屋敷の暖炉の前でカズマさんとアクアさんの二人がまた口喧嘩をしている中、僕はスキル一覧とにらめっこしていると、何処かへ出かける準備をしためぐみんが声をかけてきた。
「どうしたんですか?ずっと冒険者カードとにらめっこして……」
「いや、色んな武器を使えるようになったから、必殺技的なものを考えてたんだよ」
「必殺技ですか!?それってどんな技ですか!教えてください!!」
必殺技と聞いて、嬉しそうにしているめぐみん。あの、近いから離れてほしんだけど……
「あれ?でも、お前とギンには満開っていう凄い必殺技持ってなかったっけ?アレじゃ駄目なのか?」
僕とめぐみんの話を聞いて、口喧嘩を終わらせたカズマさんとアクアさんの二人も話に入ってきた。
「あれは一日一回しか使えないんだよ。無理すれば何回でも使えるけど、身体の負担が大きすぎるし……僕としてはいくつかほしいと思ってさ」
「でもさ、ウミの勇者のスキルって全部武器でしょ?必殺技とか覚えられないんじゃないの?」
「スキルとして覚えようとは思ってないですよ。武器をうまく切り替えれば乱舞みたいな感じになるかなって思ったんです」
試しに僕は勇者の姿に変わり、武器の切り替えをやってみた。前までは切り替えるのにラグがあったけど、今はすぐさま切り替えられるようになった。まぁ、これはスキルポイントを使って、武器展開のスピードを上げただけだけど
「どういう風に切り替えていくか………」
そんな風に悩んでいると中、
「た、大変だ! カズマ、大変なんだ!」
突然どこかの令嬢が慌てふためいた声でやってきた。
「……あんた誰?」
カズマさんがそう言うけど、何処かで見た覚えがあるんだけど……
「んんっ……!? くっ……!?カズマ!今はふざけている場合じゃない!そういったプレイは後にしてくれ!」
この反応を見る限りダクネスさんだ。それにしてもドレスなんか着てどうしたのだろうか?
「ダクネス、お帰りなさい……」
めぐみんはちょむすけを抱いて、目を潤ましていた
「お、おお。めぐみん、ただいま」
「まずはゆっくりとお風呂に入って、心と体を癒してください……」
「な、何を言ってるんだ?」
アクアさんはダクネスさんの着ている服を撫でながらあることに気がついた。
「間違いないわ……高級品よ……うぅ」
「苦労掛けたな……」
「今は温かいお風呂に入って心を癒やして下さい」
「さっきから何を勘違いしているんだ!?あの領主が私に手を出すなんてことはないはずだ。そんなことよりこれをみてくれ」
ダクネスさんがそう言いながら一枚の写真を見せた。
写真にはどこかのイケメンが写っており、カズマさんはその写真を無意識なのか破った。
話を聞くと写真の人物は領主の息子みたいだった。ダクネスさんは見合いを断りたいが、カズマさんの一件があるため断れないでいた。
しかもダクネスさんの父親は見合いに乗り気であるため、更に断りづらくなったとこ事だった。
「正直言って、私は今の暮らしに満足している。この家業を続け冒険者として名が売れれば、極悪な魔導師や魔王の手のものに目を付けられ、抵抗もむなしくやがて捕まり、とんでもない目に遭わされてしまうかもしれない。手枷足枷を付けられ、あられもない姿で……」
何だかダクネスさんの妄想を聞くのも久しぶりな気がする。
「お前はもう引退して、嫁に行った方がいいんじゃないかな」
「でも、本人が望まない見合いって僕も嫌だな……」
「そういえば海も前にそんな話あったっけね」
銀がそう言った瞬間、銀以外の全員が僕の方を見た。
「お前んちって、見合いとかやるような感じなのか?」
「まぁ、それなりに……」
「そのお見合いは一体どうなったんですか!?」
「相手の方が断ったというか何というか……」
まさか見合いの相手がそのっちだったからな。そのっちが僕の話を聞いて断ったって言ってたな
するとめぐみんが不思議そうな顔をしてあることを聞いてきた。
「領主が一冒険者のダクネスにそこまで執着する理由はなんなんでしょうか。領主ほどの地位の人間ならその気になれば、強引にでもダクネスを妾にだってできるでしょうに」
「……わ、私は本名を、ダスティネス・フォード・ララティーナと言う。その……。そこそこ大きな貴族の娘だ……」
それを聞いた瞬間、僕と銀以外は驚きの声を上げていた。話を聞くとこの国の懐刀と呼ばれる貴族みたいだった。
「普段、真面目くさった、騎士みたいな口調なのにっ! 本名はララティーナなんて可愛らしい名前なのかよ!!」
「ララティーナと呼ぶなぁ……」
本名を呼ばれて恥ずかしがるダクネスさん。でも本当に可愛らしい名前なのにもったいない。
「今回お前たちに話した理由は、こっちで何か理由をでっち上げ、これを丁重に相手に返して、こう言う理由があるからと謝って父を説得してみようかと思ってな……そのために誰かついて来てくれないか?」
説得とか僕は苦手だし、ここはカズマさんに任せたほうがいいな。そう思っていると、カズマさんは突然大声を上げるのであった。何か思いついたのか?
