「サトウカズマ! サトウカズマはいるかあああああ!」
ダクネスさんのお見合いから数日後、セナさんが怒鳴り込んできた。話を聞くとどうやらカズマさん達が以前訪れたキールのダンジョンに謎のモンスターが出現しているらしい。最後に潜ったのはカズマさん達だったということで疑われているみたいだ
「あの僕はその時療養していたんで関係ないですし、カズマさんたちも関係ないかもしれませんよ」
「そうですか……てっきりあなた達が何かやらかしたと思ったもので。となると、誰か人を雇って調査しなければならないのですが……」
セナさんがこっちをチラチラ見ているけど、普通疑われている人間に協力を求めるような人が普通いるだろうか?僕たちは協力する気がないと伝えると、セナさんは肩を落として去っていった。
「なあ、念のためもう一度聞いておくけど、お前ら本当に心当たりは無いんだよな?今回は大丈夫なんだろうな?」
カズマさんがそんな事を聞いてきた。
「えぇ、爆裂魔法絡みで無いなら、私ではないです」
「そうだな、そもそも私はそんな問題は起こしてないはずだ」
「私とウミさんは別行動中だったし……私も一人でダンジョンなんて言ってないし」
「というかあの時ダンジョンに潜ったのってカズマとアクアの二人じゃん」
「私も無いわよ!いくらなんでも私を疑いすぎじゃないの?あのダンジョンに関しては、モンスターが寄り付かないはずよ。私がリッチーの部屋で描いたのは、本気も本気、今でもしっかりと残ってて、邪悪な存在が立ち寄れなくなるわ!」
僕らはアクアさんの方を見た。ごめんなさい、セナさん。原因見つけました。
とりあえず僕らはキールのダンジョンへ向かう途中、ゆんゆん達と出会った。
「海くん、今からクエスト?」
「いえ、ちょっと色々とありまして、キールのダンジョンに向かうところです」
僕がそう言った瞬間、何故か歌野さんは険しい顔をした。
「そっか……何があったかわからないけど、頑張って……」
「は、はい」
「お~い、ウミ!行くぞー!」
カズマさんに呼ばれ、僕は歌野さんたちと別れるのであった。
「……みーちゃん。乃木さん達は今何処にいるんだ?」
「少し前にクエストに出かけて、もしかしたらギルドに戻ってきてるかも……」
「ゆんゆん、悪いけど今日の食事は中止だ。急いで乃木さん達と合流する」
「えっ?どうしてですか?」
「このままだと三ノ輪さんが危ない!」
ダンジョンに到着すると入口から仮面を被った膝の高さ程度のモンスターが次々と這出ていた。
「何でしょうね、見た事も聞いた事もないのですが」
「というか一見、何の戦闘力もなさそうなのだが」
めぐみんとダクネスさんが人形を見てそう言う中、アクアさんとクリスさんは何故か苛立っていた。
「私、この人形を生理的に受け付けないわ。これを見てるとムカムカしてくるんですけど」
「うん、今すぐにでも壊したくなるよ」
この女神たちはこの人形から何かを感じ取ってるのかな?
すると後ろからセナさんが他の冒険者たちを引き連れてやってきた。セナさんが僕達がどうしてここにやってきたか理由を尋ねると、カズマさんはモンスターに怯える人々を守るのは冒険者の義務だとか言うけど、物凄い疑いの眼差しを向けられていた。
「めぐみんの爆裂魔法で入り口を塞げばいいんじゃないのかな?」
「カミサトさん、このモンスターを呼び出すものはかなりの大物です。もし爆裂魔法で入り口を塞いでも、テレポートで逃げられるかもしれません」
なるべくその原因となった奴を倒せということか。すると人形の一体がアクアさんに近づき、
「あら、甘えてきてるのかしら?仮面を見てるとムカムカしてくるけど、案外かわいいかも――――ッ!」
アクアさんに抱きついてきた人形が突然爆発し、僕らはアクアさんのところに行くとアクアさんはボロボロになり地に伏せていた。
「ご覧の通り、このように、しがみ付き、自爆するという方法を取ってきます」
自爆するとなるとかなり厄介だな。樹の武器で縛り上げても切りがなさそうだし、やっぱり中にはいって何とかしないといけないけど……
そんなこと思っていると、また人形が現れ、ダクネスさんは人形に向かって歩いていくと、さっきのアクアさんと同じように人形が抱きつき爆発したが、ダクネスさんは無傷だった。これってクルセイダーのスキルのおかげだよね
「これぐらいなら……」
「とりあえずアクアさんとめぐみんは外で待機して、僕、カズマさん、ダクネスさん、クリスさん、銀で中に入ろうか」
