この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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今回、ゆんゆんSIDEとカズマSIDEでお送りします


65 ゆんゆんの戦い

ゆんゆんSIDE

 

ウミさん達が里へと向かうのをただ見届けるしかできない私。だけどぶっころりーさん達、対魔王軍遊撃部隊が旅の人たちだけに任せていられないと言い出し、里へと向かった。

私も行くべきかと思った瞬間、ローブを誰かに掴まれ、振り向くとめぐみんが不安そうな顔をしていた。

 

「ゆ、ゆんゆん……」

 

「どうしたのめぐみん?めぐみんも行くんでしょ」

 

「いえ、いや、私も行きますよ。きっとウミが残れと言ったのは爆裂魔法が効くかどうか分からないからだと思い。ですが、試してみないと分からないじゃないですか………じゃなくって、こめっこ見ませんでした?」

 

「こめっこちゃん?めぐみんのお母さんたちと一緒じゃないの?」

 

「いえ、一緒じゃないみたいです。まさかと思いますが……まだ家に……」

 

いつになく不安そうなめぐみん。妹のことになると人一倍不安になり、人一倍頑張れるようになるのがめぐみんだ。そしてそんなめぐみんの友達……なのかどうかは置いといて、そんなめぐみんのために頑張れちゃうのが多分私なんだと思う

 

「それだったら行こう。私も行くから!!」

 

「はい!!」

 

わたしとめぐみんはこめっこちゃんを探しに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る里には魔王軍兵士やバーテックスが群がっていて、破壊の限りを尽くしていた。なるべく戦闘は避けるべきと思い、隠れながらこめっこちゃんを探すがどこにも見当たらない。

見つからないことでより一層不安になっていくめぐみんを見ながら、私は元気づけていくとバーテックスを撃退するフウさんとウタノさんとダクネスさんと合流した。

 

「めぐみん、ゆんゆんもどうしたんだ?」

 

「海くんに待っているように言われなかったっけ?」

 

「実は………」

 

「こめっこがいないんです。きっとこの里の何処かに今も……」

 

事情を説明しようとすると、めぐみんが代わりに説明した。するとめぐみんの様子を見てフウさんがそっとめぐみんの頭をなでた。

 

「妹のために……か。めぐみん、思い出して、自分の妹がどこにいるのだろうかって、姉だったら分かるはずよ」

 

「姉なら………」

 

フウさんの表情はこんな状況でも優しげだった。前にウミさんからフウさんにも妹がいることを教えてもらった。きっと今のめぐみんの気持ちを一番良く分かってくれているはずだ。

 

「こめっこはまだ幼いですが、何事にも動じない神経を持ち合わせています。もしかしたら家でまだ眠っているのかも……」

 

「それだったらめぐみんの家に行きましょう」

 

「それだったら道を一気に切り開くよ!」

 

ウタノさんが鞭を大きく降ると同時に前にいたバーテックスを薙ぎ払っていく。強化されたとはいえ、バーテックスをほぼ一撃で倒せる勇者の力は本当にすごい

 

フウさんとウタノさんが前に出て敵を倒していき、ダクネスさんが私達を守ってくれていた。私達がめぐみんの家にたどり着くとめぐみんは直ぐ様家に入ると、

 

「あら、こんな所にあの坊やの仲間とムカつく紅魔族がいるみたいね」

 

シルビアとバーテックスの群れに見つかってしまった。めぐみんがこめっこちゃんをちゃんと保護できるまで時間を稼がないと………

 

「くっ、来い!シルビア!私が相手だ!」

 

ダクネスさんが剣を構えながら、シルビアに向かって叫ぶがシルビアは退屈そうに告げた。

 

「さっきから生物兵器との戦いを見ていたけど、あんたただ硬いだけのクルセイダーじゃない。あんたみたいな奴を相手するのは骨が折れるわ。放って置いても良さそうね」

 

「くっ、こんな状況で放置プレイとは……」

 

「ねぇ、歌野。あの男女って魔法系は効かないのよね」

 

「イエス!魔法系が効かないけど、私たちには関係ないということだね」

 

フウさんとウタノさんが武器を構えながら、シルビアと戦おうとしていた。そっか、勇者の力なら魔術師殺しなんて関係ない。それなら勝てるかもしれない

 

「そんな甘く行かないわよ!生物兵器共!そいつらの相手をしなさい!!」

 

シルビアの指示を聞き、バーテックスがフウさんとウタノさんに襲いかかってきた。バーテックスに妨害されてしまったら…………

 

