僕らは源泉へ向かう入り口にたどり着くとすでにアクアさん、ダクネスさん、ウィズさん、そして友奈さんと千景さんが来ていた。アクアさんは警備の人と口論していた。
「だから、源泉の汚染を浄化しに行くだけだって!?」
「おい、アクア。何を揉めてるんだよ」
「カズマ達、一体何処にいたんだ?」
ダクネスさんが僕らに気が付き、こっちにやってきた。カズマさんはこれまでの事を話していると、僕はさっきゼスタさんからもらった許可書を警備の人に見せた。
「こ、これは……」
「僕らはアクシズ教の人たちに頼まれて、源泉の調査に来ました。文句があるなら許可をくれた人に言ってくださいね」
「わ、分かりました。どうぞお通り下さい」
許可書のお陰ですんなり中に入ることができ、僕らは源泉へと向かうのであった。
「それじゃアルカンレティアに300年前の勇者が!?」
「うん、何だか昔あった地方の勇者みたいなんだけど、北海道と沖縄だっけかな?」
「高嶋さん、もしかしたら」
「うん、昔見つけた反応の人たちかもしれないね」
「というかウミたちの時代だと他の都道府県を知らないのか……時代の流れってやつか?」
「そうなのかもしれないね」
「あの、少し気になる話を聞いたんですが、私達がここに入る前に源泉の管理人さんが先に入ったとか……」
ウィズさんが警備の人たちが話していたことを思い出していた。もしも犯人と管理人が鉢合わせしたら大変なことになる
「いそが……」
「ちょっと待ってください!なんですかコレ?」
めぐみんが立ち止まり、僕らも止まると目の前に異様な光景が広がっていた。黒い物体がその場所に置かれ、ダクネスさんはその黒い物体を観察していた。
「これはもしかしたら初心者殺しじゃないか?見てみろ」
ダクネスさんが見せたのは黒い毛皮と犬歯……特徴からして初心者殺し……
「まさか管理の人が!?」
「いやいや、そんなわけ無いでしょ。管理人はおじいちゃんだって言ってたよ」
倒したのが管理人だと推測する須美だけど、ただの一般人がこんな芸当出来るわけ無いと言う銀。でも、何だかこの初心者殺し、なんか溶けてるのはどういうことだろうか?
「ねぇ、友奈さん、千景さん、バーテックスに酸とか使って攻撃してくるようなやつに遭遇したことは?」
「ううん、なかったよ」
「奴らは溶かしたりしない、捕食するだけよ」
「だよね………」
もしかして今回の犯人はかなり厄介なやつかもしれない。僕らは先へと進むのであった。
山を登っていくと温泉らしき場所にたどり着くが、何故かお湯が真っ黒だった。
「何よコレ!?温泉が……私の可愛い信者たちの温泉が……」
アクアさんは咄嗟に真っ黒なお湯に手を突っ込み、浄化をするが、ものすごく熱くすぐに手を出してしまった。
「どうするんだよ。熱いのはフリーズで凍らせればいいけど……いちいち浄化していくと手遅れになるぞ」
「おまけにこの源泉はパイプを通って流れてる。浄化していっても無駄かもしれない。大本をどうにかしないと……」
「でも、流れてくるのだけ止めることは出来ないのかな?」
「それでしたら……」
ウィズさんはパイプの先を凍らせ、源泉の流れを止めた。これなら暫くの間汚染は止められる。あとは、大本をどうにかしないといけない。
僕らは更に奥へと進むと浅黒い肌で茶髪の男がいた。
「おや、何ですか?ここは関係者以外立入禁止ですよ」
「あんたね!?温泉を汚していたのは!!」
「ん?あの男……混浴で……」
アクアさんは茶髪の男に詰め寄り、カズマさんは目の前の男に見覚えがあるみたいだ。というかさっきから例の管理人のお爺さんがいないのが気になる
