裁判から数日が経った。ダクネスさんはと言うと約束を果たすため屋敷には帰ってきていない。そんなダクネスさんが心配なカズマさんは時折頭を抱えていた。
それもそうだ。一体何をされているのか心配でしょうが無いんだろう。
「ところでめぐみん、その抱いている黒い物体は?」
「この子はちょむすけといい、私の使い魔です」
どう見ても猫だけど、何だか羽とか生えてるし、この世界特有のものなんだろうな。ちょむすけはご飯である魚を火を吐いて焼いていた。
「うん、普通の猫だな」
「いや、これのどこが普通なんだよ!?」
いや、もう異世界だからって納得するしかないじゃん。銀も気にせず魚あげてるし……
「そういえばこの間若葉さんたちから聞いたけど、この世界にもう一人勇者と巫女がいるんだって」
銀が思い出したかのように言っていた。そういえばウィズさんも似たようなことを言っていたような……
するとめぐみんはさっきまでのカズマの行動について叱った。
「ダクネスの事ならもう子供ではないのですし、たまには帰ってこない日もありますよ。ちょっとは落ち着いてください」
「考えてみろ!あの領主はダクネスのことを舐め回すように見ていたんだぞ!しかもまだ帰って来ないということは……」
「あ、あああああああ!!ダクネスが……」
めぐみんも変な想像をして頭を抱えていた。とりあえず帰ってきたらこれまで以上に優しくしてやらないとな。
「サトウカズマ! サトウカズマはいるかあああ!」
すると荒々しく玄関を開けたセナさんがやってきた。話を聞くとどうやらジャイアントトードが冬眠から覚めたらしい。その原因がここ数日起きた爆裂魔法のせいだと言うらしい。カズマはカエル退治を嫌がるアクアとめぐみんの二人を怒っていた。
フッとセナさんが僕の事を見ていた。
「あの?何か?」
「いえ、普通そうな方なのに、あのような事を……」
あのようなこと?あぁ、裁判で下着を奪うまでスティールをかけ続けた件か。
「だってそれでしか証明できないからしょうが無いじゃないですか。というかスティールをかけ続けたのってクリスさんだし」
「それでも普通あんな事命じますか!?」
セナさんに思いっきり怒鳴られるのであった。そういえばクリスさん、今日は何処に行ったんだろう?朝から見かけてないけど、どこかのダンジョンに行ったのかな?
「いやー!もういやぁぁぁ!カエルに食べられるのはもういやぁぁぁぁっ!!」
カエルに追いかけながら叫び声を上げるアクアさん。めぐみんはと言うと爆裂魔法を撃ったのは良いが、動けないところをカエルに捕まっていた。
「カエルの中、温いので助けるのはアクアを先に……」
それにしても懐かしいな。僕が最初に受けたクエストもカエルだったし、カズマさん達と出会ったのもカエルがきっかけだったな。
とりあえず僕は須美の弓矢と銃で、カズマさんは弓矢で遠距離から狙撃、銀は斧で切りつけていく。
「あ、あなた達は仲間がカエルに呑まれ、更には別の仲間が追いかけられているのに、随分冷静ですね」
「まぁ、この程度日常茶飯事ですよ」
「貴方、まともそうに見えて結構ひどい方なんですね」
セナさんが引いていた。でも、この作戦考えたの僕じゃなくってカズマさんなんだけどな……
そうこうしている内にまた何匹かカエルが増え、銀を囲んでいた。
「銀!一旦引け!」
「ちょ、これぐら……」
気がつくといつの間にか銀の後ろにいたカエルが、銀を飲み込もうとしていた。銀も逃げるのが遅れ、食べられそうになった瞬間、
「ハァァァァァ!!」
どこからか何発もの攻撃がカエルに放たれ、カエルは動きを止め、銀はすぐに逃げた。
「今のは海?」
「いや、僕じゃない。一体誰が……」
「カエルに打撃は効かないか……だけどゆんゆん!!」
「ライト・オブ・セイバー!」
という声が響いた瞬間、めぐみんを呑み込んでいるカエル真っ二つになっていた。
「エナジー・イグニッション!」
更に他のカエルが突然発火し、周辺にいたカエルは全て全滅したのだった。
カズマさんが倒れためぐみんにドレインタッチをしていると、さっき助けてくれた人たちがこっちにやってきた。その内一人はめぐみんと同じ赤い目をしており、もしかしてこの子も紅魔族なのか?
