夜になり、僕らは大きめの石などを取り除き、レジャーシートぐらいの大きさの布を敷いた。焚き火はモンスターを引き寄せてしまう危険性があるため、焚かず、暗闇の中みんなで身を寄せ合って眠ることになった。
一番危険性があるアンデット関係はバニルさんから買ったアンデット避けの魔道具があるからそこら辺は心配しなくてもいいだろうけど、それでも何が起きるかわからないため、みんなで眠るのはまずいという話になり、カズマさん以外はみんな交代で見張りをすることになった。
「ウミ、無理に俺に付き合う必要はないぞ。俺は徹夜に強い方だから」
「いや、僕は先輩たちの分も見張らなければいけないからね」
僕は眠っている友奈、先輩、夏凛の方を見て言った。こういう夜の見張りとかは、まだ慣れてないし、あまり無理はしてほしくない。銀とクリスさんはある程度慣れているから、交代はしてくれるらしい。
「昔から色々と勉強していて寝ていないっていうこと普通にあったからね」
「………何だかお前が眩しく見えるよ」
「確かにたまに夜ウミの部屋の電気がついているのを見た事あるが、そのときもか?」
ダクネスさんも話に加わって来た。そういえばあんまり皆には僕のこと話したことなかったな。話すとしてもバーテックスのことくらいだし
「うん、色々と調べたくって」
「本当にウミは真面目ですね。カズマはどうやって徹夜することに慣れたんですか?」
「俺か?俺がいた国でランカーと呼ばれてたんだよ」
「「ランカー?」」
二人が聞き覚えのない言葉を聞いて、何のことか分からないでいるけど、ランカーって言うなれば専門用語じゃないのかな?
「まあ言ってみれば、ランキング上位者って意味だな。『インしたらいるカズマさん』やら『レア運だけのカズマ』なんて呼ばれて、みんなから頼りにされてな、砦を攻略したり、大ボスを力をあわせて倒したり」
「そうなのか、凄いな、それは凄いッ!」
「今のカズマから想像もできませんが、嘘を言ってるように見えませんね。だからあれだけの機転を……?」
うん、明らかにネトゲの話だよ。その後アクアさんに突っ込まれそうになったのだった。
そして深夜になり、カズマさん、めぐみん、僕が見張りをしているとめぐみんがあることを聞いてきた。
「二人は故郷に戻りたいと思ったことないんですか?」
「いや、帰りたくても、そもそも帰れないし、まあ帰る予定は今のところないな……」
「それに今はやるべきことがあるからね」
この世界の危機を何とかしないといけない。おまけに戻れる保証はあるのか……いや、あるとしたらこっちに来た時に最初に言われた魔王を倒して、願いを叶えてもらうということだろうな。
めぐみんは僕らの言葉を聞き、安心したような顔をして、
「私も、今の生活が気に入ってるので、このままがいいです。しょっちゅうピンチになるけど皆と一緒に乗り越えていく、そんな今の楽しい生活に満足してます」
カズマさんが何かを言いかけた瞬間、僕はめぐみんがカズマさんの手に手を重ねているのを見た。
「――ずっと、このまま皆で一緒にいられるといいですね」
なんだろう?カズマさんはめぐみんの言葉を聞いて、顔を真赤にさせてるけど、僕はこういう時どうすれば良いのだろうか?少し離れた方が良いのかな?
「すか~」
悩んでいるとめぐみんがいつの間にか寝ていた。なんだろう?この台無し感は……
その後、カズマさんに叩き起こされためぐみんは涙を浮かべながら、僕にあることを聞いてきた。
「そういえばウミって自分がいた国のことを話しますが、家族のことは話さないのは何でですか?」
「……………」
「おい、めぐみん。何だか聞いちゃいけないことを聞いたかもしれないぞ」
「いや、別にカズマさんが思っているようなことはないよ。両親は生きてるし、別に虐待とかされてないけど……」
黙り込んだのはちょっとした理由がある。ただこの件は勇者部の皆には内緒にしている。知っているとしたらそのっちくらいだな
「ただ家族のことを話せって言われても、あんまり思い出がないんだ」
「「えっ?」」
「僕の両親は所属している組織ではトップクラスの役職についていて、皆でどこかに出かけたりとかは無かったな………まぁ忙しいから仕方ないけど……」
両親は忙しく、面倒を見てくれたのは大赦の関係者だった。たまに話すことはみんなのことぐらいだったし……
「何というか家族の愛っていうのはあんまり知らなかったな。最初の頃は他の皆が羨ましかったけど、今はそれに慣れちゃったというか……」
「ウミ、お前……」
「あ、あの」
何だか重苦しい空気になったな。
「たださ、今のここでの暮らしは僕としても良いものだと思っているよ。何というか毎日が楽しくて暖かくて、皆のこと家族だと思ってるから………」
