突然の警報で友奈の返事が遮られてしまった。ショックと言えばショックなんだろうけど、それ以前に空が割れたと言うのにバーテックスが出現しないことに嫌な予感しかしない。
「友奈。急いでギルドに行くぞ」
「う、うん」
折角勇気を出して返事をしようとした友奈だったけど、この騒動で中断されてしまい複雑そうな顔をしていた。ちゃんと全部終わってから聞いてあげないとな
ギルドに行くと多くの冒険者たちがルナさんたちの説明を聞いていた。その中にはカズマさんたちや若葉さん達と東郷たちも集まっていた。
「現在、兼ねてよりワカバさんやヒナタさんたちから報告があったバーテックスの大量発生が起きました。冒険者の皆さんは………」
「悪いが今回ばかりは冒険者の皆には避難をしていてほしい」
話をさえぎるように若葉さんはそんなことを発言していた。その発言を聞いた周りの冒険者は怒りのこもった大声が飛び交っていた。
「敵はみんなが今まで戦った魔物とは比較にならないほどの強さを持っている。おまけに私達勇者以外にはバーテックスを倒すことは出来ない。いや、いるとしたら……」
若葉さんはめぐみんとゆんゆんの二人を見て、更に話を続けた。
「そこの紅魔族二人ぐらいだろう」
「わ、私とゆんゆんがですか!?」
自分の名前が呼ばれて戸惑うめぐみん。でも、以前爆裂魔法でサソリ型のバーテックスにとどめを刺したり、ゆんゆんは歌野さんと一緒にバーテックスを倒したという話をしていたのを思い出した。もしかすると……
「理由は分からないが、二人の魔法だけ奴らに通じるみたいだ。協力してもらうぞ」
「「は、はい」」
「みんな、済まない。みんなはこの街のために戦いたいという気持ちは分かっている。だが、今回は私達の戦いだ。みんなを巻き込むことが出来ない」
若葉さんは頭を下げ、ギルドを後にした。他の冒険者の皆は若葉さんが、この街に住む人々を守るためにあんなことを言ったんだと分かっていたみたいで、誰も無言のままだった。
「おい、ウミ、本当に大丈夫なのか!?」
「カズマさん………大丈夫かどうか分からないけど、ちゃんと帰ってくるから……行こう、友奈、東郷、そのっち、銀、めぐみん、ゆんゆん」
僕も若葉さんたちの後を追うのであった。
カズマSIDE
「どうすれば良いんだよ。くそ!」
「そうだな……今回ばかりはウミたちに任せるしかないが………もしものことを考えて、私は盾になったほうがいいな」
「ちょっとダクネス。若葉に怒られるわよ」
「行くなと言われて、敢えて行く。きっと怒られるか呆れられるか私にとってはどちらも楽しみでしょうが無いな」
ダクネスはそう言って、ウミたちの後を追っていった。いつもだったら『こんな時まで性癖を出すんじゃねぇ!!』って言うべきなのだろうが、今のダクネスはかなり真剣な表情をしていた。全く、自分を理由に俺たちもウミたちの所に行かせようとしてるのか。それだったら俺がやるべきことは決まったものだ。
「おい、ダクネス!!あーくそ!?俺だけの力じゃ止められそうにないな。おい、お前ら黙ってみてないでダクネスを止めるぞ!」
棒読みだけど、俺はギルド内にいるみんなに向かってそんなことを叫んだ。周りの冒険者も俺たちが何をしようとしているのか理解したのだろう。全員でダクネスを追いかけるのであった。
海SIDE
街の正門にたどり着くとこの街にいる勇者が全員集合していた。
「まるで私達が来るのを待っているみたいだな」
「狙いは私達って言うことかな?」
若葉さんと友奈さんが不安そうに空を見つめていると、千景さんがため息を付いていた。
「狙いが私達でもやることは決まってるんじゃないの?」
「ビビってる暇なんてない!!出て来る敵を全部倒せばいいんだよ!」
「千景、珠子……そうだな。海たちも準備はできてるか?」