「誰だか知らんが助かった」
「べ、別に助けた訳じゃないから!ライバルがこんなカエル程度に倒されると困るだけだから!」
ライバルってめぐみんのこと?めぐみんはと言うと立ち上がり、助けてくれた女の子を見て……
「……どちら様でしょう?」
めぐみんは知らないみたいだった。
「えぇ!?」
「大体、名前も名乗らないなんておかしいじゃないですか。これはきっと、以前、カズマが言ってた。オレオレなんとかってヤツなんじゃないでしょうか」
「わ、わかったわよ! し、知らない人の前で恥ずかしいけど……我が名はゆんゆん。アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者……!」
恥ずかしそうにポーズを決める女の子。恥ずかしいならやらなくていいのに……
「と彼女はゆんゆん。紅魔族の長の娘で私の自称ライバルです」
「ちゃんと覚えてるじゃない!」
ゆんゆんがめぐみんと話していると、さっき銀を助けてくれた人が僕に話しかけてきた。
「君の持っているその刀……生太刀?」
「は、はい、まぁ借り物ですけどね」
「借り物?それって一体……」
「というか海、この人、もしかして屋敷で話した……」
銀もそのことに気がついていたか。どことなく神聖な衣装に、持っている武器からはすごい力を感じる。若葉さんたちが使っている武器と似たような感じだった。だとすればこの人は……
「「勇者」」
僕と銀の二人が同時に言うのであった。
「なるほどね。君たちが前に乃木さんたちが話していた未来の勇者だね。私は白鳥歌野。300年前に諏訪の勇者をやっていた」
「上里海です。ひなたさんの子孫です」
「三ノ輪銀です」
互い自己紹介をしていると、セナさんは報告しに帰り、アクアさんはギルドに行きカエルを運んでもらうよう頼みに行き、めぐみんは粘液まみれでゆんゆんに抱きつき、それを見ているカズマさんという光景になっていた。
「ゆんゆんも友達と積もる話も有るだろうし、海くん、銀、色々と話しをしたいから夜ギルドで一緒に食事でもどう?紹介したい人がいるから……」
「は、はい」
歌野さんはそう言い、ヌルヌルになったゆんゆんを連れて街へと戻るのであった。
友奈SIDE
そのちゃんが勇者部に入部してから一週間が過ぎた頃、そのちゃんからある事を告げられた。
「実は新しい神託があったの~」
「神託?もしかしてまたバーテックス!?」
風先輩がまた戦いの日々が始まるのかと思っていたけど
「バーテックス関係だけど、ちょっと前とは違う感じなんだよね~」
「どういうことですか?」
「神託では………」
そのちゃんが読み上げた神託はこうだった。
『人類の敵、世界の穴を見つけた。その場所の進行のため、神樹に守られし世界は平穏が訪れる』
「これどういう事?」
「もうバーテックスに襲われることがないってことでしょうか?」
夏凛ちゃんと東郷さんがそう言う中、私は何か嫌な予感がしていた。
「壁の外の世界に、別の場所につながってる穴が出来たみたいなんだよね~バーテックスはその穴を使って、その別の場所に進行してるみたい~私もこの目で確かめてきたよ~」
そのちゃんが見た光景は、何もない場所に巨大な穴が開いており、バーテックスがその穴に入っていっているらしい。
「それでね~これからの行動としては、静観するか調査するかのどっちかなんだよね~」
皆がどうするべきか悩んでいる中、私は気が付きたくなかった事に気がついてしまった。
海くんに聞かされたあちらの世界にバーテックスが現れたこと、今回の別の場所に進行を始めているということ………
その別の場所って……もしかしたら……海くんたちがいる世界のことじゃ……