翌日、僕らはウィズさんのお店に立ち寄っていた。カズマさんが言うには直ぐにでもゆんゆんたちと合流できる方法があるとかなのだが、
「へいらっしゃい!上がり易い職業のくせにちっともレベルが上がらない男に、最近、家の威光以外で、あんまり役立ててない娘!うっとうしい光溢れるチンピラプリーストにネタ魔法しか使えないネタ種族!恋人ができ、いちゃつきたいが周りが気になり一歩踏み出せない勇者二人に、二人の仲が進展が気になり仕事に支障をきたしている娘ではないか。丁度いいところに来たな」
「ネ………ネタ種族……!」
「ど、どうしてそのことを!?」
来て早々変なことを言い出すバニルさん。正直バニルさんが言うことには多少なれてきたから、僕としては気にはならないけど……
「ねぇ、海。このおかしな仮面をかぶった奴は何?」
「何というか格好良い仮面ね」
そういえば夏凛と先輩は……というか勇者部メンバー全員初対面なんだっけ?なんて説明した方がいいか……
「近所の奥様にカラススレイヤーのバニルさんって呼ばれてる人だよ」
「カラススレイヤーって………」
夏凛が呆れた顔をしてバニルさんのことを見ていると、バニルさんは笑みを浮かべていた。
「小僧、お前は普通に紹介できないのか?いや仲間を信頼できないのか?我輩の名はバニル。見通す悪魔のバニルだ」
「悪魔って!?なんでこんな平和な街に!?」
「というか全員この仮面の人と知り合いみたいだけど、敵じゃないのよね」
「先輩。この人は敵ではないですよ。ただ中間というか灰色というか……まぁ悪いやつではないですね」
「なるほどね~海がそう言うなら敵じゃないって言うことね」
「というかこんな不審者をよくこの街の住人は受け入れられるわね」
「ふむ、後輩に彼氏ができて少し焦った小娘とどちらかというと小僧の方に嫉妬をしている小娘よ。そう警戒するのではない。今回貴様らの旅に必要だと思われる商品を売ってやろう」
「ちょっと、この仮面の見通すってそういうことなの!?」
「というか普通に人の心の中を声に出して言うんじゃないわよ!!」
バニルさんは二人のことを無視して、出した商品はアンデット避けの魔道具。蓋を開ければ半日程、効果がありアンデットを寄せ付けない神気が出てくる。ウィズさんはうっかり開けてしまい、店の奥に隠れていた。あまりにも可哀想だから換気ぐらいしてやればいいのに………
値段は百万ということなので、今後入るであろうお金から商品分を引いておくように頼むカズマさん。バニルさんは高い買い物をしてくれたということで、カズマさんにある助言をした。
「見通す悪魔が忠告しておいてやろう……貴様はこの旅の目的地にて、仲間が迷いを打ち明けられる時が来る。その時の選択次第で、その者の未来が大きく変わる。汝、よく考え、後悔の無いようにな。そして小僧と小娘!」
バニルさんは僕と友奈、クリスさんの事を見てあることを告げた。
「この旅にてそこの小僧が行おうとすることを止めるか止めないかで、2つの道が現れるであろう。選択をするのはお前ら二人であることを忘れるではない」
「二つの道?」
「一体何が……」
というか僕に選ぶ権利はないのかな?とりあえずウィズさんもようやく奥の方から出てこれるようになったので、カズマさんはテレポートでアルカンレティアまで送ってほしいとお願いをするのであった。とはいえ、人数が多いため3回に分けて送ってくれることになった。
「それでは行きます。テレポート!」
テレポートの魔法を受け、気がつくとアルカンレティアまで来ていた。テレポートの魔法ってここまで凄いなんて……
「ねぇ、ねぇ!カズマさん、カズマさん」
「言っとくが、ここはすぐに出るぞ」
「なんでよー!」
カズマさん的にはもう二度と行きたくない街なのだけど、としては雪花さんたちに協力をお願いしたい所なんだけど……
「ほら、早く行きますよ」
めぐみんはあくまで妹が心配だからとの事で、急ぐように言っているけど、本当に心配なのはゆんゆんだというのに……
「にしても改めて街の外に出てみると、本当に変わった場所ね」
「まぁ、樹海よりかはマシじゃない?」
先輩と夏凛の二人は初めての旅なので、辺りを見渡していた。まぁ確かにこういう場所ってあっちでは無かったからな
この先紅魔の里までは危険な場所なので馬車で行くことが出来ず、徒歩で行くことになる。とはいえ、ちょっと心配なことがあった。
「先輩と夏凛って冒険者カードは?」
「あぁ、これ?」
「これがどうしたのよ」
「ちょっと見せて」
僕は二人のカードを見せてもらった。いくら勇者の力で戦闘力があるからと言って、この先危険なモンスターがいることには変わりない。下手をすればあの小説みたいに全滅になるかもしれないけど……
「先輩はレベル20。夏鈴はレベル25。何で二人のレベルってこんなに高くなってるんだ?」
「多分だけど今までの戦いの分、経験値として得てるからじゃないかな?」
クリスさんがそんな事を言うと、先輩は思い出したかのようにあることを話しだした。
「大赦が言うにはこっちに合わせたみたいよ。だからじゃないかしら?」
大赦ってどんだけの技術を持ってるんだよ。というか神樹の力もあるのか?とはいえ、僕のレベルは33か
「ウミは私と同じレベルですね。ユウナ達もそこそこレベルが高いのでこの先は……」
めぐみんが言いかけた瞬間、咄嗟にカズマさんのことを見た。カズマさんは自分のレベルを確認すると………