「もちろん」
僕らは端末を取り出し、勇者に変身して武器を構えた。すると杏さんが作戦について説明を始めた。
「今回の戦いは私達が経験した以上の戦いになるわ。私、東郷さんは遠距離からの支援。ひなたさんと水都さんは私達の後ろで巫女の力で支援をお願い。前衛武器の何人か後方に下がって待機、前衛組との交代をするように、指示は私の方でするわ。ゆんゆんちゃん、なるべく無理をしないようにね」
「は、はい」
「めぐみんちゃんは、私が指示を出すまで一緒に待機」
「ほ、本当に大丈夫なんですか?爆裂魔法しか取り柄のない私がここにいて……」
いつになく弱気なめぐみん。まぁ、しょうがない。まさかこんな大きな戦いに呼ばれるなんて思っても見なかったんだろうから
「大丈夫よ。なんてたってめぐみんちゃんは最強魔法を操りしものでしょ。絶対に守るから」
杏さんが笑顔でそう言ったのか、すこし気が安らいだみたいだ。
「それと満開と切り札は本当に奥の手として取っておくように………」
全員が今回の作戦に疑問も何もなかった。そして、割れた空から無数のバーテックスが姿を現した。
「皆!!行くぞ!!」
若葉さんの号令と同時に僕らは動き出した。最初の前衛として僕、若葉さん、千景さん、そのっちは迫りくるバーテックスを倒していく。
「雑魚ばかり………まずは様子見ってことか!」
僕は先輩の大剣で一気に切り刻んでいく。最初から全力を出すと後から出てくるであろう完成体と戦うには不利になる。体力を温存しておかないと……
「海くん、交代して」
すると友奈が交代しに来てくれた。まだやれるって言いたいけど、この状況だ。我儘言っている場合じゃないな
「友奈、無理はするなよ」
「うん」
「あと、返事………これが終わったら聞かせろよ」
僕がそう言った瞬間、友奈は笑顔で頷いた。
園子SIDE
こんな戦い、今まで経験したことがない。ご先祖様の言うとおり私達を狙ってるとしても、この数は流石に多すぎる
でも、私は近づいてくる敵を槍で貫いていった。
「こんな所でビビってたら、カイくんに笑われちゃうよね~」
何体ものバーテックスを倒していくと、ミノさんがこっちにやってきた。
「交代だよ。園子」
「ミノさん、分かった~」
私は後ろへ下がろうとするが、立ち止まりミノさんにあることを告げた。
「ミノさん、前みたいに一人で無茶なことしないでね~」
「分かってるよ。こっちに来てまで正座させられて怒られたんだからな!」
ミノさんは笑顔でそう答え、戦いを始めた。今度はあんな悲しい思いだけはしたくない。そのためにも頑張らないと
千景SIDE
何人かが交代していく中、私は今まで以上のバーテックスを倒していると、高嶋さんが交代しに来てくれた。
「郡ちゃん、交代だよ」
「高嶋さん……今度は全員生き残ろうね。完成体が出てきても……」
「郡ちゃん、うん、全員で生き残ろう」
今度は誰も死なないで………誰にも、自分自身にも辛い思いをしなくていいように……
「それじゃ、無茶はしないでね」
若葉SIDE
正直心のどこかでは街のみんなと一緒に戦いたいという気持ちがあった。だけど、それは勇者としてどうなのだろうか………守るべき人たちと一緒に戦うというのは間違っているのか分からず、迷っていた結果が、私達だけで戦うということだった。
「お~い、若葉、交代だぞ」
「あぁ、済まない。下がらせてもらう」
「なぁ、若葉。迷ってるのか?一緒に戦わなかったこと」
「………」
珠子に心を読まれた!?だが、長い付き合いだから分かるのだろうな
「今でも何が正しいのかわからないんだ」
「あのな………前にアクアさんが言ってただろう。『迷ってる時に出した決断はね、どの道どっちを選んだとしても、きっと後悔するものよ。なら、今が楽ちんな方を選びなさい』ってさ。お前が選んだ答えは楽ちんな方なのか?」
