「あの何があったんですか?」
勉強の時間を終え、僕らに会いに来たのであろうアイリスはダクネスさん、ひなたお姉ちゃん、アクアさんの目の前で土下座させられているカズマさんを見て驚いていた。
「何というか友海にみんなの呼び方を教えたのはカズマさんだったみたいで……」
「だってカズマおじちゃんがそう呼べって言ったんだよ」
「そうだけどここにいる時は呼んじゃ駄目だからね」
友奈は友海の頭をなでながら注意するのであった。カズマさんからしてみればちょっと誂おうとしたのだろうけど、結果的には土下座するハメになるなんて……
「あ、あの海おじ……海さん、聞きたいのですが……どうしてお母様が二人いるのですか?」
牡丹が不安そうにそんなことを言ってきた。まぁ確かに東郷と須美の二人がいれば牡丹からしてみれば不安にもなるな。
僕は簡単に二人のことを説明し、牡丹は説明を聞き終えて安心するのであった。
迎えも来たことなのでそろそろ帰らないといけなくなり、アイリスはせめてお別れの晩餐会を開いてほしいと、精一杯のわがままに応えることになった。そんな中僕は晩餐会が始まるまでの間、少し外へと出るのであった。
「さてここらへんでいいかな?」
僕は端末を取り出し、エリスさんに連絡を取るのであった。この世界では端末で連絡をとりあうことは出来ないのだが、僕の精霊であるエリスさんとなら連絡くらいは出来るだろうと思ったのだが……
「やっぱり無理か……」
連絡はやっぱりできないか。皆みたいに精霊を出したりも出来なそうだし、諦めかけた時だった。
「どうしたの?急に呼び出して?」
突然上からクリスさんが降ってきた。何?神様だから上から登場するものなのか
「何で上から?」
「あはは、急に呼び出されて慌ててやってきたんだよ。でもウミさんが王都にいるなんて吃驚だよ」
「いや、クリスさんもしばらく忙しいって言って屋敷に戻ってこなかったけど、こっちにいたの?」
「うん、女神の仕事でね……それで急に呼び出してどうしたの?ただ世間話をするために呼び出したんじゃないよね?」
「うん、ちょっと気になることがあって……」
僕は王都にある御神木について話した。するとクリスさんは……
「やっぱりウミさんも気がついたんだね。あの御神木が神樹と似ているって……ううん、似ているんじゃなくって同じなんだよね」
「同じって……というかクリスさんは御神木のこと知ってたんですか?」
「知ってるよ。こっちに御神木って呼ばれるものがあるっていうことはずっと前から」
「あの御神木は一体何なんですか?それに神樹と同じって……」
「あの御神木は神樹の一部がこちらの世界に流れ着いて育ったものなんだよね」
クリスさん曰く、神樹が女神の結界だけではバーテックスの進行を防げないだろうと思い、自分の欠片をこっちの世界に送り込んで、結界を強化させているみたいだ。更に人々に祀り上げられたため、王都周辺でのバーテックスとの戦いの際には御神木が冒険者や兵士たちに力を与えて、バーテックスと戦えるようになったらしい
「まぁ、御神木に危害が加わったら、結界の強化はなくなってものすごい数のバーテックスがこの世界に来るかもしれないけどね」
「なるほどね………あぁ、それとその御神木を通ってきたのか未来の僕の子供が来てるんだけど……」
「なにそれ?」
「神樹が造反神に対抗するための戦力として連れてこられたみたいなんだよね」
「ウミさんの子供ね……アクセルの街に連れて帰るんだよね。だったら会えるのはアクセルに戻ってからかな?」
「何で?今からでも……」
「ごめんね。まだ王都でやるべきことがあって……」
クリスさんはそう言って何処かへ走り去っていくのであった。クリスさんのやるべきことって何なんだろう?