ダンジョンに入り、カズマさんとクリスさんの潜伏スキルで人形を回避したり、ダクネスさんが盾になって止めたり、樹の武器で人形の動きを止め、銀は動きを止めた人形を処理していくと、ダンジョンの奥にたどり着いた。ダンジョンの奥には仮面を付けたスーツ姿の男が胡座をかきながら人形を作っていた。
「この仮面の男……悪魔だよ!?」
クリスさんがそう叫んだ瞬間、仮面の男は僕らに気が付き、
「よもやここまで来るとは歓迎するぞ。冒険者共よ!我輩こそが諸悪の根源にして、元凶。魔王軍の幹部にして悪魔を導く地獄の公爵……この世のすべてを見通す大悪魔バニルである」
まさかこんな所で魔王幹部と遭遇するなんて……
「お、おい!一回、態勢を立て直しに戻ろうぜ!」
カズマさんがそう叫ぶが、ダクネスさんはカズマさんの言葉を聞かず、
「女神エリスに仕える身である私が、悪魔を前にして引き下がれるか!!」
「そこの茶髪の男に風呂場で裸を見られた際、己の割れた腹筋を見られていないか心配している娘よ。何をカッカしてるのかは知らぬが、怒りっぽい時は小骨を食べると良いと聞く。我輩の仮面の一部には魔龍の骨が使われているが、一口ならかじって良いぞ?」
「ふふ、腹き……! おお、お前、ふざけるな、魔王の手先め!みんな!コイツの言う事は嘘っぱちだ! 私の腹筋はそんなに割れてないし、そんな心配もしていない!」
「お、おい落ち着けダクネス、まずはちょっと冷静になれ!」
「見通しづらいが共に暮らすそこの小僧に寝ている時に胸を触られたが、もう少し大きい方がいいかなと悩んでいる銀髪の小娘よ!残念ながらお前の胸はそれ以上成長はしない!!」
「な、ななな!?」
「おい、お前、いつクリスの胸を触ったんだよ!」
「いや、覚えてないんだけど……もしかしたら……」
添い寝したときかな?聞こうにもクリスさんはクリスさんでなんかショックを受けてるし、
ダクネスさんとクリスさんは武器を構えた。
「まあ、落ち着くがいい。我輩は、別にお前達と争うためにこの地へ来た訳ではない。魔王の奴に頼まれた、とある調査。そして、アクセルに住んでいる、働けば働くほど貧乏になるという不思議な特技を持つ、ポンコツ店主に用があって来たのだ」
バニルの言葉を聞いて、僕たちは顔を見合わせた。
ダクネスさんとクリスさんはすぐに攻撃が仕掛けられるように武器を構え、僕とカズマさんと銀は床に座ってバニルの話を聞くことにした。
バニルは魔王軍幹部と言っても、なんちゃって幹部であり、悪魔族の食事は人間の悪感情であり、別に人間を傷つける気はないらしい。
「お前が作ってるこの人形の所為でダンジョンから出てくる、このモンスターに俺達は難儀してるんだが」
「なんと?コイツらを使い、ダンジョン内の敵を駆除していたのだが……どうやらモンスターは駆除し尽くしたようだな……ならば、次の段階へと移ろうか……」
次の段階?次は一体何をするつもりだ?
「何を企んでいるんだ!?」
「失礼な! そこの鎧の娘が何日も帰ってこなかった所為で自室を熊のようにウロウロして心配してきた男よ」
「お、おい!!?なんで見てきたみたいに言ってるんだよ!?お前もモジモジするなぁ!!」
確かにバニルの言うとおり、そんな感じだったよカズマさん。
「我輩にはなぁ、とびきりの破滅願望があるのだ。まず、ダンジョンを手に入れる。各場所に悪魔やら罠を仕掛ける。そして挑んでくるのは歴戦の冒険者達、やがて、苛烈な試練を潜り抜け、最奥の部屋へと辿り着く!勿論!そこで待ち構えているのは、我輩!! よくぞ、ここまで来たな!冒険者共よ!我輩を見事倒し!莫大な財宝を手に入れよ!!そして始まる最後の戦い!凄まじい戦いの末に倒される我輩、そしてそこに封印された宝箱が出てくる!そしてその中には――スカと書かれた紙が、呆然とする冒険者達を眺めながら……私は滅びたい……」
この人、本気で碌でもないことを考えてるな……
「そこの好きな娘に告白したが、ちゃんと伝わっているだろうか心配している女神の加護と集合体の加護を宿した小僧よ!どうやらお前は彼女たちと同じ勇者であるな!」
彼女たちって……もしかして歌野さんたちこいつのこと知っていたのか?それだったら教えてくれればいいのに…‥
「とりあえず俺たちはそこの奥にある魔法陣を消しに来たんだよ」
あぁ、本来の目的忘れかけてた。するとバニルはカズマさんの過去を見通し始めた。
「なんという事だ!!お前達の仲間のプリーストがこのけしからん魔方陣を作ったのかぁ!ダンジョンの入口でプリーストが茶を飲んで、寛いでるところ見えるわぁ!!」
バニルはアクアさんにキツイ一発を喰らわせに行くと告げるのであった。