僕はそう言い、見張りを続けるのであった。
夜が明け、僕らは先へと進んでいく広い平原にたどり着いた。
「これだけ見通しが多いと、私やカズマさんの潜伏スキルや感知スキルは使えないね……」
「おまけに敵と遭遇した場合、めぐみんの爆裂魔法だと他のモンスターもやってきちまうな。それだったら俺の千里眼スキルで先行して、危険かどうか確かめてくる」
「それだったら僕も色々と応用が効くから一緒にいくよ」
僕とカズマさんの二人で、先行することになった。しばらく歩いていくと人影が見えた。その人影も僕らに気が付き、ゆっくり近づいてきて、
「こんにちは! ねえ、男前なお兄さん達。あたしといい事しない?」
正体はオークのメスだった。カズマさんが言うにはオークはそれはもう性欲が強く、女騎士が大好物とか、おまけに話ができるということは戦闘しなくて済むということだな。
「お断りします」
「僕ら急ぐので……」
「あらそう、残念ね。あたしとしては合意の上のほうが良かったんだけど」
突然、寒気を感じる僕。一体これは何なんだ?カズマさんは何も感じてないみたいだけど、
「話ができるから一応頼んでみるが、ここを通してほしい。通してくれるなら、食料を分けてやる。どうだ?」
カズマさんが干し肉をオークに見せると、オークは口元からたれた涎を拭った。交渉はうまくいきそうだな
「そんなもの、どうでもいいわ。ここはあたし達オークの縄張り。通ったオスは逃さない」
僕はふっと後ろを振り向くとアクアさんたちが何かジェスチャーをしていた。なんだろう?逃げろ?どういうことだ?
すると交渉が決裂したのか、カズマさんは目潰しをしてドレインタッチでオークを倒した。
すると皆がこっちに急いでやってきた。本当に何かあったのか?
「カズマたちは、何をしているんですか!?オークを倒してしまったということは、この縄張りを抜けるまで二人共狙われてしまいます」
「おいおい、何を言ってるんだ?狙われるのは俺達で済むんだからいいじゃないか。お前らが狙われたら大変な……」
ふい、僕は何か嫌な気配を感じて、後ろを振り向くと何かがこっちに近づいてくる。遠目でわからないけど、色んな耳をしたオークの群れに見えるんだけど……
アクアさん達の話を聞くと、オークの雄はとっくの昔に絶滅しており、今のオークは各種族の優秀な遺伝子を兼ね備えたオークとはいえないモンスターらしい。更には他のオスを捕まえると凄い目に遭わせるらしい。ということは、こっちに向かってきているオークは………
「カズマさん、逃げるぞ!?」
「おい、待て!?」
僕らは急いでオークの群れから逃げ出すけど、オーク達は何かを言っている。やばい、話のとおりだったら、かなり嫌だ。
僕は樹の武器を取り出し、一匹のオークを縛り上げた。縛り上げた状態で脅せば引いてくれるかも……
「あら、そういうプレイが好きなのね。いいわ、貴方のプレイに合わせてあげるわ」
やばい、鳥肌が立ってきた。何なんだよ。こいつらは………カズマさんの方を見ると、捕まって今にも襲われそうになってるし……
「あら、諦めたの?」
カズマさんの方を見ていて、オークに捕まってしまった。やばい、色んな意味でやばい………
「海くん!?」
友奈が駆け寄ろうとした瞬間、オークは友奈の事を見て、
「何?あの子、あんたの女?それじゃ、彼女が見ている前で………」
「ボトムレス・スワンプ!!」
襲ってきたオーク達が突然現れた沼に落ち、僕とカズマさんを捕まえていたオークが仲間を助けようとしていた。
それにさっきの声はもしかして……
「ゆんゆん、ゆんゆんじゃないかっ!?」
「えっ!?カズマさん、もう大丈夫ですから、ローブが………」
「どうやら危機一髪だったみたいだな。海」
「まさかこんな所で会うなんてね」
助けてくれたのはやっぱりゆんゆん達だった。ひなたお姉ちゃんはオーク達と交渉………というより、若葉さんと歌野さんが武器を見せつけながらオークたちを脅して、無事に縄張りを抜け出すことに成功したのだが………
「お前ら、全員揃いも揃って、綺麗な顔してるよなぁ」
カズマさんは急にみんなを褒めていた。うん、あんな恐ろしい目に遭った後だと、みんなのことが癒やしの存在に見える。
「カズマさん、僕、バーテックスと話がでるか、生まれ変わってバーテックスになったらまずやりたい事があるんだ」
「何だ?」
「……………人間よりもまずはオークを滅ぼす」
「そうか、俺もそれに協力するよ」
「何だか二人共、本当に恐ろしい目に遭ったみたいね」
「海が壊れたわね」
「海くん、大丈夫だからね。もういないからね」
夏凛、先輩、友奈が心配する中、僕は入れてもらったコーヒーを飲むのであった。