「さぁ、どうするお嬢ちゃん?貴方も他の紅魔族みたいに逃げ出すのかしら?」

 

「いいえ、逃げ出しません!!我が名はゆんゆん! アークウィザードにして上級魔法を操る者! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、やがてこの里の長となる者……!」

 

この場は私が頑張るしかない。それにめぐみんにたまには格好良いところを見せないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマSIDE

 

謎の施設にて魔術師殺しを破壊できる兵器について調べている俺たち、急がないといけない状況なのだが………

 

「………なぁ、アクア。日本語で書かれていたということは、魔術師殺しもそれを破壊できるレールガンを作ったやつって……」

 

「転生者みたいね………」

 

俺らは呆れながらそんなことを話していた。いや、呆れるのも無理はない。だって書かれている内容を簡単に説明するとしたら……

 

・魔王軍の目的である世界を滅ぼしかねない兵器は、製作者が作ったゲームガール。製作者はおもちゃを作っていたことを上司にバレないようにするため、世界を滅ぼしかねない兵器だと嘘をついた。

 

・魔王軍に対抗できる兵器を作れと言われたので、適当に魔法に強い兵器でいいんじゃねと言ったら、それが認められ、そこら辺にいた犬をモチーフにしたら、上司達に蛇だと思われた。自分で見返すと蛇にしか見えなかったとか……

 

・魔術師殺しを作ったのはいいけど、バッテリーがもたない。どうせ誰も使うことが出来ないし放置することになった。

 

・実は紅魔族は魔王軍に対抗するための新兵器……いうなれば改造人間だった。シリアスな展開になると思ったら、意外と改造人間になった人々はノリノリだったりとか……

 

・紅魔族が魔術師殺しに対抗する兵器を作って欲しいと駄々をこねたので、適当に魔力を圧縮できる兵器『レールガン』を作ったとか……

 

「というかこの文字見覚えがあると思ったら、こいつがデストロイヤーを作ったのかよ!?」

 

「何だか本当に適当ですね」

 

流石のひなたも呆れていた。そりゃそうだろ。デストロイヤーの時の日記も今回の日記も読む限りバカとしか言いようがない

 

「それでそのレールガンって何処にあるの?」

 

「ミト。お前は見てないのか?ここの服屋の人に物干し竿として使われていたぞ」

 

「………この世界の人には使い方がわからないからですよね」

 

ミト、無理をすることはない。突っ込んでいいからな。重要な兵器を物干し竿に使うなって……というか今になって思い出したぞ。最初にウミが銃を使った時にめぐみんは、物干し竿ですか?って言ったのを………

 

「とりあえず取りに行くぞ!」

 

俺はみんなにそう言って、レールガンを取りに行こうとした時だった。

 

「ちょっと待った。こっちの日記も読んでもらっていいかしら?」

 

ヒサメが一冊の日記を俺に渡してきた。これってあの転生者が書いたものじゃないのか?また馬鹿げた内容じゃないのかと思いながら日記を読み始めた。

 

『どうやらあの研究者は転生者……おまけに私がいた世界とは別の世界の転生者みたいだ』

 

ん?何だろ?この日記を書いた人はまるで……

 

『この世界の住人は魔王に対抗するために頑張っているが、私としてはいつかの未来に奴らがこの世界に訪れるという可能性を考えた。頂点に対抗できる勇者がそんな簡単に来てくれるわけないと思い、それに変わるものを考えた』

 

頂点って、それに勇者って……

 

『紅魔族は高い魔力を持っている。私は他の研究者に内緒で紅魔族にある能力を授けることにした。私がもらった特典の力は、思い浮かべた力を他者に渡すというもの。私は紅魔族に頂点を倒せる力を渡した。この力は世代を超えて引き継げるようにした。さて、次は国家予算をかけて作り上げる大型機動兵器にこの力を授けなければ…………』

 

「…………この日記……」

 

「ウミさんがいた世界の人のものだよね」

 

「この人が紅魔族にバーテックスを倒す力を……」

 

「頂点……バーテックスのことだよね」

 

まさかの衝撃の事実を聞いてその場にいた全員が静まり返った。そんな中、アクアだけがあることに気がついた。

 

「ねぇ、ねぇ、この大型兵器ってアレよね」

 

「アクア、こんな時に言うなよ。この人は本当に平和のために頑張っていたんだ。なのに………」

 

