作戦も決まり、僕は門の前に来ていた。僕は勇者に変身し、満開のゲージを確認した。
「ゲージもマックス。これだったら……」
「ウミさん、本当に満開を使うんですか?」
後ろを振り向くとクリスさんが心配そうにしていた。僕はクリスさんの頭をなでた。
「大丈夫です。心配をかけてしまうかもしれないですけど……ちゃんと戻ってきますよ」
「……戻ってこなかったら許さないですからね」
「はい」
クリスさんは街の人の避難を手伝いに行くと入れ違いに若葉さん、友奈さん、千景さんがやってきた。
「行けるのか?」
「やるしかないでしょう」
「もし駄目でも、私達がサポートに入るから安心してね」
「ありがとうございます」
若葉さん、友奈さんの言葉を聞き終えると、千景さんが僕のことを見つめていた。
「あ、あの?」
「もし失敗したら、あの時と同じこと言える?」
あの時と……あぁ非難されるかもしれないって事か。実際に言われてみないと分からない。でも僕は……
「それでしたら失敗しないようにしますよ。そうすれば非難なんかされないですからね」
「…………本当に海くんは勇者らしいよ」
千景さんの笑顔、初めて見たかもしれないし、名前で初めて呼ばれた。
さてそうこうしている内にデストロイヤーが確認できた。かなり巨大でまるで蜘蛛みたいだ。
「それじゃ一気にやりますか!!アクアさん!!」
「行くわよ!!セイクリッドブレイク・スペル!!」
まばゆい閃光がデストロイヤーに目掛けて放たれ、何かが割れる音が響いた。その音を聞いた瞬間、僕は全身の力を開放するように叫んだ
「満開!!」
眩い光が僕を包み込んだ瞬間、神秘的な衣装、背中には黒い輪が装備され、僕はすごい速さでデストロイヤーに突撃をした。
突撃を受けたデストロイヤーは一瞬仰け反るが、まだ進行を続けようとした。
「筋力だけじゃ抑えきれない……何か他にも……」
その時、咄嗟に僕はあるスキルを使おうと思った。それは『黒陽』だ。
「ここで使えなかったら許さないからな!!黒陽!!」
黒陽を発動させた瞬間、後ろの輪っかから緑色のワイヤーが無数に現れた。
「これってもしかして……それだったら借りるぞ!!樹!!」
無数のワイヤーでデストロイヤーを縛り上げ、動きを封じた。
「今だ!!撃て!!」
僕の叫びと同時に真っ赤な閃光がデストロイヤーの足を破壊するのであった。
「作戦成功………」
満開が解け、僕はそのまま地面に落ちていくが、ダクネスさんが僕のことを受け止めてくれた。
「大丈夫かウミ!?」
「何とか……かなりの疲労感があるけど……ダクネスさんはどうしてこんな所に?」
「今回は役に立たない私だが、騎士として逃げる訳にはいかなくてな。カズマには説得されたが、こうしてお前のことを救えた。私は役に立っただろうか?」
「十分ですよ」
僕は降ろしてもらい、自分の体に異変がないか調べた。
「特にないか……」
前みたいな後遺症はないって言ってたけど、流石に心配だったけど大丈夫みたいだな。僕はカズマさん達のもとに戻った。
「おいおい、今のアレ、凄すぎじゃないか!?」
「そうでうしょ。あんな風に変身できて……凄く羨ましいです!格好良すぎです」
爆裂魔法を撃って倒れ込んでいるめぐみんが興奮していた。
「今のが勇者の切り札である満開だ。使ったおかげで疲労感が半端ないけど……」
「前に言ってた後遺症とかは大丈夫なの?アレで園子や須美が大変だったって言ってたけど……」
「今のところは特には……」
「それだったら私も使ってみようかな?」
「お薦めはできないぞ。今は後遺症がないけど、あとから出てくるかもしれないし……」
僕らが雑談をしていると
「やったわ! 何よ、機動要塞デストロイヤーなんて大袈裟な名前しておいて、期待外れもいいとこだわ。さあ、帰ってお酒飲みましょう!なんたって一国を亡ぼす原因になった賞金首よ、報酬は、一体お幾らかしらね!!」
何だかフラグみたいなことを言い出すアクアさん。いや、まさかね……
まさかと思っていると突然地響きが鳴り響き、
『この機体は機動を停止いたしました。ただ今より自爆のためのエネルギーチャージを開始します。乗組員は直ちに避難してください』
そんなアナウンスが鳴り響いた。動けば国を滅ぼし、止まっても国を滅ぼすってどんだけだよ。
他の冒険者もアナウンスを聞いて慌てふためいている。だけどその中の誰かが呟いていた。
「……やるぞ、俺は」
「……俺も。もうレベル30も超えているのに、なぜ未だにこの駆け出しの街にいるのかを思い出した」
「むしろ今まで安くお世話になって来た分、ここで恩返しできなきゃ終わってるだろ!」
お世話になったって、サキュバスのお店のことだよね。そこまで皆をやる気にさせるなんてな……
「機動要塞デストロイヤーに、乗り込む奴は手を挙げろー!!」
カズマさんもいつの間に拡声器を持ってそう叫んでるし……
「僕も行かないと……」
デストロイヤーに乗り込もうとするが、身体の疲労が半端なく倒れそうになったけど、誰かが支えてくれた。
「無茶しすぎ」
支えてくれのは千景さんだった。
「すみません、でも、まだ休むわけには……」
「海くんがそうするって思ってた。だから……」
気がつくと千景さんが二人になっていた。最初は幻覚かと思ったけど、千景さんが段々増えていき、7人になった。
「これが私の切り札七人ミサキ。一緒に行くわよ」
「はい」
デストロイヤーの内部に入ると、内部にいるゴーレムが千景さんの斬撃で切り裂かれていく。しかも攻撃を食らってもすぐに分身は復活できる。決して欠けることない切り札七人ミサキ。
「強すぎだろ……」
「何が?」
「千景さんの切り札のことですよ」
「………ありがとう」
僕らがある部屋にたどり着くと他の冒険者やカズマさん、アクアさん、ウィズさん、若葉さんが来ていたけど、何だか様子がおかしい?
