「先日の事は謝ります。どうか元のカズマに戻ってください」
ようやく戻ってきためぐみんが最初に目撃したものは、毛皮でできたガウンを羽織ったカズマさんの姿だった。バニルさんとの商談で大金持ちになれると分かったカズマさんとアクアさんはすでに大金持ち気分だった。まぁ、一気にお金がもらえると聞いたらこんな感じになるだろうな
「えっとね、めぐみんちゃん。実はね……」
困惑するめぐみんに友奈が何があったのか話していた。そして事情を聞き終えためぐみんは呆れた表情で……
「事情は分かりました。それであの似非セレブ気取りなのですね」
「まぁ、一気にお金が入ったら誰だってこんなふうになるって……」
「何だか私もここまでとはいかないけど、お金が入ったら浮かれそうだな」
「お前なら大丈夫だろ。そんなに執着ないだろうし……」
「そうだけどさ……」
するとカズマさんは今後冒険者家業をやめて、お金の力を使って魔王を討伐しようとかいい出していた。さすがのめぐみんもそのことには怒り始めた。
「お金の力で魔王を倒すなんて認めません! 認めませんよ! 魔王っていう存在は仲間と共にレベルを上げて鍛えぬいて、やがて秘められた力に目覚めたりなんかして、それで最終決戦の末に倒すのです!」
「俺にそんな秘められた力があると思ってるのか?もしやるとしたら潜伏スキルを使って背後から倒すくらいだろ!!」
「なんですか!?そのえげつない倒し方は!?」
「おまけにお前がどんなに冒険に出たがってもな。こっちはまだ首の傷が癒えてないんだよ。もうしばらくは安静にしないと………」
「分かりました。では行きましょう」
「はっ?」
「ですからカズマの湯治のために、水と温泉の都アルカンレティアへ行きましょう」
めぐみんから出た突然の湯治の提案。確かに傷や疲れを癒やすなら湯治の方がいいって言われてたな。めぐみんの提案は全員賛成。特にアクアさんは大喜びだった。何故ならアルカンレティアはアクアさんを祀っているアクシス教の本部だからだ。
「温泉か………」
「海くんは嫌なの?」
「嫌ってわけじゃないけど……」
街を離れている間、先輩たちや若葉さん達が訪ねてきたら困るだろうな。僕は友奈に先輩たちに連絡を入れておくように頼み、僕は若葉さん達の所に行くのであった。
「と言う訳で少しの間皆とアルカンレティアに行くことになったんですが、行っても大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だが、何でいちいち私の許可を得る必要があるんだ?」
「いや、何か用事があって訪ねてきた時様に……」
「そうだったのか。気を遣って悪かったな」
「いえいえ」
とりあえず旅行に行くということを伝え終えたし、これで大丈夫だろうと思い、出ていこうとすると僕はあることに気がついた。
「そういえば友奈さんと千景さんは?」
「二人なら旅行に出てる。これまで色々と合ったからな。順番で旅行にいくことになったんだ」
「皆で行けばいいのに……」
「何かあった時のために二人ずつに分けているんだ。最初は珠子と杏、次に友奈と千景、最後に私とひなたという感じでな」
友奈さんと千景さんが旅行か………もしかしてアルカンレティアでばったり会ったりしたりして………そんなわけ無いか
「現状バーテックスに動きはないが、ひなたが神託の事を気にしている」
「造反神のことですか?」
「あぁ、奴の目的は何かわからない以上はな。迂闊に全員で街を離れるようなことはしたくない。海たちも旅行先でも気をつけろ」
「はい」
次の日
アクアさんに早い時間に起こされ、早速出発することになったのだが、カズマさんはバニルさんに用事があるということで、僕らは馬車の待合所で待っていると何故かウィズさんを背負ったカズマさんとその両隣にいる須美とそのっちの二人がいた。
事情を聞くとウィズさんはバニルさんたってのお願いで、旅行へ連れて行ってほしいとのこと。ウィズさんが迂闊のことをして、お店が赤字だらけになってしまうらしい。
「須美とそのっちは?」
「えっと、私たちは……」
「ここに来る前にシラトリと会ってな。旅行にいくことを話したら、この二人も一緒に連れて行ってくれないかって頼まれたんだよ」
「まぁ、旅行は人が多い方が楽しいからいいか」
「そういえばクリスの奴は来ないのか?」
「何だか色々と忙しいみたいですよ」
クリスさんも誘っておいたんだけど、何だか色々と忙しいみたいだ。まぁ、何かあった時のためにすぐに精霊として姿をだすらしいけど……
「にしても思っていた以上に人数が増えたな」
カズマさんの言うとおり、僕、友奈、銀、須美、そのっち、カズマさん、アクアさん、ダクネスさん、めぐみん、ウィズの10人。これは別れて乗ったほうがいいということになり、僕、友奈、銀、須美、そのっちの五人で馬車に乗るのであった。
場所に乗り込んでしばらくして、隣りに座る友奈があることを聞いてきた。
「ねぇ、海くん。須美ちゃんとそのちゃんって、東郷さん達に会っても大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
「何だかマンガとかで未来の自分と出会ったら消滅しちゃうってあるから………」
「私達消滅しちゃうんですか!?」
驚く須美。確かにお決まりみたいなものだけど、多分大丈夫だと思う
「いや、二人を連れてきたのは神樹だから、そこら辺はちゃんと配慮してるんじゃないのか?というか東郷たちは会いたがってるのか?」
「うん、そうみたいなんだよね」
「というか、私はこれから須美の事をなんて呼んだほうがいいんだ?美森でいいのか?」
「まぁ、お前が呼びやすいようにしたらいいんじゃないのか?」
僕も分けて呼んでるし、こういうのは本人が呼びやすいのでいいとは思う。そんなことを話していると、急に馬車が止まった。僕らは馬車から降り、事情をきくとどうやら走り鷹鳶と呼ばれるモンスターがこっちに向かってきているそうだ。この走り鷹鳶、求愛行動の時期になると本能的に固い物目がけて、突進しチキンレースを行うモンスターらしい。
「硬いもの?」
「ダクネスのことだろ。ほら、あいつ、バニルに腹筋が硬いって言われてただろう」
「カズマ、私も乙女の端くれ。流石に腹筋が硬いなんて言われてショックなんだが……」
腹筋は冗談だろうけど、こっちに向かってくるのは気になる。もしかしてダクネスさんが装備してる鎧が原因なんじゃ………
とりあえずこっちに向かってきている以上は迎撃しないと駄目だな。僕は東郷の狙撃銃を取り出し、うつ伏せになった。
「カズマさんも狙撃スキルで走り鷹鳶を一箇所に集めて、めぐみんは一箇所に集まったところを爆裂魔法で一掃。友奈と銀はもしもの時のために待機」
「よし、やっちまうぞ」
僕とカズマさんの狙撃でうまい具合に一箇所に集めようとするが、かなり避けられてしまう。そんなことを持っていると、矢が何本が放たれた。
「私も協力します」
「須美。頼んだぞ」
三人での狙撃で何匹か倒していき、うまい具合に一箇所に集まった瞬間、めぐみんが呪文を唱え、
「エクスプロージョン!!」
爆裂魔法が一箇所に集まった走り鷹鳶を一掃するのであった。