「どう……だろうな」
「まっ、お前が出した答えなんか関係ないみたいだぞ」
珠子が正門の方を見て、私も釣られてみるとそこには大勢の冒険者がいた。
「あいつらも一緒に戦いたいってことだ」
「そういう事だね」
歌野SIDE
「こっち側、数が多すぎる」
何体ものバーテックスを倒していくが、数が減る様子はない。でも、ここを守り抜かないと街にバーテックスが……
そんなことを考えていると、隙を突かれてしまい、バーテックスの突撃を喰らってしまい、何体か通してしまった。
「くそっ!?」
追うとしようとした瞬間、突然抜けていったバーテックスが何かに殴られ倒されていた。私の前には白銀の髪に、青と水色の衣装をまとった少女がいた。
「貴方は……」
「こんにちわ。貴方も勇者みたいだけど、未来?過去?どっち?」
海SIDE
「どうして皆さん来たんですか!!」
僕が杏さんの所に戻るとひなたお姉ちゃんの声が響いていた。ひなたお姉ちゃんの周りには大勢の冒険者が集まっており、その中にもカズマさんたちが混ざっていた。
「どうしてって、お前らだけに戦わせるつもりなんかねぇ!」
「そうだ!そうだ!この街はお前たちだけが守ってるって勘違いしてんじゃねぇ!!俺たち冒険者にもこの街を守らせろ!!」
「で、でも……皆さんでは攻撃は通じないし、もしも死んだりしたら……」
「何言ってるのよ。この街に誰がいるっていうのよ。この私がいるのよ!みんな!もしもの時は私がリザレクションをかけてあげるからね!」
「そ、それでも………」
「なぁ、お前らがこの世界を……この街を守りたいっていう気持ちはわかってる。だけどな。俺たちにも戦う資格はあるはずだ」
カズマさんがそう言った瞬間、物凄い速さで向かってくるバーテックスが一体、ゆんゆんの所に向かってきていた。あまりの速さに若葉さんたちが追いつかず、ゆんゆんも魔法で対応しようとするが、間に合わなそうだった。僕は咄嗟に樹の武器を取り出そうとした瞬間、ゆんゆんを突き飛ばし、バーテックスの攻撃を代わりにダクネスさんが受けていた。
「ぐう、これぐらいの攻撃……耐えきれるぞ!ゆんゆん!」
「えっ、あ、はい!!ライトオブセイバー!!」
光の刃が高速で動くバーテックスを切り裂いた。さっきのバーテックス、端末で確認すると完成体の一つみたいだ。
ダクネスさんがゆんゆんを守ったことを確認したカズマさんは、あることを言い出した。
「よぉし、盗賊職の奴らは動きを止めるスキルを使って、あの白うなぎを止めろ!!もしくは攻撃が通じなくってもあいつらの気を引かせるんだ!」
カズマさんの指示を聞いた瞬間、冒険者の皆が一斉に戦場へと駆け出した。ひなたお姉ちゃんや水都さん、杏さんが止めようとするが止められなかった。
「どう………して……」
「お姉ちゃん………ううん、ひなたさん。この戦いは前の戦いとは違うんだ。皆でやるべき戦いなんだよ」
僕は街の皆が必死にバーテックスと戦っている姿を見ながら言うと、ひなたさんは諦めたのかため息を付いた。
「そうね。私達だけで戦うんじゃなくって、この街の皆が一緒に戦える方法を考えるべきだったわね」
「うん」
「おい、沢山いたバーテックスがなんか集まってるぞ!」
カズマさんが戦場を見てそう告げた。僕らもそれを見ると確かに無数のバーテックスが集まってる。しかも全てのバーテックスがだ。
「まさか!?完成体に………」
「みんな!一旦下がって!!」
杏さんがそう告げた瞬間、完成体バーテックスが6体出現したのだった。更には余ったバーテックスもまだたくさんいる。
「ここからが正念場って事か?それだったら………満開!!」
次回でこの戦いが終われるかどうか………とりあえず氷雨が登場しました。