「お前がこの温泉を汚しているかどうかは取り調べれば分かることだ」
「何故初対面の方々にそんな風に疑われるんだ。だが、調べても俺は毒物も何も……」
「ああー!!ハンスさん!ハンスさんじゃないですか!!お久しぶりです。私ですよ。私!リッチーのウィズです!」
ウィズさんの知り合いだったのか。このハンスっていう人は……というかそれってもしかして……
「えっと、リッチーってあのリッチーですか?あの超危険な、いや、私の知り合いにそんな人は、それに毒も持ってませんしね」
「あ、毒と言えば!ハンスさんはデッドリーポイズンスライムの変異種でしたね!ひょっとして、ハンスさんが源泉に毒を?」
無自覚なのか、ハンスさんの言い訳を全部潰していく。何だか可哀想になってきたな。
「ねえハンスさん!先程からどうして無視をするんですか?そういえば、ハンスさんは擬態ができましたよね?もしかして、管理人のおじいさんに擬態して、ここまで来たんですか?」
ハンスはウィズさんから逃げようとするが、その前に僕らが立ちはだかった。
「どこへ行こうと言うのだハンス」
「ここは通さないわよハンス」
「そんな言い訳を通じると思ってるんですかハンス」
「悪あがきはやめろハンス」
「逃げるということは貴方が犯人ということね。ハンス」
「温泉を汚すなんて、許さない。ハンス」
「一体何が目的なんですか!ハンス」
「正直に話さないとボコボコにするよ。ハンス」
「折角のいい温泉なのに~ひどいよ~ハンス」
「ここから逃しません。ハンス」
ダクネスさん、アクアさん、めぐみん、カズマさん、千景さん、友奈さん、友奈、銀、そのっち、須美の順番でハンスに向かって言ってるけど、ハンス、ハンスって気安く呼ばないほうがいいんじゃないのかな?
「だぁぁぁぁぁーーーー!!ハンス、ハンスと! 気安く呼ぶんじゃねぇ!クソ共!それよりウィズ!お前、店を構えるんじゃなかったのか!?温泉街うろついてないで、さっさと働けェ!!」
「ひ、酷い!私だって、頑張ってるのに……働けば働くほど貧乏になりますけど……」
「ったく、お前は俺達魔王軍に干渉しないんじゃないのか?どうして邪魔をする?」
「え!?私、邪魔してました!?」
「お前のせいで正体がバレちまったじゃねぇか!!くそ、長年続けた計画が台無しだ。で、どうするんだ?ウィズ。俺達とやり遭うか?」
「え、こ、この方は私のお友達なので、えっと話し合いでなんとなりません?」
「ハッ、昔のお前だったら、話し合いなんてあり得なかったがな。リッチーになって腑抜けたか」
「え、えっと、あの頃は私も周りが見えて無かったと言いますか……」
本当にウィズさんって昔どんな感じか気になるな。後で機会があったら聞きたいけど、今は目の前の相手に集中だ。
僕は生太刀を構えるとカズマさんが前に出て、
「おい、そろそろいいか?俺は佐藤和真。俺はベルディアやデストロイヤー!バニルという連中の討伐に参加した者だ。おまけにアクセルの街でのバーテックスとの戦いに大きく貢献した者でもある」
嘘はいってないけど、その自信は一体どこから出てくるのだろうか?というかカズマさん、気がついてないのか?ハンスのことを……
「貧弱そうなお前が!?ベルディアとバニルの討伐に関与しているだと!?おまけにバーテックスっていうのは………?」
「見たことないのか?白いうなぎみたいなやつだよ」
「あぁ、奴らか……」
バーテックスの事を聞いて、何故か笑みを浮かべるハンス。どういう事だ?普通だったら「あの化物を!?」とか驚くはずなんだけど、まさかこいつらにも何かしらの対応策でもあったのか?