「何かあったの?」
「……あぁ、ちょっとな。アクア、もう一回読んでくれ」
「……うん」
アクアさんは一冊の本を読み上げた。
『国のお偉いさんがまた無茶言い出した。こんな予算で機動兵器を作れと言う。無茶だ。それを抗議しても聞く耳持たない』
『設計図の期限が今日までだ。どうしよう、まだ白紙なんて言えない。悩んでいると突然紙の上に俺の嫌いな蜘蛛が出た。悲鳴を上げながら、手近なもので叩き潰してしまった。用紙の上に。もうこのまま出しちまえ』
『設計図が予想外に好評だ。ドンドン計画が進んでる。どうしよう』
『動力源をどうこう言われたけど知るか。そんなの永遠に燃え続けるとか言われている、伝説級の超レア鉱石コロナタイトでも持って来いと言ってやった』
『持ってきちゃった。どうしよう、本当に持ってきた。マジでどうしよう。これで動かなかったら死刑じゃないの』
『現在只今暴走中。これ俺がやったと思われてる。畜生、国お偉いさんも国王も、みんなクソッタレだ! こんな国滅んじまえばいいのに』
『国滅んだ。やべぇ、滅んじゃったよ! ヤバイ、何かスカッとした! 満足だ。俺、もう満足。よし決めた。ここで余生を暮らすとしよう。だって降りられないしな。止められないしな。これ作ったやつ絶対馬鹿だろ。……おっと!これ作った責任者、俺でした!』
「「バカだ(ね)」」
二人同時にそう言うのであった。デストロイヤーを作った人もだけどそれを受理した人も何を考えているんだよ。
僕らはとりあえず中枢部に行こうとすると、僕はさっきの日記のあるページが目に入った。
『それにしても魔王軍と戦うにしても、巨大すぎだろ。お偉いさんはお偉いさんで変なこと言ってるし……魔王に対する切り札ではなく、頂点に………』
頂点ってまさかね?
中枢部まで行くと鉄格子に囲まれたコロナタイトをカズマさんがスティールで取るのだが、物凄い熱さのため、やけどをしてしまうのであった。さわれないんじゃどうにかすることも出来ない。どうしたものか?
「もしかしたら何とかできるかもしれません。カズマさん吸わせてもらえませんか?」
ウィズさんが何かを思いついたらしい。カズマさんは嬉しそうに、
「喜んで」
「カズマさん、すいません。ドレインタッチ!」
ドレインタッチでカズマの魔力を吸い上げていた。
「これでテレポートの魔法が使えます。……でも問題はどこに送るかなのですが」
ウィズさんがそう言うと、カズマさんがランダムテレポートを使えばいいと提案し、コロナタイトをどこかへ転送するのであった。
無事に外へ出ると、特に周りに被害ないのを確認した。どうやらコロナタイトは知らない場所に飛ばされたみたいだな。
ようやく終わったと思った僕らだったが、デストロイヤーが振動音と共に震えだした。どうやら、内部に溜まっていた熱が外に漏れ出そうとしているとのことだった。ウィズさんがアクアさんの魔力を貰えればもう一度爆裂魔法を撃てるって言うけど、アクアさんの魔力を吸ったらウィズさんが浄化されてしまう。
「それだったら、もう一度僕が……」
「真打登場!」
僕がもう一度満開使用とした瞬間、めぐみんがおんぶされながらやってきた。カズマさんはアクアさんの魔力を吸いながら、めぐみんに魔力を流し込んだ。そして魔力が溜まっためぐみんは……
「行きますよ!!エクスプロージョン!!」
眩い閃光がデストロイヤーに命中し、今度こそデストロイヤーを破壊することに成功するのであった。
海の満開は、他の勇者の満開時の武器を使用できるというものです。黒陽に関しては次回あたり説明する予定です。あと後遺症についても