裁判が始まるでの間、この世界の法律や今回原因になったテレポートについて杏さんから教えてもらい、ついに裁判の日になった。
「なぁ、本当に大丈夫だろうな……」
カズマさんが青い顔をしていた。まぁ、アクアさんたちも弁護席に立つって言うけど、カズマさんからしてみれば不安でしょうが無いんだろうな。
「とりあえずは………もし駄目だったら他の方法を試すし」
「海くんなら大丈夫よ。飲み込みいいし」
杏さんは笑顔でそう言うけど、僕としては不安でしょうが無いんだけど…‥
「これより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める!告発人はアレクセイ・バーネス・アルタープ!」
裁判長の言葉に中年の太った男が立ち上がる。あの領主、何だかイラつくな……何でだろう?
セナさんが起訴状を読み上げた。コロナタイトを領主の屋敷に送りつけて、消滅させたこと。また劇物等のランダムテレポートは法律で禁じられていること。領主の命を脅かしたということで国家転覆罪を適用するといった内容だった。
セナの発言を受けてアクアが異議ありなどと言っていたけど、言ってみたかっただけみたいだ。
「続いては、被告人と弁護人の発言を許可する」
まずはカズマさんは無実を主張した。まぁ、少しオーバーだけどそれぐらいのほうが良いと杏さんが小声で教えてくれた。
さて次は僕らの番だな。まずはデストロイヤー内部に突入してからコロナタイト転送まで話した。
「ランダムテレポートですが、狙った場所に送ることが出来ず使用した人間もどこに送ったのかもわからないというものです」
「更に本当にランダムかと言う研究資料がこちらにあります」
杏さんは資料の束を机の上に置いた。あの量を裁判の日まで集めるのはかなり苦労したな
「ランダムテレポートが本当にランダムという証拠ですが、読み上げますか?」
笑顔でそう言うけど、あの量を読み上げていたらどれくらいかかるのだろうか?
「読み上げるまでないでしょうね。証拠はこの資料の量が物語っています」
「被告人、弁護人の言い分はよくわかりました。では検察官。被告人に国家転覆罪が適用されるべきとの証拠の提出を」
セナさんの合図で証人達が姿を現した。その中に何故かクリスさんが混ざってるし、よく見たらミツルギやそのパーティーの子たちもいるし
「あははは……。なんか呼び出されちゃった……」
でも何で呼び出されたんだろう?特に適用されるようなことしてないような気がするし
「ということで、クリスさんは公衆の面前でスティールで下着を剥がれた。間違いないですね」
「えぇっと、間違いではないですけど、でももう気にしてないっていうか……」
「事実確認が取れました。それではありがとうございます」
カズマさん、クリスさんの下着を剥いだって初めて聞くんだけど………
「ウミ!?おまっ、目が怖いぞ!!」
「ミツルギキョウヤさんあなたは被告人に魔剣を奪われ、売り払われたと」
「ま、まぁ、その通りです。でも、あれはそもそも僕から挑んだ事でして」
「ありがとうございます」
最後まで話を聞かないのか。おまけに取り巻きの二人も脅されたとか言うし、なるほどね。カズマさんの人格を否定する意見を出して、有罪にする気か。それだったら……
「すみません。スティールの件ですが、それもランダムなんじゃないんですか?」
「それを証明する証拠あるんですか?」
「えぇ、クリスさん。あのセナさんにスティールを使って下さい」
「えっ?う、うん、スティール」
クリスさんがセナさんにスティールをかけると、奪ったものはセナさんのメガネだった。
「これが証拠になるというんですか?」
「いえ、これだけではなりませんよ。クリスさん、セナさんの下着奪うまでスティールかけ続けて」
「えっと、それはどうかと思うんだけど……」
「スティールがランダムかの証拠がほしいって言ったのはあっちだから仕方ないことだよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!ここは神聖な法定ですよ!こんな所で……」
「止めてもいいですけど、ランダムだと認めるんですか?認めないなら認めるまで続けさしていただきます」
僕は笑顔でそう言うと、セナさんはもちろん、クリスさん、隣りにいる杏さん、見物人が思いっきり引いていた。
「わ、分かりました。認めます!認めますから……」
言質取った。さて更に話を続けようか。
「検察官も認めたようにスティールはランダム。カズマさんの場合は偶然そういった結果になっただけです。それで人格を否定する根拠にはなりません」
「そうです!他に根拠があるなら持ってきて下さい!」
めぐみんがそう告げた瞬間、セナさんが笑みを浮かべた。何だかまずいことを言ったかも……
「根拠?よろしいでしょう。ではもっと確たる根拠を出しましょう!一つ!魔王軍幹部であるデュラハン戦において、結果的には討伐できたとはいえ、街に大量の水を召喚し、洪水による多大な被害を負わせ、二つ!連日、町の近くで爆裂魔法を放ち、街の近辺の地形や生態系を変え、あまつさえこの数日においては、深夜に爆裂魔法を放ち、騒音によって住人たちを夜中に起こし、そして三つ!被告人にはアンデットにしか使えないスキル、ドレインタッチを使ったという目撃情報があります。そして最も大きな根拠として、貴方に魔王軍との交流はないかを尋ねた際に、交流が無いといった発言に、魔道具が嘘と感知したのです!これこそが、証拠ではないでしょうか!!」
