやって触れ合えるのはいいな……
「おい、いちゃついてないで、この落ち込んだダクネスをどうにかしてくれ」
酸っぱい匂いを漂わせながら全裸のカズマさんがそんなことを言うのであった。
酸っぱい匂いを漂わせたカズマさんとダクネスさんは先に屋敷に戻り、僕らはギルドで報告をし、ヒュドラとの戦いについて話し合うことになった。
「爆裂魔法クラスの火力二発に耐えきれるってかなりやばい奴じゃないのか?」
「いえ、耐えきったというよりもタイミングが合わなかったと言うべきでしょうね」
「うん、師匠と同時に攻撃を当てられていたら勝てたかもしれないけど……ごめんなさい。めぐみん師匠。私がタイミング合わせておけば……」
「いいえ、ユミのせいではありません。それに一撃で倒す必要はありません。ヒュドラの再生に必要な魔力を尽きさせれば何とか出来るかもしれません」
持久戦になるな。現状のメンバーだけじゃ結構キツイかもしれない。
「でも海おじ様が戻ってきたのであれば、何とか出来るのでは……」
「そうだよ!満開と切り札を使って……」
「使って再生力を尽きさせることが出来たらいいけどな……」
おまけに首が8つあるというのだ。それだけでも結構厳しいな。でも、やるとしたらもう少し人数がほしい。大人数で挑んでヒュドラの注意が散漫になっていれば、あっちで使えるようになったあの武器と能力で何とか出来るかもしれないな
「今はカズマさん達の判断に任せよう。それにそんな危険生物だったら王都から兵士が送られてきて眠らせたりとか……」
「ねぇ、ちょっと皆、これ見て」
慌ててアクアさんが持ってきたのは手配書だった。その手配書には銀髪盗賊団と国防仮面の名前が書かれていた。
アクアさんが慌てていた理由を聞くと、王都でこの盗賊団騒ぎのせいでヒュドラ退治に増援を送ることが出来ないらしい。おまけにその盗賊団は街のかなり凄腕の占い師が占った結果、この街に入るらしいとか……
何だかかなり厄介なことになってきたぞ