「この俺を前にして、どうやらハッタリじゃないみたいだな……」
「大人しく降伏するんだな!ウィズ、元同僚で多分戦い辛いと思うから下がっていてくれ!」
「カ、カズマさん!?た、確かに私としては戦いは遠慮したいところなんですが、大丈夫なんですか!?そのハンスさんは……」
「どうやら本気らしいな。いいだろう!一介の冒険者が俺に掛かってくるとは、本当に久しぶりだ。この俺を前にして挑んできた者は全員泣き、ひれ伏し、逃げ惑うからな。お前は骨がありそうだ!」
やばいな。カズマさん、全然気がついてない。目の前のハンスが何者かって、ハンスは両手を広げて叫ぶ。
「俺の名はハンス!魔王軍幹部、デッドリーポイズンスライムの変異種ハンス!!」
「……今なんて?」
ようやく気がついたみたいだ。ウィズさんの知り合いだということは、魔王軍幹部だという可能性があった。というかみんなの反応を見る限り、全員気がついてないみたいだし……
「カズマさん!気をつけてください!ハンスさんは、高い賞金を掛けられている方です!とても強いので十分注意してください!」
「な、なぁ、スライムってのはさ、雑魚だろ?雑魚なんじゃないのか!?」
「スライムが雑魚?どこで聞いたか知らないが、小さなスライムはともかくとして、ある程度の大きさになったスライムはかなり強敵だぞ?物理攻撃はまず効かない。張り付かれたら、消化液で溶かされたり、口を塞がれて、窒息させられるぞ」
「それに、この温泉街の温泉をすべて、汚染できるほどの猛毒です、触れれば、即死だと思ってください!」
「そ、即死!?」
「大丈夫よ!カズマ!死んでも私がついてるわ!でも捕食はされないでね!捕まって溶かされちゃったら、いくら私でも蘇生できないからね!」
「な、なぁ、ウミ達勇者の力で……ほら、満開とか、切り札とかで……」
「私達の武器だと相性が悪いよ」
「おまけに武器も溶かされてしまいそうね」
「僕らの使う満開と切り札で対抗できるかどうか………おまけにハンスはバーテックスのことを知っても、驚いてなかった。もしかするとバーテックスを溶かしたりしたんじゃ……」
ここまで相性が悪い相手と戦うのは初めてかもしれない。でも、ここで退いたりしたら駄目だよな。僕は生太刀を構えた。
「さぁ、掛かってくるが良い!冒険者共!! 俺を楽しませてみ…………ろ?」
戦いが始まろうとした瞬間、カズマさん達が逃げ出し、僕、友奈、友奈さん、千景さん、銀、須美、そのっちはハンスと一緒にただ呆然と見ていた。
「「「「「「「…………………えっ?」」」」」」」
「お前らの仲間、逃げ出したぞ?」
「………あの男、あんなに啖呵切ったっていうのに、冒険者だと敵わない相手だから逃げたのかしら?」
「あん?あの男、冒険者だったのか?なるほどな、舐められたものだが、お前らは俺に勝てるのか?」
「勇者として、目の前の敵から逃げたくないしね」
僕は思いっきり斬りかかるが、ハンスは避けようとせず斬撃を受けた。だけど手応えがない。ここまでとは……
「おいおい、無駄なあがきだ。ん?お前勇者と言ったか?」
「あぁ、そうだよ」
「くくく、成る程な。お前らがあのバーテックスとやらに対抗できる奴らか」
ハンスの奴、何か知ってるのか?ハンスは大きく両手を広げた。
「少し前にな。魔王様の所にある言葉が告げられたんだよ。『人間と敵対するものたちよ。我は知りたい、人間というものを、何故神樹は人間を守ろうとしたのか。そのために力を貸す』ってな!!」
ハンスの丁度真上の空が割れると、無数のバーテックスと見たことのない魚とか棘がついた奴とか鳥みたいな奴らが現れた。
「何?あれ?バーテックス?」
「あんなの見たことない………」
友奈さんも千景さんも突然現れた奴らに驚きを隠せないでいた。ハンスは僕らの反応を見て笑みを浮かべながら………
「造反神とやらが送ってくれた新たな魔王軍の下僕だ!!お前らの相手はこいつらだ!!」
まさかこんな所で造反神の名前を聞くなんて……おまけに魔王軍の下僕とか……
かなりオリジナル展開になってきました。