大型機動兵器………デストロイヤーがバーテックスに対抗するための物だったんだよな。でも、あんな結果になってしまったのか………

 

「これで色々と合点がいった。紅魔族がバーテックスを倒せる理由はこういうことだったのね」

 

ヒサメがそう呟き、施設を出ていこうとした。

 

「詳しく調べたいけど今は魔王軍をどうにかしないとね。早いところレールガンを取りに行きましょう」

 

俺達は施設を後にし、レールガンを取りに行った。レールガンは特に問題なく回収でき、シルビアがいる場所へとたどり着くとそこにはボロボロのゆんゆんがシルビアと対峙していた。俺たちは眠たそうなこめっこちゃんの手を握りしめためぐみんに駆け寄った。

 

「めぐみん、どうなってるんだ?」

 

「か、カズマ、兵器は取りに行けたんですか?それだったら今すぐゆんゆんを助けてください!?」

 

まさかと思うが、シルビアと戦っているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆんゆんSIDE

 

魔法が本当に効かない。攻撃魔法はおろか相手の動きを止める魔法すら効かない。

 

「あらら、お嬢ちゃん。ここで終わりかしら?いいのよ。他の紅魔族と同じように逃げ出しても………」

 

「はぁ、はぁ、」

 

「あぁそうだったわね。あなた自分で冒険者カードを見せたものね。貴方のスキルの中にはテレポートがなかったわね」

 

シルビアはニタニタと笑っていた。こんなことなら戦わなければよかったなんて思いが出てきた。でも………

 

「私はウミさんとの模擬戦で35勝56敗9分してるんです」

 

「何言ってるの?もしかして怖くなって狂ったかしら?」

 

「35勝している理由は………殆どがウミさんが見せた隙をついたものです」

 

私はある魔法を詠唱し始めた。シルビアは特に警戒する様子もなくただただつまらなそうにしていた。

 

「私の隙をつけるものかしら?」

 

「だけど一回だけ、物凄いずるいことをしました」

 

私はある場所に狙いを定めた。

 

「インフェルノ!!」

 

私はシルビアではなく、シルビアの周りを囲むようにインフェルノを放った。シルビアはがっかりした顔をしているけど……すぐに異変に気がついた。

 

「私の周りを囲んで……酸素を奪おうとしているのかしら?」

 

私はシルビアの問いかけに答える事無く、次の準備に入った。

 

「だけど私は魔王軍幹部。この程度の炎……消し去ってくれるわ!!」

 

魔術師殺しを大きく振り、囲んでいた炎を消し去った。普通なら膝をついて諦めかけるところだけど、私はシルビアの目の前まで一気に移動し、

 

「ライトオブセイバー!!」

 

「なっ!?」

 

光の刃でシルビアを吹き飛ばした。この戦法は一度だけウミさんに使ったことがある。目の前の脅威に対処していれば、否が応でも隙が出来る。一回きりだったけど……上手くいった……

 

「ふふ、アハハハハハ、今のは驚いたわ。今のは喰らっていたら魔術師殺しに多少はダメージがあったはずだけど………」

 

吹き飛ばされたシルビアの後ろにはバーテックスがいた。まさかバーテックスをクッションにしてダメージを和らげたというの?

 

「いいものを見せてもらったわ。お礼に……」

 

シルビアは腕を掲げた。もう魔力も残っていないし、体力もない。後ろを向くとぶっころりーさんとそけっとさんがこっちに向かってきていた。そして心配そうに見ていためぐみんを見た私は………

 

「めぐみん、格好良い所見せられなくって………ごめんね」

 

「生物兵器よ!そこのお嬢ちゃんを食らいなさい!!」

 

バーテックスが私に向かってきて、大きくを口を広げた。もう駄目かと思い目を閉じた。

 

「いいや、ゆんゆん。最高にかっこよかったよ」

 

その声が聞こえた瞬間、目を開けるとバーテックスが一瞬の内に切り刻まれていた。

 

「必殺!勇者乱舞弐式!!」

 

そう呟くのは、大鎌から白い刀に変える一人の男の子だった。

 

「あら、今度は坊やね。あなたとならいい勝負出来るわね。いいわ、貴方を強敵と認めてあげる。名前を教えな………」

 

「黙れよ。クソ野郎!!人様の故郷を破壊し尽くし、うちの仲間の大親友を傷つけた奴には僕の流儀は関係ない。そういったクソ野郎には問答無用で名乗ってやる。僕は勇者上里海!!シルビア、お前みたいなクソ野郎を倒すものだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


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