カズマさん、めぐみん、アクアさんは耳をふさいでいた。聞きたくないことだろうけどさ……
すると杏さんが異議ありと宣言した。
「先程の根拠なんですが、まず一つ、大量の水の召喚で多大な被害が起きたということですが、そうしなければ更なる被害があったんじゃないんですか?おまけにその被害に対する償いは借金という形で現在執行中ですよ。爆裂魔法を放ったことで地形や生態系を狂わしたとのことですが、今になってそれを咎めるのおかしいんじゃないですか?それだったらもっと早く対応できましたよ。ここ数日の爆裂魔法については、あなた方があのような連行をしたんですから、あれはちょっとした抗議なんじゃないんですか?ドレインタッチを使ったということに関しては、本当にアンデットしか使えないんですか?もしかしたら他にも使える人間がいるんじゃないんですか?」
杏さんがさっきの根拠を全部否定してきた。本当にこの人はすごいな。おとなしそうな顔をしてる割には……
「あとベルが鳴ったっていうのは、僕が関係してるからですよ。だって、僕はデュラハンと一緒に白い生物と戦いましたし、デュラハンなんか最後にアクアさんに浄化をしてくれと頼んだんですから、それすら交流になりますよね。というか前に話したはずですよ」
「うぐっ、ぐぐぐ」
セナさんが思いっきり悔しそうにしていた。それもそうだよね。全部論破されたんだし、僕はカズマさんに目線を送り、カズマさんは僕が何を伝えたいのか理解した。
「俺は魔王軍の関係者なんかじゃない!テロリストでもない!借金を背負わさせたことは頭にきたし恨みにも思ったが、それでもコロナタイトをワザと送りつけたわけじゃない! 俺は魔王軍の手先でも何でもない!」
カズマさんの言葉にベルは鳴らず、領主もセナさんも悔しそうな顔をしていた。検察側の主張は証拠として認めずカズマさんの嫌疑は不十分と言おうとしたが、
「そいつは、魔王軍の関係者であり魔王の手先だ。さあ、その男を死刑にするのだ」
領主は立ち上がり、カズマさんを死刑にするように言ってきたが、今度はセナさんが、
「今回の事例では怪我人も死者もなく、流石に死刑を求刑するほどのことでは……」
その言葉を聞いた領主はセナさんをじっと見つめると、
「……いえ、そうですね。確かに死刑が妥当だと思われます……ね?」
「何ですか今のは! 検察官がコロコロ言う事を変えてどうするのですか!」
めぐみんの言葉にセナさんは困惑している様子だったが、アクアさんが発言した。
「今、そっちの女に対して邪な力を感じたわ!どうやらこの中に、悪しき力を使って事実を捻じ曲げようとした人がいるわね!」
ベルがならない。それによって、また周りが騒ぎ出した。
「この私の目は魔道具なんかより精度が高いわよ! 何を隠そうこの私は、世界に一千万の信者を有する水の女神! 女神アクアなのだから!」
そう宣言した瞬間、ベルが鳴り響いた。アクアさんは嘘じゃないと騒ぎ出すのであった。それにしても何でセナさんは主張を変えたのだろうか?
「セナさん、もしかして領主とつながっているのですか?」
「そんな事あるわけないじゃないですか!!」
大声で否定する。魔道具も反応しないし、これはどういうことか?もしかしてさっきのアクアさんの言葉通りなら……
「領主さん、お聞きしたいのですが、先程彼女が言ったように邪な力を使って事実を捻じ曲げたっていうことないですよね」
「何を言う馬鹿馬鹿しい。そんな事……」
領主が何かを言いかけた瞬間、咄嗟に手で口をふさいでいた。
「どうかしたんですか?」
やっぱり何か隠してるなこの人……杏さんもそれに気がついたのか、裁判長にある提案をした。
「どうやらこの裁判は何かしらの思惑があるみたいですね。一旦中止になさったほうが良いのではないでしょうか?」
「うむ……だが、その間に被告人が逃げ出すことが……」
「裁判長。これを」
するとダクネスさんがペンダントを見せた。そのペンダントを見た裁判長は驚いていた。
「この裁判申し訳ないが私に預からせてはくれないだろうか。なかったことにしてくれと言っているのではない。時間を貰えればこの男が必ず潔白であると証明して見せる」
「それは……!しかしいくらあなたの頼みでも……!」
「アルダープ。あなたには借りを作ることになるな。私にできることなら何でも一つ、言うことを聞こう」
領主が抗議をしていたが、ダクネスさんの何でもという発言を聞き、ダクネスさんを舐め回すように見ていた。
「……いいでしょう、他ならぬあなたの頼みだ。その男に猶予を与えよう。では、裁判長?」
「……分かった。では、被告人カズマの裁判は保留とする!」
裁判は一旦保留になり、無事カズマさんを助け出すことが出来た。とはいえ、借金が増えたけどそれは仕方ないことだ。
「杏さん、今日はありがとうございました」
「海くん、お疲れ様。色々とすごかったよ。スティールの件とか……」
「あはは、あれは咄嗟に思いついた感じですよ」
「それにしてもお前のあのスティールが本当にランダムかって証明するのはやばすぎだろ。ストリップショーが始まるんじゃないかって思ってたぞ」
「流石に僕はそこまでさせる気はなかったよ。所でカズマさん、クリスさんの下着がどうとかって詳しく聞きたいんだけど……」
僕は笑顔でそう言うと、カズマさんは顔を背けていた。
「えっと、ほら、もう今日は疲れただろ。早く帰って………」
「屋敷でじっくり聞きますからね」
僕は屋敷に戻り、下着の件を詳しく聞くのであった。