晩餐会の時間になり、僕らは参加しているのだが、
「ねえカズマ、これすごく美味しいわよ!この天然物の野良メロンに生ハムを乗っけたやつ!」
「カフマカフマ、ほれもおいひいれふよ。…んぐっ。酢飯に乗せた高級プリンにわさび醤油をかけた料理です」
晩餐会には他の貴族が参加している割にはいつも通りなアクアさんとめぐみん。何だか恥ずかしいようないつも通りでほっとするような……
「パパー料理美味しいよ~」
「そっか良かったな」
嬉しそうにする友海の頭をなでてやると、僕は何だか苛ついているカズマさんに声をかけた。
「どうかしたの?」
「いや、何だかアレを見ていてイラッてきて……」
視線の先には貴族の男性たちに囲まれているダクネスさんの姿があった。
「気に食わないって感じ?」
「そう……なのかな?」
「というかカズマさんって………ん?」
「どうした?」
僕は見覚えのある人を見つけた。何だろうあの頭が薄く大柄で太った男……
「ねぇ、カズマさん、あの人知ってる?」
「あれってアルダープじゃないか?」
アルダープ、アルダープ………あぁ、あのアクセルの領主で、屋敷が爆発した人か……未だに屋敷が直らないから王都にある別邸にでも住んでるのか?それにしてもやっぱり何だかあのアルダープを見ていると苛つく……
「お前、何で急に苛ついてるんだ?」
「何でだろう?あの人を見ていたら急に……疲れてるのかな?先に部屋で休んでる。友海、友奈の所に行ってな」
「うん、分かった」
僕は晩餐会を途中で抜け出し、部屋に戻るのであった。
しばらく部屋で休んでいるとドアの向こうからノックが聞こえ、ドアを開けるとどうやら訪ねてきたのはアイリスだった。
「途中姿が見えないのでカズマお兄様に聞いたら部屋に戻ったって……」
「あー、なんか心配かけてゴメンな」
「いえ、もしかして気分が優れない中晩餐会に参加してくださったのかなと思って……でも、顔色良さそうですね」
「あぁ」
流石にアルダープを見ていたら凄く苛ついてきたからって言うのはやめとこう。失礼すぎだろうって怒られそうだな。
「そういえばカズマさんと何か話したのか?」
「はい、寂しくなりますって、それと巷で噂になっている義賊の話をしたり……」
「義賊?」
「はい、何でも、評判の悪い貴族の家に侵入し、後ろめたい暗い方法で溜め込んだ資産を盗んでいく盗賊がいるらしいのです。そして貴族が被害にあった次の日には、エリス教団の経営する孤児院に多額の寄付金が置かれているらしく…。それでその盗賊は、義賊扱いをされているのです。それを話したらカズマお兄様、急に叫び出して……」
「何だか嫌な予感が……」
まさかと思うけど義賊を捕まえて、城に住み込もうとしてるのかな?そういう時のカズマさんって空回りして失敗しそうな気がするけど……だけどちょっと気になるのが例の義賊だ。まさかと思うけど……
「カズマさんには明日あたり話を聞くとして、ちょっと気分転換に夜風にあたってくるね。アイリスも疲れただろうから休みな」
「はい」
アイリスと別れて、僕はまた外へと出て人目の付かない場所に行き、エリスさんを呼び出した。
「そう日に何度も呼び出してどうしたの?」
「ちょっと気になることを聞いて、さっき王女様から聞いたんだけど、巷で噂の義賊について何か知ってる?」
「ぎ、義賊……う、うん、聞いたことが……」
この反応、やっぱりか。僕はクリスさんの腕を掴んだ。
「何?こんな人目がつかない所で……ユウナさんって言う人がいるのに、君は……」
「誤解を生むようなことを言わないでほしいんだけど、ただ例の義賊、クリスさんでしょ?」
「な、何のこと?」
「クリスさんって困ったときに頬の傷を撫でるくせあるよね」
「あ、あはは、えっと……警察に突き出したりとかは……」
「事情を聞いてからだね」
クリスさんは諦めたかのようにため息をつき、エリスさんの姿に変わった。
「私はウミさんの精霊になる前よりずっとクリスとしてたまにこちらに来ていたのは知ってますか?」
「うん、そんな話聞いた覚えがあるよ」
「どうして女神である私がそんなことをしているかは理由は2つあります。一つは信仰心が強い彼女と友だちになるため」
彼女ってもしかしてダクネスさんのことだよね。本当に優しい人だなクリスさんは……
「そしてもう一つが何らかの形で無くなってしまった転生者の特典……神器の回収をしています」
「神器……ミツルギが持っている魔剣とか、僕が持っている白月みたいなものですか?」
「はい、そしてこの王都に二つの神器があります。それも調べると貴族の手に渡ったとか……神器はそれはもう強力です。良からぬ考えを持つ人に渡れば……」
「面倒なことになると……因みにお金を盗んでるのは?」
「えっと……後ろめたいお金だから……義賊らしくですね……」
「事情はわかりました。多分だけどカズマさんがどこかの屋敷に張り込んで捕まえようと思ってるから気をつけて下さい」
「分かりました」
僕とエリスさんは別れるのであった。それにしても神器か……さて手伝うべきかどうか……