めぐみんと銀は用事があるため、お見合いに参加できず、僕、カズマさん、アクアさんの三人でダクネスさんの実家に来ていた。
「ほ、本当にいいのか? ララティーナ……」
「はい、お父様。ララティーナは此度の見合いを受けようかと思いますわ」
ダクネスさんと父親の話を聞いているカズマさんとアクアさんの二人は何だか笑いをこらえていた。普段と喋り方が違うからだろうな……でも、あんまり笑ってやるのも可哀想だから……
「それで、そちらの方は?」
「あ、わ、私の冒険者仲間です。今回のお見合いに臨時の執事とメイドとして同伴させようかと……」
「そうか……」
僕らは別室へ案内され、アクアさんはメイド服に、僕とカズマさんは執事服に着替え、お見合い相手がいる部屋にやってくると、
「お前がバルターか!私の名前はダスティネス・フォード・ララティーナ!私の事はララティーナ様と呼」
「お嬢様! お足元にご注意を!」
カズマさんがダクネスのドレスの裾を踏んで転ばしていた。今のって明らかにお見合い阻止を阻止しようとした動きに見えたのは気のせいか?
僕らはダクネスさんに連れられ、別室に入ると、ダクネスさんはカズマさんに詰め寄っていた。
「手助けしてくれるのではなかったのか!?」
「お前、名前に傷が付かない程度ってのを忘れてるだろ?ここで悪評が立ったらとんでもない目に合うのはお前の方だぞ」
確かに、ここは穏便に済ませたほうがいいかもしれない。だけどダクネスさんは
「いいではないか!悪評が立てば、もう嫁の貰い手など無くなる!冒険者稼業を気兼ねなくできる!私は親に勘当されるのも覚悟の上だ!!それでも生きようと無茶なクエストを受けて、力及ばず、魔王軍の手先に捕らえられ……いろいろされて、私はそんな人生を送りたい!!」
とんでもないことぶちまけたよこの人!?でも、何だかこの光景を見ているとダクネスさんが帰ってきたって感じがするな
とりあえず一旦戻ると、
「では、自己紹介を……僕はアレクセイ・バーネス・バルターです」
「私はダスティネス・フォード・ララティーナ。当家の細かい紹介は省きますわね。成り上がりの領主の息子でも知っていて、当然――――!?」
カズマさんが首にフリーズを掛けて、ダクネスさんの言葉を遮った。明らかにダクネスさんが余計なことを言わないようにしてる気がする。もしかしてお見合いを成功させる気なのかな?
「ど、どうなされました?」
「い、いいえ、バルター様を見たら、気分がぁぁ!!」
「お嬢様はバルター様とお会いできて、少々舞い上がっているだけです……」
「そ、そういえば、顔が赤いですね……い、いやぁ、お恥ずかしい」
カズマさんの耳元で何かを囁くダクネスさん。やっぱりカズマさんは最初からこのお見合いを成功させる気だ。どうしてなのかわからないけど、もしかしたらカズマさんはダクネスさんの幸せを願っているということか
「私が居てはお邪魔かな?どうかね庭の散歩でも?」
カズマさん達が庭にいる間、僕は屋敷で待機していると、部屋に置かれた一本の刀に気がついた。
「これは?」
この世界に刀とかないはずなのに、何でダクネスさんの屋敷にあるんだ?
「おや、それに興味がお有りですか?」
気がつくとダクネスさんのお父さんがいた。
「はい、僕がいた場所にあったものと似ているんで、この国ではこういったものはないですし……」
「これは使用人があるダンジョンで発見されたもの見つけてきた物です。ただ剣が抜けず、ただ飾っているだけのものですが……」
「へぇ~」
試しに抜いてみようと思った瞬間、簡単に抜けてしまった。
「あれ?」
「おや……これは一体……」
僕はじっと刀を見つめた。サビ一つなく、更には刃こぼれもしていない。古いものだったらボロボロになってるはずなのに、不思議な刀だ
「よろしければその剣、差し上げますよ。誰にも鞘から抜けなかった剣を抜いた時、まるで剣が主と認めたような……」
刀が僕を主と認めた………もしかしてこれって僕らの世界にあったものなのかな?
その後、僕とダクネスさんのお父さんはダクネスさん達にお茶でも差し入れようと、訓練場を訪れると、何故かダクネスさんはびしょ濡れになって倒れていた。
「誰がやった?」
「この二人がやりました」
アクアさんがカズマさんとバルターさんを指差してそう言い、ダクネスさんのお父さんは二人を処刑しろと言い始めるのであった。
僕は先に帰ると伝えて、ダクネスさんの実家を後にすると、俯いているクリスさんを見つけた。
「クリスさん、今まで何処に?」
「あっ、ウミさん。ちょっと………調べごとをしてて、話したいことがあるんだよね」
「話したいこと?」
「うん、どうしてバーテックスがこの世界にやってきたのか分かったの」