「それじゃあ俺たちは任務に戻るから」
そう言いぶっころりー達四人は魔法を唱え姿を消した。それにしてもめぐみんやゆんゆん以外の紅魔族もかなりの魔法の使い手なのに、魔王軍に負けそうになっているなんて……
「なんかあの人達かっこいいな。戦闘のエキスパート集団って感じで」
「そうですか。それを聞いて、きっとその辺で四人で喜んでますよ」
カズマさんがそう呟くと、めぐみんがそんな事を言っていた。
「え、喜んでるってどういうことだ?」
「光を屈折させる魔法で消えたように見せてるんですよ。テレポートの魔法は魔力を大量に消費しますから、日に何度も使ったら魔力はほとんど残りませんし。多分かっこよく立ち去る演出のためだと思いま………あいたっ!?」
突然ゆんゆんの頭に小石が当たった。余計なことを言うなって怒っているのか?
「ちなみに。光の屈折魔法は術者の指定した人や物の数メートル内に結界を張り、その結界内を周囲から見えなくする魔法です。なので近くによれば見えますよ」
めぐみんの言葉を聞いたアクアさんが無言で踏み出すとアクアさんの見つめていたところから何かが後ずさりする音が聞こえた。
「………」
「………」
そしてアクアさんが獲物を発見したように一点を見つめ、急に駆け出した。可哀想だからやめてあげればいいのに…‥……
「ねぇ、あの人達早いわね。全然追いつけなかったわ」
「肉体強化魔法を使ったのでしょう。日頃家でゴロゴロしているニート集団にまともに走る体力なんてあるはずありません」
「ニート?魔王軍遊撃部隊じゃないのか?」
「はい。あの人たちは日頃暇を持て余していて、里の人にフラフラしているのを見られないように、勝手に名乗り里の周りをウロウロしているのですよ。里を出て冒険者をやれば引っ張りだこなのに………」
「紅魔族は大人になると全員が上級魔法を覚えるのです。なので里の者の職業は全員がアークウィザード。上級魔法を覚えたらあとはポイントの許す限り色んな魔法を習得していきます。それが常識なのに………」
ゆんゆんはめぐみんの事を見つめると、めぐみんはそれを無視した。
「何だか魔王軍に襲われてるって言う割には平和みたいね」
「風さんもそう思うか。これは一体」
先輩と若葉さんの言うとおり、ぶっころりーさんと会ってから僕もちょっと気になっていた。めぐみんの『ピンチ』という言葉を聞いても、首を傾げていたし、里の中は特に緊迫した空気はなく、ただただ平和そのものだ。
とりあえずゆんゆんは実家である族長の所に行き、今の状況を確認しに行く事になった。僕、カズマさん、歌野さんの三人で族長の話を聞きに、若葉さん、ひなたお姉ちゃん、水都さんは氷雨さんに会いに行くとのこと………
外でアクアさんたちが待っている中、僕らはゆんゆんのお父さん………族長から衝撃の事実を聞かされていた。
「いや、あれはただの娘に宛てた近況報告の手紙だよ。手紙を書いている間に乗ってきてしまってな。紅魔族の血が普通の手紙を書かせてくれなくて………」
「いや、何を言っているのかわからないです」
「……えっ?あの、お、お父さん?その、お父さんが無事なのはとても嬉しいんだけど、手紙の最初に書いてあった『この手紙が届く頃にはきっと私はこの世にいないだろう』っていうは…?」
「紅魔族の時候の挨拶じゃないか。常識だろ?…ああ、お前とめぐみんは、成績優秀で卒業が早かったから知らないのも当然か」
「じゃ、じゃあ魔王軍基地を破壊できない状況ってのは……?」
「あれか?あれは立派な基地だからそのまま観光地として残すか、破壊するかでみんなの意見が分かれてるんだ」
なるほどの違和感の正体はこれだったのか。通りで里の中は平和なわけだ。というか迷惑な時候の挨拶を考えるなよ
カズマさんはカズマさんで、殴っていいかと聞き、ゆんゆんは許可を出しているし……
「あの、バーテックス……あの白い生物兵器のことなんですが……」
「あぁ、あれかい。あれだったら我々紅魔族の魔法で一撃だったよ」
造反神のバーテックスも紅魔族の魔法が効くのか。というか何で魔法が効くんだ?
「ただ問題があって、生物兵器をどう活かすべきか……」
「それだったら、畑の肥料にでもしても良いかもしれないですよ。私もバーテックスを倒しては肥料にしてましたし」
「ほう、詳しく」
族長は歌野さんとの話に盛り上がっていると、鐘の音とともにアナウンスが流れ始めた
『魔王軍警報、魔王軍警報。手の空いている者は、里の入り口グリフォン像前に集合。敵の数は千匹程度と見られます』
「「千匹!?」」
僕らはすぐに集合場所へと向かうのであった。それにしても千匹………数が多すぎないか?
集合場所へとたどり着き、遠くの方に魔王軍の軍勢が集まっていた。
「とうとう女神の力を見せる時が来たわね」
「流石に千匹は多すぎだろ」
「あら、カズマさんは弱気ね。私や夏凛は千匹程度どうってことないわ。それ以上の数を相手にしたことがあるんだから」
「まぁ、この程度余裕ね」
先輩と夏凛がそう言いながら、勇者に変身する中、僕はグリフォン像に集まっている中に若葉さんたちがいないことに気がついた。
まだ氷雨さんと話しているのかな?
「海、どうするんだ?」
「一気に数を減らすべきだな。満開を使って……」
東郷の満開を使って、遠距離からの砲撃ならある程度の数は減らせるはずだ。そう思い、満開を使おうとするが、めぐみんが落ち着いた声で止めた。
「満開を使う必要はないですよ。見てて下さい。紅魔族の力を……」
「うわっ………」
カズマさんが思わず驚きの声が出るのも分かる。紅魔族50人対魔王軍千匹。数は明らかにあっちの方が上なのに、魔王軍の数が見る見るうちに減っていく。
魔法の嵐が魔王軍を襲っているのだ。おまけにバーテックスも魔法で蹴散らしていく。
「紅魔族って本当に凄いんだな」
「元々魔力が高い種族だからね……」
クリスさんがそんなことを言いながら、未だにこっちに向かってくる魔王軍をロープで拘束していき、動けなくなった魔王軍は魔法で倒されていくのであった。
「おい!?バーテックスが合体し始めたぞ!?」
カズマさんが指差した方を見ると、巨大な鳥型のバーテックスが出現していた。流石に合体したやつは無理だろうと思い、生太刀を構えようとした瞬間、ぶっころりーと髪の長い女性が前に出て、炎の魔法と竜巻の魔法を組み合わせた炎の竜巻が合体バーテックスを包み込み、撃退した。
「なぁ、ウミ」
「何?カズマさん」
「何だか今回、勇者の力、いらないみたいだな」
「うん、僕もそう思うよ」
それにしても本当にどうして紅魔族はバーテックスを倒せるんだ?魔力が高いからか?いや、それだったらアクアさんだって倒せるはずだけど……
「アクアさん、浄化系の魔法でバーテックスを倒せますか?」
「いや、無理だと思うわよ。最初にバーテックスが来た時に言った覚えがあるけど、あいつらに神格的な力を感じるからね。アークプリースト……というより女神の力なんて通じないわ。まぁ神樹みたいにバーテックスに対抗できる力を持っているなら別だけどね」