「いや、レベルなんて関係ない。ほら、他の職業のスキルがあるし、一応ウミたちの支援も出来るからな。あとは敵の感知スキルもあるから……」
何も言ってないのに、何だか言い訳しだした。何だかレベルの話をしないほうが良かったかもしれない。
しばらく進んでいくと先頭を歩いていたダクネスさんが何かに気がついた。
「おい、そこに誰か居るぞ?」
僕らは林の入り口に出っ張った岩に腰を掛けたボロボロの緑髪の少女が居た。少女は僕らに気が付き、小さく手を振っていた。
「どうしてこんな所に女の子が……」
「もしかして動けないのかな?」
クリスさんと友奈の二人が少女に近づこうとすると、何故かカズマさんが二人の肩を掴んだ。
「敵感知に反応してる。あいつ、モンスターだ」
モンスターって、こんな儚い少女が?そんなわけ無いと思っていると、クリスさんが試しに感知スキルで確認すると
「本当だ。この子モンスターだけど……」
「でも、怪我してるよ」
友奈も怪我をしているモンスターに駆け寄ろうとすると、カズマさんは紅魔の里までに出現するモンスターの情報を読み上げた。
「『安楽少女』。その植物型モンスターは物理的な危険は無い、だが通りかかる旅人に対して、強烈な『庇護欲』を抱かせる行動を取り、それは抗いがたい、一度情が移ると、死ぬまで囚われる。一説では、かなり頭の良いモンスターではないかと言われてる。冒険者は辛いだろうがどうか、駆除して欲しい」
いやいや、流石に無抵抗な奴を倒すことなんて出来ないんだけど、というか僕はもちろん、カズマさん以外全員無理そうだな。
「な、なぁ、カズマ。あの凄く泣きそうな顔をしてるが、本当にモンスターなのか?」
ダクネスさんもオロオロとしながらカズマさんに言うと、
「旅人がモンスターの傍に居ると、酷く安心した表情をするので、とにかく離れがたく、『善良な旅人』程、このモンスターに囚われるので注意していただきたい」
「あの、カズマ、あの子。泣きそうな顔を必死に堪えた笑顔でこちらにバイバイと手を振っているのですが、ちょっと抱きしめてはダメでしょうか」
「一度、囚われると、そのままそっと寄り添ってくるため、跳ね除けるのは困難。本来ならば、腹が減れば、旅人が離れると思うが、ここがこのモンスターの危険なところで、自らに生えている実をもぎ、旅人に分け与える。それは大変美味で、腹も膨れる。が、その実はまったく栄養が無く、どれだけ食べてもやせ細る。自らの実を千切ってる姿に、『良心の呵責』から食事を取る事すら無くなり、最終的には栄養不足で死に至る」
「くっ、たとえモンスターでも傷ついてる者を放っておくなど……!」
「安楽少女の実は身体に異常をきたす成分が入ってあるのか、空腹や眠気、痛みなどが遮断され、寄りそう少女と共に夢見心地で、衰弱して死んでいく。年老いた冒険者はそれを求め、生息地へ向かう事から、『安楽少女』と呼ばれる由縁になっている。その後、その旅人の上に根を張り、それを養分とし――」
途中まで読み上げた瞬間、僕とカズマさんと銀以外の全員が安楽少女に近寄っていた。
いや、流石にモンスターの情報を知っていても、あれはどうにかすることは出来ない。
「珍しいな。銀ならああいうの放っておけないと思うんだけど」
「いや、前々から須美とかに『困っている人がいても、その人が本当に困っているかどうかちゃんと確認しないと、悪い大人に騙されるわよ』って言われて……」
「須美らしいな。でもカズマさん、どうする?このままだと皆放れなくなるんじゃないのか?」
「つっても、殺るしかないだろ。駆除した方がいいって書かれてるし」
カズマさんがちゅんちゅん丸を取り出した瞬間、僕と銀とカズマさん以外の全員が驚いた顔をしていた。
「な、何言ってるのよ!? まさか、この子を経験値の足しにするつもりなの!?」
「いくらモンスターでもきっとこの子はウィズさんみたいに良いモンスターだから放っておいても大丈夫だよ」
アクアさんとクリスさんがそんなこと言ってるけど、このままどうするか………
「まさか海と銀は殺すのに賛成なの?」
「そ、それは流石に可哀想じゃないかしら?安楽死を望んでいる人のためにって言うのもあるし、きっと優しいモンスターなのよ」
いやいや、先輩も夏凛も庇護欲にあてなれないで下さい。どうしたものか……放って置いても良いかもしれないけど、皆が離れない。仕方ない。ここは……
「このモンスターは放置しておこう。駆除しようとするとみんなに怒られそうだし」
「あぁ、そうだな」
「仕方ないよ」
僕らはみんなを説得し、先へと進むのであった。
だけど途中カズマさんはある事を思い出し、さっきの安楽少女のもとへと戻るのであった。
「どうしたんだろう?」
「きっとゆんゆん達も安楽少女と遭遇したら大変だと思うからじゃないかな?」
クリスさんの言うとおり、あの庇護欲には誰にも敵わないな。きっとカズマさんはゆんゆん達のために安楽少女を説得して、見逃してもらうように頼み込んでるんだな。
僕がそう思った瞬間、カズマさんが凄い笑顔で……
「見ろ見ろ、アイツを倒したらレベルが三つ上がってさ、これでめぐみんの里行っても、役立つよな!」
ソレを聞いた瞬間、僕と銀とダクネスさん以外の全員がカズマさんに対して怒っていた。
「カズマさん、辛い役目を………」
「きっとこれから先の冒険者たちのことを考えてたんだね」
「辛い役目を押し付けてすまないな」
「ちょっと待って!?話を聞いてくれ!!」